選択理科でできること
神戸市立雲雀丘中学校
森永 和子

1.はじめに
 私達,中学校教師は忙しい。
 授業はもとより,生徒との会話,保護者との会話,日常の生活指導,そして,放課後は部活動に会議。こうして,日々忙しく過ごしていくうちに,昔学んだ専門的知識は古び,うすれていく。しかし,新しく研修するための物理的時間も心のゆとりもほとんどない。職を全うする上で言い訳は許されないが,これも現実である。
 こういう私達に,「選択・総合」という新たな難問が待ち構えている。「これから先,どうしていけというのか!」と愚痴りたいところだが,ここはぐっと踏ん張って,某自動車会社のCMのように,「変わらなきゃ」。
 私達は,専門知識とは別に,教師経験の中で生徒を動かすノウハウを身につけてきているはずだ。「生徒は何を望んでいるか」,「どうすれば成就感を与えられるか」,「主体的に取り組ませるには,どうすればよいか」。こういった視点で見つめ直すと,身近な材料も新しい素材となって生まれ変わる。いかにして限られた時間と知識の中から新しい授業を産み出すか。昨年度,中学2年生対象に生徒選択で実施した「総合科学」の展開例を報告する。

2.授業の概要
 対象;中学2年生(男子14人,女子18人)
 時数;1〜2学期で12時間(原則として週1時間)
 場所;理科室

3.授業の目標
 身近な道具で指示された実験を行い,成功する喜びを味わう。

4.授業の展開
 準備;「子どもにウケる科学マジック77」から15項目を選び,記録用紙を作る。
実験(マジック)は教科担任の目の前で成功したら「合格」とし,合格シールを記録用紙に貼る。すばらしくよくできたら金シール!
 (1) 水入りポリ袋のハリネズミ
 (2) ストローで水を曲げる。
 (3) 米吊り
 (4) 水を入れた紙コップが燃えない。
 (5) 金属ボウルの噴水
 (6) 傘のポリ袋で赤と青の光を見る。
 (7) 2個の茶碗が離れない。
 (8) アルミ缶潰し
 (9) ペットボトルの噴水
 (10) ろうそくを燃やして吸い上げる。
 (11) 通り抜けるビー玉
 (12) 火花が飛ぶアルミ缶
 (13) 名刺でケースを吊る。
 (14) 大気圧でわり箸を割る。
 (15) 卵を立てる(生とゆで)。
      
1) 事前指導:班分け,趣旨説明
次時の相談―チャレンジは1回に4項目まで。どの項目にするかは班で決める。
準備物は,分担して家から持ってくる。
2)〜6) マジックに挑戦!
7) 文化祭に向けての準備
 文化祭の1コーナーとして演示・体験実験を行うため,新たなテーマを加えて班編成をし直す。
塩化コバルトと硫酸のカラーあぶり出し。
宙を行くピン球ゴルフ
ジャガイモにストローを通す。
空気砲
静電気で蛍光灯をつける。
高分子吸水体のフシギ
吸い込まれる風船
8)〜10) 実験練習:今度は成功させるだけでなく,人に楽しんでもらえるよう工夫する。
はじめて体験する人に感動してもらうには,どうすればよいか,よりよい方法を考える。
11) 展示準備:看板作り,会場作り,パンフレット作り。
12)
 文化祭本番:学級単位で理科室を訪れる全校生と先生・保護者に実験を体験してもらう。

 <感想>
 どんなに小さな実験でも,結果を知るだけなのと成功を体験するのとでは,感動の大きさがぜんぜん違う。あくまで成功にこだわり,やり直させることで成就感はより大きくなったように思う。また,第2段階として自分がプロモートする側にまわることで,実験を成功させるための科学的根拠に迫ることができたように思う。
 後日談になるが,文化祭後はCP室でソフトの使い方を覚え,自分達のチームの宣伝チラシを作ったりする作業を行わせた。

 <追記>
 生徒はとにかく実験が好きだ。お仕着せでなく,成就感の味わえる実験はないかなあといつも考えている。以下は3年生の授業の中で復習として行ったものである。プリントによる復習は大切だが,プリントばかりではついてこなくなる生徒が多いのも現実である。
 班ごとに競技方式で実験に取り組むことで,実験の方法や試薬の使い道・計算などを教え合いながら,積極的に復習することができるのではないかと考えた。この方法は,選択理科で扱うと一層充実したものになるのではないかと思い,参考としてここに挙げる。

 【サプライズ実験】
 I 密度を測定する。
 a 発泡スチロール b くぎ1本 c 液体X(エタノール)
それぞれの質量と体積を工夫して測定し,密度を計算する。
cについては,計算値から資料集を参考にして物質名を推定する。
 II 混合物の分離
 混合物a→イオウ,鉄粉,塩化ナトリウム
 混合物b→塩化銅,チョークの粉,鉄粉
 混合物c→砂粒,さとう,デンプン
a〜cのうち1つを選び(抽選),3つの物質を最終的に固体の状態で取り出す。
 III 物質の同定
 液体〔塩酸,塩化ナトリウム水溶液,石灰水〕
 固体〔さとう,チョークの粉,塩化ナトリウム,デンプン〕
 試薬〔BTB液,硝酸銀水溶液,ヨウ素液,うすい塩酸〕
液体・固体は記号化してあり,抽選でそれぞれ2つを選び同定する。
ひとつの物質につき2つ以上の証拠を挙げられ,正解したら合格
I〜IIIとも記録用紙は配付するが,実験道具・方法とも,すべて各班の自由である。
日頃から準備と片づけは各自で行うように指導してきたので,生徒達は自分達で必要なものを出し,不要になれば洗って片づけ,全体の流れはとてもスムーズだった。

 <注意すること>
 (1) 復習なので試行錯誤を重視し,成功させるためのアドバイスは控える。
 (2) まじめに実験させるために,「成功するぞ」という強い動機づけをする必要はある。
 (3) 教師は個別指導より常に全体を見ておき,危険な操作については即刻介入する。
 (4) 「どうすればよりよかったか」というフィードバックを,成功した班のレポートで事後指導として行うと定着しやすい。
 (5) チームとして取り組むことで,「考える人」,「操作する人」,「まとめる人」などの分業ができ,成功したとき,全員が成就感を味わえる。

5.最後に
 私は地学系の出身ですがフィールドワークが苦手で,さらに,花の名前も木の名前も,虫の名前も情けないぐらいわかりません。
 環境教育が盛んで,理科の先生に「博物学者」的素養が求められる現代,とても肩身が狭い毎日です。でも,空は好きだし,天気図はかけるし,何より不思議な事実に出会い,びっくりすることがとても好きです。私と似ているタイプの理科の先生がおられたら,このレポートが少しでもお役に立たないかな,と願います。

From 宮沢賢治にはなれない理科教師

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