授業実践記録

筋道を立てて考える力を育てる数学指導

名古屋市立瑞穂ヶ丘中学校
加藤 豊

1.はじめに

課題を把握し,既習事項を想起しながら解決の見通しをもち,順を追って考えていく力を『筋道を立てて考える力』ととらえ,この力を育てたいと考える。筋道を立てて考える力が育った生徒は,新たな問題に出会ったときに,解決が困難でもすぐにあきらめることなく,以前に学習した内容を想起し,粘り強く解決に取り組むことができると考えるからである。そして,習得した知識や技能を使い,筋道立てて考えながら新たな問題を解決していく姿勢は,日常生活においても,過去の経験や反省を基に考えを進め,多くの事柄を克服していくという点で深く結び付くと考える。

そこで,筋道を立てて考える力を育てるためには,公式や解決方法などの単にできあがった数学を知らせるのではなく,数学的活動を通して,数学を学ぶ過程を重視した指導をすることが大切であると考える。「数や図形の性質などを見いだす活動」により,操作や作図などから結果はこうなるだろう(結果の見通し)と考えたり,学び直しの機会を設けることで既習事項を想起し,こうすれば解決できるだろう(解決の見通し)と考えたりしながら,順を追って性質などを見いだしていく。そして,「数学的に説明し伝え合う活動」により,根拠を明確にしながら筋道立てて説明したり,互いに根拠を練り上げたりすることで筋道を立てて考える力が育つと考える。

2.授業実践

(1)単元 第3学年 二次方程式

(2)本時の目標

○多角形の対角線の本数の求め方を導き出すことができる。(数学的な見方や考え方)

○見いだした数量の関係を,二次方程式を利用して解決し,その解決過程を振り返って説明することができる。(知識・理解)

(3)授業の流れ

【数や図形の性質などを見いだす活動】

〈提示問題〉
対角線が35本の多角形は何角形か求めなさい。(提示する際,凸形多角形だけに限ることには触れない。)

S: 七十角形かな。本数が多すぎて分かりません。
T: 例えば五角形の場合,各頂点から対角線をひいて数えてみましょう。
S: 五角形の対角線は,重なりは数えないので,5本でした。
T: いろいろな多角形を作図し,表をつくり,規則性がないか調べてみましょう。(作図)
四角形 五角形 六角形 七角形
頂点の数(個)
1つの頂点からひける対角線の数(本)
対角線の数(本) 14

T:表から気付くことを発表しましょう。

【気付いた規則性】

ア 1つの頂点からひける対角線の数は,頂点の数から3をひいた数である。

イ 対角線の数は,1つの頂点からひける対角線と頂点の数をかけて2で割った数である。

ウ 対角線の数は,3,4,5本… と規則正しく増えている。

T: ウの規則性から,八角形の対角線は何本と考えられそうですか。
S: 七角形の14本に6本たして,20本です。
S: 35本になる多角形も順番に数えていくと求めることができそうです。
T: 本数が増えても,いつでも求めることができるようにするには,どうすればよいですか。
S: n角形について考えればよいです。(課題の把握)
T: 2年生の時に,n角形の内角の和は,どのように求めましたか。(学び直し)
S: n角形の中にできる三角形の個数は,(n−2)個だから,内角の和は,180(n−2)度です。
四角形 五角形 六角形 n角形
三角形の数(個) n−2
内角の和(度) 180×2 180×3 180×4 180(n−2)
T: n角形を考える時には,規則性に従ってnに置き換えればよかったわけです。
T: では,対角線の規則性ア・イを利用して,n角形の対角線の本数をnを使って表し,対角線が35本になる多角形を求めましょう。また,他の方法も考えましょう。
S: 筋道を立てて考える力を育てる数学指導
S: 対角線が35本ならば,重なりも数えると70本になるので,積が70で差が3になる組み合わせを探すと10と7があるから,十角形です。

【数学的に説明し伝え合う活動】

T: グループを作り,解決できた人は,自分の考えを「○○だから△△」の表現で根拠を明確に説明しましょう。そして,最後に全体で発表しましょう。(根拠の練り上げ)
T: 補足として,表の規則性から,対角線の本数をnで表すことはできたのですが,このn角形の対角線の式の意味は分かりますか。
S: 対角線はn個の各頂点から,両隣を含む3個以外の頂点に(n−3)本ひくことができ,すべて重なっているから2で割っていることを表しています。

3.おわりに

〈成果〉

○作図により図形の性質に気付かせたことは,課題を把握させる上で役だった。

○課題を解決させる前に,学び直しの機会を設けたことで,既習事項を想起させることができた。

●根拠を明確に説明しようとする姿勢は育ってきたが,提示問題を解決できたか,できなかったで話し合いをさせるのではなく,多様な解決方法をもつ問題を提示し,自分なりの解決で各自に考えをもたせ,それらを説明し伝え合う活動にしていく必要がある。

参考文献 根本 博 「中学校数学科授業創造の視点と指導細案」明治図書(1993)
松尾 吉陽 「研究紀要 第45号」東京学芸大学附属小金井中学校(2009)
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