授業実践記録

数学の授業を楽しくするパソコンの活用〜『家庭学習用CD-ROM』で授業に連携した学習支援〜
町田市立堺中学校
平野 朗

I.はじめに

 「先生,次回の数学の授業はパソコン教室ですか?」「やったあ!」。数学の授業後の会話である。数学が好き嫌いにかかわらず,本校の生徒はパソコン教室の授業が好きなようである。

 「数学は嫌い」「めんどうだ」「数学嫌いの増加」,そういった記事を読んだり,目の前の生徒が悩んでいると,「何とかしたい(してあげたい)」という気持ちになってしまうのが我々数学教師であろう。数学には,最終的に『条件にあった答えを求める』という特徴がある。また,そのために中学校の学習段階では『計算』という数学特有の解決の道具を使わなければならない。そこが他の教科とは違った特徴であり,計算が苦手な生徒が数学に対して『めんどうな感じ』を受ける部分なのだろう。しかし,そんな生徒もパソコンで自然にトレーニングができて必要な力が付く。そんな教材を作りたいと常に考えてきた。


II.苦手意識は基礎計算力不足から

 数学が苦手な生徒の多くは基礎計算が苦手な場合が多い。しかし,基礎計算力はトレーニングによって向上するものであると考えている。そこで,基礎計算のトレーニングを時に発生する精神的な抵抗を和らげ,トレーニング量を増加させるため,パソコンソフト教材(デジタルコンテンツ)を自作しようと考えた。コンピュータを使用するメリットは,入力された解答の正誤判定の早さと結果の記録を自動的に行うことができることにある。このことによって生徒の学習意欲を高めるとともに,記録された成績データファイルを,個々の学習支援に活用しようと考えた。


III.自作したデジタルコンテンツ

 現在使用している学習支援用コンテンツは,Macromedia(現在はAdobe社) AuthorWareを用いて平成13年に自作したものを,現在の勤務校用に作り替えたものである。このソフトはAppleComputer(Machintosh)用のソフトとして当初開発されたが,現在はWindows環境でも使用が可能である。パワーポイントでプレゼンテーションを作る要領で手軽に教材を作成できるので町田市でも教材開発ツールとして導入し,研修会も開催されてきた。

 完成した学習支援用コンテンツの内容は,小学校の復習をはじめに中学校数学(1年〜3年)の各単元に合わせて作成している。現在も新しいコンテンツを随時追加作成している。


IV.デジタルコンテンツの特徴

 作成したデジタル・コンテンツには,授業の中でできる限り学習効率を高めるため,次のような特徴を持たせている。

1. PC教室でサーバーから一斉に起動して,全員が同じ条件でスタートラインに立ち実施することで,集中力を維持する。
2. 得点は正解で1点プラス,不正解で1点マイナスとなり,常に画面上に得点表示される。また,間違えた場合は,その問題が解けるまで次の問題へは進めないよう設定してある。
3. 出題される問題は,同レベルの問題をコンピュータが選び,自動的にランダムに出題する。生徒は常に隣の生徒と違う問題(同レベル)を解くという設定となっているため,隣の生徒の画面が気にならなくなる。その結果,自分のコンピュータの画面に集中できるというメリットがある。しかし,実際には同レベルの問題であるため,終了と同時に表示される結果を隣の生徒と比べて自己の評価や反省を行うことができる。
4. 解答時間は3分(または5分間)で問題によって異なる設定とした。また,タイムアタック方式により,計算が早くて正確であれば,多くの問題にチャレンジして,高得点を取ることができる。制限時間が終了すると,画面には『終了』と大きな文字で表示され,同時にハイスコアと累積得点などが記録(保存)される。
5. 各問題(章・節)には合格点を設定した。次の問題に進むためにはその得点をクリアしなければ進めない。
6. 自分自身の学習の結果(成績)であるという意識を持たせるために,生徒一人一人にパスワードを設定し,ログイン認証させている。これによって,クラス・番号・氏名や過去の得点情報などがすべて記録されて確認できる。
7. すべての生徒の学習履歴(ハイスコアや累積得点など)を自動的にセンターサーバーに保存し,必要なものは画面表示させているので,苦手な部分の意識付けになるとともに,学習支援の資料として必要なときにいつでも取り出して活用することができる。
8. 授業で使ったコンテンツを自宅でも活用できるよう,学校で学習した問題を家庭学習として復習できるようホームワーク用CD-ROMにパッケージして配布している。合格点が設定してあるため,定められた合格点が取れないと次のタイトルへは進めない。最初はなかなか得点できなかった生徒も,何度も挑戦するうちに,徐々に得点を伸ばすことができるようになっていった。また,問題の難易度を段階的に上げてあるので,生徒は地道に努力すれば合格できるようになっている。苦手意識が強く,点数が取れなかった生徒も,何度も挑戦し,順を追って学習を進めることで,スムーズに合格点が取れるようになっていく。このことで,苦手意識だけだった生徒にも,達成感と学習の積み上げによる意識の変化が見られた。


V.デジタルコンテンツの3つの役割

 学習支援用デジタルコンテンツには下記の3種類の役割(型)を持たせることで,教材としての効果が明確になる。(全日本教育工学研究協議会全国大会岐阜大会1998.11)
コミュニケーション型
   2人一組又はグループに分かれて,出題者や解答者や協力者になりながら学習を進める教材
プレゼンテーション型
   教師の持っているイメージを,スクリーン上にアニメーションや動画などの映像として表示することで,生徒に学習内容を伝える教材
チュートリアル型
   トレーニングの回数を重ねることで,習得と定着の向上を図ることを目的とする教材

 今回,パッケージングしたコンテンツは,多くがチュートリアル型である。チュートリアル型では,生徒は一人一台のコンピュータを使用して基礎力トレーニングを行う。そのメリットは集中的なトレーニング(基礎計算・グラフ・証明・説明など)にある。さらに,ネットワーク対応に改良したことにより,学習履歴(ハイスコア・累積得点など)を先生機から直接確認できるようになった。これにより,個々の生徒に対する学習支援が行いやすくなったことも効果としてあげられる。

 また,授業の中ではプレゼンテーション型が活躍する場面も多い。プレゼンテーション型のメリットは,コンピュータ教室でなくても,プロジェクターとパソコンが1セットあれば十分な効果が期待できるところにある。


VI.アドバイザーとしてのデジタル・コンテンツ

 町田市(東京都)では平成9年にPC教室のLANが3ヶ年計画で順次整備され,先生機を含む41台のクライアント機がLANで繋がれた。そこで,コンテンツもネットワーク対応に改良することとなった。改良の際に最も重視したことは『個に応じた学習支援ができること』である。ネットワークサーバーに保存した学習履歴をコンテンツ自体が活用し,一人一人の生徒の学習の進度に対応した課題を提供することで個に応じた適切なアプローチが可能になる。まだ,システムとして動き始めたばかりなので課題は多いが,そういったコンテンツの働きは生徒一人一人に対しての学習アドバイザーになり得るものである。

 また,生徒に次の目標を十分意識させるために,コンテンツの終了時に学習履歴の記録表を印刷できるようにした【図11】。その結果,生徒はその記録表をファイルし,学習履歴を見ることで次の目標がはっきり意識できるようになり,新たな挑戦に意欲的に取り組むことができるようになった。


VII.家庭学習としてのコンテンツの役割

 授業で使用したコンテンツを自宅でも復習に使えるよう,本校の全生徒を対象に家庭学習用CD-ROMとして配布(貸出)しているCD-ROM配布(貸出)にあたっては,使用環境の違いによって不具合を起こす危険性があることや,ウイルス汚染など注意しなければならないことも多いが,生徒や保護者から「わかるようになった」「もっとやりたい」「親子で燃えました」などの反応も多く,今後もより的確に学習支援ができる判断力を持ったコンテンツを充実させていきたいと考えている。
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