万華鏡の世界
愛知教育大学附属岡崎中学校
水野 勝通
1.はじめに
 幼いころに親しんだ万華鏡をのぞくと,1つの模様をもとにして視界いっぱいに模様が広がっていく。中学生の子どもたちにそれを見せると新たな発見をする。子どもたちから出る問題をまとめると,大きく2つの内容に分かれる。
どの模様がもとになっていて,どのように広がっているのかという疑問
万華鏡を分解していくと,鏡が正三角形に置いてあることより,なぜ正三角形に鏡が置いてあるのかという疑問
 このような子どもたちの問題を解決していくために,次のような手順で学習を進めた。

2.学習の流れ
 「万華鏡の世界」を追究するために大きく2つの柱を設ける。さらに,それぞれの問題を順に解決できるように,内容を次のように細分化して考えた。
(1) 万華鏡の模様の広がりを調べよう。
1) 鏡を用いた線対称移動
2) その他の移動:平行移動と回転移動
3) 発展的な問題
(2) なぜ鏡は正三角形に置かれているのか。
1) 多角形に置いた場合を考えよう。
2) 三角形のいろいろな場合を考えよう。
3) なぜ鏡は正三角形に置かれているのか。
このように流れを考え,以下のように実践してみた。

3.展開例
(1) なぜ鏡は正三角形に置かれているのか。
1) 鏡を用いた線対称移動
 もとになる模様がいろいろな柄であると,子どもたちには性質がとらえられにくくなる。
 そこで,図のように,もとになる模様を矢印にして,万華鏡の中にある移動をとらえていく。
右の矢印はどのように移動しているのだろうか。
 まず,正三角形だけ敷きつめられた図に矢印を入れさせる。これにより,個々の子どもたちに万華鏡の中にある鏡を用いた線対称移動をつかませる。

 この図をもとに,線対称移動の軸を考えさせる。
 上の図を見ると,図形の辺はすべて対称の軸になることがわかる。
2) その他の移動
 線対称移動について十分に追究した後,他の移動について考えさせていく。

線対称移動以外の移動は,あるだろうか。
 ここでは,三角形とその中にある矢印を一緒に考えず,単に  がどのように移動したのかを考えさせる。
 ア.平行移動

 上の図のように,A,B,Cのように上下,右上,右下というようなすぐわかる平行移動だけではなく,Dのように離れた位置との平行移動も見つけさせていく。
 イ.回転移動

 上の図でわかるように,点Oを回転の中心として,A,B,Cが120゚ずつ回転移動していることがわかる。さらに,KからLへも点Oを回転の中心として120゚回転移動していることがわかる。このように,万華鏡の模様の広がりには,いろいろな移動が隠されていることがわかる。
3) 発展問題
 さらに発展課題として,以下のようなものを与えると子どもたちの見方・考え方は深化していく。

点対称移動(180゚の回転移動)は存在するか。



 AからBへは,どのような移動が組み合わされているのだろうか
(2) なぜ鏡は正三角形に置かれているのか。
 次に,万華鏡の鏡を正三角形以外に置いて,正三角形のときと同様なことがいえるのかどうかを追究していく。この追究については,次の2通りを行うことになる。
1) 鏡を多角形に置いてみる。
2) 鏡を正三角形以外の三角形に置いてみる。
 1),2)をどちらの順に扱ってもよいが,子どもたちの実態に合わせ,1),2)の順に授業では進めていった。
1) 鏡を多角形に置いて考えよう。
子どもたちは,四角形から考えていく。
ア.正方形
 子どもたちの中には,正方形が十字のように広がっていくように考える場合がある。
 ここでは,正三角形の場合を思い出しながら,右の図のように広がることをとらえていく。

イ.長方形
 長方形の場合も右の図のように,矢印の模様が広がる。

ウ.その他の四角形
 子どもたちは,次に右の図のようなひし形を考える。
 このひし形は,正三角形を2つ合わせた形で,内角が60と120でできているものである。
 これを万華鏡のように模様を広げていくと,右の図のようになる。
 ここでわかることは,辺ABと辺ADをもとに最初の線対称移動をしたものは,線対称になっていないということである。
 ここで,子どもたちは,敷きつめられるが,万華鏡の規則が成り立たないものを発見する(ここでの驚きを大切にしたい)。
 だから,右の図のような平行四辺形はもちろん,五角形,そして敷きつめられるが万華鏡の規則が成り立たない正六角形と考えていき,最終的に次のような結論を出す。

内角が360゚の約数である。さらに,360÷内角=偶数 となる。

2) 鏡を正三角形以外の三角形に置いてみよう。
 見つけたことをさらに確かめていくために,鏡を三角形に置くことを考えていく。
 360の約数(1,2,3,4,5,6,8,9,10,12,15,18,20,24,30,36,40,45,60,72,90,120,180,360)のうちで2番目の条件を満たす角度は,1,2,3,4,5,6,9,10,12,15,18,20,30,36,45,60,90になる。
 さらに,20以下の角度については,他の組み合わせから三角形ができないことにより除かれる。また,36も組み合わせで三角形ができないので除かれる。よって,万華鏡の性質をもつ三角形は,30,45,60,90の4つの角度からしかつくることはできなくなる。よって,30,60,90の直角三角形と45,45,90の直角二等辺三角形,さらに,もともとの正三角形の3種類のみとなる。
3) なぜ万華鏡は正三角形か。
それでは,なぜ万華鏡の鏡が正三角形に置かれているのかを考えていく。
以下,子どもたちの意見からまとめる。
正方形,長方形の模様は単調でおもしろくない。
万華鏡は筒に入っているので,その状態を考える。同じ筒に入れるとすると,正三角形が一番模様が大きくなる(外接円)。
同じ材料で最も大きい模様を見ることができる。
のぞき穴をあけると,正三角形の万華鏡は,中央に穴があくが,他の2つは端に穴があるので見にくくなる(内接円)。

4.おわりに
 本教材は,前半は1年「平面図形」,後半は3年「円」の内容を扱う。さらに,三平方の定理を用いると鏡の1辺も求められる。新たな発見を大切にし,モデルなどを用いて子どもの実態に合わせて取り扱っていただければ幸いである。

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