授業実践記録

基礎・基本を確実に身に付けさせる二次方程式の指導〜問題解決の授業を通して〜

1. 教材観

 本教材は,中学校数学の数式領域の集大成的な意味合いをもち,因数分解や平方根の利用など既習事項のよさに気付かせることのできる教材である。また,利用においては,具体的な場面や現実的な事象を学習場面に取り入れることにより,数学を用いて身の回りの問題を解決する能力を高めることのできる教材でもある。

2. 生徒の実態

 上述したように,二次方程式は身の回りの問題の解決に活用でき,数学の有用さを感じさせることのできる教材であるが,生活の中で活用しようという意識をもった生徒は少ない。その一因として,問題処理の仕方を覚えればよいと考えている生徒が多く,最後まで考え抜く態度や日常生活の問題解決に数学を生かそうとする態度が身に付いていないことが挙げられる。二次方程式においては,形式的に解を求めることができればよいという考えであり,
2+2−15 = 0 は解けるが,(−3)(+5) = 0 になると「わからない」「見当がつかない」となってしまう生徒も見受けられる。機械的な式の変形の仕方だけを習得させるのでなく,「なぜ」や「どうして」を大事にし,問題の解決過程を重視した指導を行う必要を感じる。
 そこで,本校では「問題解決の授業」を行い,生徒の思考の流れを大切にした指導を行った。

3. 問題解決の授業とは?

 「問題解決の授業」とは,問題を提示することから授業を始め,その問題の解決過程で,新たに知識や技能,数学的な見方や考え方などを身に付けさせていく学習指導である。教師が一方的に教え込むのではなく,問題に対して生徒が主体的に取り組むことを大事にしながら学習指導を展開していく。
 授業の流れの基本は下記の通りであり,それぞれの過程で生徒の中に「 」のような気持ちが生じることをねらっている。

〈授業の流れの基本〉



 この授業の流れの基本において,「問題」と「課題」は,それぞれ次のように位置づけられる。

問題……考えるきっかけを与える問い(教師が与えるもの)
※生徒:「今日は,どんな問題だろう」
課題……「問題」の解決過程で生じた疑問や明らかにすべき事項(生徒がもつもの)
※生徒:「考えてみよう」「やってみよう」

4. 指導のねらい

「2次方程式の解き方」の指導計画(6時間扱い)
授業の目標 問  題 課  題
1
二次方程式の意味,及び解の意味を理解する。
因数分解による二次方程式の解き方に気付く。
長さ20mのロープを使って,面積24m2の長方形の花だんをつくるとき,縦の長さを求めなさい。 (10−) = 24をどのように変形すると,
= 4, = 6
が求められるだろう。
2
因数分解による二次方程式の解き方を理解し,問題を解くことができる。
太郎君は,二次方程式を次のように解こうとしています。
  2+2−15 = 0
  (−3)(+5) = 0
   = −3, = 5
太郎君の解き方は正しいですか。
ab = 0のとき,どんなことがいえるだろう。
3
複雑な形(右辺が0でない)の二次方程式の解き方がわかり,問題を解くことができる。
次郎君は,二次方程式を次のように解こうとしています。
  2 = 3
  両辺をで割って
   = 3
次郎君の解き方は正しいですか。
2 = 3をどのように変形するとよいだろう。
4
平方根を利用した二次方程式の解き方に気付く。
a2b = 0 の形の二次方程式が解ける。
1辺が3mの正方形の土地がある。縦,横を同じだけ延ばして面積を2倍にしたい。どれだけ延ばせばよいだろうか。 (3+)2 = 18をどのように変形すると,
= 3−3が導けるだろう。
5
(p)2 = q の形の二次方程式が解ける。
二次方程式を,因数分解・平方根のどちらの方法で解けばよいか適切に判断して解く。
二次方程式 (−1)2−4 = 0をいろいろな方法で解きなさい。

二次方程式(+3)2−5 = 0を解きなさい。
因数分解でも解ける
(−1)2 = 4と,平方根でしか解けない(+3)2 = 5の違い(見分け方)は何だろう。
6
因数分解できない二次方程式から完全平方式をつくって解く。
二次方程式
2+6−1 = 0を解きなさい。
二次方程式
2+6−1 = 0を式変形すると,次のようになった。
(+□)2 = △
□,△に当てはまる数を求めよう。

5. 授業の実際

の表で示した6時間のうち,第1時と第4時の授業の様子を以下に述べる。

(1) 第1時
学習内容と学習活動 生徒の反応
1.問題を理解し,解き方を考える。

[問題]
 
長さ20mのロープを使って,面積24m2の長方形の花だんをつくるとき,縦の長さを求めなさい。
1)予想する。
4m  ・6m
2)「表」による解き方について考える。
縦の長さ1234567
横の長さ9876543
面  積9162124252421

縦の長さは4m,6m
3)「式」による解き方について考える。
縦の長さをmとおくと,
横の長さは(10−)m なので,

式は (10−) = 24
2.課題をつかみ,解決する。

[課題]
 
(10−) = 24をどのように変形すると, = 4, = 6が求められるだろう。
 
式の変形を考える。
102 = 24
2−10+24 = 0

1)「10と24」と「4と6」のつながりについて考える。
左辺を因数分解すると4と6が求められる。
 (−4)(−6) = 0
2) = 4,6のとき式の値が0となること,またそれ以外の値では0とならないことを確認する。
(残りの時間は,問題演習)
 

(2) 第4時
学習内容と学習活動 生徒の反応
1.問題を理解し,解き方を考える。

[問題]
 
 1辺が3mの正方形の土地がある。縦,横を同じだけ延ばして,面積を2倍にしたい。
 どれだけ延ばせばよいだろうか。
1)予想する。
3m  ・2m
1.5m  ・−3 (m) など
2)自分の考えを進めていく。
〈式をつくって考える〉

 延ばす長さをmとすると,

 1:(3+)2 = 18
 2:2+6+9 = 18
 3:2+6−9 = 0

 因数分解できない!?

〈図で考える〉

 面積が18m2の正方形の
 1辺の長さは = 3m
 のばす長さは 3−3(m)
3)ここまでの内容をまとめる。
式は1〜3の3つできたが,因数分解はできない。
解は,図で求めると3−3となり,式に代入すると成り立つ。
2.課題をつかみ,解決する。

[課題]
 
式(1〜3)をどのように変形すると, = 3−3 が求められるだろう。
1)どの式が求めやすいか考える。
は,18の平方根として求められたから,1の式だろう。
2)平方根を利用すればよいことに気付く。
1の式の両辺の平方根を考えるとよさそうだ。
3)解き方を整理し,まとめる。
 

〈板書例〉


6. 指導の成果

 次の2点を挙げることができる。

 (1) 学習意欲が高まる。
生徒の思考の流れに沿った授業展開を心掛けた結果,課題を「与えられた課題」でなく「自分の課題」としてとらえるようになり,学習意欲が高まった。

 (2) 考え方の追究を促す。
問題に対する自分たちの予想を掘り下げていくことで,「おや?」「どうなっているのだろう?」という意識をもつようになり,主体的な問題解決がなされていた。そして,授業のポイントが,生徒の口から出る授業となった。

[参考資料](年度末に行ったアンケートの一部)

 ○数学の授業が楽しいと答えた生徒は,前年の79%から89%に増加した。


 ○数学の授業で勉強したことは生活の中で役に立つことがあると答えた生徒は,前年の50%から64%に増加した。


7. 今後の課題

 次の2点が重要な課題である。

 (1) よりよい問題の作成
授業の最初に教師が与える問題によって,授業の充実度は大きく左右される。生徒自らが考えようとし,多様な見方や考え方が出される授業,そして,指導の目標が達成される授業を目指して,よりよい問題開発に努める必要がある。

 (2) 生徒の反応を生かした発問・支援につながる発問の工夫
問題解決の授業は,問題の解決過程を重視する。生徒の反応(発言やつぶやき,ノートの内容)を大切にした発問・支援につながる発問を工夫し,学習指導を展開していく必要がある。

〈参考文献〉
 ・「問題解決の授業」に生きる「問題」集(相馬 一彦 編著, 明治図書)


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