「つくる・あそぶ・まなぶ」の選択授業
大阪市中学校数学教諭
1.はじめに
 日々授業をしていて常々耳にすることに,「こんなのやって何の役に立つの」というのがある。確かに,直接,買い物をするといった場面で使うとしたら,算数で扱う内容で十分かもしれない。「いや,そうではないんで……。ここで使われているような考え方が,大切で……」といったところで虚しく,生徒たちを本当の意味では納得させられない。
 そしてまた,日々は過ぎ,別単元を学習しているときに,何かのはずみで同じような会話が繰り返される。紙と鉛筆,黒板とチョーク。先生が質問し,生徒が答える。それも何か先生が生徒たちに意地悪するためにしているようで,生徒も教師の顔や仕草から答えを探りあてることに長けていく。何か一杯の清涼剤のようなものができないものか?
 必須教科の枠組みでは,この現実は,なかなか破れないのではないだろうか。まさに,抜け出すことのできない迷路にはまりこんでしまっているのではないだろうか。そこで,選択教科としての枠組みで考えてみてはどうだろうか。ここからがはじまりで,いざ選択教科として実施するにあたっては,できるだけ生の「選択数学」といったイメージや内容を前面に出さない方がいいのではないだろうかと考えた。つまり,従来の補充的な内容(数学を苦手とする生徒が対象)や発展的な内容(通常の授業では飽き足らない生徒対象)としたものではなく,広くいろいろな層の生徒を対象にしても可能な選択教科にしたいという思いである。
 しかし,大したネーミングも思いつかないまま,「パズル・教具作り」と銘打って生徒を募集することになった。担当が私(数学教師だから)のこともあって,案の定,第1希望は極端に少なく(1桁台),第2,第3希望を調整した上で,やっと30名弱の生徒が確定した。実際,数学テストによる学力には大きな開きがあり,黒板とチョークでは,冒頭で述べたことの繰り返しになることはほぼ間違いなかった。
 そこで,一切黒板を使わず(といっても,説明のため最低限には使うが),やってみることにした。そのためには,まず,教師自身が自らの題材を作り,遊び,学ぶ姿勢が必要ではないかと考えた。そして,題材をいくつかピックアップし,試作品とでもいえるものを実際に作ってみる。すると,結構うまくいく場合もあれば,「あれ,何か変だぞ!」,「もう少し大きくした方がおもしろいかな?」,「生徒には,ここまで作らせてみようかな?」などといった教師(私)自身の気づきもあった。そうした上で以下の授業を実施してみた。

2.授業の実際
 <第1時:穴あきサッカーボール作り>
 1辺が10cmの正三角形を20枚用意し,重心に合わせるように3つの頂点を折る。そして,折ったところをのり代にして貼り合わせ,サッカーボールを作るようにした。
 こちらで1つ作っておいたものを見せ,それぞれ自分で作るように指示し,後は生徒の間を見て回ることに終始した。五角形に穴を開けるところを6角形にしたり,どことどこをくっつけるのか迷っていたりと,出来上がる早さも様々なら,出来上がり具合に感心している生徒もいたり,まさに様々な反応が見られた。


 <第2時:正二十面体模型づくり>
 5cm×8cmの3枚のケント紙にL型に切り込みを入れたものを配付し,それを立体に組み合わせるように指示する。生徒は,組み合わされた各頂点をマッチ棒でわたし,のりづけをする。完成品を事前には提示せず,組み合わせたケント紙に数本のマッチをわたしたものの例示にとどめておいた。
 ケント紙を組み合わせるのに,1発で見抜いた生徒もいれば,なかなかうまくいかず,悩んでしまう者もいた。実際,マッチ棒をわたしてのりづけしはじめると,生徒たちは,出来上がりつつある正二十面体の模型を不思議そうに眺めていた。



 <第3時:立体パズルに挑戦>
 立体パズルの展開した図を画用紙に印刷し,各パーツを切り取らせて組み立てた後,パズルを完成させる。早く組み立てた生徒は,各パーツの面の形を意識しながら,パズルを完成させはじめる。そして,その組み合わせ方は,ただの1通りではなく,いくつかあることを互いに情報交換し合ながら,自然に見つけていった。そして,各パーツがうまく立方体に納まることに感心していた。

 <第4時:立体3目並べ>
 3×3の正方形のますを3段にして組み立て,駒を用意してできたものから○×ゲーム要領で楽しむようにした。これは,3人単位で1つを作るようにした。実際,ゲームをしはじめてから,生徒たちは,2段目の中央を最初に取れば,すぐに勝敗(先手が必ず勝つ)が決まってしまうことに気づいた。しかし,そこから生徒たちの発想の豊かさが発揮され,2段目の中央を封じ手にしてゲームをはじめる者もいれば,縦,横,斜めでいくつ並べられるかを競ったり,駒をもう1種類用意し,3人ではじめたりと新しい約束事を決めながら,結構楽しんでやっていた。また,生徒の中には,4×4の4段,5×5の5段でやりたいという声も聞かれた。



 <第5時:Cube,Cube>
 立方体のユニットを4つ組み合わせたものを使って,4×4×4の立方体を作り上げるパーツ作りを行った。試作品については,立方体を4つ作り,それを貼り合わせたものだったが,生徒たちには,展開図から作るように指示し,格子のように印刷した画用紙を配付してやらせてみた。
 すると,結構生徒たちにはいろいろな反応があって,より複雑な形のものに挑戦しようとして,その展開図を考え込む者や,とにかく作ってみようと展開図を組み立て,いくつかの面が足りなくなってしまう者や,展開図はどうしてもできないので,立方体を貼り合わせるやり方をする者などいて,すごく個性が現れていた。そして,出来上がったものを前に持ってきては,テトリスのようだといいながら,楽しそうに 4×4×4 の立方体を組み立てていった。



 <第6時 BOX in BOX(ハノイの塔)>
 「ハノイの塔」を底面の正方形の大きさと側面の高さを順々に変えながら作らせてみた。
 はじめにハノイの塔であることを告げずに,各パーツを3人1組で作らせてみた。1番早くできたところからルールを説明し遊ばせてみた。すると,1つずつ動かすところを,思いあまって3つまとめて動かしてみたり,もとに戻ってしまったりして困ってしまう生徒もいた。また,1度やったことがある生徒は,最小いくつの手数でできるかを数え合って,その数について何かありそうだと考え込んでいた。


3.授業の考察
 ともかく,やってみて(作ってみて),遊んでみて(できばえを確かめてみて),その上で何かをつかんで(学んで)くれたらいいと思ってはじめたが,わずか6時間という時間枠しかなかったけれども,何とか無事に乗り切れたかなといった感じである。とりわけ,立体というものにできるだけこだわってみた観がある。かくいう私自身もある意味ではともに学んだことがあったようだ。
 空間図形という題材1つとっても,日常的には黒板という平面(2次元)にかかれた図で解説をして済ましてしまうものを,「つくる」ということで,立体を肌で感じ,その存在感を改めて認識できたのではなかろうか。私自身も,試作品を作る段階においては,「ああでもない,こうでもない」と周りの先生に相談したりして,結構楽しんで(遊んで)いたのかもしれない。
 ただ,生徒たちが“あそぶ”という面においては,1時間という授業時間の中では,十分ではなかったことは,今回の選択授業を通して強く感じたことでもある。
 今年度は,選択教科としての時間設定が明確にしきれてなく,週1回,時には,2週間以上空くこともあった。したがって,連続して取り組むというより1時間1テーマで取り組むことにした。もし,授業時間が弾力的に取れるのなら60〜80分程度が適当だと感じたし,毎週連続ものとして扱えるなら,2〜3時間枠で,設計図の段階(今回は,展開図や格子ますなどを印刷しておいた)から取り組ませてもよいと感じた。
 “まなぶ”という面では,サッカーボール作りでは,平面と平面のつながりについて考えてくれればと考えていた。実際,穴あきの部分を正六角形にした生徒に,なぜ立体にならないかを考えさせることもできるし,正多面体や正準多面体の話題へと生徒たちの興味がつながっていけば,しめたものなのだが? 正二十面体の模型作りではうまくマッチ棒がわたせるのは,もとのケント紙の長さに黄金比が仕組まれているからで,3年生になったときに黄金比の話題と結びつけることができればと思う。
 立体パズル作りでは,パーツのつながりやつながりによる立体の断面に興味・関心をもってくれればと思う。立体3目並べでは,上下左右,斜めなど3目に並べることを直線とたとえると,空間内での位置関係にゲームを通して感じとってくれればよいと思う。
 Cube Cubeでは,様々な立体の展開図に興味が向かうことを期待した。さらに,Box in Boxでは,ハノイの塔の仕組みに隠された数の組み合わせを見つけることができればよいと考えていた。
 このように,素材の中には数学的な要素を含ませているが,果たして,その香りをどこまで感じさせることができたかといったことは大きな課題である。とりわけ,作るだけで終わってしまっては,単なる工作であるとの批判は免れない。したがって,題材を作る前後についてもう少し工夫をこらす必要がある。つまり,製作にあたっての強い興味づけ,「これはおもしろそうだぞ!」と思わせるような題材の提示の仕方,数学を苦手とする生徒でも取り組めるような設計図はどこまで可能か,「これくらいなら,すぐに作れそうだ!」といった見極め,さらに,作ったもので遊ばせる時間の確保や「こういうふうになってるんだな!」といった要素の重要性を強く感じた。そして,グループと個人の問題も明らかになった。それは,個人で取り組ませた方が明らかによいと思われるものとゲーム的な要素が含まれているものは,やはりグループで製作させることで,数学を苦手とする生徒や不器用な生徒のフォローになるということがわかった。
 最後に,この作り上げた作品を校内に常時展示することができるような場所を今捜し求めている。そうすることによって,今回選択しなかった生徒たちにも同じような香りを味わわせることができればいいなぁと願っている。

 <参考文献>
 (1) 伏見康治・安野光雅・中村義作 美の幾何学 天のたくらみ 人のたくらみ .46〜50 中公新書 1979
 (2) 森さや香・末広 聡・藤井一正・渡辺 信 「数学を楽しむ」実践例−サッカーボールを作る子どもの反応− 数学教育学会冬季研究会発表論文集 .74〜76 2000
 (3) 野々村礼二 5分間パズルで授業を変えよう! 教育科学数学教育No.451 .3〜20 明治図書

 なお,立体パズルについては,大阪市数学教育研究会2B研修会で入手したもので,出典は「手作り発想パズル:田中早穂子著,日新報道」(現在は絶版)です。
 また,正二十面体については,2000年度数学教育学会冬季研究会で,平野葉一氏の講演の中で紹介されたものを利用させていただきました。

前へ 次へ

閉じる