“墨塗り問題”を楽しもう 〜簡単で,魅力的な“課題学習”の教材づくり〜
山口県長門市立仙崎中学校
教頭 金重 文男
1.はじめに
 新しい学習指導要領の中でも「課題学習」は重要な位置を占めています。即ち,「単に問題を解いて答えを求めるということでなく,自ら課題を見つけだし,自ら考え,試行錯誤しながら,自らの力で解決していく」ような学習こそ,これからの数学授業の中心にあるべきだと言われています。
 ところで,実際には,どの程度授業に課題学習を取り入れているのでしょうか。
自分は授業がなかなか進まないので,教科書にある「課題学習教材」は,ほとんど扱っていません。
「課題学習」というのは,パズルのような問題ばかりで,選択授業には使いますが,必修授業の中では使いません。
「課題学習教材」は難しく,学級の一部の生徒しか楽しくできないようで,大半の生徒にとっては,無意味な時間になる可能性があります。
 というように,必ずしもすすんで授業に取り入れられてはいないようです。
 そこで,普通の教材を“課題学習的”なものにする方法を提案したいと思います。それが,名づけて「墨塗り問題」です。
 パズル的な問題ばかりが課題学習にふさわしい教材ではありません。自分で少し工夫することによって素晴らしい学習ができることをご理解いただけたらと思います。

2.「墨塗り問題」とは
 それでは,墨塗り問題とはどのようなものかを説明しましょう。

 (問題B)がいわゆる墨塗り問題です。つまり,基となる問題Aの一部を隠して与え,自由に解かせるものです。ところが,これをテストとして出題したときは,多少思考力を高める良質の問題と評価されてもそれ以上のものではありません。これを「課題学習」の域まで高めるには,次のような投げかけが必要になります。
今日のテーマ「墨塗り問題を楽しもう」

 昨日のテストでは,■の中に自分で適当な数を入れて,問題を解きましたが,今日は,この墨塗り問題を徹底的に追究してみようと思います。そこで,
 (1) 試行錯誤:■内に,いろいろな数を入れて,気づきを述べてください。
 (2) 規則性の発見:例えば,「■内に,こんな数を入れた場合は 〜 となる」など,規則性や法則性を見つけだしてください。
 (3) 発展・応用:この問題を参考にして,ここで考えたことが他の問題でも使えないかを考えてみてください。(例,墨の場所を少し変える)

3.墨塗り問題」への取り組みの様子
 生徒A ■内にでたらめな数字を入れたのでは,解が分数になり,つまらないので,どうしたら整数になるかを考えました。でも,よくわかりませんでした。
 生徒B 整数の解を見つけるのは簡単です。基の式のxyに適当な数を入れたら■内の数が簡単にわかります。
 生徒C
 T このように,規則正しく解が並んでいることに気づきました。でも,なぜでしょう。
 生徒D 発展問題として,(問題B)の式を3x+■y=−2として,■内の数がどのような場合に整数解が出るかを考えました。
 生徒E D君の場合,■内に1.5を入れると,解はどうなるのでしょうか。
 以上のように,生徒たちはノート(プリント)を真っ黒にして考え,大きな充実感を持つと同時に,新たな疑問がわいてくるようです。こうして生徒は技能の習熟だけでなく知識や理解も深まり,考える力もついてくるし,表現力にも磨きがかかってきます。

4.どんな問題でも「墨塗り問題」にできる。
 この「墨塗り問題」を課題学習として扱うよさは,どのような問題でも墨塗り問題の良問ができる点です。では,図形の領域で墨塗り問題を創ってみましょう。
課題
 左の図のように,円Oの周上に点Aがある。このとき,点Aを1つの頂点とし,他の頂点も,この円周上にある■角形を作図しなさい。
 生徒作品:

 *この授業は,円周角の定理を学習していない生徒にも与えることができる課題です。おもしろいことに,円周を6等分した点をとってできる図形は(2),(3)のほかにも4〜5個あるし,正三角形のかき方もいくつかあり,長方形のかき方も6通り程度は考えつくようです。台形,つまり平行線のかき方も魅力的です。直観的に「90°である」,「平行である」,「長さが等しい」ことはわかるのですが,証明のできない図形の性質もたくさん見つかるようで,それをグループで検討するととても授業が盛り上がります。

5.「墨塗り問題」の使い道
 (1)
 1問で様々な取り組みをさせる。
 右は3年生の3月に出題したものです。
 高校入試を控えた生徒は,このような問題は,難なくこなします。また,創った問題も計算あり,証明あり,作図ありと様々です。
 たった1問で何問でも学習できます。
 次に示すものは,その一例です。
 
 右の図で,△ABCと
△ADEはともに正三角
形であり,点Dは,線分
CBの延長上にある。
 ∠ADC=25°のとき,
∠■の大きさを求めなさ
い。
生徒作品1生徒作品2
 △ACD,△ABEは
ともに正三角形で,点B,
C,Dは同一直線上のと
き,∠BDEは何度か。
 2つの正方形で点A,
E,Fは同一直線上に
ある。相似な三角形を
探せ。
生徒作品3
 △ABC,△ADE,
∠BAD=20°のとき,
∠Fは何度か。
図形の問題づくりでは,数字を変えるより正三角形を正方形にしたり,直角三角形にしたり,あるいは補助線を引いたりすると,また趣の変わった問題になります。
 1年のときから問題づくりに慣れておくと,ユニークな問題をたくさん創ってくれます。
 (2) 発展問題を意図的に導く。
 新しい学習指導要領では,二次方程式の解の公式は高校の内容になっていますが,
 二次方程式 x2+■x−14=0 の■を自分でうめて,解きなさい。
としたとき,特定な数にすると解は求まりますが,求まらないものもたくさんあり,生徒も探究してみようと思います。
  このように,問題創りでは必ず既習事項だけでは解決できない課題も出てきます。ある時は,意図的にそれを出させます。こうして,興味のある・力のある生徒には,しっかり思考力を鍛えたり,上級数学の香りをかがせたりしたいものです。
 (3) 頭を柔らかくする。
 入試を直前に控えた頃の授業はとかくプリントが中心で,問題を早く・正確に解き,わからなかった問題を覚えることが中心になります。しかし,入試を控え,生徒たちの頭に柔軟性がなくなっているとき,多様な答えが出たり,多様な発展のできる課題に触れることは,大切にされるべきだと思います。

6.おわりに
 「課題学習」,「選択授業」は,パズルのような課題ばかりでなく,こうした普通のありふれた問題に「墨を塗る」だけでできますので,魅力的な課題(墨塗り問題)に気軽に取り組んでいただきたいと思います。
 と言うよりも,普段の授業(必修の授業)が,「教科書に出ている課題を次々に解いていくだけ」にならず,随所に,問題に墨を塗るなど工夫して,様々な展開が期待できる課題に取り組ませたいものです。
 課題学習が「パズル的な問題」や「トピックス的な問題」の羅列になってしまったとき,授業時数の少なくなった現在では,上級学校で生徒が困ることもあるでしょう。もっともっと普段の必修授業に即した形での課題学習も開発していくべきです。その意味において,「墨塗り問題」が,様々に開発され,課題学習として取り上げてもらえるよう提案したいと思います。

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