課題学習数学の指導
生活の中の数学
京都府船井郡和知町立和知中学校
平井 浩一
1.単元設定の理由

 3年生の1月となると,教科書の内容もほとんど終わり,受験に向けての復習が中心となる。しかし,受験に向けての復習の繰り返しだけでは,面白味に欠ける授業となる。そこで,数年前から教科書の指導が終わったあとで,教科書には直接出てこない内容を数時間取り入れることにしている。また,2年前から文部科学省の学力向上フロンティアスクールの指定を受けたことをきっかけとして,本校でも,少人数授業が始まった。本校での少人数授業の形態は,単元ごとにアンケートを実施して生徒選択による習熟度別授業を進めており,本単元の内容はBコースの生徒を中心に進めた。この時間を通して,生活の中に数学の考え方がいろいろと利用されていることや数学の便利さ,有用性などを理解し,数学の必要性や興味・関心を深められるように指導していきたいと考えている。

2.単元の目標

【数学への関心・意欲・態度】
 ○日常生活の事象について関心を持ち,数学を利用してその問題解決を図ろうとする。

【数学的な見方や考え方】
 ○具体的な問題事象を,様々な視点から考えることができる。

【数学的な表現・処理】
 ○既習の学習内容を利用して,面積や長さ,また,場合の数などを求めることができる。

【数量,図形などについての知識・理解】
 ○面積の公式など既習の学習内容を理解することができる。

3.単元指導計画(全3時間)

指導内容学習活動指導上の留意点評 価




タイルの敷き詰め

周の長さが同じ正多角形の面積
1種類の正多角形のタイルで敷き詰める。

同じ周の長さを持つ図形の面積を求める。
正確な証明は教師のほうで行う。

三平方の定理がうまく利用できるようにする。




平面図形の面積を求めることができる。
〈表・処〉











マンホールのふた

円以外のマンホールのふた
マンホールのふたがなぜ丸いかを考える。

円以外の図形について考える。
対角線の長さを三平方の定理を利用して求めさせる。

ルーローの三角形について説明する。




図形の対角線の長さを求めることができる。
〈表・処〉








ウサギの数

シールの貼り方

フィボナッチ数列
ある条件下でウサギがどのように増えていくかを考える。

長方形のシールの貼り方が何通りあるか考える。
重複したり,数をとばしたりすることがないように工夫させる。

フィボナッチ数列について説明する。



ウサギの数やシールの貼り方が何通りあるかを数えることができる。
〈表・処〉






4.本時の展開

●第1次

指導
内容
主な学習活動指導上の留意点教材・
教具等



課題
把握
本時からの学習の目的・内容を知る。
 
ワークシート1:三平方の定理 64KB





正三角形,正方形,正六角形の色紙
問題
平面を1種類の正多角形のタイルで敷き詰めたい。どんな形のタイルが使えるか。





使えるタイルの形を発表する。



タイルが3種類の図形しかない理由を考える。
答えが正三角形,正方形,正六角形であることがわかった生徒には,なぜ3種類しかないかを考えさせる。

次のヒントを提示する。
・正n角形の1つの内角の大きさを求める。
・1つの頂点(360°)に注目

きちんとした証明(特に因数分解)は中学校の学習範囲を超えているので,教師から説明をする。
《証明》
正n角形のタイルa枚を敷き詰めるとする。
正n角形の内角の和は180°×(n−2)より,正n角形の1つの内角の大きさは,
 180°×(n−2)/n
となるから,次の等式が成り立つ。
 180°×(n−2)/n × a = 360°
これを整理すると
 an−2a−2n =0
 an−2a−2n+4 =4
左辺を因数分解すると
 (a−2)(n−2)=4
a,nは自然数より,(a,n)=(6,3),(4,4),(3,6)
したがって,n=3,4,6となり,正三角形,正方形,正六角形となる。

○結論1をまとめる。

[結論1]
平面を1種類の正多角形で敷き詰めるのなら,正三角形,正方形,正六角形の3種類しかない。
問題
長さが24cmの針金で,正三角形,正方形,正六角形,正八角形,円を作る。それぞれの面積を求めなさい。
針金

直角三角形の辺の比,面積の公式をまとめたカード
5種類の平面図形の面積を求める。



それぞれの面積の求め方を黒板で説明する。

平方根を近似値で表し,最大の面積を求める。
個別指導しながら,生徒の状況に応じて次のようなヒントを提示する。
・直角三角形を探す。
・辺の比が1:2:√3の直角三角形を利用する。

5つの図形のうち,最低3つの図形の面積は求められるように助言する。

電卓を利用して面積の近似値を求める。
《正三角形》

 1辺の長さ:8cm
 面積:16√3≒27.7cm2

《正方形》

 1辺の長さ=6cm
 面積=36 cm2

《正六角形》

 1辺の長さ=4cm
 面積=24√3≒41.6 cm2

《正八角形》

 1辺の長さ=3cm
 面積=18+18√2≒43.5 cm2

《円》

 半径=12/πcm
 面積=π×(12/π)2≒45.8 cm2

○結論2をまとめる。

[結論2]
同じ周の長さを持つ正多角形は,辺の数が多いほど,面積は大きくなり,円が最大の面積となる。また逆さに,同じ面積を持つ正多角形は,辺の数が多いほど周の長さは短い。




まとめ ○結論3をまとめる。

[結論3]
1種類のタイルで平面を敷き詰める場合,その形を正六角形とするのが,空間利用,タイル同士の結合部分に必要となる接着剤の経済性という両面から考えて,もっとも合理的な図形である。








蜂の巣の写真

自己点検カード
自然界の中で,正六角形になっているものを探す。

本時の自己点検を行う。
蜂の巣が正六角形になっていることを[結論3]を利用して説明する。


●第2次

指導
内容
主な学習活動指導上の留意点教材・
教具等



課題
把握
マンホールのふたはどうして丸いのか,その理由を考えよう。

ワークシート2:三平方の定理(マンホール)48KB
円の特徴を思い出しながら,なぜ丸いのかを考える。
いろいろな考えを引き出せるようにする。






問題
長方形,正三角形,正方形,正六角形のふたでは,ふたが落ちるかを計算で確かめよう。
ふたと穴の模型




穴の最大の長さとふたの最小の大きさを求める。
個別指導をしながら,生徒の状況に応じてヒントを提示する。
《2辺が2,3cmの長方形》

 穴の最大の長さ:d√13cm
 ふたの最小の長さ:d = 2cm

《1辺が3cmの正方形の場合》

 穴の最大の長さ:d = 3√2cm
 ふたの最小の長さ:d = 3cm

《1辺が4cmの正三角形の場合》

 穴の最大の長さ:d = 4cm
 ふたの最小の長さ:d = 2√3cm

《1辺が4cmの正六角形の場合》

 穴の最大の長さ:d = 8cm
 ふたの最小の長さ:d = 4√3cm

以上より,d>d となる。
[結論]をまとめる。
実際に,厚紙で模型を作り,ふたが穴に触れることなく,通り抜けてしまうことを確かめる。
[結 論]
長方形,正方形,正三角形,正六角形のふたでは,穴に落ちてしまう。
問題
円以外に,穴に落ちないふたの形を考えよう。
 
友達と相談しながら,自由な発想で考える。

コンパスを利用するように助言を与える。

ルーローの三角形について説明する。
《ルーローの三角形》
 
Webページを利用して,ルーローの三角形のシミュレーションを行う。




 
本日のまとめをする。

本時の自己点検を行う。
ロータリーエンジンについても軽く触れる。


自己点検カード

●第3次

指導
内容
主な学習活動指導上の留意点教材・
教具等



課題
把握
本時の学習の目的・内容を知る。
 
三平方の定理(数列)38KB
問題1
1対の子ウサギがいる。次の条件でウサギが増えていくとすると,1ヶ月後,2ヶ月後,3ヶ月後,・・・・・には全体で何対のウサギになっているかを求めなさい。
<条件>1.子ウサギは1ヶ月たつと,親ウサギになる。
2.その後,1ヶ月後に1対の子ウサギを必ず生む。
3.どのウサギも死なない。
図を描いて数えていく。

黒板で答え合わせを行う。
最初,問題の意味が分からない生徒には次のヒントを提示する。

1ヶ月後,2ヶ月後の様子を図示する。






問題
2辺の長さが1cm,2cmの長方形のシールがたくさんある。これらのシールを縦2cm,横ncmの長方形の台紙全面に,重ならず,すき間が出来ないように貼っていく。n=1,2,3,・・・のとき,シールの異なる張り方は何通りあるか求めなさい。





























説明用拡大図
n=1から,順に数えていく。

それぞれの場合の数を黒板で説明する。
できるだけ,数え間違いがないよう順序よく数えられるように工夫をさせる。


○本日の数列をまとめる。

フィボナッチ数列
(その項)=(2つ前の項)+(1つ前の項)・・・・・・・(*)
深化
学習
(*)が成り立つ理由を考える。
問題2を利用して考えさせる。

説明用の図の色の違いに注目させる。

したがって,
 (n=4の場合)=(n=2の場合)+(n=3の場合)
となる。




まとめ
本時の自己点検を行う。
ひまわりの種の写真,松ぼっくりの写真,枝分かれの写真等を準備しておき,自然界の中にあるフィボナッチ数列について紹介する。


自己点検カード

5.生徒の感想

蜂がこんなことを考えて,巣を作っているとは思わなかった。・・・・・
マンホールのふたはどんな形でもいいのではないかと思っていたが,実際には落ちてしまうので,落ちない形を考える人間はすごいと思った。
ルーローの三角形は全く思いつかなかったし,三角形のように見えるのに,高さが変わらず板を上に乗せて回してみても,ボコボコしないのにはビックリした。
今までとは違う数学の授業で楽しかった。生活の中にいろいろ数学が使われていることが分かったけど,使うのは難しいと思った。
蜂の巣も,いろいろな面から考えてみるととてもすごいと思った。
身の回りのことに数学が応用されているとは,ビックリした。
今回の授業を通して,いろいろな発見ができて,ともて楽しかった。『蜂の巣』の話が一番楽しかったし,驚きました。
今までに教科書で習ってきたことで,思いもよらない証明ができて,納得もできたし,『数学』って結構すごいなあと思った。

6.終わりに

  「単元設定の理由」で述べたように,本校では,「平成14・15・16年度 文部科学省指定 学力向上フロンティアスクール」として,数学科を中心に研究を進めている。その研究の柱の1つに,『生徒の理解を深める適切な教材・教具の開発』を設定し,教材・教具の開発に努力を積み重ねている。本指導案もその研究の一端で,数年前までは,断続的に指導してきたものを今回整理し,連続的に授業を行ったものである。
 生徒の感想にもあるように,ほとんどの生徒が,今回の授業を楽しんで,また意欲的に取り組むことが出来たようである。第1次で,タイルの形が3種類しかないことを証明して見せた時や,第2次で,正三角形のふたでは,落ちてしまうことを計算で求めたりしたときには,生徒から歓声と拍手が起こった。やはり,教科書だけではなく,生徒の学力実態に応じて時には,やや発展的な内容に取り組むことにより,生徒の意欲の向上につながることが確認できた。生徒が興味を持つような教材を意欲的に探していかなければならないことを痛切に感じた。
 しかし,限られた授業時数の中では,教科書以外のことを指導することはなかなか厳しいものがあり,また,生徒の実態に応じた適切な教材・教具を開発していくこともなかなか難しものがある。けれども,今後も出来るだけ,課題学習的な内容も取り入れながら,少しでも数学の好きな生徒を増やしていきたいと考えている。なお,本校の研究の様子は,本校のホームページで公開していく予定である。
[和知中学校ホームページURL http://academic3.plala.or.jp/wachijhs/

〈参考文献〉
 ・スクール21 RANK UP講座
 ・平成15年度京都府公立高等学校 学力検査問題


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