課題研究理科の指導


「学ぶ楽しさ」「探究心」を育てる課題別自由実験授業の実践
熊本市立湖東中学校
野田 寛樹
1.はじめに

 新教育課程が完全実施されてから3年目になる。「知的好奇心」「学ぶ意欲」「目的意識を持った学習」が重視され,授業では,生徒たちが自らの課題を持ち,その課題を自分たちの力で解決していくために,その方法を考えて実践していく必要がある。
 各自が課題を持ち,その課題解決のため自由に試行し,探究していくとき,生徒たちはより良い結果を導くために工夫したり,実験方法を改良したりする。また,新たに発生した課題に対しても興味を持って取り組んでいく。このような学習を進めていくと,生徒たちには「積極性」「見通す力」「意欲」が生まれ,“学ぶ喜び”につながっていく。
 このような探究活動を,3年で学習する「運動とエネルギー」に関連した単元で,班別による『課題別自由実験』として行った。『課題別自由実験』とはそれぞれの班が,各班の追究課題を設定しそれに対する実験方法,装置,器具等を考え,自由に実験を行い,考察を進めるものである。生徒たちはこの活動を通して,“楽しく,面白く,深く”学び,探究していった。

2.実践の概要

 (1) 授業した単元

 「5 運動とエネルギー:5/2 物体の運動」(理科1分野下,啓林館)

 (2) 指導過程
過程学 習 内 容時間
1. 導入
運動する物体の速さ

[生徒の思考]

速さとは,一定時間に物体が移動する距離をいう。
2. スキル














<基礎>



<基本>



同じ速さで運動する物体の記録

〈記録タイマーの使い方〉
 物体の運動のようすを記録タイマーを使って調べるとき,速さの変化は,打点が記録されたテープを等時間間隔(0.1秒間隔)で切り取って,グラフ用紙に左から順に並べてみるとよくわかる。

Q1:ア〜ウで,もっとも速く物体が移動したのはどれか。
Q2:ア〜ウで,同じ速さで物体が移動したのはどれか。
Q3:物体が同じ速さで移動するときのグラフは,どんな形になるか。

等速直線運動のグラフは,x軸に平行な直線で表せる。

 【知識】・x軸に平行な直線とx軸との距離が大きくなるほど,物体の速さは速い。
<発展>
 【思考】・等速直線運動のグラフにおいて物体の進んだ距離を表そう。
 Q:ウのグラフの物体の速さは,どのように変化しているか。

次第に速さが増した。
速さが速くなると,グラフは右上がりの直線で表される。
3. 課題 [課題別自由実験]

 速さが変わる物体の運動を記録タイマーで記録し,どのように速さが変化したのか。また,なぜ変化したのか自由に調べよう。

 【思考】・速さが変わる運動にはどんなものがあるか。

 【関心】・物を落とす。 ・斜面を下る。
ボールがはねる。 ・斜面を上がる。
投げる。 ・斜面を下りた後に上がる。
風船が飛ぶ。 ・振り子
紙飛行機が飛ぶ。 ・ゴムで物体を引っ張る。
 など
 〈発展〉・落とす高さの違い

 【関心】・落とす物体の質量の違い
斜面の傾斜の違い
ゴムの張力の違い
摩擦が大きい面と小さい面の違い

 【思考】・どのような装置を使えばうまく測定できるか。

 【技能】・予備実験をしよう。
4. 探求・
実験
それぞれの班で工夫をして実験しよう。

 【思考】・どのような工夫をすれば,実験がうまくいくか。

 【技能】・考え工夫しながら自由に試行し,お互い協力して楽しく実験しよう。

 【技能】・記録タイマーのテープの処理を間違いなく行おう。

 【思考】・速さはどのように変化したか?

 【思考】・なぜ速さが変化したのか?
5. まとめ
実験結果をレポートにまとめよう。

 【知識】・速さがどのように変化したか,みんなに分かるようにまとめよう。

 【思考】・速さが変わるためには,何が必要であるか。

 【知識】・実験上の発見,工夫,苦労,楽しかったこと,協力できたこと,頑張ったこと,速さが変わるために必要なこと,次にやってみたいこと,等についてまとめておく。
6. 発表





〈概念形成〉
調べたことを発表しよう。

 【技能】・班で協力して発表する。

 【関心】・他の班の発表をよく聞いて,質問や意見を言おう。

 【知識】・運動する物体の速さが変化するためには,力が必要である。
7. 比較・
応用
外からの力が働かないとき,物体はどのような運動をするか。

 【知識】・慣性の法則
〈比較〉
1つの物体にはたらく力と2つの物体の間ではたらく力

 【知識】・力のつり合いと作用・反作用
8. 概念
形成
エネルギーについて知ろう。

 【知識】・エネルギーとは・・・。

 【関心】・変換器の種類
坂道,振り子の実験と力学的エネルギー保存の法則
エネルギー保存の法則と無限軌道
 など

●生徒の活動の様子

班別実験の様子

斜面を下って上るときの速さの変化を調べる実験

自由落下の実験

振り子のおもりがゆれる速さを調べる実験

●生徒の実験レポートの例
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●生徒の感想
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3.実践の成果

 (1) 生徒は,最初はとまどっていたが,課題を,教師から与えられるのではなく自分たちで考えて,話し合いの中から,また生活の中から見つけることができて,追究・探究する意欲が高まった。

 (2) 学習形態を班別(3〜4人)にしたことは,お互いの意識を向上させ,協力性,協調性を高め,話し合いながら楽しく実験を行うことができた。

 (3) 速さが変わる運動については,日常生活に即した課題設定により,興味深く実験を行うことができた。

 (4) 課題を解決するために,実験の工夫とか再思考とか再チャレンジ等,新たに考える必要性が生まれ,発展・深化・統合性のある実験となったことはよかった。

 (5) より多くの実験から運動のいろいろな法則を導けたのは,演繹性,論理的思考の点からもよかった。

 (6) 工夫・協力して発表を行うことで,協力する喜び,表現する喜びを感じたようである。


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