授業実践記録

基礎・基本の定着と確かな学力の育成を図る数学科学習指導〜第1学年「方程式の利用」〜
福岡県直方市立直方第一中学校
石松 一葉

1.はじめに

 基礎・基本の定着を図り,確かな学力の育成を図っていくには,生徒一人一人が学習内容に興味・関心を持ち,授業に参加しているという自己存在感を味わうことができる数学の授業を創っていくことが大切である。そこで,生徒が学習内容を理解し,わかる・できる・楽しいと感じる授業とは,学習規律が確立しており,集団の中で生徒同士がお互いのよさを認め合い学び合う場面のある授業と考え,生徒の対話による交流活動や発表を大切にする授業づくりに取り組んでいる。

 本校では,平成13年度より少人数授業に取り組んでおり,通常の授業に比べて,生徒の発表(自分の考えを伝える)のチャンスも多く,教師の指導も行き届きやすい環境にある。今回の実践記録は,1年生の「方程式の利用」において習熟度別少人数学習を行ったときのものである。

2.実践内容

(1) 単元の指導観

 「方程式」は,小学校段階で○や△に当てはまる数を考えたことのある生徒にとって,比較的取り組みやすい内容である。しかし,前単元の「文字の式」の理解が不十分な生徒にとっては,文字を使って表されている方程式は苦手意識を持ちやすい単元であるので,導入段階での丁寧な指導が必要と考えられる。

 指導にあたっては,単元の導入段階である「方程式とその解」「等式の性質と方程式」では,具体物を多く使い,具体から抽象への操作活動を繰り返しながら,文字を用いて式をつくることや等式の性質を使った方程式の解法を十分に理解させる。「方程式を解く」段階から,基礎・基本の定着を図るために,一人一人の学習のペースにあわせた習熟度別少人数学習を取り入れる。少人数学習では,前時までの学習確認テストの結果と本人の希望を前提として,習熟度に応じてチャレンジコース(基本)とトライコース(応用)の2コースに分ける。

 チャレンジコース(基本)では,学習プリントを使って,文字の式の定着が不十分な生徒のために「方程式をつくる」過程がわかるように,また,「方程式の解き方」では項を整理して解が求められる過程が見えるように工夫して,生徒の理解の定着を図る。「方程式の利用」段階では,まず具体物から言葉の式をつくり,次に方程式をつくるという丁寧な操作活動によって指導していく。文章を読んで,適当な図や表,言葉の式などで表現させ,思考の過程が残るように学習プリントを工夫する。

 トライコース(応用)では,基本コースの内容を踏まえて指導を行うとともに,自分で方程式の計算問題や文章題をつくって班員どうしで解き合ったりして,理解の幅を広げる手立てを仕組む。また,自分の考え方を班員や全員の前で発表させ,わかりやすい説明や筋道の通った説明の仕方を学ぶ場面を多く作っていく。自分の考え方や説明が認められることによって,数学を学ぶことのおもしろさやもっとやってみたいという意欲を喚起していきたい。

 どちらのコースでも,ペア学習やグループ学習を行う。お互いを認め合い・高め合いながら学習を進めていくように,生徒同士が学び合う学習形態を工夫する。

(2) 指導計画(全11時間)
配時 学習活動 評価規準 評価の方法
 方程式とその解
  方程式とその解の意味,方程式を解くことの意味がわかる。
 
身の回りの事象の中には方程式で表されるものがあることを見いだし,その解の意味を考えることができる。
 
発表
自己評価
レポート
 等式の性質と方程式
  等式の性質を利用して方程式を解くことのよさを理解する。
 
 
  等式の性質を用いた簡単な方程式の解き方を知る。
 
等式の性質や方程式の解に関心をもち,進んでそのよさを調べようとする。
等式の性質を方程式の解き方と結びつけて考えることができる。
 
等式の性質を用いて方程式を解くことができる。
 
発表
演習
自己評価
発表
自己評価
レポート
演習
小テスト
 方程式の解き方
  移項の意味を理解する。
  いろいろな形の一次方程式の解き方を知る。
 
その方程式にあった等式の変形の手順を選び,解法の見通しを持つことができる。
いろいろな方程式を形式的な処理によって解くことができる。
 
発表
演習
 
演習
小テスト
 方程式の利用
  方程式を解く手順を知る。
  方程式を使って実際の問題を解く。
 
 
 
 
  方程式の解が問題に合っているかどうかを吟味する。
 
  方程式を使って問題を解く手順をまとめる。
 
問題解決に必要な方程式をつくる手順に関心を持ち,進んで方程式をつくり問題を解決しようとする。
 
問題を分析し,数量関係を把握することができる。
文字の使用で,文字がどのような数量を表すのか表現することができる。
どのような数量を文字において立式したらよいか判別し,それに基づき数量関係を把握できる。
 
解を吟味することができる。
方程式をたてて解くことのよさを見いだすことができる。
 
発表
自己評価
発表
演習
発表
演習
発表
演習
自己評価
演習
小テスト
発表
レポート



 まとめ
  今までの学習を振り返りながら,文章題の中にある等しい関係を見つけ,方程式を解くことができる。
 
等しい関係を見つけ,方程式をつくり,答えを出すことができる。
 
発表
演習

(3) 本時の指導観

 本時は,この単元のまとめとして,基礎・基本の確実な定着とそれぞれの課題に応じた発展的な学習を,生徒のペースにあわせて進めるために,習熟度別少人数学習を取り入れる。そこで,前時に確認テストを行い,生徒自身に自分の課題はどこにあるかを確認させた上で,それぞれのコースの内容を提示し,チャレンジコース(基本)とトライコース(応用)に分ける。

 チャレンジコース(基本)では,基礎・基本の定着を図るために,事前に自分のつまずきを確認させたうえで,身近な問題から取り組ませる。そこで,より考えやすいように,生徒の生活場面で使われることの多い人数や代金の問題を中心に用意する。そして,生徒が具体的に図や表で表すとともに,それを言葉の式で等式として表せるように指導を行う。特に,等しい関係が見つけられず方程式をつくることができない生徒には,ペア学習を取り入れ,具体物を操作させ,お互いの考えを出し合いながら,文章の中にある2つの等しい事柄を見つけ出させる。計算が苦手な生徒には,個別指導を行い,移項の仕方など機械的操作によって計算できることを身につけさせる。

 トライコース(応用)では,導入段階で基本的な時間・距離・速さの関係について確認する。そして,発展学習として生徒たちの思考を揺さぶるような問題(難しそうだが,これまでの学習を活かせば解けそうだと思われるような問題)に取り組ませたい。本時では,まず池の周りを反対方向に進む問題を与え,図や表に表しながら方程式をつくり解かせる。その後,この問題の条件を変えた問題として,同じ方向に進む問題を提示する。この問題では,出会ったときの差がちょうど一周になることに気づくのが,生徒にとってかなり難しいと考えられる。そこで,班で考えさせ,お互いの考えのよさを出し合い協力して解かせたい。グループで取り組ませることによって互いを認め,数学的な見方や考え方を身につけさせたい。

 両コースとも,まとめとして,自己評価カードで今日の授業の自己評価をさせ,本時の学習を振り返らせる。

(4) 本時のねらい(トライコース)
文章題の中にある等しい関係を見つけ,方程式をつくり解くことができる。
  班員とお互いの考え方のよさを出し合って問題を解くことができる。

(5) 展開(トライコース)
 準備するもの 学習プリント123 自己評価カード4 発表ボード
下記指導案の資料2に関する資料はこちら (資料2ワークシートデータ)
  下記指導案の資料3に関する資料はこちら (資料3ワークシートデータ)


学習活動および内容
指導・助言
評価の観点


これまでの学習を振り返り,本時のめあてを確認する。

 文章の中にある等しい関係を見つけ,方程式を使って解こう。
 班員と協力しながら答えを出そう。

1
これまでの学習を想起させるために,前時に生徒のつくった問題を使って復習をさせる。
問題解決に必要な方程式をつくる手順に関心を持ち,進んで方程式をつくり問題を解決しようとしている。
(関心・意欲)


問題を把握する。
(問題1)
 
個人で考える。
班で交流する。
班で考えをまとめ,全体に向けて発表する。
問題1の条件を変えた問題を解く。
(問題2)
 
個人で考える。
班で交流する。
班で考えをまとめ,全体に向けて発表する。
2

3
まず,個人で考えさせ,次に班で自分の考えを発表させ,お互いの考えを出し合い交流させる。
自分の考え方や解き方を班員に説明させる。必要に応じて表や図を使うように助言する。
考えたことを班でまとめ,発表ボードに書き,班の代表の生徒に発表させる。答えの出ていない班があった場合は,途中まで考えたことを発表させる。
発表の中で,「どこに等しい関係を見つけたか」を必ず言わせるようにする。
40
問題を分析し,数量関係を把握することができる。
(見方・考え方)
問題の中の数量の関係を方程式に表し,方程式を使って問題を解決することができる。
(表現・処理)
   
方程式を利用して問題を解決し,その過程を振り返って考えることができる。
(見方・考え方)


本時のまとめをして,自己評価カードに記入する。
4
学習の感想を自分の言葉で書かせ,授業を振り返らせる。
方程式を使って解くことのよさを見いだすことができる。
(見方・考え方)


(6) 生徒の活動の様子と授業後の感想

 
〈発表ボードを使って説明している様子〉   〈プリント3の解法の説明例〉

〈生徒の感想〉
  自分の考え方を説明するのは難しい。でも,わかってもらえたときはとてもうれしかった。
  追いつく問題の方は難しかったけど,図に書いてみるとわかりやすかった。
  友達と話し合いながら学習を進めていくのは楽しい。解けたときはうれしいし,もっとやってみたいと思う。
  自分のつくった問題が印刷されていてうれしかった。難しい問題にもっとチャレンジしてみたい。

3.成果と課題

〈成果〉
  発表することへの生徒の抵抗感をなくすためには,発表するときの約束(例 わからないときはパスをして次の人に回してもよいが,必ずどこかで発表すること等)を決めておき,数学の時間だけでなく学級の活動等,日頃から発表をする場面を積極的につくっていくことが有効的手立てである。
  班の中で自分の考えを相手に伝える活動(対話による交流活動)を通して,根拠を明らかにし筋道を立てて説明することの難しさと相手が納得したときの満足感を感じることができていた。そのことが,もっと解いてみたいという学習意欲につながり学習効果を高めた。
  学習活動の中で,まず自分で考え,次に班での交流活動を行い,班の考えをまとめたものを発表させる。そのとき,教師は班の中で説明することを苦手としている生徒や自分の力で解決できていない生徒に説明を求めるように仕組み,説明があやふやである場合は班にもう一度差し戻すようにしている。
問題の解けた生徒が,解き方のわからない生徒に説明をすることによって,班での交流活動が深まった。説明をする側の生徒にとって,わかりやすい説明をするためには,中途半端な理解では相手を納得させることは難しいことに気づくことができた。また,説明を聞く側の生徒も,自分自身が発表するためには,いい加減に聞いていては説明できないことに気づき,納得がいくまで頑張る姿が見られた。
〈課題〉
  数学的な表現力を更に伸ばしていくために,よりわかりやすい説明の方法やより良い発表の方法を指導することが必要である。
  生徒が興味・関心を持って取り組める課題の内容や提示の仕方を工夫をしていく必要がある。
前へ 次へ

閉じる