課題学習数学の指導
サッカーボールを作ろう!
北海道苫小牧市立勇払中学校
星野 和明
1. はじめに

 「子どもの基礎学力の低下」は,もはや目をつぶっていてはならない事実である。ニュースを目にするときには,信じたくないと思いがちになるが,現場にいるものとして,深刻な問題となっている。掛け算の九九を理解していないもの,10までの整数の分解に難色を示すもの,基本的な図形の名称を理解していないものなど,どれをとってみても,「そこまで教えなくてはならないのか?」と日々頭を抱えている。
 今の子どもにとって,経験する時間が圧倒的に少ないのではないだろうか。これは,授業時数に限らず,長さを測ったり,はさみで紙を切ったり,組み立てたり,壊したりという「手を動かす経験」が少なく思えてしかたがない。原因はさまざまだろうが,経験不足の子どもにどのように教育を施していくべきか。それが教育現場に求められる重点課題の一つであろう。

2. 授業の実際

 (1)  指導のねらい

 図形の分野は,計算が苦手な子どもにとって,一見取り組みやすいと思われる。しかし,前述の通り,手を動かす経験が少なければ,どのように扱っていいかわからないのが本当のところだろう。
 そこで,正多面体を紹介したときの反応の良さを思い出し,「サッカーボールを作る」ことで,計測,補助線の記入,作図,組み立てといった経験をつませようと思い立った。
 正三角形をかくこと,立体の展開図をかくこと,正多面体についての知識を深めることをねらいとして,次のような授業を実施した。

 (2)  授業計画

 [テーマ] 「サッカーボールを作ろう」〈全2時間〉
 [実施学年]  2学年(教科書の内容が全部終わり,復習の時間で行った)
 〈1時間目〉 正多面体とサッカーボール
 〈2時間目〉 サッカーボールを作ろう!

指導の流れ 学習内容 備考
正多面体についての復習
正多面体について復習する。

・定義  ・5種類しかないこととその覚え方
・面の数  ・面の形  ・辺の数  ・頂点の数
など
模型を見せながら復習させた。
正多面体の作成
展開図をもとに,5種類の正多面体を作る。
展開図は教師側で用意した。
図形としてのサッカーボールについて説明
図形としてのサッカーボールについて知る。

正多面体ではないが,合同な図形で作られる空間図形であることを強調する。
面の形はどのような図形か。
→正六角形と正五角形
 
先断二十面体の紹介
先断二十面体という名称についての説明を聞く。

立体の名称をもとにして,どの正多面体をヒントにして作れそうかどうかを考える。
いろいろな名称があるが,大体,頂点を切って作られるという意味があるらしい。
展開図の作成
正二十面体の展開図を作成する。

定規とコンパスを使った正三角形の作図
各辺を3分の1にする。
より効率的なかき方
方眼ますのない厚紙を与える。
組み立て
展開図を組み立てる。
たとえずれてもそのまま作らせる。
希望者には複数枚与える。

[用意するもの(生徒用)]
 三角定規,コンパス,カッター,はさみ,セロハンテープ

 (3)  教材について

 正多面体については指導内容から削除されたが,世の中に5種類しかないということが,生徒にしてみれば,単純ではあるが神秘的な魅力を持つ。「時数が余っているなら,計算練習よりも手を動かしたい」という希望に添える絶好の教材として取り上げた。さらに,この立体が組み立てられたときの感動にも自信があり,ぜひ扱ってみたいテーマの一つであった。また,ワールドカップイヤーだったことも後押ししてくれた。

 (4)  生徒の反応

模型や展開図が与えられれば,非常に素直に反応を示してくれた。最も苦労した点は,作図の仕方である。正二十面体の展開図は,正三角形が20個あればできる。しかし,正三角形をかくことができない。コンパスを使って円を描くことはできるが,等しい長さを測る道具として使えない。


正三角形の一つの内角が60°であることを知っていても,三角定規の中に60°があることを知っていても,正三角形を作図することができない。


また,作り方がわかっても,辺を延長してコンパスで長さを区切れずに,一から作る生徒も多かった。単純作業を繰り返しても,できることはできるので,間違えということではないが,より簡単な方法を見つけることができないようである。



生徒にとって,試行錯誤を繰り返しながら取り組むというのは,面倒なことだろうと考えていたが,かきやすい方法に出会うことで,「もっときれいにかきたい」と強く思うようである。多くの生徒が,やり直したり,新しい紙にかき直したりしていた。

授業では,あらかじめ展開図の完成したものを提示していたため,自分の手で完成できたものには,達成感があったようである。

正二十面体の展開図ができ上がったところで,頂点を区切るが,各切り口を合同な正五角形とするためには,各辺を三等分すればできることは,比較的容易に気がついてくれた。
しかし,組み立てることで各点に集まっていた辺が5つになることは,組み立ててはじめて気づく生徒も多かった。

完成品を見て,生徒たちには一様に感激していた。立体としての美しさと,サッカーボールという身近な立体を自分たちの手で作ることができたことがうれしかったようだ。


3. 成果と課題

 ・ 手を動かす作業を通して,作図や立体の組み立ての経験をつむことが十分にできたと考えられる。計算が得意で,応用問題もすらすら解いてしまう生徒が,コンパスと三角定規をうまく使えなかったり,より簡単な方法があることを教師に指摘されたりして,悔しい表情を浮かべていた。「でも,入試じゃ使わないんでしょ?」などと憎まれ口をたたく子もいたのだが…。

 ・ 今回の方法では,正五角形は穴となって立体に現れてしまう。正五角形を作図させることも考えたが,難しいので扱わなかった。数学の奥深さを匂わせる形で授業を終えた。

 ・ 失敗した生徒,何度もやり直した生徒,あきらめてしまった生徒など,一人一人の反応は実に多様であった。しかし,授業が終わったあとに,「今回の授業は楽しかった。」と感想を述べてくれた子がたくさんいて,ほっとした。

 ・ 手を動かすことを目標に取り組ませてみたが,この2時間で,子どもたちは多くの経験をつんだに違いない。知識を生かす能力が大切なことを実感させられたと思う。

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