授業実践記録

理科の授業における問題解決学習の工夫
栃木県市貝町立市貝中学校
市村 政幸
1.はじめに

 筆者が今まで行ってきた理科の授業は,科学の系統性を重視し,教師サイドである程度,筋道を立てたものが中心であった。従来の授業には,生徒の発達段階を重視して単元が構成され,適切な教材が配置されているため,多くの知識をスムーズに伝達できるという長所がある。反面,どうしても記憶を中心とした知識を詰め込むような授業に陥りがちで,生徒の主体性や創造性,思考力などを十分に育てられなかったという反省もある。
 また,現行の学習指導要領では,ゆとりの中で自ら学び,自ら考え,問題を解決する「生きる力」を育むことが大きな目標として掲げられている。中学校理科でも「目的意識をもった観察,実験」「探究的活動の実践と問題解決能力の育成」など,いくつかの改善のポイントがあげられている。
 そこで,知識を詰め込む学習から,自ら学び,自ら考える学習への転換を図りたいと考え,理科の授業における問題解決学習の可能性について探ってみた。

2.問題解決学習の基本型と思考の流れ

 問題解決学習を理科の授業に取り入れるにあたり,生徒の活動を三つの過程に分けた基本型を考え,さらに問題の把握から解決までの思考の流れを詳しく分析した。

 (1)  問題解決学習の基本型

1)問題把握過程
導入実験や発問,身近な事象の振り返りなどを通して生徒が疑問を見つけ,それを共通問題にまで発展させる過程。
2)問題追究過程
仮説を立てたり実験方法を工夫したりしながら、問題解決に向けて再実験(試行錯誤)や話し合いを繰り返す過程。
3)問題解決過程実験結果や考察、結論の発表をもとに話し合いを行い、問題を解決し科学的概念を獲得する過程。必要であれば、確認実験も行う。

 (2)  問題把握から問題解決までの思考の流れ




3.問題解決学習が効果的に活用できる単元

 問題解決学習は,通常の授業に比べて学習に時間がかかり,すべての単元で行うのは無理である。そこで,問題解決学習が効果的に活用できる単元を洗い出し,指導計画に位置づけた。

【効果的に活用できる条件】

 1) 既有の知識・経験で問題解決に近づくことができる。
 2) 素朴概念との対立など生徒の興味・関心が高い。
 3) 多様な考え方が可能であり、探究活動に広がりや深まりがある。
 4) 観察・実験の自由度が高い。

【効果的に活用できる単元】

1  年 2  年 3  年
【2分野】
 植物のくらしとなかま
 水や栄養分を運ぶしくみ
2/1 根や茎のつくりとはたらき
【1分野】
 電流の性質とはたらき
 電流の性質
2/4 電流と電圧の関係
【1分野】
 運動とエネルギー
 物体の運動
2/2 力がはたらかないときの運動を調べよう
【1分野】
 光・音・力
 力と圧力
3/3 面を押す力
【2分野】
 動物のくらしとなかま
【2分野】
 生物の細胞と生殖
【1分野】
 身のまわりの物質
 温度による物質の変化
2/2 状態変化と温度
【1分野】
 化学変化と原子・分子
 物質が分かれる変化
1/1 加熱したときの変化
【1分野】
 物質の変化とエネルギー
 酸素が関係する化学変化
1/2 酸素をとり除く化学変化
【2分野】
 活きている地球
【2分野】
 天気の変化
 大気中の水分
2/2 霧や雲と雨
【2分野】
 地球と宇宙
1分野  →  2単元
2分野  →  1単元
合 計:3単元
1分野  →  2単元
2分野  →  1単元
合 計:3単元
1分野 →  1単元
2分野  →  1単元
合 計:2単元

 問題解決学習が効果的に活用できる条件に当てはめて考えると,表の赤色部分の8単元が問題解決学習に適することがわかった。やはり,2分野より1分野の方が生徒の多様な発想や試行錯誤の面から効果が期待できる。また,観察,実験の自由度を考えると,物理分野が適している。

4.問題解決学習を活用した授業のモデルプラン

 3で洗い出した8単元について,授業のモデルプランを作成した。一つの授業を5〜6時間扱いとし,1時間ごとの詳しい指導案(展開のみ)も考えた。次に示すのは,その一例である。



5.授業での実践

 作成したモデルプランをもとに授業を行った。1年1分野2単元の「蒸留」に関連する部分での実践記録である。

(1) 授業のようす


 エタノールを取り出す方法を自分たちで考え,実験を進めているため,生徒の目的意識は非常に高かった。また,生徒がとても楽しそうに生き生きと活動していた。アンケートでは,「自分たちで考えた方法で実験できることが楽しい」という回答が多く,それが同じような授業をもっとやりたいという結果につながっていると思われる。

(2) 問題解決までの流れ


 「水とエタノールの混合液からエタノールをとり出す」という難しい問題であり,はじめは実験方法も思いつかず苦戦していたが,今までの授業の振り返りや友達との話し合いを通して,最終的には約半数の生徒がエタノールを取り出すことに成功した。
 また,成功には至らなかったが,蒸留の他にも混合液を冷やしてみたり(融点),油を加えて分離を試みたり(密度)と生徒の自由な発想が多く見られた。アンケートにもあるように,創意工夫や試行錯誤を繰り返しながら一生懸命考えている場面が多く,思考力,なかでも特に創造力が高まったと思われる。

(3) 学習内容の理解

 問題解決学習の問題点の一つに,各自が自分の考えた方法で探究活動を行うため,学習内容の理解が不十分になることがあげられる。そこで,今回の授業では,学習のまとめのところで正しい方法で蒸留を行うようにしたところ,実験の成功,失敗にかかわらず,9割近い生徒が蒸留をよく理解した。試行錯誤を繰り返した探究活動との相乗効果で,学習内容の理解が深まったと思われる。

6.問題解決学習を取り入れた効果

(1)目的意識が高く,主体的に学習に取り組むことができた。
(2)探究活動を通して,思考力,特に創造力が高まった。
(3)批判的思考の繰り返しで,ものごとを客観的にとらえられるようになった。
(4)探究活動と確認実験の相乗効果で,学習内容への理解が深まり,科学的概念が身に付いた。

〈参考文献〉
 ・「問題解決学習に関する研究」(船本 久義, 開隆堂 1985年)
 ・「問題解決学習のストラテジー」(藤井 千春,明治図書 1996年)
 ・「学習意欲の心理学」(桜井 茂男,誠信書房 1997年)
 ・辰野千壽「教育実践講座」http://www.sing.co.jp/koza/index_d.htm

前へ 次へ


閉じる