選択教科における数学の授業の創造
−自己課題,自己ペース,自己評価を取り入れて−
北九州市立霧丘中学校
菖蒲 朗
1.生徒が楽しみにしている選択教科
 生徒が自らの意志でやってみたいことに取り組むことができる,それが選択教科といえる。平成7年度から3年間,「選択教科数学の学習に興味を持ちましたか」という質問を行ってきたが,その結果は次のようになっている。
 非常にかなり少 しあまり全 然
平成7年度01360270
平成8年度13236130
平成9年度44322040
(単位は%)
 生徒が選択したからといって生き生きと学習に取り組むとは限らない。しかし,生徒は必修教科にはない選択教科を楽しみにしている。生徒の思いを教師が活かすことによって,その意義を十分に発揮することができる。

2.平成7年度の取り組み−教師が学習内容を設定−
 数学が苦手,不得意なのでそれを克服したい生徒と,数学が好きでもっと追究したい生徒がいると考え,次の2つのコースを開設した。
 数学1:苦手分野を克服しようコース/数と式,数量関係,図形の各分野からやってみたい問題を解く。
 数学2:課題学習に取り組もうコース/おもしろい問題を時間をかけてじっくり追究する。
 この学習に1年間取り組んだ生徒の感想は,次のようなものであった。
 数学1:プリントをするだけだった。面白い問題が解けた。勉強の仕方が自由だった。苦手が克服できた。友だちや先生に質問することができた。
 数学2:数学と無関係。プリントをしただけ。難しい。問題が面白い。なぞなぞみたい。友だちと協力できた。計算以外の数学ができた。
 生徒の希望を教師が予測して学習内容を決めたが,観念的であったため,選択教科に対する関心は低かった。特に,自分が担当した数学2では,準備した課題が生徒の実態に合っていなかった。しかし,
〇勉強の仕方が自由である。
〇友だちや先生に質問しやすい。
〇苦手を克服できた。
〇問題が面白い。
 等という生徒の感想は,必修教科ではなかなか出されることはなく,選択教科を進める上で重要なポイントであると思われる。

3.平成8年度の取り組み−自己学習力の育成をめざす−
 生徒の自己学習力の育成をめざし,自己課題・自己ペース・自己評価を,全教科・全コースで共通の学習方法とした。そして,次のコースを開設し,コースのネーミングも工夫した。
 数学1:数学のびのびコース−私のテストを私が解く−数学を得意にしよう
 数学2:私は解説者コース−紙を切る,張る,折る−紙を使って教科書の内容を確かめよう
 数学3:将来は数学者コース−発見! 自慢大会−課題学習に取り組もう
(1) 生徒の選択の可能性を広げる。
 選択教科のよさは,生徒が自分の好きなものを選択することにある。自分の好きなことだから生き生きと取り組むことができる。数学2・3のコースでは,教師がいくつかの課題を提示し,それを生徒が選択している。また,教師が提示した課題は10問程度である。生徒の活動を活発にするには,教師がある一定の範囲を設定し,その中で思い切り自由に活動させることが重要である。その際,生徒の実態に合うような課題になるように,十分に検討しなければならない。
(2) 生徒の要望で授業を変える。
 数学1では,生徒が問題集を準備して各自やってみたい問題に取り組み,教師は質問に答える等した。しかし,生徒は意欲的には活動していなかった。1学期末の調査で,「テストがしたい」という要望があった。そこで,生徒が勉強したことを自分で確かめることができるように,自分で自分だけのためのテストをつくって解くという活動を,1時間の授業に取り入れるようにした。この方法だと,つくれる問題数は5問程度であるが,勉強したことをすぐにテストするので,その成果がすぐにわかり,勉強したことが身についたという充実感が持てたようである。最初は簡単な問題が全部解けることに満足していた生徒たちも,次第に難しい問題に挑戦するようになった。
(3) 学習の場を広げる。
 友だちどうしでテストを交換して解き合うという活動を取り入れたところ,生徒たちはまたやってみたいという希望を持った。そこで,全員の問題を載せた問題集を作成した。さらに,グループや個人での学習がしやすいように机を動かしたり,廊下で学習したりしてもよいようにした。
 選択教科では生徒が主体的に活動できるように,教師の支援・援助が大きなウェイトを占める。その支援の方法も,やはり生徒の実態から導かれたものでなくては効果は上がらない。

4.平成9年度に向けたコースづくり−生徒の希望でコースをつくる−
 教師が学習内容を決めるのではなく,生徒がやってみたいことを取り入れたコースをつくるため,どのような学習をしたいか希望調査を行った。
 第1回アンケート・・・どんな学習がしたいか,教科にとらわれず自由に記入させる。
 第2回アンケート・・・1回目の集約結果を生徒に見せ,アンケートを行う。
 この結果をもとに次の3つを開設予定コースとした。
・苦手分野も「らくらく」コース
・「折る」「張る」「切る」コース
・どこまでできるかチャレンジコース
 平成9年度に,「苦手分野も『らくらく』コース」を第1希望にした生徒は69名,他を希望した生徒は 9名であった。苦手だからこそ選択して力をつけたいという生徒の希望を生かしながら,教師主導にならない取り組みをどのように行うかが,選択教科の授業をつくる上で重要なポイントを示している。

5.平成9年度の取り組み
(1) 生徒が各自の計画を立て,見通しを持って活動できるようにする。
 授業回数や行事を知らせて生徒に計画を立てさせた。長期的な見通しを持てば学習ペースは生徒自身のものになる。文化祭に作品を展示することや授業見学のときに発表することを予め知ることで,目標を持って学習活動に取り組むことができる。自己ペースをつくるためには,有効な方法であったと思う。
(2) 自己評価表を活用する。
 自分で自分の学習を振り返り評価することは,成長を確認して次への意欲を引き出す活動といえる。そこで,授業の終わり5分を自己評価表に記入する時間とした。関心や意欲を重視するので,「熱中度」として5段階で評価させた。理由や感想等を文章で書かせたので,生徒の実態を知ることができた。また教師は,コメントを書くことでアドバイスをした。さらに,「次回に準備するもの」を記入させることで,次の時間に何をするか生徒自身が自覚できるので,継続的な活動になる。
(3) 学習成果の発表の場をつくる。
 自分のつくった作品や調べたことなど学習の成果を他の人に知ってもらうことは,生徒にとってはうれしいことである。それは,自分の成長を実感するからであろう。また,発表という目標を持つことで,日ごろの活動にも意欲が出るものである。
 <<文化祭>>
 ユニット折り紙による立体を展示した。保護者も見学に訪れ,我が子の力作に驚いた方もいた。家庭との連携といえる。
 <<1・2年生による選択授業の見学>>
 見学にきた1・2年生にも折り紙を折ってもらおうと参加体験型の見学を実施した。折り方を教えるのは3年生である。日ごろの学習の成果を発揮した。また,授業参観も兼ねていて,参観した保護者にも折り紙に挑戦していただいた。
(4) ゲスト・ティーチャーを活用する。
 正方形でなくても円が内接する四辺形であれば折り鶴ができるという記事が新聞に載っていた。自分でも折り方を考えてみたが疑問点が残り,紹介できずにいた。そんな折,地域の折り紙サークルの講師がこの折り鶴をつくられていることを知り,ゲスト・ティーチャーをしていただいた。他の教科でも参加していたが,いずれも専門家の技に引きつけられていた。生徒の興味や関心が広がれば,教師だけでは対応できないことも出てくる。地域の方々に授業に参加していただくことは,今後いっそう活用されることになると思われる。教師も教えるばかりでなく,生徒とともにゲスト・ティーチャーに学ぶ機会をもっと持ちたいものである。

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