授業実践記録

数学科学習指導案
2年A組 男子11名 女子11名 計22名
標準コース 17名 指導者 福田 達也
基礎コース 5名 指導者 池田 滝夫

1 題材名 平行と合同


2 題材について

 小学校では,二等辺三角形や正三角形の角や辺についての性質,台形,平行四辺形,ひし形の角や辺についての性質,三角形の内角の和が180°であることなどを実験,実測,観察などによって調べてきている。

 第1学年では,小学校で学んできた基本的な図形を対称性の観点からとらえたり,見通しをもって作図したりして,平面図形についての理解を深めている。

 第2学年では,小学校で学習した三角形など多角形の角の大きさについての性質を,論理的に筋道を立てた推論を行って調べることができるようにする。その際,図形をよく観察したり,作図したりする操作や実験を通して,その推論の過程を的確に表現できるようにすることがねらいである。

 本題材は,論証の学習の第一歩として重要だと考える。ここでは,推論の過程を的確に表現することよりも,根拠をもとに演繹的に推論していく楽しさを味わえるようにしたい。

 本時の角度を求める問題は,生徒にとって取り組みやすいと考える。そこで,既習事項や根拠をもとに筋道を立てて考え,説明する機会を多くして,演繹的に推論する学習に慣れさせていきたい。また,問題解決にはいろいろな方法があることを知らせ,考える楽しさを味わえるようにしていきたい。


3 生徒の実態

(1) 少人数指導について

 本校の数学の授業は年間を通して,1年生ではT.Tによる指導,2,3年生では各学級を「標準コース」と「基礎コース」の習熟度別の2コースに分けた少人数指導で取り組んでいる。本校の少人数指導の特色として,学級の生徒数自体が少ないので,「基礎コース」は数学が苦手で個別指導が必要な生徒を対象に,5名前後という少ない人数で実施している。単元の終わりは2コースの進度をそろえ,新しい単元に入るときにコースの希望を取り直し,コースの変更ができるようにしている。ただし,「基礎コース」は人数が多すぎるとその意図に反するので,生徒の希望通りにしない場合もある。逆に「基礎コース」の方が向いているのに選ばない生徒には,教科担任や学級担任がアドバイスをし,適切なコースを本人の意志で選択させるようにしている。教師のコース担当については,年間を通して変更せずに実施している。

 はじめの頃は人間関係だけでコース選択をしていた生徒もいたが,自分の力や苦手分野を理解し,自分の力をもっと伸ばすのに適したコースを選択するようになってきた。

<少人数指導についての意識調査>
 2年生を対象に下記の意識調査を行った。

 数学では他の教科とは違って,1つの学級を「標準コース」と「基礎コース」に分けた少人数授業を行っていますが,これについて「よい点」と「よくない点」を書いてください。

  「標準コース」 「基礎コース」


分からないときに質問しやすい。
いろいろな人の考えが聞ける。
理解できるまで深く学習できる。
発展的な問題や難問に挑戦できる。
考え方のポイントなどを詳しく教えてもらえる。
一人一人しっかり理解できる。
わかりやすく教えてもらえる。
しっかり復習できるし,自分のペースで学習できる。

  「標準コース」 「基礎コース」




基礎コースと進度を合わせるので,ペースが遅い。
宿題の量が違う。
優秀な人が多い中で,自分は劣っているのではないかと不安になる。
人数が多すぎるときは,基礎コースを選んだ意味がない。
たいして苦手でもない人が来るとうるさくなる。
友達と教え合うことがあまりない。

 調査結果より,少人数指導については好意的に受け止めている生徒が多い。また,授業の様子を見ていても,「基礎コース」を選択する生徒が劣等感を抱いているということはない。中には単元によってその都度自分にあったコースを選んでいる生徒もいる。しかし,次の点に留意する必要がある。

 ・ 「標準コース」での個に応じた指導の工夫
 ・ 「基礎コース」で,余裕のある生徒にコース変更を勧めること

(2) 数学の学習についての実態調査(2年生44名)

 1 これまで学習した単元で最も得意な単元
 
正負の数(29%)
連立方程式(20%)
平面図形(17%)
 2 これまで学習した単元で最も苦手な単元
 
1次方程式(20%)
連立方程式(20%)
空間図形(17%)
 3 これまで学習した単元で最もおもしろかった単元
 
空間図形(39%)
連立方程式(22%)
1次関数 (7%)
 4 これまで学習した単元で最もつまらなかった単元
 
式の計算(24%)
正負の数(20%)
1次関数(12%)

 調査結果より、数学の学習では「得意」=「おもしろい」ではないことが伺える。「正負の数」や「式の計算」は得意ではあっても、おもしろくないと感じている。また、「方程式」の解法はおもしろいと感じているが、文章問題は苦手であることがわかる。

 しかし、「空間図形」のようにどちらかといえば抽象的な概念に興味・関心があることから、図形の論証を学んでいく上で意欲の向上につなげたいと考えている。

(3) 図形の学習についての実態調査(2年生44名)

 1 数学の学習で、数や図形の性質について、それが成り立つ理由を考えることが好きですか。
 
「はい」(3%)
どちらかといえば「はい」(43%)
どちらかといえば「いいえ」(43%)
「いいえ」(11%)
 2 三角形の3つの角の和は何度ですか。
 
180°(78%)
360°(15%)
380°(2%)
無答(5%)
 3 2について、どうしてそうなるのですか。
 
そう決まっているから (33%)
3つの角を足したから (20%)
わからない (20%)
(正三角形は)1つの角が60°だから (15%)
分度器で測ってみてそうなったから (5%)
三角定規はそうなっているから (5%)
四角形は360°だから (2%)

 三角形の3つの角の和を忘れている生徒が多いので、論証の学習を通して、より確かな知識となるようにしたい。

4 研修主題との関連

 数学的な表現や処理の仕方を習得し,事象を数理的に考察する能力を育成する指導はどうあればよいか。
−数学的な見方や考え方を深め,数学的な表現や
処理の仕方を習得させる指導はどうあればよいか−

(1) 課題の設定の工夫について

くさび形の角の課題では,次のようなよさを生かして研修主題に迫りたい。
 
平行線の性質や三角形の外角などの基礎・基本事項を生かすことができる。
補助線を引くなどの既習事項をもとに,結果や方法への見通しをもち,主体的に追究することができる。
多様な見方や考え方が引き出され,事象を数学的に考察,処理できる。
連続的に変化させることにより,点Pがどこにあっても ∠x=∠a+∠b+∠c が成り立つことを通して,数学的な見方や考え方のよさを感得することができる。
星形の角の和の問題に発展したとき,くさび形の角の関係を活用して解くことから,数学的な処理の仕方を学んだり,考えることの楽しさを感得したりすることができる。

(2) 指導過程の工夫について

各コースで次のような工夫を取り入れる。
   
<標準コース>
  コンピュータを使って点Pの動く様子を提示し,3つの図を統合的に見ることができるようにし,数学的な処理の仕方を考えさせる。
  既習事項を活用するように促して,生徒が主体的に追究できるようにする。
  班の中での発表の機会を設けて,一人一人の発想や多様な考えを引き出し,それに対する意見や質問なども出しやすい雰囲気をつくる。
  コンピュータで点Pが辺BCの下側にある場合も示し,発展的な学習内容を取り入れる。
     
   
<基礎コース>
  見通しのもてない生徒には,分度器を使って角度を測る操作を取り入れる。
  既習事項をまとめたり,図に示したりして,既習事項の利用を促し,数学的な処理の仕方を考えさせ,生徒が主体的に追究できるようにする。
  少人数のよさを生かして,一人一人のノートを見たり意見を聞いたりする時間を多くもち,個に応じた指導に努める。

5 指導目標

(1) 観察,操作や実験を通して,対頂角の性質,平行線の性質,平行線になる条件について理解し,それらを活用することができる。
(2) 三角形の内角・外角の性質,多角形の内角の和や外角の和について理解し,それらを活用することができる。
(3) 合同な図形の性質,三角形の合同条件について理解し,簡単な場合に三角形の合同条件を利用することができる。

<評価規準>
(本時は下線部分
数学への関心・意欲・態度 数学的な見方や考え方 数学的な表現・処理 数量,図形などについての知識・理解
演繹的な推論の必要性に関心をもち,証明することの意味やよさに気づく。
観察,操作や実験を通して,平行線や角の性質を見いだし,それを確かめようとする。
多角形の内角の和や外角の和に関心をもち,それを三角形の内角の性質をもとにして調べようとする。
三角形のどの辺や角に着目すると2つの三角形が合同になるのかについて関心をもち,それについて調べようとする。
図形の性質を演繹的な推論や類推を用いて,予想したり,考察したりすることができる。
2つの三角形が合同になる条件を調べ,合同条件を見いだすことができる。
平行線の性質,多角形の内角の和や外角の和の求め方を説明することができる。
多角形の角や平行線と角の性質を利用して,角の大きさを求めたり,図形の性質を説明したりすることができる。
三角形の合同条件を用いて,合同な三角形の組に分けることができる。
平行線の性質や多角形の角の性質を理解している。
多角形の角や平行線と角に関する用語の意味を理解している。
三角形の合同条件や,基本的な図形の性質を理解している。


6 指導計画(11時間)

第1次 角と平行線 ・・・・・・・・・・・ 3時間
  第2次 多角形の角 ・・・・・・・・・・・ 5時間(本時5/5)
  第3次 三角形の合同 ・・・・・・・・・・・ 3時間


7 本時の学習

<標準コース>
(1) 目標
  既習事項を活用し,くさび形の角の関係を論理的に説明できる。
    【数学的な見方・考え方】

(2) 展開
○学習活動 ●教師の指導・援助 ※評価 配時
課題を確認する。
 
 同じ直線上にない3点A,B,Cと点Pの4つの点でできる図形について,∠a,∠b,∠c,∠xの間にどのような関係があるか調べよう。
∠x <180° ∠x=180° ∠x >180°
 
CPで点Pを13のように連続的に移動し,3つの図を統合的にとらえさせ,角の変化の様子を確認する。
 
1において∠a=35°∠b=50°∠c=60°として,∠xの大きさをいろいろな方法で求める。
 
(1) (2)
(3) (4)
   
考えた方法を班で発表し合う。
   
平行線の性質や三角形の内角・外角の性質など既習事項を提示し,活用するよう促す。また,説明の書き方よりも,自分のことばで人に説明できることを大切にするよう指示する。
早く出来た生徒には,別の方法で考えるよう指示する。
つまずいている生徒には机間指導を通して,既習事項の確認とそれを活用するための補助線の引き方についてアドバイスをする。
  2点を結ぶ
  辺を延長する
  平行線を引く
補助線を引くことによって既習事項が活用できることに気づいたか。
【数学的な見方・考え方】
(ワークシート,観察)
10
10
 
友達の考えで,納得できないことがあれば質問するよう促す。
既習事項を活用し,論理的に説明できたか。
【数学的な見方・考え方】
(発言,ワークシート,観察)
 
考えた方法を全体で発表する。
   
班ごとに意図的に指名する。
どんな補助線を引き,何を根拠としているのかがわかるように発表することを確認する。
10
1において∠a,∠b,∠c,∠xの間の関係を予想し,確かめる。
   
 
∠x=∠a+∠b+∠c
   
わかりやすい方法で確認するよう指示する。
23についても同様にして,
∠x=∠a+∠b+∠c
の関係が成り立つことを確認する。
   
次時の確認をする。
   
13よりくさび形と四角形の内角の和は,どちらも360°であることを確認する。
点PがBC上にある場合や点PがBCの下側にある場合(ちょうちょ形)をCPで提示し,同じ関係が成り立つかどうか,興味のある者は考えてくるよう指示する。

(3) 視点
 論理的思考力を養うために,班の中で一人一人の生徒が発表できる場面を設定したことは有効であったか。

<基礎コース>
(1) 目標
  くさび形の角の大きさを求めるために,既習事項を活用することができる。
    【数学的な見方・考え方】

(2) 展開
○学習活動 ●教師の指導・援助 ※評価 配時
既習事項を確認する。
2つの直線が平行ならば同位角や錯角は等しい。
三角形の内角の和は180°である。
三角形の1つの外角は,そのとなりにない2つの内角の和に等しい。
一人一人のワークシートを見て,理解しているかどうか確認する。
関連した既習事項を図に示し,視覚的に理解できるようにする。
課題を確認する。
 
 学習したことをもとにして,くさび形の∠xの大きさを求めよう。
課題解決の方法を考える。
どうしていいか分からない生徒には方法を提示する。
分度器で測る。
補助線を引いて考える。
補助線を引いて角度を求める。
 
今までの学習を参考に,補助線の引き方を考えるように促す。
2点を結ぶ
辺を延長する
平行線を引く
補助線を引くことができない生徒には,補助線を提示する。
ACを結ぶ補助線を考えた生徒には,それでも解決できることを知らせるが,別の方法で考えるよう促す。
既習の図形の性質に関するヒントカードを準備し,生徒が自由に使えるようにしておく。
既習事項を活用して角度を求めることができたか。
【数学的な見方・考え方】
(ワークシート,観察)
角度を求めることができた生徒には,別の求め方を考えるよう指示する。
23
考え方を発表する。
既習事項の何を利用したかを明確にして発表することを確認する。
10
課題のくさび形の角度を変えて,∠xの大きさを求める。
∠xと他の3つの角の関係から,∠x=∠a+∠b+∠c になることを確認する。
次時の確認をする。
 

(3) 視点
 既習事項を表した図やヒントカードは,既習事項を活用するのに有効であったか。
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