課題研究理科の指導


「植物体のつくりとはたらき」を調べるのに適した身近な植物材料について
貝塚市立善兵衛ランド
岡田 宏
1.はじめに

 観察・実験で生徒を主体的に活動させるためには,目的に合った適切な材料選び,よい結果が得られる無理のない方法等が大切である。ここでは,「植物体のつくりとはたらき」を調べるいくつかの観察・実験に関連して,適した材料や方法を紹介する。

2.観察・実験の材料と方法

 (1)  植物体内の水の移動にかかわるつくりやはたらきの観察

セロリの葉

吸水力が強く,赤インクで着色した水(体積比で赤インク1を水10〜15の割合でうすめたもの)につけておくと,20分もあれば葉脈まで赤く染まるので,授業時間内に観察ができる。
葉柄の断面の観察が楽にでき,維管束の配列もわかりやすい。

赤インクで着色した水にさして,5分後の様子(節の部分がうすく赤色に染まっている。)

30分後の様子(葉脈まで赤く染まっている。)

30分後の節の部分の様子

葉柄の下部の縦断面部分(道管のつながりがよく観察できる。)

葉柄の横断面(維管束の配列がよくわかる。)

維管束をはぎ取る。(一部分を縦割りにして,維管束が見えるようにしている。)

維管束の横断面を拡大した様子


維管束の縦断面を拡大した様子(道管の内壁の模様がよく見える。)

〈維管束の観察〉
 ○ 横断面の観察
赤く染まった葉柄を横にうすく切り,その切片で維管束の横断面を観察する(写真参照)。
低倍率(×10,×30)で十分観察できる。ルーペ(×10)でもよい。

 ○ 道管の観察
葉柄の最下部を少し折り,上部の方向に引っ張ると,維管束がはぎ取られた部分がついてくる(写真参照)。それを観察すると,道管のつながりがわかる。
道管の1本をピンセットではさんで取り出し,適当な長さに切り取って,スライドガラスに載せてカバーガラスをかけ,その上から親指で少し圧力をかけて押しつぶし,顕微鏡で観察すると,道管の内壁の模様を容易に観察することができる(写真参照)。

バナナの実

バナナの実の皮をむくと,右図のように実の部分からすじ状のものがはぎ取られる。これはバナナの維管束である。その一部を1〜1.5cmに切り取って水で回りをし洗い,スライドガラスに載せてカバーガラスをかけ,その上から親指で少し圧力をかけて押しつぶし,顕微鏡で観察すると,道管の内壁の模様を観察することができる。

カイワレダイコンの根

維管束と根毛が観察しやすい。

[観察の留意点]
根毛を観察するときは,抜き取ったカイワレダイコンの根をバーミキュライトや湿らせた紙でくるみ,2,3日根毛の発育を促進させてから観察する。

 (2)  葉からの蒸散の観察

塩化コバルト紙を使う

ろ紙に10%塩化コバルト水溶液をしみこませてから,乾燥させる。そのろ紙を葉の裏側にあてて水分が出ているかどうかを調べる。この方法で調べるときは,葉は硬めのものがよい。

葉の表側と裏側とで蒸散量の違いを調べるときは,塩化コバルト紙を適当な大きさに切り取って葉の表側と裏側に貼り付け,外気に含まれる水分の影響を少なくするために,その葉を2枚のスライドガラスで挟んでおき,しばらく置いてから観察する。

 (3)  道管のつながりを調べる実験

アジサイの枝(またはウツギの枝)を使っての実験

下の写真(左側)のように葉が数枚付いたアジサイの枝とガラス管付き注射器(かん腸器)をゴム栓に通し,葉がとれないように注意して枝を水を満たした丸底フラスコに入れ,ゴム栓をする。

〈アジサイの枝をゴム栓に通す方法〉
 ・ 枝を痛めずにゴム栓に通すには,下の写真(右側)のように太めのコルクボーラーをゴム栓に通しておき,このコルクボーラーに茎を差し込む。そのままゴム栓からコルクボーラーを引き抜くと,茎がゴム栓に差し込まれる。

ゴム栓にアジサイの枝とガラス管付き注射器を通す。

コルクボーラーを使って枝をゴム栓に通す。
水を満たしたフラスコに,アジサイの枝とガラス管付き注射器を通したゴム栓をしたときの様子

注射器(かん腸器)のシリンダーを強く引くと,フラスコ内の圧が下がると同時に,アジサイの茎の切り口にある維管束から空気が入り,フラスコ内のアジサイの葉の裏側にある気孔から小さい泡が連続して出てくる。

 右図のように,葉の付いた枝を逆さにして先端の方から水に浸けておくと,枝の基部の方からの水の補給が無いのにもかかわらず,葉はしおれない。これは,水中にある枝の先端の方から枝の基部の方に向かって水が供給されているものと考えられ,水は通路(道管)を根元から枝の先の方への移動だけでなく,逆さの向きにも移動することができることを示している。このことから,道管組織内には,水が一定の向きにしか移動できないようにするしくみが存在しないものと考えられる。

 (4)  光合成に関連した観察・実験

カタバミの葉

葉緑素が抜けやすい。

3枚の小葉は年齢が同じなので,1枚ごとに条件を変えて比較する実験ができる。

カタバミは群生していることが多いので,同じ場所で1日,時刻を変えて葉を採集し,すぐに熱湯に浸けて生理作用を止めておき,後でまとめてヨウ素反応の変化の違いを比べてみれば,1日の光合成量の変化の様子を調べることができる。

日没後に採集した葉のヨウ素反応の変化から,貯蔵や呼吸に使用される様子が推測される。

〈葉から葉緑素を抜く〉
 ・ 沸騰したエタノールにつけておくと,3〜5分で葉から葉緑素が抜ける。
 
【注意】 エタノールを加熱するとき,直火で加熱するのは大変危険なので,必ず右図のように湯煎で行う。

〈葉緑素が吸収する光の色を調べる〉
 ・ 右図のように,葉緑素をとかしたエタノールに光を当て,透過光と反射光で色の見え方の違いを比べ,葉緑素が何色の光を吸収するかを調べる。

 (5)  花粉の観察

ホウセンカ,トルコキキョウの花粉

花粉管の伸長を調べるのによい。5分間くらいで花粉管が伸び始める。

花粉の発芽時間

花粉の種類 発芽までの時間
ホウセンカ 2〜5分
イネ 3〜5分
トルコキキョウ 4〜6分
マツヨイグサ 5〜10分
カボチャ 8〜10分
ツバキ 60〜80分
ヤマユリ 60〜80分
テッポウユリ 140〜160分

〈花粉管発芽用培養基〉

 (1)  水15mlに砂糖1g,寒天0.2gを加え,加熱して寒天を溶かす。

 (2)  スライドガラスを水平に置き,その上に寒天液を薄く流して固める。

 (3)
 ア. (2)で作った培養基の寒天の上に,乾いた筆先を使って花粉を付ける。

 イ. 糸に花粉を付けて,培養基の寒天の上に直線状に花粉を付ける。

〈長時間の培養法〉

 ペトリ皿の底に水で湿らせたろ紙を敷き,その上にマッチ棒を枕木にして花粉発芽用培養基のスライドガラスを右図のように重ねて入れ,ペトリ皿のふたをして湿室にしておくと,培養基の乾燥を防ぐことができ,長時間の観察ができる。
 また,発芽に時間のかかる材料の場合,事前に準備しておくことができる。

前へ 次へ


閉じる