千葉県浦安市立富岡中学校 塩谷 壮郎 |
生徒が学んできたことを活用し,進んで発展的な課題に取り組むようになるためには,下記の2点に注意して指導することが大切です。
①自力である程度の問題に取り組めるようになるまで,スモールステップで指導する。
②指導を通して問題を解く上で大切なことに気付かせていく。
下記のような問題は,生徒にとって一見難しそうに見えますが,三角形の面積を決定する“底辺の長さ”と“高さ”に上手く着目できるようになると,誰でもできるようになります。
2年教科書 図形の性質と証明 P124 練習1
右の図で四角形ABCDは平行四辺形で,EF//BDとします。このとき,図の中で△ABEと面積の等しい三角形を全て見つけなさい。
このような課題を授業で積極的に取り上げていく利点は次の2つあります。
①自分の力で解けるようになると,生徒は自信と意欲を持って更なる課題にも取り組んでくれるようになり,理解が一層深まる。
②前提となる既習事項が,三角形の面積を決定する底辺の長さと高さに着目するということだけなので,既習事項の定着に不安がある生徒でも十分に取り組むことができる。
そこで,この問題とその類題を授業時間が20分程度でできるような授業を構成してみました。
指導の際に,指導用のスライド(パワーポイントで作成)と授業用プリントを用いると一層効果的です。
※指導用スライド(PP)についてはこちらをクリックしてください。
※授業用プリント(word)についてはこちらをクリックしてください。
ここでは三角形の面積を決める2つの要素である“底辺の長さ”と“高さ”に焦点を絞ってとらえさせる方法を,指導用コンテンツを用いて指導しました。いきなりこの問題に取り組ませるのは難しいので,既習事項の復習を兼ねてシンプルな図から押さえていきます。
はじめは図1のような三角形を用いて,長さの等しい底辺と高さをきちんと見つけられるようにします。
最初はこれぐらいから始めると苦手な生徒も安心して取り組めます。定着を図るためには,プリントに“△ABM=△ACM”と“なぜ等しいと言えるのか”をきちんと書くように指導することが大切です。
指示や発問 | 生徒の反応 | |
---|---|---|
発問1 | 長さの等しい辺をいいなさい。 | 辺BMと辺CMです。 |
発問2 | 辺BMを底辺とする三角形をいいなさい。 (ここで△ABMの底辺と頂点を強調する。) |
△ABMです。 |
発問3 | △ABMと面積の等しい三角形をいいなさい。 | △ACMです。 |
発問4 | なぜ面積が等しいといえるのですか。 | 底辺と高さが等しいからです。 |
次に図2を用いて,面積の等しい三角形を長さの等しい底辺と高さをきちんと見つけられるように指導します。
この図では“ADとBCの一組の平行線”を押さえます。一方の直線に乗っている辺を底辺とみると,もう一方の辺の上にある頂点がすぐにわかります。この頂点を直線に沿って移動させることにより,面積の等しい三角形を容易に見つけられます。
発問1 | 平行な辺をいいなさい。 | ADとBCです。 |
説明1 | 平行な辺に乗っているところを底辺と考えます。 | |
発問2 | △ABDの底辺をいいなさい。 では,頂点は? |
ADです。 Bです。 |
説明2 | ADと平行な辺,BC上をBが移動します。 | ・・・ |
発問3 | △ABDと面積の等しい三角形をいいなさい。 | △ACDです。 |
ここまでの指導で,おおむね6〜8分というところです。
STEP2で学習した“平行線に沿って頂点を動かす”ことを用いて,教科書の問いに取り組みます。
△ABEと面積の等しい三角形は3つあります。
まずは,AD//BCに着目して1つめの面積の等しい三角形を見つけます。ここまでくれば生徒はほぼ自力で見つけることができるようになっています。
苦手な生徒の様子にも配慮しつつ,テンポ良く取り組むことができます。
指示や発問 | 生徒の反応 | |
---|---|---|
発問1 | 平行な辺をいいなさい。 | ADとBC,ABとDCです。 |
発問2 | △ABEで,底辺はどこですか。 頂点はどこですか。 |
BEです。 頂点はAです。 |
発問3 | △ABEと面積の等しい三角形を探します。 頂点Aはどこまで移動しますか。 |
Dです。 |
発問4 | △ABEと面積が等しい三角形を言いなさい。 | △DBEです。 |
残りについても同様です。 生徒の様子を見て自力解決させても良いと思います。
難しい問いを乗り越えて,一心不乱に類題に取り組むときの生徒の一生懸命な表情は本当に素晴らしいものがあります。
この一連の流れで授業時間は20〜25分位です。1時間使わなくても十分に理解を深めることができますので安心して授業で取り上げることができます。
また,このような指導で大切なことは学習した経過をきちんとノートやプリントに記録することだと思います。図3ように,図を3つ並べたプリントを用意してあげる配慮でずいぶん理解度が違うと思います。
この問いを取り上げることで,基礎をうまく組み合わせることで思考を深め,等積変形全般に対する興味や関心を増すことができました。