授業実践記録

ダイヤグラムを利用しよう!!
和歌山県中学校数学教諭
1. はじめに

 「生きる力を育む」という指導要領のテーマのもとに,生徒が興味・関心を持って取り組むことの大切さが叫ばれている昨今である。それにしては,数学という教科は好き嫌いがはっきり分かれていたり,与えられた問題を解くだけであったりということで受動的なものとなりがちである。また,問題の中には,生徒にとってピンとこないような設定であるために,日常生活と数学が結びつかないといったことも起こってしまう。
 そこで,問題を視覚的に捉えたり,オープンエンドの問題によって生徒が自ら発見したことを調べるといった活動によって,興味・関心を高められるような課題学習を目指した。

2. 指導のねらい

 現行の教科書には,一次関数で「連立方程式とグラフ」という部分がある。この部分の利用法として,連立方程式を用いてグラフの交点を求めることはある。しかし,連立方程式の問題を解くためにグラフを利用することはほとんどない。生徒の意識としては,連立方程式は計算するものであり,一次関数とは全く異なったものであるという位置づけをしているようである。また,速さ・距離・時間に関する問題を苦手にしている生徒もあり,その関係を上手く整理できない場面が多々存在する。
 そこで,ダイヤグラムを利用することによって,速さ・距離・時間を整理して表せることを理解させたい。さらに,ダイヤグラムの読み取りや,それをもとに立式したり計算したりすることで,様々なことを知ることができることを体験させたい。

3. 授業の実際

【第1時】

●ダイヤグラムを知り,使用方法を理解する。

 ある町では,A駅からB駅まで列車で35分かかるという。7時から9時までの間は,A,Bそれぞれの駅から同時に列車が10分間隔で出発する。A駅を8時ちょうどに出発した列車に乗った人は,B駅から来る列車と何本すれ違うでしょうか。

 この問題は,数学の一般の授業というよりも,選択などの授業で「パズル」として扱われることの方が多い問題である。列車は10分間隔に出発して35分間かかるのだから,すれ違う列車の本数は3本と単純に考えてしまう生徒も多いと思われるが,問題を整理させ,ダイヤグラムに表現することで7本の列車とすれ違うことが視覚的にも捉えられると考えている。(下図参照)
 この問題を足がかりにして,ダイヤグラムの有用性を考えさせ,そこから発展させていきたい。


 弟が,2km離れた駅に向かって家を出発しました。それから10分たって,兄が自転車で同じ道を追いかけました。弟の歩く速さは毎分80m,兄の自転車の速さは毎分240mであるとすると,兄は出発してから何分後に弟に追いつくでしょうか。
 また,弟が家を出てから20分たって,兄が追いかけたとすると,弟が駅に着くまでに,兄は追いつけるでしょうか。

 この問題は,以前の教科書(平成12年度用「新訂数学1年」〈啓林館〉)に載っていた例題とその後の関連した問題を合わせたものである。教科書では参考にする図が下図のような表し方になっているので,時間と距離の関係がとらえにくいと思われる。そこで,ダイヤグラムで表すことで,時間と距離の関係を視覚的にも整理してとらえさせたい。また,これらの活動を通してダイヤグラムの書き方や利用のしかたを深めさせたい。


【第2時】

●ダイヤグラムから様々なことを導き出す。

 太郎君はA駅から3km離れたB駅に向かって毎分50mの速さで歩いて行きました。健太君はB駅から毎分250mの速さで自転車に乗ってA駅に行き,10分休憩したあと同じ速さでB駅まで自転車でもどってきました。今,二人が同時にそれぞれの駅を出発したとして次の問に答えなさい。
 (1) このことをダイヤグラムに表そう。
 (2) ダイヤグラムを見たり計算したりして出来るだけたくさんのわかることを発見して書き出そう。

 最初にダイヤグラムを書くことで,前時の復習をさせたい。また,ダイヤグラムに様々なことを書き入れることで,問題を整理して自分が理解できたことを確認させ,「発見」という形でまとめさせることが目標である。

 <予想される生徒の「発見」>

  ○到着した時間や距離

  ○すれ違う時間や距離

  ○一次関数に表す。

 など。

 <生徒が作成したプリント>

生徒が作成したプリント1

生徒が作成したプリント2

4. 指導の成果と今後の課題

 第1時の「列車のすれ違い」問題は生徒の興味を引いたようで,ほとんどの生徒が前向きに取り組んでいた。そして,その解答手段として,ダイヤグラムの有用性は十分理解させることができたように思う。
 また,ダイヤグラムを利用することにより,距離と時間についての問題を整理して表現できることについては,かなりの生徒が理解できたようである。しかし,もともと関数領域に苦手意識を持っていたり,時間・距離の問題が苦手であるといった生徒は,最初から興味を示さなかったということもあった。グラフや連立方程式という問題に対して苦手意識を持った生徒に対して,どういうふうにアプローチしていくかが今後の課題だと思う。
 第2時で,生徒からは「意外と多くのことを発見できた」「ダイヤグラムを見ることで,何を調べられるかということが予想できた」といった感想を聞くことができた。しかし,生徒によって温度差が大きく,発見した項目が多い生徒では,十数項目に上ったのに対して,ほとんど見つけられなかった生徒も存在した。ただし,この問題(オープンエンド)に対しては,いわゆる数学嫌いの生徒の中にも,興味を持って取り組んだ生徒もあったり,逆に普通の一つの答えを求める問題ではすぐ取り組む生徒が,何もできずに苦しんでいたりと,普段の数学の授業とはかなり様相が変わったものとなった。
 こういう取り組みで数学に対する見方や考え方が変わる生徒が,一人でも増えることを望んでいる。

〈参考文献〉
 平成12年度用「新訂数学1年・2年」(啓林館)


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