北九州市 Y教諭 |
本実践では,関数y=ax2を用いて事象をとらえ説明することができるようにすることをねらいとした。
関数y=ax2に関わる事象としては,等加速度運動をしている物体における時間と距離の変化の様子がある。
そこで,体育大会の種目であるリレーにおけるバトンパスの場面を題材に選び実践を行った。バトンパスの場面では,バトンを次の走者に渡すために一定の速さで走ってくる第1走者と,バトンを受けるために走る速さがだんだんと早くなる第2走者の二種類の運動がある。これらの運動を時間と距離の関係で見ると,一次関数と二乗に比例する関数の二つの関数関係とみることができる。つまり,日常の事象の中から二つの数量を取り出し,関数関係を見いだし考察する能力を伸ばすために適した題材だと考えた。また,体育大会のリレーでは,少しでも早く走るために,生徒は走順の工夫やバトンゾーンを有効に活用する作戦をたてレースに臨んでいる。教師(担任)も同様に作戦を立てながら取り組んでいる。この状況をふまえると,生徒の関心も高く,目的意識を持って問題解決に取り組み,数学の有用性を実感できる題材だといえる。
指導計画
第一次「斜面を転がる玉の時間と距離の関係を調べよう」 … 2時間
第二次「伴って変わる二つの数量の変化や対応を調べよう」 … 7時間
第三次「効果的にバトンを渡す方法を説明しよう」 … 3時間
◎ 本事案
学習活動・内容 | 指導上の留意点 | ||
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1 問題を把握する。 | ○体育大会のリレーの様子と北京オリンピックにおける日本代表のリレーの様子を動画で示し,その違いを数名の生徒に発表させ,本時の問題を提示する。 |
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○バトンを渡す人と受ける人が走っているときの時間と距離の関係のデータを示し,2つのデータの特徴を発表させる。 |
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2 第2走者のx秒後のスタート位置からの距離をymとして,第1走者と第2走者の関数関係を調べる。
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○x秒後のスタート位置からの距離をymとしたときの関数関係を見いださせるために,与えられた数値のデータを表やグラフなどを使って2つの数量の変化の様子を調べさせる。 ○関数関係を見いだした理由を明確にするために,変化の割合やグラフの形など生徒が着目した点を学習プリントに記述させておく。 ○2種類の関数関係を学級で共有するため,数名の生徒を指名し,理由と合わせて発表させる。 ○第一走者のグラフの切片は定まっていないことをおさえておく |
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3 効果的にバトンを渡す方法を考える。 |
○効果的にバトンを渡す方法を考えさせるために,放物線のグラフと直線の交点が現実の場面でどのような状況になっているのかを問い,直線のグラフを平行移動させて考えればよいことに気づかせる。 |
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4 効果的にバトンを渡す方法を説明する。
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○放物線と直線の位置関係と,現実の場面の状況を照らし合わせながら説明させる。 ○本時の学習を振り返らせるために,グラフを使って考えたよさを発表させる。 |
本実践では,第1走者と第2走者の運動の時間と距離の関係を調べることを通して,グラフの放物線と直線の位置関係から,効果的にバトンを渡す方法を説明することをねらいとした。
問題を把握する場面では,教科書の落下運動の資料にも使われているフラッシュ写真を用いて,運動の様子を把握しやすいようにして資料の提示を行った。生徒は,この資料をもとに,表やグラフなどに整理して2種類の運動を調べ始めた。【資料2】は第2走者のグラフが放物線になることを説明した記述である。この生徒は,xの値をn倍すれば,yの値はn2倍になるという二乗に比例する関数の表における性質を活用して説明した。また,実際に走る場面では速度には限界があり一定の値になることから比例のグラフになると予想し,第2走者のグラフには変域があることに気づくことができた。
【資料3】は,2種類の運動をグラフに表した記述である。生徒は,第2走者のグラフは比例定数が2の放物線であることを利用してグラフを作成した。そして,第1走者のグラフは傾きが8の直線になることを利用して平行移動させることで,第2走者のグラフに接するときが効果的にバトンを渡すことができると説明している。また,第1走者のグラフから切片を読み取ることで第1走者がスタート位置から8m離れた位置から走り出せばよいことを求めた。説明する場面では,現実の事象ではバトンを渡すときスピードを落としたり,走者のタイミングが合わずぶつかったりすることがあるが,グラフの接点の場面では2人の走者がスピードを落とすことなく,ほんの一瞬のタイミングで効果的にバトンを渡すことができると説明した。
また,その他の解答例として次のようなものがあった。【資料4】は,効果的にバトンを渡す方法を説明した記述である。この生徒は,発展的な内容にはなるが,連立二元二次方程式の考え方を用いて,正確に値を求めることができた。
○生徒は関数で学習した内容を活用して,効果的にバトンを渡す方法を考えることができた。これは,主眼を達成した生徒の割合が89.5%であったことからいえる。
○体育大会のバトンパスの場面を設定することで,生徒が意欲的に取り組み,数学の有用性を実感することができた。
●主眼を達成できなかった生徒は,第1走者のグラフを原点を通る直線としてとらえ,第2走者のグラフをどのように加えればよいかを悩んでいた。問題把握の場面で第2走者を基準に考えることを明確に示すことが必要であったと言える。しかし,啓林館の教科書では,原点を通らない放物線のグラフを扱う課題学習がある。その学習後に実践を行うことで,また違った視点から解決方法を見いだすことができるのではないだろうか。