授業実践記録

「証明のもつ一般性」への実感を深める授業例
埼玉県中学校
A 教 諭

1.はじめに

 学習指導要領解説では,証明の必要性と意味及び方法として,次の2つのことをはっきりさせるとしている。

ア) 証明は,命題が例外なしに成り立つことを明らかにする方法であること。
イ) 証明をするためにかかれた図は,すべての代表として示されている図であること。

 このような「証明のもつ一般性」を実感させる課題は難問が多い。仕方のないことである。簡単な課題では,証明の一般性に「すごい」と実感しにくいのである。本稿では,「平行四辺形になる条件」を適用する証明の授業で,「証明のもつ一般性」を実感させようと試みた授業を紹介する。さらに,その授業の中で発生した問題点,その改善案をあげてみることにする。

 

2.本時の授業構想

《前時の課題》  正三角形ABCの内側に点Pをとり,PB,PCをそれぞれ1辺とする正三角形QBP,RPCを,△PBCの外側につくる。このとき四角形AQPRはどんな四角形になりますか。
△PBC≡△QBA≡△RAC
(2辺とその間の角がそれぞれ等しい)

PQ=RA,QA=PR

四角形AQPRは平行四辺形
(2組の向かい合う辺がそれぞれ等しい)

 ここまででは,「証明のもつ一般性」の実感は難しいと考える。

 そこで,点Pを正三角形ABCの外側に動かして考察する。

《本時:Pの位置を動かしてみる》
ACの右側
ABの左側
BCの下側
BCの下側
  Q,Rを上側にとる
同様な証明で,△PBC≡△QBA≡△RAC→四角形AQPRは平行四辺形

 見た目は多様な図に見えるが,「一度証明したことと同じこと」というように認識したとき,「証明の一般性」は,感動をともなって実感できると考える。

 

3.本時の実際(指導案)

(1) 題材名 図形の性質と証明

(2) 指導計画
二等辺三角形 3時間 直角三角形の合同 3時間
平行四辺形の性質 2時間 平行四辺形になる条件 3時間(本時3/3)
長方形,ひし形,正方形 2時間 平行線と面積 2時間
問題 2時間        

(3) 本時のねらい
解決した課題を条件変えして,さらに深く考えることに興味を持って取り組む。(関意態)
新たに証明し直す必要がない場面を的確にとらえることができる。(見考)

(4) 本時の展開
学習活動 学習内容 指導上の留意点
  1 前時の学習の確認    
 
《前時の課題》
 正三角形ABCの内側に点Pをとり,BP,CPをそれぞれ1辺とする正三角形QBP,RPCを,△PBCの外側につくります。

 このとき四角形AQPRはどんな四角形になりますか。

平行四辺形になる
《理由》合同な三角形
〜対応する辺
〜2組の対辺が等しい
 
       
点Pが正三角形ABC内のどの位置でも成り立つことをおさえる。
証明記述と図を照合し確認する。
 
  2 条件変え(発展)の考察    
 
(1) 課題提示「Pを正三角形ABCの外にするとどうか」
   
 
《本時の課題》
 正三角形ABCの外側に点Pをとり,BP,CPをそれぞれ1辺とする正三角形QBP,RPCを,△PBCの外側につくります。

 このときも,前時の結論「四角形AQPRは平行四角形」は保証されているでしょうか。
 
     
作図ツールで点が動く様子を演示する。生徒を指名して操作させてもよい。
 
 
(2) 課題を解決する
   
 
図をかいて見通しを立てる
   
 
図I 図II 図III 図IV
(ACの右側) (ABの左側) (BCの下側) (BCの下側)
図IIIは凹四角形
図I,II,IVでは平行四辺形になっているようだ。
  正三角形を
外側→上側
 
正三角形ABCがかかれているワークシートに点Pをかき込み,図I,図II,図IIIなどを作成させ,△PBC,△RAC,△QABが合同になりそうなことや,平行四辺形になっている様子を確認する。ここでは証明既述にはこだわらず,直観的に確認できればよい。
 
 
根拠を持ちながら筋道立てて確かめる
  合同な三角形〜対応する辺〜正三角形の辺〜2組対辺が等しい
     
         
 
(3) 図の構造を議論する
     
  「なぜ点Pを動かしても平行四辺形になるのか」  
△PBCの各辺を1辺とする「正三角形」であること,正三角形の性質に依拠していることを全体で確認する。
 
 
点Pを動かしても保存される
 
「同じ」 3つの正三角形→等しい辺,60°
   
 
「2辺」は前時証明と同じ,「間の角」を確認
 
図I  ∠PCB=∠RCA=60°+∠ACP
図II  ∠PCB=∠RCA=60°-∠ACP
 
間の角が等しい理由を生徒どうしで説明し伝え合わせる。
 
         
 
(4) △ABC,QBP,RPCが正三角形でなかったらどうなるかを図示して確認する
 
二等辺三角形,正方形などでも成り立つ。「等しい辺」や「等しい角」を根拠に説明がつくことを確認する。
 
         
 
(5) 四角形AQPRが特別な形になるのは,Pがどんな位置のときかを議論する
長方形(∠BAP=150°)
ひし形(PA=PB)
正方形(長方形かつひし形)
   
           
  3 まとめと,さらなる条件変え(発展)の示唆      
 
証明は,同じ条件の全ての図を代表している。(証明の一般性)
長方形,ひし形,正方形は,平行四辺形の一種と見ることができる。
     
           

 

4.実践を終えて(問題点と改善策)

 授業をしてみて感じたこと,研究協議で議論されたこと,指導助言いただいたことをまとめてみる。

 《問題点1》図をかくことが生徒には困難
  1つの図をかくために,正三角形を3つかく必要があり,時間がかかる。
  かかる時間に個人差が大きい。
  正確にかける生徒とかけない生徒がいる。
  正三角形を楽に手早くかかせようと,三角定規の60°の使用を許したが,却って不正確な図になり,誤解やつまずきが生じた。

 《問題点2》4点AQPRが一直線上に並ぶ図をかく生徒,図Vを考える生徒が多かった。
∠PBC=60°になる点Pの位置
 
△ABCの外接円上に点Pをとると,4点AQPRが一直線上に並ぶ。
その付近に点Pをとると,一直線上に見えてしまう。
生徒にかかせると,上記位置に点Pをとることが多い。
結論(四角形AQPRは平行四角形が保存される)が認められないという学習集団の総意になるおそれがある。

 《問題点3》この課題の難易度が高い。
  「平行四辺形になる条件」を適用する証明問題自体難しい。
  ただでさえ難しいこの学習内容を,この課題を通して学習させる必要性はあるのか。

 【改善案】
  ひとつだけ完成図を生徒に与える。
  点Pを動かした図については自分でかかせる。
  正確な図が必須。正三角形は,定規60°などよりも,コンパスを用いた作図の方が速い。
  一直線上に並ぶ図を「特殊」として紹介する。
  「特殊」になる点Pを集めると△ABCの外接円になる状況を紹介する。
    〜3年「円周角の定理」への伏線
  問題点「正三角形ABCの内部(外部)に点P〜」という本稿の展開
     ↓
    別の展開案
    「△ABCがあり,そのAB,BC,CAそれぞれを1辺とする正三角形PAB,QBC,RACをBCの上側に作る」
  「平行四辺形になる条件」を適用する証明の学習としては,もっと平易な課題がよい。「証明の一般性」を実感させる授業の一例としての課題である。年間ないし単元指導計画中の一つの目玉としての授業である。もちろん,別の課題もあり得る。

 

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