操作活動を取り入れた課題学習―身近なものからの平方根の発見―
兵庫県明石市立中学校教諭
1.はじめに
 今年度,私は3年生を担当していますが,今年の3年生はおとなしい生徒が多く,そのせいか,自分から積極的に授業に参加してくる生徒は少ないです。また,3年生は目前に高校受験が迫っているということもあり,授業内容はどうしても入試問題に対応できる力をつけてやることに主眼が置かれてしまいます。実際,私も,単元が終わる度に練習問題を数多くさせてきました。
 でも,数学の教師の目標の1つには,今後も数学を興味をもって学習し続けていってくれる生徒を数多く育てたいという思いもあります。そのためには,興味ある題材を与えて,その中から自分が調べたり,発見したりしたことを体験させることがとても大切であると思います。自分が調べたり,発見したりしたことが授業で取り上げられたりすれば,またそれが今後の興味・関心へつながっていき,いいリズムで学習ができていくと思います。
 今年度は,明石地区が県の数学の研究大会の地区にあたっていて,私の中学校でも,各学年1クラスずつ研究授業をすることになりました。この機会を利用し,いつもなら平方根の単元の最後には練習問題をさせるのですが,今回は,課題学習に調べ学習を取り上げて実施してみました。以下はその内容です。

2.指導のねらい
 平方根は,これから習う二次方程式や三平方の定理に使うための準備という意味だけでなく,数の拡張という視点からの数の概念の理解に努めるように指導することが大切です。同時に,今までの数とは違うことを知ることも大切ですが,実生活の中でも適用されている数量であることも実感させたいです。
 この時間の目標は,日常とかけ離れていると思われやすい平方根で表される数が,実は古くから“美しいもの”,“調和のとれたもの”に使われていることを知ってもらい,数学をより身近に感じて,次の単元への意欲づけにできたらと思っています。

3.授業の実際
 前の時間の終わりに,例1例6の書かれたプリントを配付し,班ごとに割当てをしておきます。1班ごとに1つのテーマで考えるのですが,内容は全員に知らせて,余裕のある者は他の班のも調べてよいことにしておきます。そして,いよいよ授業の当日,班の形にして各自の考え,調べてきたことを出し合います。班長はそれをまとめて,代表者には発表させるようにしておきます。もちろん,自分が発表してもよいのです。各班の発表を聞いて,それ以外に考えたことがある人も他の班から発表してもいいことにしておきます。
 さて,そのプリントの内容ですが,
例1 聖徳太子像の図
例2 北斎の絵
例3 法隆寺五重塔,金堂
例4 カメラの絞りの目盛り
例5 教科書やノート
例6 正六角形について
 の6つです。例1から例5まではその中から√2を見つけさせ,例6は√3を見つけさせます。「√2を見つけなさい」,「√3を見つけなさい」といっても,意味のわからない生徒もいるので,長さの比などの例を示しておきます。
 さて,いよいよ発表です。各班それぞれいろいろな答えを発表します。例1例3については,さまざまな比が√2になっています。例4のカメラの絞りの目盛りは√2倍ずつ,例5の教科書やノートの場合は,縦が横の√2倍,例6は対角線を引いて√3を見つけてきました。
 各班の発表ごとに,定規と電卓を使って確認させていきます。
 黒板には各図を大きく拡大したものを貼っておき,できるだけその前で説明させます。√2,√3になることの確認方法も,その時発表させます。
 以上のことを,予め配っておいたプリントにまとめながら記入させていきます。この記入時に,右側の部分にも注目する生徒も出てくるでしょう。
 そこで,世の中には√2倍,√3倍になっているものだけでなく,他の比率にもなっているものがあることを,ここで,もったいぶって知らせます。黒板には大きく拡大した正五角形と正八角形を用意しておき,貼りつけます。


調べてみよう(平方根を見つけよう) 学習プリント

調べてみよう。(平方根を見つけよう)
√2を見つけよう。
例1
例2
例3
例4カメラのしぼりの目盛り
√3を見つけよう。
例5教科書やノートについて
例6
 さて,ここで知らせる比率は2つあり,黄金比,白銀比の紹介をします。黄金比については,啓林館の3年の教科書に出ているので,教科書を使い説明します。そして,正五角形の中の至る所に黄金比があることを確認させ,プリントにまとめていきます。さらに,もう1つは白銀比(シルバー比)です。これはあまりなじみがないですが,正八角形の中のABとHCの長さの比1:(1+√2)をシルバー比と呼ぶそうです。縦と横の比がこのような長方形をつくると,2つの正方形を切り取った残りの長方形が元の長方形と相似になっているそうです。以上のことをきちんとまとめさせ,プリントを完成させます。
 ここで,授業全体を振り返り,いろいろな場面で平方根が使われているのは,最初に計算して使われているのではなく,美しいもの・調和のとれたものを調べていくとそうなっていることを確認しておきます。最後に,今日の授業の感想を書いて終了します。時間があれば,発展させてもよいでしょう。

4.授業を終えて
 研究授業ということで参観者も多く,生徒達も緊張していて普段通りの自分が出しにくかったようです。参観された先生用に感想を書く用紙も用意していたのですが,誰1人記入がなく残念でした。
 生徒は一生懸命調べてきていて,発表も活発にできたほうだと思います。ただ,あまりいろいろなことを取り上げすぎると,後の時間に支障を来すと思いました。ある程度で次の例に移るようにしたらいいと思います。
 では,最後に生徒の感想をいくつか紹介してみたいと思います。
身近なところに√2があるなんて知らなかった。
答えがすぐにはわからなくてイライラしたけどすごく楽しかった。平方根は難しくて嫌いだけど,こんなふうに周りに使われていると考えると,おもしろいなあと思いました。
こんなに身近にあっても知らない√2や√3をたくさん知ったし,今回学習して平方根が少しおもしろくなってよかった。黄金比や白銀比がもうひとつよくわからない。時間があればもう一度調べてみたい。
はじめは√2を見つけるだけでは全然わからなかったけど,「聖徳太子」の答えを聞いたら,ほとんどできた。
黄金比はピラミッドと同じになっているそうだが,平べったく感じた。美しいといわれる比も,立体になると美しく見えたり,普通に見えたりするんだと思った。
何か,どうでもいいような,よくないようなことを学んだが,自分が少しエラくなったような気がした。
 など,感想はさまざまです。でも,目標はほぼ達成できたのではないかと思います。今後も機会を見て,各単元でもできるだけ操作活動を使った課題学習をする時間がとれればと思います。
 参考文献
榊 忠男/責任編集 ほるぷ中学校授業プリント 3年 1 平方根 ほるぷ出版 1985
新訂数学 啓林館

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