課題研究理科の指導


光の進み方と光によってできる像に関する指導 〜鏡に映る像の大きさの変化について〜
奈良県A中学校
1.はじめに

 学習指導要領に示されている光についての指導内容は,次の2つである。

光の反射や屈折の実験を行い,光が水やガラスなどの物質の境界面で反射,屈折するときの規則性を見いだすこと。→内容(1)ア(ア)

凸レンズの働きについての実験を行い,物体の位置と像の位置及び像の大きさの関係を見いだすこと。→内容(1)ア(イ)

 これらの指導では,さまざまな実験を行うことにより諸現象を生徒自らの目で確認することが重要である。また,確認した諸現象をまとめるためには,光が進行するようすをわかりやすく図で表現することも必要となる。
 実際の指導で光による像のでき方を扱うときには,図1のように,特定の1点から進む光の道筋を示して説明することが多い。しかし,この図は一見分かりやすく像のでき方を示しているように見えるが,生徒に十分な説明を与える図とはいいにくい点がある。
 図1は,矢印の先端から進行する光についてのみ説明しているだけで,矢印の中間や起点から進行する光についての説明は示されていない。これは,暗黙の了承のうちに,矢印の各部分から進行する光が,レンズから等しい距離にある場所で像をつくることを前提にしているからである。


図1

 光によってつくられる像は,1点からの光だけでは成立しない。このことは,実際の現象を考える上で重要なことではないだろうか。しかし,ほとんどの生徒は,このことを意識しないままに光の進み方についての学習を終えている。
 そこで,この研究では,光によってつくられる像についての指導を,今までとは異なる視点に立って実践してみた。

2.研究のねらい

 1) 光がつくり出す物体の像は,物体の各部分から進行する光が元となってできていることを生徒に認識させる。

 2) 光がつくり出す物体の像を,作図によって確認できるようにする。

3.指導内容

 次のような教材を作成し,指導した。

 1)  図2を示し,物体から目に光が入るときの入射角と反射角を記入させる。


図2



図3
 2) 目の位置を変えずに,鏡に映る像の大きさを小さくするには,物体をどのように動かせばよいかを考えさせる。

 3) 遠くにある物を鏡に映すと,鏡面上には小さく映ることを思い出させる。

 4) 物体ABを鏡から遠ざけると,鏡に映る像は小さくなることを説明する。

 5) 鏡の奥に見える像CDは鏡に映る像ではないことを説明する。

 6) 鏡に映る像を作図する方法を考えさせる。

 7) 像の大きさを表すには,A点からの光だけでは作図することができないことを説明する。

 8) B点から鏡に反射して目に入る光を作図させる。

 9) 入射角と反射角が等しくなるように作図すると図3のようになり,鏡に映る像を作図できることを確認する。

4.指導の応用

 上記の指導内容を利用すれば,次のような指導も可能となる。

 1) 物体ABの位置を鏡から遠ざけると,鏡面上にはどのような像が映し出されるかを作図させる。(図4)

 2) 物体ABの位置を鏡に近づけると,鏡面上にはどのような像が映し出されるかを作図させる。(図5)

図4

図5

 3) 作図の過程をたどらせることによって,鏡面上には実物以上に大きな像を映し出すことは不可能であることを指導する。
 物体が鏡に接している状態が最大の像になり,鏡から遠ざかると鏡面上の像はどんどん小さくなる。ただし,このことは鏡が平面鏡であるという条件のもとで成り立つ。

 4) 「光によって作られる像は,1点からの光だけでは成立しない」ということを生徒に認識させると,凸レンズを通してできる像を考える場合,「1.はじめに」で示した図1のように矢印の起点がレンズの中心を通る軸上にある場合だけでなく,次の図6のような場合につくられる像の大きさをも示すことができる。


図6

5.指導による効果と課題

 理科という教科の指導において,実験は重要な役割を果たしている。例えば,特定の条件における事象の確認や再現を行うことによって観察・実験の技能を高めたり,結果を考察することによって科学的な思考を発展させたりできる。また,印象的な事象を再現することによって感動を呼び起こし,自然現象に対して関心・興味を育てることもできる。そして,結果を蓄積することによって知識や理解の度合いを高めることもできる。
 しかし,単に実験を行うだけで,その内容を整理したりより深く考察することを怠ると,せっかくの努力が活かされることなく,ただ単におもしろおかしい経験をしただけに終わってしまうことがある。
 中学生は,精神的にまだまだ未熟なところが多く,実験という行為には関心を持つが,その内容については興味を示さないことがよくある。そのような実態にあって実験を活かすためには,実験によって生まれた体験的感動を上回る知的感動を生徒に経験させることが必要ではないかと思う。
 ここに紹介した,光がつくり出す物体の像についての実践は,この知的感動を生徒に与える教材として有効であると考えられる。なぜならば,鏡に映る像を見るという行為は日常からごく当たり前に行われている行為であって,実験によって得ることのできる感動は他の実験に比べて少ないことが予想されるからである。単に鏡に映る像を眺めているだけではなく,そこに隠されている未知の事象に気付かせることにより,当たり前の現象が不思議な現象に生まれ変わり,知的感動をかき立てる現象に変化するのである。
 ただし,生徒の知的感動をかき立てるには指導の仕方に多少の工夫が必要である。理屈一点張りでは堅苦しいだけの授業になり,教師の感動を押しつけるだけでは生徒が嫌気をさしてしまう。生徒が素朴な気持ちで不思議だと感じられるような授業展開が必要不可欠となる。
 また,作図をするときには定規を用いてできるだけ正確に描くことが大切である。入射角と反射角が等しいことも再確認しておいたほうが無難である。そうでなければ鏡面上にできる像の大きさをきちんと把握することができなくなり,単なる作図方法の練習に終わってしまうことがある。指導の第1番目に入射角と反射角の記入をさせているのはそのためである。生徒には,この教材は少し理屈っぽく感じられるかも知れないが,さほど難しくない作業をするだけで内容を理解できるので是非一度実践していただきたい。

6.おわりに

 理科の指導内容には,実験だけでは生徒の関心・興味を引き出しにくいものがいくらかある。ここで紹介した光の進み方と像のでき方についての指導もその一つである。2つの物体間にはたらく力についての指導などもその例にあたるだろう。他にも,電気に関する内容や化学反応式の作り方など,概して目に見えないものや図に表しにくいものがそれらに当てはまるように思える。
 しかし,そのような指導が困難な内容についても,その困難さを逆手にとって,如何にして生徒の知的感動をかき立てる教材を開発するか,如何にして知的好奇心を高めるかということが,教師にとっての喜びであり醍醐味であると筆者は考える。
 大げさなようだが,教師が発見して感動した内容は,生徒にとってもきっと感動するものだと思う。ただ,その感動をどのような方法でうまく生徒に伝えるかが問題となる。当たり前のことを見逃さず,素朴な疑問を追求する。そんな中で,教師としての力量を磨くことができれば幸いである。

〈図の引用〉
 図1 指導書理科1分野上付録「指導に役立つディジタルデータ集:1分野図版1光・音・力 図08 小さな実像.jpg」(啓林館,平成14年度版)
 図6 図1を一部加工

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