生徒の興味・関心を高める選択理科の指導例〜必修理科の補充・深化をめざして〜
京都府船井郡和知町立和知中学校
杉尾 光明
1.はじめに

 自然に興味・関心をもち,自然現象を科学的に探求して,納得できる結論を導き出すという一連のプロセスを体験させたいと常々考えている。限られた理科の時間数の中では実現しがたい教材を選択理科という枠の中で発展性を具備させながら,試行錯誤してきた取組の一端を報告したい。本校は各学年1学級という小規模校で,3年生を対象に選択理科を開設している。

2.選択理科の概要

  (1) 教育課程
ア.時 間週1回 年間30時間の予定(3年生は4コマの選択枠)
イ.選 択国語・社会・理科より1教科を選ぶ
ウ.受講者13〜14名

  (2)

 指導計画
ア.平成14年度の主な内容
単元
時数
学習内容
細胞のつくり細胞観察とデジカメによる処理
着生植物ウメノキゴケの採集,色素抽出,指示薬づくり
力と運動重力加速度の測定
進化化石の観察,VTR資料を視聴

イ.

平成13年度の主な内容
単元
時数
学習内容
植物のつくり 10 マツの葉の気孔の汚染度調査,町内汚染マップづくり
物質とイオン金属とイオン化傾向,メッキ
植物サツマイモの栽培とデンプン調べ
力と運動重力加速度の測定,簡易測定器づくり
課題研究グループ別課題研究

3.実践例(過去2年間の取り組みの中からいくつかを紹介)

  (1) 細胞のデジカメ画像づくり
 通常の顕微鏡による観察では,対象物のスケッチをして記録を残すが,1時間の授業時間の中ではじっくり時間をかけることができない場合が多い。そこでデジタルカメラを使って接眼レンズを通して直接撮影することにした。デジタルカメラの台数の制約もあって必修理科の授業では実現しにくいが,選択理科の時には2人に1台ぐらいは与えることが可能で,能率的に観察し記録を残すことができた。撮影したデータはコンピュータの画像処理ソフトを利用して整理させた。切り取り,拡大が容易でお気に入りの画像にして残すことができ,生徒には好感をもたせることができた。次の画像が処理例である。

観察材料デジカメ元画像トリミング処理後
ほおの粘膜細胞
 
ムラサキツユクサの気孔
 
タンポポのめしべと花粉
 

  (2)

 重力加速度の測定
 1分野の「運動とエネルギー」の学習をした後,発展的教材として重力加速度の測定に取り組んだ。力がはたらく運動として教科書にある斜面上の運動の実験をし,あわせて記録タイマーを使って自由落下運動の実験もしている。力の合成・分解が削除されて高校へ移行したので,斜面上の物体にはたらく3つの力を示すことができないが,選択理科の時間ではおおまかに説明し,重力加速度の測定を次の2つの方法で実施した。式の意味には深くふれないようにした。

  ア.ボールの自由落下の落下時間の測定



 校舎の2階と3階からボールを落下させ,ストップウォッチで時間を測定し,上式に代入して重力加速度gを求めた。

[結果]
  1) 校舎の2階から落とすときの落下時間(h=5.20m)
測 定1回目2回目3回目平 均
落下時間〔秒〕1.030.921.020.99

  2)

 校舎の3階から落とすときの落下時間(h=9.18m)
測 定1回目2回目3回目平 均
落下時間〔秒〕1.241.361.271.29

1),2)の測定結果の数値を使って重力加速度gを求めると,それぞれgの値は次のようになる。

  1)

  2)


  イ.

単振り子の往復運動の周期測定



[結果] (l=1.344m)
回数時間 〔秒〕回数時間〔秒〕
0010023.25
1023.0511023.11
2023.2612023.13
3023.1913023.25
4023.3214023.07
5023.1715023.18
6023.2416023.14
7023.1217023.20
8023.2318023.14
9023.2519023.20
平 均23.18秒
周期T2.318秒

 この測定結果の数値を使って重力加速度gを求めると,次のようになる。



 単振り子の周期測定は,10往復ごとに約23秒というゆったりした時間で誤差が少なく,かなり正確なgの値が得られた。ボールの落下時間の測定のほうは,2階,3階からだと1秒程度の時間で着地するので,ボールを落とす生徒,ストップウォッチを押す生徒のタイミングが微妙な誤差を生んだようで,やや誤差の大きい結果となった。いずれの方法でも時間測定という簡単な方法でが測定できることがわかり,力がはたらく運動について理解を深めることができたように感じている。

  (3)

 課題研究レポート
 生徒の探求心を養い,冒頭に述べたプロセスを体験させるために,実験方法から器具の準備,データの収集,整理,まとめまでを2〜3人のグループで行わせた。観察・実験のヒントとなるいくつかの例示を提供したが,生徒は個性的な発想で興味のある題材を決めて主体的にいきいきと実験に取り組んだ。ここに平成13年度に実施した課題研究のレポート集から抜粋したものを提示する。




  (4)

 今年度の選択理科の講座内容の紹介
 今年度は次のような内容で「体験し,つくり,理解を深めよう!」を主題として,生徒の主体性や探究心を伸ばせるように工夫しながら,理科を楽しみ,興味・関心を高める講座にしようと計画している。

1 身のまわりの物質を理科的な観点で分析しよう。
  (1) ほかほかカイロの粉は何でできているか。また,温かくなるのはどんな原理を使っているか。
  (2) 紙おむつは何でできているか。また,水を吸収するのはどうしてだろうか。
  (3) お菓子袋などに入っている乾燥剤や脱酸素剤は何でできているか。また,どういう化学変化を使っているのだろうか。

2 いろいろなモデルをつくって,理解を深めよう。
  (1) 化石のレプリカ
  (2) 地層・断層モデル
  (3) 葉脈標本
  (4) 原子・分子模型,結晶模型
  (5) 雪の結晶づくり
  (6) 急冷による火山岩の結晶モデル
  (7) 前線モデル
  (8) 雲の写真と垂直分布モデル
  (9) 小球による大気圧モデル
  (10) 簡易モーターづくり(フレミング左手の法則)
 など

3 いろいろなものを作って,理科の学習に役立てよう。
  (1) 野菜とオキシドールで酸素づくり
  (2) 金属の合金で低融点の新金属づくり
  (3) 光のあたり方の違いによる光合成量の比較
  (4) サツマイモを育てて,デンプンの研究
  (5) 空気の振動とドレミの音階づくり
  (6) 果物の電池で回るモーター
 など

4 自分の興味・関心から見つけた不思議を課題として解決しよう。
 ※グループで実験方法,観察方法を計画し,まとめ,整理,発表まで行おう。

4.おわりに

 生徒の自然への興味・関心を高めることを第一義にしてこれまで様々な取り組みをし,試行錯誤や失敗を重ねながら,何かヒントや手がかりになるものを与えられればという思いで生徒とともに選択理科を指導してきた。うまくいかないことや失敗から学ぶことはたくさんあり,工夫改良を加え,次なるチャレンジへとつないでいくことにおもしろさを見いだす生徒を一人でも多く育てられればと願って実践してきた。
 つたない取り組みの一端を紹介させていただく機会を与えられたことに感謝し,報告とします。

  [参考文献]
授業に生かす理科のおすすめ実験 −東京法令出版−
ダイナミック理科実験に挑む −黎明書房−
香川県高松市教育センターのホームページ

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