授業実践記録

大塚国際美術館で数学をしよう!

徳島県立城ノ内中学校
齋藤 大輔

1.はじめに

本校では夏休みを利用して,希望者による夏期講座を各教科で実施しています。数学科では,昨年から鳴門市にある「大塚国際美術館」を会場に美術と数学の関係に着目し,授業を行っています。1点透視図法や黄金比・白銀比など数学的な考え方や図形を使った技法などがあり,美術的な美しさだけでなく,数学的な視点から絵画を見たときの感動や美しさを生徒たちに感じて欲しく実施しています。

昨年は3年生だけに希望を募り実施しましたが,今年は1年生や2年生にも数学の楽しさや美しさを実感してもらうため希望を取ることにしました。

2.題材について

新学習指導要領の項目にある「数学的活動」には,「既習の数学を基にして,数や図形の性質などを見いだし,発展させる活動・数学的な表現を用いて,根拠を明らかにし筋道立てて説明し伝え合う活動,またその指導にあたっては,数学的活動を楽しめるようにするとともに,数学を学習することの意義や数学の必要性などを実感する機会を設けること。」とあります。今回は,このことについても生徒たちに数学で既習した内容を実感・体感できる場として「大塚国際美術館」での数学の授業を考えてみました。

「大塚国際美術館」には,実物大の絵画を陶板に再現した作品があり,醍醐味を実感することができます。そのなかで,近年社会科ではあまり扱われなくなったルネサンス時代に代表するレオナルド・ダ・ヴィンチ,ミケランジェロ,ラファエッロの3大芸術家の作品も展示されています。絵画の中にもいろいろな数学的な技法が取り入れられているものもあり,芸術的な視点以外に絵画を見ることの楽しさや美しさを実感してほしく,次の題材を考えてみました。

(1)ラファエッロの「アテネの学堂」に描かれている,ピタゴラスとユークリッドが解いている黒板の問題から作成

@ピタゴラス・・・・三角数・四角数・ピタゴラス音階

Aユークリッド・・・星形多角形の内角の和

(2)レオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」「モナ・リザ」「受胎告知」から問題を作成

@「最後の晩餐」から1点透視図法である消失点の場所を確認し,√2〜√5までの長さを作図した図形とを重ね合わせてみる

A黄金比・白銀比の長方形の作図と絵画とを重ね合わせてみる

B黄金三角形・星形五角形の作図と絵画とを重ね合わせてみる

3.題材や指導方法の工夫

(1)・(2)の題材を中心とし,絵画の説明や歴史的背景を大塚国際美術館の学芸員の方から解説をしていただき,その後,数学の課題を出し,解いていくという方法を実施しました。学芸員の方からの話を聞くことで,絵画についての説明を詳しく聞くことは,生徒にとって何より大変興味深いものがあります。

集まった生徒たちには,数学が得意な生徒もいれば,どちらかといえば数学は苦手だけど絵の方に興味があって希望した生徒もいました。そのために計算だけでなく,作図などの作業も取り入れながら,数学にも興味を持たせることができるように工夫してみました。

また,ワークシートで問題や解説が記入できるようにも工夫したり,クリアシートを利用した「数学メガネ」を作成してもらい,絵にかざし,絵の中にある技法を読み取るようにしてみました。数学メガネの作成も絵画の前ですることで,教室では感じることができない,臨場感と,その場所で考えることの重要性を感じさせながら実施しました。また,数学の問題に関しては,1年生から3年生までいるため,既習している内容もあればこれから学習していく内容もあるため,いかに生徒が理解しながら,絵の鑑賞もできるかを考え,ヒントや説明をより簡潔にしていきながら問題を解いていくかを工夫してみました。

4.授業の展開(参加生徒:1年生14名,2年生2名,3年生8名,計24名)

学習内容 指導上の留意点及び工夫した内容

1 場所「システィーナ・ホール」

 

(1)「システィーナ礼拝堂」・「最後の審判」と作者のミケランジェロの説明を学芸員から聞きワークシートにまとめる。

○3の倍数がキリスト教では,重要な意味を持つということを学芸員の方から話をしていただきました。

(2)予言者ヨナの話を聞き,絵に隠された秘密や絵の背景に関することを知る。

○予言者ヨナの説明を手元のスケッチブックで説明する。

※黒板の代わりにスケッチブックに問題を記入したり,説明を記入したりするものを用意した。

2 場所「アテネの学堂」

 

(1)「アテネの学堂」と作者のラファエッロについての説明を学芸員から聞き,ワークシートにまとめる。

 

(2)絵に描かれている「ピタゴラス」「ユークリッド」の説明を教師から聞き,絵の中の黒板の図の略図を描く。

○「ピタゴラス」「ユークリッド」が活躍していた時代とルネサンス時代が混乱しないように時代背景を説明する。

(3)ピタゴラスの黒板にある「三角数」についての説明を聞き,次の問題を解き,「四角数」のことを知る。

○問1の求め方から問3の説明を理解させる。

(4)ピタゴラス数についての説明を聞く。

○三平方の定理はまだ学習していないので,3+4=5になる3つの数の関係を「ピタゴラス数」と言い,直角三角形との関係を説明する。

(5)もう一つピタゴラスが描いている図を理解する。


○ピタゴラス音階の説明をして,弦の長さと音の高さの関係についてまとまる。「ド・ファ・ソ・ド」の音が出る弦の長さの比が「6:8:9:12」であることの説明し,その数値が絵に描かれていることも説明する。

(6)ユークリッドが考えている図についての説明を聞き,星形多角形の内角の和を求める。

(7)白銀比・黄金比,ルート図形と名を付けたもの,黄金比三角形を作図し,クリアシートにマジックで作図を写す。

「数学メガネ」の作成図

○白銀比や黄金比は,用紙の大きさや絵の中に黄金比が使われていることもあることを説明し,作図の方法を伝える。

3 場所「受胎告知」

 

(1)「受胎告知」と作者のダ・ヴィンチについての説明を学芸員から聞き,ワークシートにまとめる。

○この絵の見方には,正面からと横からの見方ができることを生徒に伝えてもらい,この絵がどのような場所に飾られていたかを想像させる。

(2)1点透視図法についての話を教師から聞き,製作した「数学メガネ」を絵にかざし,絵の中にある黄金比等を見つける。

○「数学メガネ」をかざすことによりダ・ヴィンチが1点透視図法を使って絵を描いていたことを想像させる。

4 場所「最後の晩餐」

 

(1)「最後の晩餐」についての説明を学芸員から聞く。

 

5 場所「モナ・リザ」

 

(1)「モナ・リザ」についての説明を学芸員から聞く。

○ダ・ヴィンチは,「ウィトルウィウス的人体図」の絵のように,体の部分を比で表していることを知らせ,顔を描くときにも「口と鼻の下側までの距離は,顔全体の7分の1である。」などのように描かれていることを説明する。そのために,ダ・ヴィンチの描く顔はよく似ていると言われていることも説明する。

(2)「モナ・リザ」に製作した「数学メガネ」をかざし,絵の中にある黄金比等を見つける。

6 ミーティングルームに集まり,今日のまとめをする。

○移動しながらの説明が多かったためにプレゼンを行い,今日学習した内容を振り返りながらまとめさせていく。そして,絵画をいろいろな視点で見ることによって新たな発見等が見えてくることを伝える。

5.生徒の感想

○いつもは絵を見るときに数学とのつながりなど意識しないけど,いろいろなところに注目するとたくさんの数学とのつながりがあってすごいと思いました。特にダ・ヴィンチの絵には,たくさんの数学的なことが組み込まれていて自分でも探して数学とのつながりを見つけてみたいと思いました。また,当時の文化や風習も絵から知ることができて,すごく興味深かったです。これから絵画を見るときは,ただ,見るだけじゃなく数学とのつながりや時代背景のことなどを考えて見ていきたいと思いました。

○有名な画家の絵の中に難しい数学が隠されていて,それを理解することができた時は,とても楽しくなって「もっと知りたい!」という意欲もでてきました。黄金比や白銀比という言葉は,知っていても,詳しい内容を知らなかったり,三角数という言葉,四角数という言葉やその秘密を知ることができ,新しい発見ができた!という意味では,とてもよかったです。

○ここに来たのは2度目ですけど,前に来て見つけられなかった新たな発見があり,とてもよかったです。数学はそんなに好きではないですけど,絵を数学的に見てみるのはおもしろいと思いました。身の周りの物にも様々な図形が含まれていて,何か意味を持っているというように考えると見つけたくもなってきます。これからはいろいろな物にいろいろな方向から見て考えていきたいと思いました。僕が一番好きな画家はモネです。

6.成果と課題

生徒の感想にもあるように,「絵画を見るときは,ただ,見るだけじゃなく数学とのつながりや時代背景のことなどを考えて見ていきたい」とあるように,数学的な視点を持っていろいろなものを見たり,考えたりすることができた内容であったと思います。

大塚国際美術館の方々にもいろいろと協力していただいたおかげで今回の授業ができたと思います。学校の教室では,味わうことができない体験学習を今後数学という教科で,何ができるかを検討していき,数学的活動を楽しめるようにするとともに,数学を学習することの意義や数学の必要性などを実感する機会を設けていきたいと思います。

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