選択数学あれこれ〜選択数学の実践集〜
山口県防府市立K中学校
数学科有志
1.はじめに
 新学習指導要領の完全実施に伴い,本校の選択教科のあり方も大きく変わった。教育課程においては,2年生週1時間,3年生週3時間を選択教科の時間とし,両学年とも週1時間は,基礎・基本の徹底を目的として国語,数学,英語の中から選択するようにしている。しかも各教科課題別に数コースを設定し,自分にあったコースを自己選択するようにしている。各コースとも教師は2名配置され(1名は他教科の教員である),ティームティーチングで授業を行い,より多くの生徒に個別指導ができる体制をとっている。
 3年生の残り2時間は連続で授業を行い,発展的な学習を目的として,技能教科も含めてコースを設定している。
 これまでの選択数学は,教科書がないということもあって,受け持った教師が負担に感じることが多かった。しかし今は,時間数と担当する教師の増加に伴い,授業の内容も数学科全員で考えるようになってきた。ここに紹介するものは,その過程で集まった本校数学教師の教材の寄せ集めにすぎないが,これを見られた方々の一助になればと思い紹介させていただく。

2.論理的な思考力の育成をねらった教材
〜「情報を工夫して整理しよう」〜論理パズルに挑戦!〜
 数学的な考え方を育てる教材の一つとして,「論理パズル」というものがある。幾つかの条件をもとに,論理を組み立てながら答を導き出すという問題である。ここでは表にまとめる考え方を紹介しているが,2時間続きの授業のような場合,課題を与えたあと,生徒がどのような考え方をするかゆっくりと待つのもよいと思う。
 ここでは,実際に授業で用いた2つの課題を紹介する。その他の問題は,参考図書に紹介されている。

【課題1】
 ある画廊の壁に右のようにかけられている6つの抽象画は,どれもそっくりですが,タイトルは異なっています。
 A〜Fのそれぞれの画のタイトルは何でしょう。

  (1) 『アイスクリーム』は上の段にあります。

  (2)

 『風船』と『月』は同じ段にあります。

  (3)

 『風船』はDではなく,『アイスクリーム』より左寄りにあります。

  (4)

 『月』は右端の列,『メロン』は中央の列にあります。

  (5)

 『金貨』は『地球』より右寄りにあります。

<考え方>
 表にまとめて整理する。各条件から,あり得ないところを表中に×で示すと,次のようになる。

 備 考
アイス× (3)  ×(1)(3)× (1)× (1) 
風船  × (3)× (3) × (3)同じ段 (2)
× (4)× (4) × (4)× (4) 
地球  × (5)  × (5) 
メロン× (4) × (4)× (4) × (4)  
金貨× (5)  × (5)    

 これにより,Aは風船でしかあり得ないことが分かる。後は,場所とタイトルが1対1対応であることから,必然的に決まってくる。後で振り返って確かめたり,途中で修正を加えながら解いていくためには,こうした表に整理していくのがもっとも有効であろう。

【課題2】
 A,B,C,Dの4人の生徒ががクリスマス会をして,プレゼント交換を行った。
4人は,時計,ハンカチ,帽子,セーターのうちいずれか異なる1つのものをそれぞれ持ち寄り,互いに交換した。そのとき,自分の持ってきたものをもらった人はいなかった。
 次のことがわかっているとき,誰が何をもってきて,何を持って帰ったかを明らかにしなさい。

  (1) Aは,Dの持ってきた時計をもらってはいない。

  (2)

 Cのもらった帽子を持ってきたのはAでない。

  (3)

 Dはセーターをもらってはいない。

 問題の条件から,表にまとめて整理すると,次のようになる。

 時 計ハンカチ帽 子 セーター
持きたもらう持きたもらう持きたもらう持きたもらう
× (1)× (1)  × (2)× (2)  
× (1)  × (2)  
× (1)× (2) × (2)× (2)○ (2) × (2)
○ (1)× (1)× (1) × (1)× (2)× (1)× (3)

 この結果から,★の部分が確定することになる。後は,人,持ってきたもの,もらったものがそれぞれ1対1対1で対応していることから,自動的に決まってくる。
 この課題を解決するには,こうした機能的な表を作って整理できるかどうかがポイントである。

<生徒の反応・感想>
 授業では,【課題1】と【課題2】に取り組む姿勢に変化が見られた生徒が大変多かった。
 まず,【課題1】では,表をつくって考える生徒はごくわずかであり,多くの生徒は,手がかりの多いところを何か(例えば,Bはアイスクリームだ)と仮定して他の条件に合うように調整をしていき,うまくいけばそれが解であり,矛盾が生じればはじめの仮定を変えてみるといったやり方をしていた。あるいは,右のような図を書いて,可能性を消去していくやり方をしていた。また,何のメモもなく,頭の中でのシュミレーションだけで解を得ていた生徒もいた。
 こうした様々な取り組みを【課題1】を解決していく過程で紹介していくと,多くの生徒が表をつくり,消去していくやり方の機能性に気がついたようである。
【課題2】に取り組む際には,はじめから表を書き出す生徒が多く見られた。しかし,【課題2】は表にも工夫が必要である。最後にその工夫を紹介し,論理的な考え方や,分析の仕方,機能的な処理の方法についてまとめた。
 この授業を行った後,生徒にアンケートを行った結果を簡単に紹介する。
課題について
 【課題1】では「ヒントを聞いてできた」,または「答えを聞くまで分からなかった」と答えた生徒が22%いるのだが,そのうちの76%(全体では13%)が,【課題2】は「自分でできた」と答えていた。【課題2】の方がかなり難易度が高いと思われるが,こうした好転がみられたのは,【課題1】での学習が生きていたのではないかと思われる。
大切だと感じた考え方や工夫,感想から
 ここでは,様々な感想があげられていた。一部を紹介したい。
頭を柔らかくして,いろいろな面から考えるのが大切だと感じた。
1つ1つの条件を,もらさず使い切ること。
論理パズルは,ヒントを理解する国語力も必要だと思った。
表を書いて,消去法で考えていくとすごくわかりやすくなった。
よく考えて,頭を使って問題を解いて楽しかった。
【課題1】の問題は苦労したけど,【課題2】の問題は表を使ったので割と簡単に解けた。
はじめは解きにくかったけど,2回目はコツがつかめてけっこう早く解けて面白かった。
もっと難しいやつをやってみたい。今日は,自分の力で全部できたのがうれしかった。
今日の授業は頭を柔らかくしないと解けませんでした。解けたときは,すごい充実感や達成感がありました。

 中学校数学における数学的な見方・考え方は,2,3年の論証をはじめとし,様々な課題を解決する上で不可欠かつ重要なものであるが,生徒たちにとっては最も苦手とするところでもある。少しでも楽しく生徒たちが学べるよう,こうした教材を授業に積極的に取り入れながら,論理的な思考力・判断力を伸ばすことが必要なのではないだろうか。

〈参考図書〉『論理パズル』(小野田 博一著,中経出版株式会社)
東京アカデミー編 オープンセサミシリーズ(6)「一般知能」


3.方程式〈等式の性質と方程式〉の説明教具
 方程式の学習にあたって,まず等式の性質を具体化するために《てんびん》がよく使われる。しかし,理科で使用する《てんびん》は,提示用としては小さすぎる,精密であるが故落ち着くまでに時間がかかる,理科の授業との兼ね合いに注意が必要であるなど幾つかの欠点がある。
 そこで,最近はやりの100円ショップで手に入るものと日用品の組み合わせで安く簡単に作れる《てんびん》の作り方と,それを使った授業例を紹介したい。

用意する物
ハンガー,壁掛け用のプランター(2個),フック(2個),ビー玉(数個),箱,袋


作り方
箱にビー玉を適量入れ,これを「X」とする。
袋にビー玉を2,3個ずつ入れる。
(袋1つを単位量と考える。)
ハンガーの両端にフックを取り付け,そのフックにプランターを付ける。
ハンガーを黒板などに掛けて出来上がり。


授業例
目的:てんびんの「つりあう」という仕組みを使って,「等式の性質」を学習する。
1) 黒板にてんびんを設置する。
2) てんびんが両方空の状態で,右と左が等しくつり合っている。この状態を「等式」とし,右側を「右辺」,左側を「左辺」に見立てる。
3) 左側に,「X」の青い箱とおもり袋を2つ入れる。左だけ重くなり傾く。
4) 右側におもり袋をつり合うまで入れていく。つり合った時,生徒に合図してもらうようにすると,生徒の注目度もアップする。このときは,おもり袋6つでつり合うようにビー玉を設定している。
5) てんびんによって具体化された等式を作る。ここでは,『X+2=6』である。
6) 「X」を求めるため,左側からおもり袋を2つ取る。当然てんびんは傾く。
7) つり合う状態に戻すためには,右側からもおもり袋を2つ取ることに生徒は気づく。
8) この操作を式に表すと,両辺から2を引くという解き方につながる。


指導の成果
 この教具は,自前で準備したがお金もかからず,あまり準備も必要なく手軽にできたヒット作だと自画自賛している。実際の授業でも,本物のてんびんのように揺れることもなく,適度に正確であり扱いやすかった。生徒も,変わった物を持ち出したことで興味を示し,見ていてわかりやすかったと感想を述べてくれた。

4.一筆書き
 「ケーニヒスベルグの橋」という話をもとに,一筆書きに挑戦する授業である。有名な問題であり,これを解決したオイラーについての話も盛り込めば数学史への足がかりにもなる教材である。一筆書きは,遊びとして誰でも一度は経験があると思われるので,身近な教材とも言える。

【課題1】
 「ケーニヒスベルグの橋」
 この町の7つの橋を全て渡って元の位置の戻りたい。ただし,同じ橋を2度渡らずに行くことができるだろうか。


 考えるにあたり,問題を抽象化して,右の図のように点と線だけにし,一筆書きができればよいことを伝える。
 しばらく生徒に考えさせると,「先生これ本当にできるの?」といった声が漏れてくる。そこで,次の課題を与える。

【課題2】
 つぎの一筆書きをやってみよう。


 この例題を通して,「どこから始めてもできる」「ある所から始めるとできる」「できない」の3種類に分けられることに生徒は気づき始める。
 さらに,交点に着目させていくと,そこから出ている線の本数に注目する生徒が現れる。ある程度の時間を与えれば,下の表のような性質を発見することができる。

分  類例題番号特  徴
どこから始めてもできる1,2,3偶点のみ
ある所から始めるとできる4,5,6奇点が2個
できない7,8,9奇点が4個以上

 偶点は,始点・終点・通過点のいずれにもなりうるので,いくつあっても一筆書きが可能である。
 奇点は,始点か終点にしかならない点なので,2個の場合いずれかの奇点から始めれば,もう一つの起点を終点にすることで,一筆書きが可能になる。よって,奇点が4個以上になれば,一筆書きは不可能になる。
 「ケーニヒスベルグの橋」は奇点が4個あるので,不可能だということが分かる。

〈参考図書〉『実験数学のすすめ』
(銀林 浩著,国土社)
〈参考図書〉数学指導ハンドブック第3集課題学習
(山口県中学校数学教育会)

5.おわりに
 学校の現場は忙しくなってきている。そんな中で教材研究を個人で進めて行くには限界があると思う。教師間のコミュニケーションを大切にし,お互いの知恵を共有し合う必要性を強く感じる。
 そんな時代だからこそ,このような場で,全国の先生方と情報を共有できることはすばらしいことだと思う。我々の拙い紹介がどこかで役に立ち,そして,これからも多くの先生方からのお知恵をいただけるよう祈念している。

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