1.指導のねらい
昨年度,補充的な内容で選択数学を実施することとなり,何を補充しようかと考えた。そこで,内容理解ではなく,《数学的な見方や考え方》の視点から学習を試みることにした。その理由は,日常の必修数学の時間では進度の関係もあり,内容理解に力点を置いた学習活動になりがちなので,抑制のない選択学習の時間において,数学的な考え方を育成する具体的な内容,方法を実践することによって,生徒の数学に対する見方や取り組む姿勢,態度が変わることをねらいたいと考えたのである。 |
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2.学習の内容
希望調査を実施したところ,生徒からも数学的な思考をもっと広げたい,幅広い発想を育てたい,ひらめきを養いより簡単な方法で解けるようにしたい等,考え方を中心にした学習をしたいという要望もあり,次のようなステップで学習を進めることにした。
○ | いろいろな《数学的な考え方》(主として方法に関する考え方に視点をあてて)が含まれている例題の学習を行う。 |
○ | 生徒の実態から,補充すべき《数学的な考え方》を焦点化した問題解決的な学習を行う。そのために,「数式編」「関数編」「図形編」と3つのジャンルに分けた学習課題を整備していく。 |
○ | 生徒が選択した単元の中から学習を進め,さらには各自が見い出した課題について追究していく。 |
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3.教材観
「図形編」として,生徒に(原題)として提示したものは,論証問題としてはよく知られているポピュラーなものである。特殊なものから一般的なものへと進展していくように課題を提示した。二等辺三角形をベースに,またそれだけに限定して,
PQ+PR=(一定)
となるための本質的な条件は何かということを追究させたいと考えた。その学習過程の中で,(原題)からの【特殊化】【類推】【帰納】【一般化】などの《数学的な見方・考え方》を使って問題解決を図っていく。そして,問題解決の過程において,問題の本質を見抜く楽しみや成就感は【発展的な考え方】をすることによって生じることを感得できるようにしたいと考えた。
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4.授業の実際(4時間)
今回の課題では,次の視点から問題を捉えることを問題解決の中で支援した。
(1) | まずは,PQ+PRがどうなるのか見通しを立てよう。 |
(2) | そのために,点Pを特殊な位置に置いてみよう。
(BC上の中点,点Cと一致させる) |
(3) | PQ+PR=AC(一定)になるのではないか。(推測) |
(4) | 既習の問題からより一般化された問題へと発展させて考えよう。【発展的な考え方】 |
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授業中では,問題解決の過程において,(原問題)(課題I)から【類推的な思考】によって(課題)を追究するが,そこに(原問題)(課題I)の解決でも用いた【特殊化の考え】をいかに発動させることができるのかが一つのポイントとなった。
生徒は,(原題)や(課題I)を図形ソフト‘カブリ’を用いて,
| 実測する。 |
| 点PをBC上の中点の位置や,点Cの位置に移動して考える。 |
などの【特殊化】を行い,問題解決を図った。
◎(課題)の追究場面
(原問題)と(課題I)から【類推的な思考】をするといずれも四角形AQPRを観察して,PQ=ARとなることから,PQをAC上のARに移そうという《数学的な見方・考え方》をしている。そして,この考え方が(課題)へも適用できないかと考えたようである。すなわち,PQを移すためには長方形かまたは平行四辺形をつくってやればいいと考えて,そこから,CSを引いてみよう(CS⊥ABとなるように)という発想が生まれてきたようである。 |
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続いて,PR=CTが言えれば,この場合でも PQ+PRは一定になるから,そのためには,△TPC≡△RCPが成り立つことを証明すればいいのではないかという【演繹的な考え方での‘逆思考’の考え方】をしていったのである。
そして,この図形問題での“本質的な条件”を追究するために,(発展課題)を取り上げた。 |
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◎(発展課題)の考察について
この発展課題の追究はなかなか難しく授業時間では問題解決には至らなかった。
(1) | (課題I)(課題)を基盤として,それと関連づけて考察しよう。 |
(2) | PQ+PR=(一定)となる条件は,PQやPRが二等辺三角形の各辺と平行になるか垂直になる以外には,できないのだろうか。もっと緩やかな条件ではできないだろうか。 |
と支援をして考察を深めさせ,(課題I)(課題)の条件(仮定)の【一般化】を図った。
授業後に,生徒から次のようなレポートが出されクラスみんなで共有することになった。
◎生徒の反応
・ | 【特殊化】することは問題解決に便利だと思った。 |
・ | 難しいところもあったが時間中ずっと集中して考えることができた。 |
・ | 【一般化】して考えることのよさみたいなものがつかめたかな…と思う。 |
5.成果と今後の課題
生徒が,数学を学ぶことの価値を実感するのは,数学を創造し,発展させる活動が保障されるときであろう。今回の選択数学での取り組みは,そのことを再認識させられた。生徒が数学を創造するプロセスを大切にして,特殊なものから,いろいろ関連づけて一般化して位置づけることのできるような題材と指導法について,これからも研究していきたいと考える。
〈参考文献〉 「数学的な考え方の具体化」(片桐重男 著,明治図書)
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