課題研究理科の指導


抵抗を3つ含む回路の電流と電圧の測定〜直列回路と並列回路の使い分けへの取組〜
広島県中学校理科教諭
1.はじめに

 教科書の電流の単元では,直列回路と並列回路について学習し,電流と電圧の関係については,実験をしてオームの法則へ導いている。抵抗については,実験結果をもとに説明しているが,合成抵抗については,2つの抵抗を含む直列回路と並列回路で,測定値から求めているだけで,関係式は扱っていない。また,電力については,電力=電圧×電流という定量的な関係までは扱っておらず,電流による発熱量については,熱量の単位のジュールの説明とからめて,簡単に発熱量の求め方にふれているだけである。
 そこで,もう少し学習内容を深める実験をさせたいと考え,3年生の選択授業で,理科のコースを選択した生徒のグループ(本校では,3年生の選択授業で,好きな教科・得意な教科を選択できるコースを設けている)を対象にして,少し難しいが考えを深めることができる実験を実施した。その時に意識したのは,以下の3点である。

 (1) 直列回路と並列回路の合成抵抗を計算で求めさせ,直列・並列どちらの回路でも,電流・電圧・抵抗のすべてが計算で求められるようにする。
 (2) 抵抗を3つ含む回路を使って,直列・並列の両方の考え方を使い分けられるようにする。
 (3) 電流による発熱量の大きさを,電熱線のワット数からだけでなく,回路の電流と電圧や電熱線の抵抗値からも計算できるようにする。

 少し難しい内容になり,理論的な計算も多くあったが,理科が好きな生徒が集まったグループであり,悩みながらも実験を通して理解を深めていったようである。まだまだ工夫する点も多くあるが,その授業展開について報告する。

2.授業展開

[第1時] 2年生の学習内容の復習

 ○電流計と電圧計の使い方を復習し,グラフをかいてオームの法則を確認する。

[第2時] 2つの抵抗を含む直列回路と並列回路での電流と電圧の測定

 ○直列回路と並列回路の各部分の電流と電圧を測定し,抵抗を求める。
 ○直列回路と並列回路の合成抵抗を確認する。

[第3〜4時] 3つの抵抗を含む回路での電流と電圧の測定

 ○図1,図2の回路で,各部分の電流と電圧を測定し,抵抗を求める。
 ○直列回路,並列回路の電流と電圧・抵抗の関係から,図1,図2の回路の各部分の電流・電圧と全体の合成抵抗を求める。


 図1 3つの抵抗−1

 図2 3つの抵抗−2

[第5〜6時] 2つの抵抗,3つの抵抗を含む回路での発熱量の測定

 ○2つの抵抗を並列及び直列につないだときの,電流と電圧とそれぞれの発熱量を測定する。
 ○3つの抵抗を図1〜4のパターンでつなぎ,それぞれの場合の発熱量を測定する。


 図3 3つの抵抗(直列)

 図4 3つの抵抗(並列)

3.実験の実際

●準備

 ・ 抵抗(10,20,40のセメント抵抗器〈1個100円〉を使用)
 ・ 導線(赤色と黒色を多数準備)
 ・ 電流計,電圧計,電源装置,テスター(確認のために準備)
 ・ ビーカー,温度計

●方法

 (1)  2つの抵抗を含む直列回路と並列回路で,電流と電圧を調べる。

 ○電流を流し,電流と電圧を測定する。

 ○直列回路と並列回路で,それぞれ熱くなると抵抗が違ってくることを確認する。


2つの抵抗を含む直列回路

2つの抵抗を含む並列回路

 (2)  (1)のそれぞれの回路で,抵抗を水に浸けて発熱量を調べる。

 ○一定量の水が入ったビーカーに抵抗を入れて電流を流し,水の上昇温度を測定する。

〈留意点〉
 ・ 時間経過にともない,水が濁ってくる。
 ・ 抵抗は劣化して折れやすくなるが,値はほとんど変わらない。


抵抗を水に浸けた状態

水の濁った状態

 (3)  3つの抵抗を含む直列回路と並列回路で,抵抗を水に浸けて発熱量を調べる。


3つの抵抗を含む直列回路

3つの抵抗を含む並列回路

4.成果と課題

 理科が好きな生徒が集まった選択授業であるので,通常の授業よりも意欲に取り組んでいる。そのため,高度な内容まで踏み込むことができるだけでなく,生徒間でも討議をし,仮説を実験で確かめようとする動きも生まれている。
 今回行った実験の成果としては,
 ・ セメント抵抗を使うことで,実際に抵抗が発熱していることを体験できた。
 ・ 充分な実験道具が準備でき,自分たちの仮説を実証したり,合成抵抗の理論値を測定して確かめることもできた。
 ・ より複雑な回路の電流・電圧・抵抗の値について,直列・並列の関係から計算することができるようになった。
などがある。
 課題としては,
 ・ セメント抵抗を直接水に浸けるので,劣化が心配される。
 ・ さらに発展させた実験をさせて,その結果をレポートにまとめさせるまでの指導ができなかった。
などがあげられる。

5.発展的な課題について

 今回の授業展開で,より発展的な課題研究として以下のことを考えていた。時間的な制約と設備の関係から実施できなかったが,機会を見つけて実施したいと思っている。

 (1)  4つの抵抗を使った時の,最も温度が上がる(下がる)回路の設計

 ・ いろいろな回路をつくらせ(全部で21通り),電流と電圧の値を計算する。
 ・ 計算結果を確かめるために回路を組み,実際の発熱量を求める。

 (2)  抵抗値の温度による変化の測定

 ・ 氷水や沸騰した水に浸けた抵抗に電圧をかけ,電流を測定して抵抗を計算する。
 ・ まわりの温度によって抵抗の値が変化することを確認し,その関係をグラフ化する。

 (3)  ビーカーの水の上昇温度の時間的変化

 ・ ビーカーの水に抵抗を入れ,電流を流して一定時間間隔で水の上昇温度を測定する。
 ・ 時間と上昇温度の関係をグラフ化する。
 ・ 水温が高くなるにつれて,時間と上昇温度が比例しなくなることを確認させる。

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