課題研究理科の指導


燃料電池を教材とした「科学技術と人間」の学習
兵庫県川西市立多田中学校
前田 誠通
(前任校,明峰中学校での実践です)
1.はじめに

 1分野の最終単元「科学技術と人間」は,1分野の学習の締め括りとして,科学技術と人間生活との関連について考えていく単元である。2分野では,「自然と人間」という大きな括りの最終単元の中で,それまでの学習をもとにして,たくさんの問題を提起をしている。どちらも総合的な単元である。これらの単元で学習することは,重要な内容であるにもかかわらず,これまで時期的,時間的な問題から,軽い扱いで終わってしまうことが多かった。最近の入試問題でもこれらの内容は出題されるが,まだまだ軽くしか扱われていないようである。
 そこで,この単元のねらいにあった学習を展開できる教材を考えた。

2.教材について

 実験・観察が少ない単元である。知識としては学べるが,実感がわいてこない,変化の時間(歴史的な内容など),尺度が長いなどの理由から,できるだけ話題性がある実験などで学習できないかと考えてきた。最近の自動車業界をとりあげて,ガソリン車・ディーゼル車→ハイブリッドカー→電気自動車→燃料電池車という流れをつくりながら,「なぜ今燃料電池を開発しているのか。」「その原理はどうなのか。」「今までになぜ出来ていないのか。」など問題を投げかけながら進めた。内容が濃すぎるので適当に簡略化しながら生徒の反応を見ながら,『その原理ならできそう。』『今話題の燃料電池を作ってしまおう。』と製作に取りかかった。
 なお生徒は,直前の単元「物質の変化とエネルギー」で,酸化と化学エネルギーの変換を学習しており,その学習が生かせる教材でもある。

  

 実際に気体の酸素と水素を容器に入れ,導線で結んでも電流は流れない(この点が研究課題である。理科室などでも実験は可能であるが,触媒を使うなど手軽ではない)。いろいろな方法が教材として研究されているが,いかに簡単で生徒にわかりやすくするかが問題である。
 教材化するために,竹串の炭素化,鉛筆を使う方法,シャーペンの芯などいろいろ試作してみたが,扱いやすさ,強度,経済性,生徒の作業能力などから結局電極はステンレスねじとし,活性炭に埋め込む方法を使った。活性炭は,水槽の浄化用の,しかも使い古した物を洗って使用した。

3.製作方法

 授業では,口頭で指示していく。

 (1) フィルムケースのふたに3ヶ所ドリルで穴をあける。
→2つの穴は電極用で,もう1つの穴は水溶液に電解液などを入れるときのためのものである。
 (2) フィルムケースにざら紙のしきりを底までS字に入れる。
→S字に入れると,活性炭が接触するのを防ぐことができるため。(紙の高さにも注意する)
 (3) 活性炭をしきりでできた空間につめる。
 (4) フィルムケースの2つの穴にステンレスねじを1cmほどねじ込んでおく。

  

  

 (5) フィルムケースに水道水を入れる。
 (6) それぞれのねじの先を活性炭にくいこませる位置に注意して,ふたをしっかり取り付ける。
 (7) ふたをしっかり押さえながら,ドライバーでねじをしめて活性炭にくい込ませる。
 ねじの頭部は,1cmほど出しておく。
 (8) この段階で電圧計につないで,電圧が0Vであることを確かめる。
→金属による電池でないことの確認ができる。この段階で電圧が生じていては,意味がない。
 (9) 手回し発電機を接続して,電流を流す。
→水の電気分解
(10) 手回し発電機をはずして,代わりに発光ダイオードをつなぐ。
→燃料電池ができたことを確認する。
(11) 発光ダイオードをはずして,電圧計で電圧を測定する。

 *特に(10)の「手回し発電機をはずす」操作は確認する。

4.まとめと今後の課題

 ○まず水の電気分解であるが,水素と酸素に分ける必要がないので,装置は簡単である。電極は,金属電池ではないので,1種類の金属でよい(この1種類という点を強調しておくとよい)。
 ○水は,ただの水道水でもよい。水道水でも発光ダイオードは1秒以上ついた。消えた後,電圧を測ると1V以上あった。(使用した発光ダイオードは2V以上必要な普通のもの。保護抵抗は入れなかった)
 ○生徒から『電気分解するのに薬品を入れなくてよいのか』という質問があった(このような発言は,ぜひ評価してやりたい)。このことについては,予備実験で,もう1つの穴から炭酸ナトリウム(炭酸水素ナトリウムの分解でできたものでよい)の水溶液を少量スポイトで入れたとき,発電機の手応えが重くなることを確認している。時間的な余裕があればその実験もさせたい。
 ○他のクラスで別のメーカーの新品の活性炭を使ってみたが,形状が異なる(接触面積の違い)のためなのか,それとも水槽の汚れが何らかの作用をしているのかわからないが,期待したほど良い結果は得られなかった。今回の教材では,電気分解によって活性化している酸素・水素でうまくいっているが,物質としての水素・酸素の確認はできていないので,燃料電池の学習教材として,これでよいのかどうか検討する必要がある。

【参考資料】 学習指導案

[単元]  「科学技術と人間」(1分野),
「自然と人間」(2分野)の小単元「自然環境と人間」

[学習の展開]
    学習事項   生徒の活動指導上の留意点


これまでの復習
本時の目標
最近の話題

自動車産業について,最近の話題から思いつくものをあげる。
すでにIC開発や電卓戦争などは学習している。


自動車のエネルギー源の変化
燃料電池
燃料電池の原理
燃料電池の製作
後片付け
メーカーが生き残りをかけて,何を研究しているかを知る。

〈(あとの板書例による)展開〉
燃料電池と金属電池と電気分解の違いを区別できる。
自動車の問題点も考える。深入りすれば盛り上がるが,時間が足りなくなる。
発光ダイオードがつかなくても,電圧計で確認できる。


本時の学習内容
結果の整理
最先端技術といわれる燃料電池が,今まで学習したことから理解できると共に,製作もできることを知る。
燃料電池を自動車に使う場合には,いくつも解決すべき課題があることも知る。

[板書例と授業の進め方]
板書例と質問予想される答と解説例
最近の自動車業界の話題
自動車はどう変化していこうとしているか。
 
 ○ガソリン車・ディーゼル車
〈質問〉問題点は何か。
〈化石燃料を使うので〉
 ・石油がなくなる。
 ・二酸化炭素を出す→地球温暖化
 ・NOを出す→光化学スモッグ など
 ○ハイブリッドカー
〈質問〉・ハイブリッドカーの利点は何か。
問題点は解決されたか。
 ・燃費はいいが,石油を使うことはガソリン車と同じ。
 ・値段が高い。
 ・バッテリーが重い。
 ○電気自動車
〈質問〉まだ一般的でないのはなぜか。
悪い点はないか。
 ・排気ガスや騒音はない。
 ・バッテリーが重い。
 ・長く走れない。
よく考えると,発電所から電気をもらうので,火力発電所からなら化石燃料を使うことに変わりはない。
 ○その他
〈質問〉いまの自動車業界の開発競争は何か。
 
燃料電池車・燃料電池とは?
酸素+水素 →( 水 )+(   )
〈質問〉(   )は何?
この熱エネルギーを熱ではなく,直接電気エネルギーとして取り出すしくみ

〈質問〉・原理は単純であるのになぜ今まで開発されていなかったのか。
それでも開発していこうとしているのはなぜか。
他の化学変化によるエネルギーでもよいが,できた物質が有害では困る。
気体の水素と気体の酸素を混ぜても化学変化は起こらず,簡単にはエネルギーは取り出せない。
 ・水素は危険。
 ・燃料電池の性能が低い。
 ・電気自動車としての性能が低い。
 ・研究にお金がかかる。
 ・石油のほうが安い。

 〈いくつかの問題点は解決されている〉
環境とエネルギー資源のことを考えると,早く実用化しなければいけない。
そのために各社は,多くの費用と技術と時間をかけ,生き残りをかけてしのぎを削っている。または協力している。
燃料電池を作ろう
原理自体は古くからあって簡単。
最先端技術といわれる燃料電池を作ろう。
〈質問〉酸素,水素はどうして作り出しますか。




 ・塩酸と亜鉛。二酸化マンガンとオキシドール。電気分解する。
電気分解なら両方同時に取り出せる。
それを使いましょう

〈参考文献〉
 ・川村康文氏,八島弘典氏・杉山剛英氏の各ホームページ
 ・理科教育ニュース(少年写真新聞社)


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