達成感と充実感を味わう課題学習
名古屋市立山田東中学校
平林 俊幸
1.研究のねらい

 課題学習においては,生徒が自ら課題を見つけ,自ら考え,主体的に問題を解決していく力を身につけるとともに,数学的な見方や考え方をさらに育てるために,日常の事象に関連づけたり,作業,観察,実験,調査などの数学的な活動を通して,数学の学習に主体的に取り組もうとする意欲や態度を育てることが大切である。
 つまり,ある場面を提示され,「これならできそうだ。解いてみたい!」と感じ,自分なりの方法で解決し,「できた。やった!」と達成感を味わう。次に,他の生徒の解決方法を理解し,「そんなやり方もあるんだ。すごいな!」と感じ,提示された適用問題をどの方法で解決するのかを選択し,「わかった。このやり方だと簡単だ!」とか,「この解き方はどんなときでも使えるよ!」と充実感を味わう。
 このように,意欲的に学習に取り組む生徒を育てていきたいと考える。しかし,これまでの指導を振り返ってみると,生徒の実態は次のようである。

少し難しい問題に出会うと,教師や他の生徒からの助言を待ち,自分で考えようとしない。
他の解決方法に目を向けさせても,自分の方法にこだわり,解決することが多い。

 これは,今までの指導の中に,次のような原因があったからであると考える。

生徒一人一人に,自力解決できたときの喜びを十分に味わわせていなかった。
解決方法に含まれているよさに気づかせていなかった。

 そこで,生徒に「できた!わかった!」という達成感と充実感を味わわせることを重視する課題学習が重要であると考える。

2.研究の方法

  (1) 達成感を味わわせるための工夫
 解きたいという気持ちをもたせるために,「おやっ?不思議だ!」という疑問が生じるような場面を提示し,多様な解決方法が考えられるような問題を設定する。また,自力解決の場面で,自分なりの解決方法の見通しを持つことができていない生徒には,「前に似た問題をやらなかったかな?」(まね方式),「順を追って考えたら?」(データ方式)と助言し,解決方法の見通しを持たせ,図や表などを使って考えさせる。

  (2)

 充実感を味わわせるための工夫
 互いの解決方法を理解させるために,発表者の解決方法の一部を板書し,他の生徒に発表者がどのように考えて解決したのかを読みとらせる。次に,解決方法に含まれているよさに気づかせ,適用問題の解決方法を選択させるために,それぞれの解決方法を,共通点や相違点に着目させて分類させる。

3.授業実践

  (1) 実施時期
 第1学年 11月

  (2)

 本時の目標
 数量の関係を図や表などを使って表現し,数量の相等関係に着目して,方程式をつくり問題を解こうとする。

  (3)

 授業実践の概要
[授業実践のねらい]

 予想が異なるような場面を設定し,多様な解決方法が考えられるような問題で,既習事項を想起させたり,規則性を見つけさせたりすることにより,解決方法の見通しを持たせ,自力解決させる。次に,発表者の解決方法を読みとらせ,互いの解決方法を理解させる。また,観点を明確にして分類させることによって,解決方法に含まれているよさに気づかせ,適用問題を解決する前に,全体の場でどの方法で解決しようと思うかを話し合わせ,それぞれの解決方法のよさを明確にさせる。

[提示場面]

 1辺の長さが2cmの正方形の色紙を(ア),(イ)のように並べたら,周囲の長さ(図の太線の部分)がどちらも40cmになりました。
 このとき,(ア),(イ)のどちらの場合が,色紙が多く必要だと思いますか。

T:どちらの場合が多いと思いますか。
S:(ア)の方が多いと思います。(7人)
S:(イ)の方が多いんじゃないかな。(13人)
S:同じだと思います。(12人)
T:どれがいいのかな?
S:調べてみないと分からないよ。
    
【自分なりの方法で解決する生徒】

[問 題]

 周囲の長さが40cmになるとき,(ア),(イ)それぞれの色紙は何枚ですか。

T:自分なりの方法で考えてみよう。できた人は他の方法も考えましょう。

[生徒の自力解決の様子](複数解答)

(1) 図をかいて数えて求める。

  (ア)
  
(イ)も同様に図をかいて数えて求めた。
<5人>
<2人>
(2) 表にして求める。

  (ア)
  
(イ)も同様に表をかいて求めた。
<7人>
<6人>
(3) 図をかいて工夫して求める。

  (ア)
  
(イ)も同様に変化しない部分に着目して求めた。
(40−4)÷4=9<4人>
(40−4)÷4=9<2人>
(4) 図をかいて工夫して求める。
  (ア)
  
(イ)も同様に変化しない部分に着目して求めた。
(40−6×2)÷4+2=9<1人>
(40−6×2)÷4+2=9<2人>
(5) 方程式を利用して求める。
  (ア) 4x+4=40<2人>
  
(イ) 4x+4=40<2人>
(6) 方程式を利用して求める。
  (ア) 2x×2+2×2=40<2人>
  
(イ) 2x×2+2×2=40<2人>
(7) 方程式を利用して求める。
  (ア) 6×2+4(x−2)=40
<3人>
  
(イ) 6×2+4(x−2)=40
<3人>
(8) 方程式を利用して求める。
  (ア) 8x−4(x−1)=40<1人>
  
(イ) 8x−4(x−1)=40<1人>

[板書]

(1)
(ア)

(イ)

 
(2)
(ア),(イ)

 
(3)
(ア),(イ)
 (40−4)÷4
(4)
(ア),(イ)
 (40−6×2)÷4+2
(5)
(ア),(イ)
 4x+4=40
(6)
(ア),(イ)
 2x×2+2×2=40
(7)
(ア),(イ)
 6×2+4(x−2)=40
(8)
(ア),(イ)
 8x−4(x−1)=40

T:みんながいろいろな方法で解きました。黒板に解き方の一部だけをかきます。
それぞれの人がどのように考えて解いたと思いますか。

T:それでは,(1)から(8)の解き方を仲間分けしようと思います。どれとどれが仲間だと思いますか。
S:(2)と(5)は仲間。
T:どこが同じですか。
S:表で見つけたきまりを使っているから。
S:表にすると,4cmずつ増えることがすぐわかる。
S:(3)と(6)も仲間だと思います。
S:式が全然違うよ。
T:(3)と(6)の違うところは何ですか。
S:図で見つけたことを(3)は逆算を使っているけど,(6)は方程式で解いているところが違います。
S:じゃあ。(4)と(7)も仲間だと思います。
T:他にはありませんか。
S:(5),(6),(7),(8)は全部仲間。
T:式の形が全然違いますが,どうして仲間だと思いましたか。
S:全部式を整理すると,4x+4=40になるから仲間です。
  
【解決方法を説明する生徒】

[考 察]

 30人の生徒は,解決方法を共通点や相違点に着目して分類することができ,「表も式も,4ずつ増えることを使っている」とか「方程式の形が違っていても,式を整理するとすべて同じ式になる」ことに気づいた。また,「表にすると,増え方がすぐにわかる」とか「図をかくと,きまりが見つけやすい」など解決方法のよさに気づくことができた。

[適用問題]

 1辺の長さが4cmの正方形の色紙を同じように並べたら,周囲の長さが200cmになりました。このとき色紙は何枚並んでいますか。

T:どの方法で解こうと思いますか。発表してください。
S:(3)の方法で解こうと思います。
T:どうしてその方法で解こうと思いましたか。
S:図だとかくのが面倒だし,(3)はわかりやすいから。
S:わたしは(5)で解きます。
T:どうしてですか。
S:方程式のなかで,式の形が一番簡単だから。

[考 察]

 27人の生徒は,方程式や逆算の考えを利用して,適用問題を解決することができた。適用問題を解決する前に,全体の場でどの方法で解決しようと思うか話し合わせたことで,互いの解決方法に含まれているよさに気づかせることができたからと考える。しかし,3人の生徒は適用問題の数値が変わったために,方程式や逆算の考えを利用した方法で解決することができず,表や図を利用した方法で解決している。また,2人の生徒は方程式や逆算の考えを利用した方法で解決しようとしたが,正しく立式できなかったり,計算間違いをしたりしたために解決することができなかった。

4.研究のまとめ
 達成感を味わわせるために,疑問が生じるような場面を提示し,多様な解決方法が考えられるような問題を設定することは,有効であった。また,自力解決の場面で,自分なりの解決方法の見通しを持つことができていない生徒に,「まね方式やデータ方式で考えたら?」と助言することは,解決方法の見通しを持たせ,考えさせることにつながることがわかった。
 また,充実感を味わわせるために,発表者の解決方法の一部を板書し,他の生徒に発表者がどのように考えて解決したのかを読みとらせることは,有効であった。また,解決方法に含まれているよさに気づかせるために,それぞれの解決方法を,共通点や相違点に着目させて分類させることが,有効であることがわかった。
 今後は,1つの単元や領域の学習内容だけでは解決できないような問題ばかりでなく,日常の事象に関連した次のような問題や,授業で学んだ内容を深めるような問題を開発・工夫していきたい。

[提示場面]

 インターネットを始めようとして料金を調べたところ,次の表のようであった。

コース基本料金加算料金備   考
0円10円/分基本料金なし
3600円0円/分加算なし(使い放題)

 このとき,どちらのコースが得だと思いますか。
  
[適用問題]

 Aコースの加算料金が8円/分に値下げされました。
 AコースとBコースの料金が等しくなる時間を求めましょう。

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