授業実践記録

意欲的に問題解決できる生徒が育つ数学の学習〜基になる考え方の獲得を通して〜
名古屋市立冨士中学校
鈴木 丈二
I. 研究のねらい

 (1) 私の育てたい生徒像

 私は,日々の数学の授業を通して,提示問題の解決が難しそうなときには,生徒自らが「どうすればよいのか」を考え,解決できるようにしたい。さらに,「数値や条件を変えたらどうなるだろう」と発展問題を解決していこうとする生徒を育てたい。

 これを,中学2年生の多角形の内角の和を求める場面を例として考えてみたい。

 (2) 意欲的に問題解決できる生徒が育つ数学の学習の必要性

 今日の社会の変化の激しさからみて今後の社会では,思いがけない場面に出会うことが予想される。そのようなときでも,あきらめることなく意欲的に問題を解決しようとし,さらに他の場面でも活用しようとする態度を身に付けることが望まれる。

 しかし,日常の学習活動を振り返ってみると,次のようである。
   この原因として,次の2点が不足していたと考える。
 問題を解決した後,基になる考え方が何かを明らかにすること。
 明らかにした基になる考え方を活用し,自分のものにすること。
   こうした生徒の実態やこれまでの指導の問題点を踏まえ,意欲的に問題解決できる生徒を育てるためには,次のような段階の設定が必要であると考える。

1) 基になる考え方を発見する段階

 難しそうな提示問題を簡単な数値や条件に変更し,その簡単になった問題を自力解決した後に,自分の解決方法を振り返り,明確にする。そして,簡単な問題の解決方法を用いて,提示問題を解決する。

 その後,解決方法を発表し合う中で,「それぞれの解決方法はどのような考え方を使っているだろう」と考え,「このような問題は,〜すればできそうだ」と表現し,基になる考え方を明らかにする。

2) 基になる考え方を獲得する段階

 提示問題の解決を通して,明らかになった基になる考え方を活用して,発展問題を解決する。その後に,「やっぱり,〜すればできる」と表現することで,発見した基になる考え方が有効であることを再認識し,基になる考え方を自分のものとする。

3) 基本的な学習過程

II. 研究の方法

 実践例 単元 1年 「比例と反比例」(本時 5/14 )

 (1) 実践のねらい

 点と点を結んでできる図形の面積を,座標を利用して求めることができるようにする。

 (2) 指導の流れ
段階 教師の主な働きかけと発問 生徒の主な反応・活動
























































<提示問題>  
どこがどうなればできそうかな。


<簡単な問題の解決>
いきなりこんなのはできないよ。
点がx軸やy軸の上にあればわかりやすいよ。
自分の方法で,解いてみよう。
自分の解決方法をプリントに記入させる。
これならできそうだ。
自分の解決方法を振り返ってみると,どんなことがいえますか。
座標から底辺と高さを調べて面積を求めた。

2つの直角三角形に分けて,それぞれの三角形の面積を求めてからたした。

長方形をつくり,周りの三角形の面積をひいた。
<提示問題の解決>
簡単な問題の解決方法を利用して,提示問題を解決してみよう。

上記の解決方法を参考にして,提示問題に取り組ませる。

自分の解決方法を発表してみよう。
 
<基になる考え方の発見>
 
それぞれの解決方法は,どのような考え方を使っていますか。「このような問題は〜すればできそうだ」という形でまとめてみよう。
このような問題は,台形をつくり,台形の面積から三角形の面積をひいて求められそうだ。

このような問題は,長方形をつくり,長方形の面積から三角形の面積をひいて求められそうだ。













<発展問題の提示>
<発展問題の解決>  
最初の問題を解決した考え方は使えないかな。

この問題で,活用した考え方を「やっぱり,〜すればできる」という形で表してみよう。また,授業を振り返って,感想を書いてみよう。
台形か長方形をつくって,余分な三角形の面積をひくことができるんじゃないかな。

やっぱり,長方形をつくり,長方形の面積から三角形の面積をひいて求めることができる。



 (3) 結果と考察

 簡単な問題の解決方法12では,提示問題が解決できないため,多くの生徒がつまずいた。そのような生徒に対し,「面積の求め方を工夫してみてはどうかな」,さらに,「グラフ用紙を使って考えてみたらどうかな」と補助発問をしたところ,ほとんどの生徒が台形や長方形をつくって,三角形の面積をひいて求める解決方法に気付いた。これは,これらの発問がきっかけとなり,他の解決方法はないかと試行錯誤する中,知っている図形に結び付けて考えようとした結果と考える。

 提示問題を解決し,解決方法を発表し合う中で,他の生徒がどのような考え方をしたのかを振り返らせた。その結果,それぞれの考え方のよさを知ることができ,よりよい解決方法を活用して,発展問題を解決しようとする生徒が増えた。

III. 研究のまとめ

 意欲的に問題解決できる生徒を育てるために,基になる考え方の獲得を目指して,研究を進めてきた。その結果,次のことが明らかになった。

 ○  提示問題の数値や条件を簡単にして問題に取り組ませることは,提示問題を解決するための糸口を発見する上で有効であった。
 ○  提示問題を解決した後に,「それぞれの解決方法はどのような考え方を使っていますか」と,その解決方法を振り返る場面で,「このような問題は〜すればできそうだ」とキーワードを利用して表現させた。これは,基になる考え方を発見させる上で,有効であった。
 ●  発展問題を解決した後に,「やっぱり,〜すればできる」とキーワードを利用して表現させ,基になる考え方を再認識させようとしたが,発見した基になる考え方をただ書き写すだけに終わった。これは,発展問題を解決したものの,基になる考え方を活用し,自分のものとするまでには至らなかったためであると考える。このことから,生徒自らが,条件変更した新たな問題をつくり,提示問題と関連付けながら解決する必要性を感じた。
 今後は,いろいろな単元の中で,基になる考え方をどのように発見させ,獲得させていくか,手だての工夫を追究していきたい。


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