放物線をさがそう
京都府 中学校数学教諭
はじめに

 近年,若者の理数離れが進んでいるといわれている。IEA(国際教育到達度評価学会)が行った国際数学・理科教育調査では,日本の中学生は,数学の問題の平均得点は高いが,数学への興味・関心が低いことを示している。
 このような状況を鑑み,「課題学習」を通して生徒たちに少しでも数学のおもしろさや実用性などを知らせることができれば,と考えている。

1.研究のねらい

 あらためて課題学習のねらいと課題のとらえ方を次のように設定する。

  (1) 課題学習のねらい
生徒の主体的な学習を促し,数学的な見方や考え方の育成を図る。
主体的に取り組む態度の育成を重視し,数学的活動の楽しさを味わえるようにする。
数学のおもしろさや実用性を感じ,問題解決能力を伸ばすことができるようにする。

  (2)

 「課題」のとらえ方
意欲的な追求を継続することができる課題
一人一人の生徒がそれぞれの方法で結果を見通せる課題
解決のために多様な数学的な見方や考え方が発揮されるような課題
その問題の解決にとどまらず,更に一般化が可能な課題
「よさ」を感得することができる課題

2.研究の実際

  ◎指導のねらい
 私たちの身の回りにはいろいろな曲線があるので,既習の直角双曲線や放物線に関連させて,身近にある曲線の型を調べさせる。そして,関数が非常に身近な存在であることを実感させ,関数的な見方や考え方を体得させる。

  ◎

学習過程
<導入>
身の回りにはどんな曲線があるだろうか。

身の回りで見つけた曲線について発表する。
斜めに投げ上げたボールの運動曲線
噴水の描く曲線
体育館の屋根の曲線
懐中電灯の曲線
(雑誌の掲載写真で見つけてコピーしたものなど)
写真で曲線の部分だけを実測し,放物線になっているかどうか,式に表せるかどうか等,確かめたことも発表する。


投げ上げたボールの運動
(マルチストロボ写真)



課題として与え,放物線らしいと思うものを写真に撮ってきたり,雑誌に掲載されている写真の中から探したりする。
興味・関心を持ち,意欲的に取り組むことができたか。


写真を拡大コピーして実測しやすいようにしておく。
見つけた曲線が,どんな線(放物線,双曲線など)の仲間に入るのかを調べる。


放物線の特徴を見つけやすいように2次関数のグラフを2つ用意する。
調べる方法を各班工夫して発表する。
写真にトレーシングペーパーをあてて,曲線の部分を写し取ってから調べる。
写し取った曲線に座標軸をあて,座標点を調べる。
トレーシングペーパーを曲線の左右を重ねるように折り,重なるかどうかを調べる。
もし放物線ならどのようにして見分けるか,その方法を考え発表する。
見分ける方法を考えつかない場合は,特徴を1つ1つ押さえる。特に放物線は互いに相似であることを簡単に説明する。
発表をもとに,調べる方法を決める。
左右対称(線対称)かどうかを調べる。
線対称だけでは放物線とはいえない。線対称の軸をy軸とし,y軸と曲線との交点を原点としてx軸を決め,座標を使って調べる。

[調べ方]曲線上にいくつかの点をとってそれぞれの座標を読み取り,y=ax2の式にあてはめて比例定数の値を比べる。
 
<展開>
調べる方法を確認する。
調べる曲線上に複数の点をとって,それぞれの座標を読み取り,放物線の式にあてはめ,比例定数の値を比べる。
ほぼ等しければ放物線とみなす。


誤差はあるが,ほぼ等しい値になることで放物線と見なす。
各グループごとに,身の回りのいろんな曲線を探してきて調べ,発表する。
意欲的に解決していくことができたか。

3.生徒の感想

 「身の回りにどんな放物線があるのかを調べるときが楽しかった。」

 「楽しんで授業できたからよかった。」

 「数学を身近に考えることができるようになった。」

 これは,振り返りの段階でとったアンケートの生徒の感想の一部であるが,これらの感想からもわかるように,今回の課題学習の成果として,生徒の数学的な見方や考え方が深まり,興味・関心が高まり,楽しく学習する生徒が増えたことなどがあげられる。

 解決の過程で,わずかながらでも数学の有用性を感じ取る感想を生徒が持つことができたことは,教師にとって大きな喜びであった。

4.指導の成果と今後の課題

  [成果]
  ○日常の授業に消極的だった生徒が,意欲的に取り組んでいた。
  ○発表形式を取り入れることにより,自分の意見を自由に出すことができるようになった。また他の生徒の意見を聞くことにより,自分の考えと比較することができ,学習内容を深めることができた。
  ○発問の仕方で生徒の表情が変わることが実感できた。
  ○研究のまとめや発表会に多くの時間を要し,充実した研究ができた。

  

[課題]
  ○年間指導計画に課題学習を位置づけても,実際には課題学習を行う余裕がない。3年では全体的に時間の余裕がない。
  ○評価計画を教師自身が持ち,どの観点で評価するのかを明確にしておきたい。評価をデータとして蓄積していくとともに指導に生かす。

≪参考・引用文献≫
 「中学校指導書 数学編」文部省
 「中学校数学科 課題学習・選択学習の事例集」根本 博編,明治図書
 「中学生のための自由研究」誠文堂新光社

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