山口県中学校数学教諭 |
生徒は,第1学年の図形領域で空間図形の平面上への表現方法として見取図や展開図について学習する。そこでは,展開図,見取図の有用性を理解し,立体を分析するために必要な空間認識を身に付けることになる。しかし,切迫した時間数の中での単元指導計画においては,立方体の展開図が全部で11種類であることを見つけだす活動まではできない場合が多い。 厚紙でつくった正方形(1辺10cm程度)を6枚用意し,裏面にマグネットを付けておく。黒板に立方体の展開図になるように並べて貼らせる。展開図であるかどうかは,6枚の正方形の接触部分をテープで借り止めしておいて実際に組み立ててみる。このような活動を数回繰り返すことで立方体の展開図が幾つか出来上がる。 しかし,このような活動だけでは,「立方体の展開図は全部で何種類あるか」という課題を解決することは難しい。「もうこれ以上はない」という実感を得るには,整理しながら網羅する必要がある。例えば,生徒は下図のうち,1-4-1型と分類されている展開図,とりわけEの展開図を最初に見つけるケースが多い。数学が苦手な生徒には,黒板の前で実際に操作活動させればよいが,数学が得意な生徒には,「4つの正方形が並び,その上下に(場合によっては左右に)正方形が並んでいる展開図を1-4-1型と名付けることにしよう!」と投げかける。展開図を網羅して書き並べるためには,「同じ性質を持つ展開図をグループ化する」だとか「合同である展開図は同じ展開図とする」だとか「ある視点において順番に並べる」といった整理をすることが必要であることを体験させるためである。生徒は,具体的な操作活動から離れ,念頭操作だけで1-4-1型の下の正方形を移動させて展開図の可能性を探り,次に上の正方形を移動させていく。 1-4-1型が網羅できたら,次に6枚を3列に並べる他の方法を探る。3列に並べる可能性のうち,1-3-2型や2-2-2型には展開図が存在するが,2-1-3型や1-2-3型や4-1-1型には展開図が存在しない。 このことを確認するためには,展開図の6枚の正方形のうち,立方体の向かい合う面(平行な位置関係にある面)の3組の存在の仕方を分析する必要がある。向かい合う2つの面は展開図では2種類の存在の仕方になっていることが,1-4-1型から確認できる。一つは,▲や●のように直線的な1つ飛ばした位置にある関係で存在する場合で,もう一つは,◆のように右と左に1回ずつ90度折れた位置にある関係で存在する場合である。こうした位置関係が3組存在しない限り立方体の展開図に成り得ない。このことを確認すれば,様々な型を見つけては,各自で展開図に成るかを検証でき,「もうこれ以上はない」という結論に到達することができる。 『立方体の展開図は全部で11種類である。』 こうした学習経験を生かせるようにするために,【課題2】では,縦・横・高さの3辺の長さが異なるもっとも一般的な直方体の展開図を全部見つけだすことにする。
取り扱うのは,辺の比が1:2:3の右図のような直方体である。「この直方体の展開図を全て見つけだそう。」という課題を提示した直後に,「全部で何個ぐらい展開図があると思うか」という問いに対して,半数の生徒が,3辺の長さが違うことで展開図の面の配置に規制が多くなり,その結果,立方体の展開図より少ないと考えた。逆に3辺の長さが違うことで展開図の面の種類が増え,その結果,立方体の展開図より多いと考えた生徒も半数いた。 こうした,不確かな予想を確認する意味からも,「有限個の事象の網羅」の学習課題に対する生徒たちの興味・関心は高い。 まず,生徒一人一人に8×12マスの方眼用紙がたくさん印刷してあるプリントを配布し,方眼用紙1つ1つに辺の比が1:2:3の直方体の展開図をかかせる。出来上がった展開図が記入されている方眼用紙を切り抜き,数人の生徒が持ち寄って,重複や種類の確認作業を行う。 この活動では「合同である展開図は同じ展開図とする」といった,立方体の展開図の学習経験を生かすことになる。また,同時に,「グループ化」や「順番の視点の発見」といった活動に発展させ,新たな展開図の可能性や網羅に必要な方法について考えさせたい。 立方体の展開図が辺の比1:1の正方形6枚から構成されるのに対して,課題となっている直方体の展開図は,辺の比1:2の長方形2枚,1:3の長方形2枚,2:3の長方形2枚の計6枚で構成される。数学が苦手な生徒のために,立方体のときと同様に,この6枚を厚紙で作り,黒板の上で並べてみて考えられるようにしておく。一方,念頭操作で展開図の網羅を考える際には, 立方体の展開図の区別の視点であった「面の配置」だけではなく,「3種類の面の並び方」といった視点についても考慮に入れる必要がある。 実際,種類分けの活動において,「直方体の展開図における6つの面の配置は,立方体の展開図A〜Kの型以外には存在しない」として活動する生徒と,3種類の面のそれぞれ2種類の向きの存在に着目する生徒がいる。ここで,展開図に使われる6つの面に名前を付けさせて整理する。 この6つの面を例えば,立方体の展開図の1−4−1型Eにあてはめて考えていく。1−4−1型Eの4つの面が並んでいる列の左端の面に,直方体の場合は,6つの面が使われる可能性がある。 網羅につながる各自や各グループのもつアイデアを紹介し合い検証し合う活動からは,立方体の展開図11種類を手がかりに順に見つけだす方法を用いようとする発想が多く出てくると思われる。したがって,このように立方体の展開図うち1種類を例に整理する活動を仕組めば,多くの生徒が網羅のために必要なマトリックスの構造について見通しを持つようになる。
立方体の展開図11種類を手がかりに直方体の展開図を網羅する活動を進めていくと,直方体の3種類の面の並び方が存在することから,A〜Kのそれぞれにつき6つの展開図が可能であることに行き着く。しかし,立方体の展開図のうち「点対称な図形」という特徴をもつ4種類(表の中では赤字で表示)については,直方体の展開図に重複が発生し,そのことにより結果として3つの展開図しかできない。この事実が,分担作業といった学習形態や,類推といった思考活動の中で見逃される可能性もあるので特に留意し,網羅の作業の最後に検討する発問を用意する。 『一般的な直方体の展開図は54種類である』 |