1.生徒の実態
平成9年度に公立中学校から附属中学校に赴任し,まだわからないことが多いが,まず,数学に対する生徒の関心を調べてみた。以前勤務していた公立中学校では,約80%の生徒が「数学は苦手」「あまり好きではない」というアンケート結果が毎年出ていた。しかし,本校の生徒はその逆であり,70%以上の生徒が「数学は好き」「得意」であるという調査結果が平成9年度当初の3年へのアンケートからわかった。「好き」と同時に「得意」という生徒の実力は高く,高校の問題を解いている生徒もおり,学年当初から「どうなるのだろうか?」と考えてしまった。だが,授業を始めてみると,どの生徒も私のつたない授業に真剣に取り組んでくれるため,私はその姿勢に驚き,感心をした。
3年担当ということもあって「選択教科の数学」も担当し,週1時間実施することになった。「選択教科」に関しては,平成5年度から自分なりに研究・実践を積んできたので,結構自信を持って取り組むことができると思っていた。しかし,今までの内容で2時間かけていた教材を,1時間もしないうちにほとんどの生徒が何通りもの解答の仕方を考え,解いてしまったことにはまたまた驚かされた。今までの研究をもう一度検討する必要性が出てきたのである。
このような生徒30名(選択数学を履修している生徒)と実施した授業の1部を紹介できればと考えている。
2.教材観
選択数学の授業を実施していく上で,次の点を考慮して教材を検討してきた。
・興味・関心がもて,数学を楽しむことができること
・作業等を通して全員が問題に取り組むことができること
・いろいろなレベルに応じて誰もが問題を解決できること
・より多くのいろいろな数学的考え方を使い,伸ばすことができること
・自分から新しい課題を見つけだすことができること
・補充,深化,発展としての役割をもち,特に発展的な学習をすることが可能なこと
・あることがらを順序立てて考えれば解決できるもの
そして,これらのことがらを全て満足する教材ではなく,少なくとも2〜3があてはまるものを作成していった。その1例が,今回紹介する「音楽は,数学!」である。
3.指導のねらい
音楽という美しいものと数学の中にある美しさとを生徒に少しでも理解してほしい,また,自分たちの生活の至る所に数学が存在していることも知ってほしいためこの課題を考えた。
音楽科の授業の中で,3年の3学期に「創作楽器」を製作することを聞き,「選択数学」で実施する時期も3学期に合わせた。そうすることで,音楽にも数学にも興味・関心を伸ばしてくれるのではと考えたからである。
4.授業の実際(2時間)
<1時間目>
(1) | 音楽の授業等で学習したギターを取り出し,ドレミ・・・が1本の弦だけで音が出ることに気づく。(教師が演奏) |
(2) | 木琴や鉄琴,チャイムのような楽器や下の写真のような民族楽器を生徒に吹かせ,どのような違いで音階を出すことができるのかを考える。 |
|
* | 板の長さや管の長さだけで音階ができているとはいえないものもある。しかし,本校にあった木琴等の楽器を事前に測定してみると,比較的規則性を見つけることができた。 |
(3) | 実際に生徒が楽器を測定してワーク・シート1にまとめ,班(2〜3名)で電卓を使って規則性をまとめ,発表の準備をする。 |
<2時間目>
(1) | 前時にまとめた内容を発表する。 |
* | 他の題材についても,必ず発表したり冊子にまとめていた。 |
(2) | ピタゴラス音階というものがあることを知る。 |
* | ピタゴラスについては,三平方の定理でいろいろと説明をしていたので,興味を持って聞いていたようであった。 |
(3) | ワーク・シート2でピタゴラス音階についてまとめる。 |
5.生徒の反応・感想
音楽科の授業で楽器を製作していることもあり,楽器に関する情報をほしがっている生徒もいたため熱心に取り組んでいた。
平成8年度には前任校で,製作のために自分たちで設計図をかき,実際にピタゴラス音階の規則性で楽器を製作した。それが右の写真である。 このような楽器は玩具店で見つけることができるが,自分で製作したということと数学の授業で形に残るもの・音が出るものができたという喜びに生徒たちは満足している様子であった。 ここで,生徒の感想の一部を紹介したい。 | |
<Aさん>
いちばんびっくりしたのは,楽器についての授業でした。楽器には長さによって音が変わるものがあるのは知っていましたが,規則性があったとは知りませんでした。でも,実際に作ってみると,自分ではきちんと測って作ったつもりなのに,棒でたたいてみると音が違っていて苦労しました。これからも,普段よく見ているものや使っているものに目を向けてみたいと思います。
<Bくん>
学校の授業で数学をしていると,「こんなん,絶対に使わない」というものばかりでした。でも,選択数学の授業では,サンドイッチを作ったり楽器を作ってみたりと,こんなん数学に関係ないと思うようなことが数学になっていて,僕は数学が嫌いでしたが,楽しんでできたことが多かったと思います。
6.指導の成果
2人の感想にもあったように,数学を楽しむことができたということが何よりの成果であると思う。理数系に対する生徒たちの苦手意識からか理科離れということがよく言われている。そのような中で「選択教科」の持つ意味は大変大きく,「選択理科」を履修している生徒も毎回の実験や観察を楽しみにしている様子をうかがうことができた。
このように「選択教科」においては,その教科の持っている本当の意味での学習に取り組むことができるし,そのことが必修の教科の中にも現れているように思う。例えば,次のような例がある。どちらかというと数学があまり得意でなかった生徒が,「選択数学」を学習していくうちに数学的な考え方が少しずつ身についてきたのか,必修の時間での取り組みが学年初めと比べ,目の輝きが違ってきた。そして,苦手だった数学がそうでなくなり,最後には好きな教科の1つに数学が入ってきたのは,うれしい限りであった。
7.今後の課題
「指導の成果」にも書いたように,数学を楽しんでもらうという1つの目標はほぼ達成できたように思う。しかし,私がいつも考えているのは,必修の授業の中で生徒からこのような感想を聞くことができないだろうかということである。選択を履修している生徒からは,「選択のときの先生は,本当に楽しそうに授業をしている」と毎回言われる。そう言われてみれば,生徒が本当に理解して喜ぶような課題をいつも考えているし,私の持ち味を十分に発揮しての「選択数学」の授業づくりを1週間かけて考えている。多分,このホーム・ページを読んでおられる先生方もそうではないかと思う。
「選択教科」が始まった当時,私は「何をしよう」と考えた。それ以降,多くの先生方の研究により数多くの題材が考えられてきているが,現在は,より楽しい授業を目指して,必修の授業の大切さをもっと考える時代になっていると考えている。
|