高気圧,低気圧,竜巻の渦を生徒実験で
東大阪市立孔舎衙中学校
明石 利廣

1.実験開発の目的
 (1) 中学校での低気圧,高気圧,台風の教材は,気象衛星のひまわり画像を見て考察することが中心である。さらに,生徒の気象に対する興味と理解を格段に深めるため,理科室の生徒実験で,北半球,南半球での渦を実際に再現することができるようにする。
 (2) 回転の中心付近でなく,中緯度地域(回転の中心から離れた場所)でもコリオリの力が働いていることを生徒が直観的に理解ができるようにする。
 (3) コリオリ力をつくり出すための回転台は,今までの報告を見ると大型になったり,高価になったりして実用に即さなかった。そこで,学校にある教材を利用し,さらに,上昇気流や下降気流のつくりだし方にも工夫し,安価で,簡単な班単位の実験を可能にする。


2.実験装置の工夫した点
 (1) 回転の中心から離れたところでのコリオリ力を見せる方法
 今までの装置は,ほとんどが回転軸上であったが,本実験では装置が回転の中心から離れたところにあるため,生徒は中緯度地域(例えば日本)を想起しやすい。その方法として,回転台上に長板を乗せ,一端にバランス用重り,他端に装置を置く。
 (2) 生徒実験ができるための簡易回転台の製作
 美術教室にある生徒用ろくろを用い,市販の模型用ギアー付きモーター(田宮模型)を使って,重さ20kgほどの装置を動かすことができる。電源として,乾電池,または生徒用直流電源装置(1.5〜3V)を使う。ここでは電気モーターを使っているが,手で回すだけでも十分である。
 (3) 上昇気流,下降気流を回転台上でモデル化する方法
 13水槽で,水槽掃除用の電池式水中ポンプを使って下降水流,上昇水流をつくり,高気圧部,低気圧部に対応させる。これを回転台上で行うことによって簡単にコリオリの力が働き,下降水流部では高気圧の渦が,上昇水流部では低気圧の渦ができる。さらに回転台を回し続けると,上昇水流部では渦の回転が早くなり,竜巻や台風のようになる。
 (4) 高気圧,低気圧,台風,竜巻の流れを直視する方法
 既存の実験方法では,渦はできるが流れの方向までは観察できていない。本実験では,薄いプラスチック片と小さなビスで旗をつくり,おがくずも利用して流れる方向,渦の形が直視できる。下降水流(高気圧部分)や,上昇水流(低気圧部分)での水流の向き(風向き)と,強い上昇流の中での渦巻き(竜巻や台風)を観察する。
 (5) 観測者が回転台上にあって,高気圧や低気圧,竜巻を見る方法
 回転している装置上の低気圧や高気圧の渦を目で追う代わりに,ミニビデオカメラを置き,テレビ画面でそれを見ると,あたかも地球上に観測者がいて,低気圧や高気圧の渦を観測しているように見える。
 以上,ごく身近にある材料を用い,簡単で安価な装置ができた。また,北半球,南半球での高気圧や低気圧の渦が自分自身でつくりだすことができ,生徒の気象に対する意欲を喚起することができる。

3.実験の内容
 (1) 装置の工夫
全体図
全体図
写真1
写真1


1) 回転台の製作
 コリオリ力をつくりだす回転台は,美術教室にある生徒用ろくろ,モーター付きギアーは模型工作用に市販されているもの(田宮模型)を写真1のように厚板の上に固定した。駆動部はギアー比を大きく取り(18:1),強い力が出るようにし,1.5〜3Vの乾電池で動くようにした。回転板のプーリーを掛ける部分は,古紙などを縛るのに市販されているビニルタイを,プーリーの厚みに合わせて縛っている。このとき20Kgほどの器具を乗せても,回転数5〜8rpmの回転を得た。また回転数を自由に調節するのに,生徒用直流電源装置を利用した。

展示用にモーターを使って回転させているが,生徒実験では,手で回させるだけでも十分である。
写真2
写真2
2) 高気圧,低気圧,竜巻の渦を直視する方法
(ア) 水槽におがくずを入れる。
 メッシュ0.5〜0.25mmを通したおがくずを使う。
(イ) 黒い下敷きの,低気圧部,高気圧部になるところに,円形に押しピンを固定する。
 小さなナットに薄いプラスチック片を接着剤で固定して旗のようにし,押しピンに差し込む。
写真3
写真3
3) 上昇気流,下降気流のモデル化
 熱帯魚観賞用の水槽を掃除するためにつくられている水中ポンプを使って,水槽内の水を循環させる。乾電池3Vでは,約2〜3l/min.の揚水力がある。水底から,吸水口までの距離は20cmほど離れていても充分である。水中ポンプで吸い上げられた水は,ビニルホースで水面直下,垂直に導く。導かれた水は水底に下降する。この下降水流が上昇水流にあまり影響しないように,吸水口と吐出口との距離は20cm以上あることが望ましい。
写真4
写真4
 (2) 実験の方法
1) 準 備
 回転台に長板を乗せ,その両端に重りと装置を乗せる。水槽には旗の乗った下敷き,おがくず,水を入れておく。
2) コリオリ力の働かない場合
 水中ポンプを動作させると水は循環をはじめるが,下降流が水底に到達する部分(高気圧部)では,水は放射状に広がる。吸水口の下では変化はない。
写真5
写真5
3) コリオリ力を働かせる
 〔低気圧,台風,竜巻〕
 回転台を反時計方向に回すと,慣性力が働き水槽内の水が全体的に動き出すが,4〜5回ほど回転すると水は安定する。
 吸水口の直下の水底で,おがくずが渦を巻きはじめる。円形に置かれた旗は反時計方向,内向きに並ぶ。すなわち,低気圧の風の吹き込む状態が見える(写真4)
 さらに回転を続けると,渦の回転速度が増し,急激な細い回転になり,竜巻が見えてくる。
写真6
写真6

 〔高気圧〕
 吹出口から水が水底に勢いよく吐き出されるが,水底に到達後,放射状に広がらず,時計回りの渦となって広がる(写真4)
4) 南半球での現象
 回転台の回転を時計方向に回し,上記実験を行うと高気圧,低気圧の回転は反対になる。
5) 観測者が回転台上にあるようにする
 これらの実験は,回転しているため,回転台にミニビデオカメラを置き,無線で画像を送ることによって見やすくなり,台風や竜巻の成長のようすをゆっくり観察できる。
写真7
写真7
 (3) 実験の簡素化と応用
1) エアーポンプでの簡素化
 水槽の中で,水中ポンプを使わず,簡単なエアーポンプで上昇気流(低気圧)のみを見せることができる。細かい気泡が上昇水流をつくり,コリオリの力が働き,回転する渦が観察できる。
写真8
写真8
2) 空気を上昇させる
 水を使わず,空気の上昇を使って低気圧の表現も可能である。加熱された水の入ったフィルムケースを空の水槽に入れ,線香,または塩酸とアンモニアでつくった煙を近くに置くと,ゆっくりとした低気圧の渦が見られる。
写真9
写真9


4.学習指導方法
 (1) 天気図,ひまわり画像で北半球での高気圧,低気圧,あるいは,台風について考察させる。
 (2) 実際に地球の自転によって下降流の底では時計回り,上昇流部分では半時計回りの渦ができることを上記実験の方法2),3)で,班別に確認させる。
 (3) 回転台の回転方向を逆(時計回り)にして南半球での高気圧,低気圧の渦をつくらせる。
 (4) 南半球での高低気圧の衛星写真を見せて,上記,(3)を確認させる。
 (5) 壮大な気象現象が地球の自転に深く関わって引き起こされることを実感させる。


5.実践の成果
 (1) コリオリ力が回転の軸付近だけでなく,中心から離れたところでも働いていることが生徒に容易に理解された。
 (2) 台風,竜巻現象が出現すると生徒たちの間に歓声が上がった。
 (3) 実際に高気圧,低気圧の渦を生徒の手でつくらせることによって,印象深くなり,科学的理解が深まった。
 (4) 日常生活での気象に対する興味・関心が深まり,新聞の天気欄やテレビの気象予報を見て,授業中に気象に関する質問が出ることが多くなった。

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