図形性質の体系化を図る指導の工夫
―「円の性質」の実践―
新潟市立総合教育センター
横田 誠
1.はじめに
 図形領域の証明では,生徒が図形のどの部分に注目するのかが重要であると考えている。
 例えば,円周角の定理を用いるためには,位置が変化しない中心角,弧を図の中から見つける必要がある。生徒にこのような見方を促すために,図形を自由に移動,変形させて考えさせることが必要であると考える。図形を移動,変形させることにより,不変なもの(角度の大きさや線分の長さ等)や不変な位置関係(合同,相似,面積が同じ等)にあるものを見つけだす。このような活動から,生徒が新たな図形の性質を発見できるように授業を構成した。

2.課題と授業構成について
○課題について
 右のような課題で,必要な線分を追加し,自由に考えられるようにした。


図1

図2

 図1のように,△PBQの形が変わらないことに気づくことをねらいとしている。
 一歩進んで図2のようになったとき,PBQが円周角でないのに,なぜ大きさが変わらないのだろうかという疑問を多くの生徒にもたせる。このような課題は,円周角の定理の発見でも行っている。


 上の図のように,2点A,Bで交わる2円M,Nと点Aを通る直線Lがある。直線Lは点Aで回転するとき,変わらないものはなんだろう。必要な線分を追加して考えよう。

○コンピュータによる操作的活動を取り入れる。
 各班(班員4〜5人)にノート型のコンピュータを与えた。Geometoric Constructor(フリーソフト 愛知教育大学 飯島康之氏作)を用いて,直線Lが点Aで回転するように設定し,生徒に自由に操作させた。
 生徒には,角の大きさ,線分の長さの測定の仕方や線分の追加については,コンピュータの操作方法は指導済みである。


【コンピュータ画面】
○指導計画
 第1次 円周角……4時間
 第2次 円周角の定理を使って……6時間(本時1/6)

○指導のねらい
 図形が動く中で,不変なものから,論理的に不変な関係にあるものを見つけることができる。

3.授業の実際
○課題提示 「線分を追加し,変わらないものを見つけよう」
 コンピュータ画面をOHPで投影したものを見て,課題を理解する。

 →アニメーション


【図3】
○個人の考えをもたせる。

 各自で,配付されたプリントに,線分を追加し,変わらないものを考える。次のような反応を示した。
 ・与えられている点(中心,2円の交点,P,Q)を結んで,
考える。
 ・点P,Qの接線を引いて考える【図3】
 ・どこに線を引いてよいのか迷う。

○班活動;コンピュータを用いて,それぞれの意見を確認する。

 次のような活動を行っていた。
(1)右の図4のように,与えられている点をすべて結び,図を動かしながら,角の大きさや,線分の長さを測定している。
→図が複雑なので,1つ1つ線分を消して,△PBQの3つの内角の大きさが変わらないことを導きだす。

【図4】

(2)

図5から,PBQが90゜ではないかと思い,角の大きさを表示させながら変形することによって,△PBQの3つの内角の大きさが変わらないことを導きだす。

(3)

円周角の定理から,△PQBの3つの内角の大きさが変わらないことを導きだす。もっとすごいものがあると思い,いろいろな線分を引いて調べるが図5のような図がつくれず,接線を引く。


【図5】

(4)

(3)の班と同じように考える。線分ABを結ぶことにより,ABMNを導きだす。


○各班の意見発表;各班から出た意見を次のようにまとめた。

位置,大きさが変わらないもの
大きさが変わらないもの
関係が変わらないもの
AMB,ANB,△MAB,
△NAB,PM,QN,AN,
AM,BM,BN,AB,
円Mの弧AB,円Nの弧AB
AQB,APB,
PBQ
MPA=MAP,
NAQ=NQA

○練り上げ
 T AQB,APBの大きさが変わらないは,どうしてですか。
 S1 円M,円Nの弧ABに対する円周角だから。
 T AQB,APBの大きさが変わらないことから何か言えませんか。
 S2 △PBQの残ったもう1つの角の大きさが変わらない。
 S3 相似だ。△PBQはすべて相似な三角形になる。
 S4 ちょっと変です。円周角ではないのですが。
 S えー,何のことかよくわからない。
 S4 この図の場合,PQBは弧ABに対する円周角ではないのに,どうして同じになるのですか。
 *右の図をOHPで投影し,自分の疑問を説明する。
 S 本当だ。
 *理由を考え始める。
 *プリントに図を記入し始める。

○まとめ
 ・この時間でわかったこと
△PBQの形が変わらないこと。 PQBの大きさが変わらないこと。
 ・次回への課題
どうしてPQBの大きさが変わらないのか。


4.授業後の反省と今後の課題
 この実践の核心となったものは次の2つのことがらであると考えられる。この2つの観点から考察する。
 ・課題について
 ・コンピュータを用いたこと

  課題について
 <図形の見方,とらえ方について>
 位置と大きさが変わらないものを挙げることにより,円周角PQBやQPBをとらえさせるのに有効であった。なぜ角度が変化しないのか説明を受けるときの拠り所として,とらえやすかったようである。
 <円周角の定理から次の定理へ>
 円周角の定理から,円に内接する四角形の性質へと,生徒が定理を関連づけることも1つのねらいであった。練り上げの段階では,自分たちの発見したことがらから疑問をもち,新たな定理を発見できた。自分たちの見つけたもののすごさや不思議さに驚き,その理由を調べようとする生徒が多かった。新学習指導要領では削除されるところであるが,課題学習等で扱い,このような体験を生徒にさせたい。

 

 コンピュータを用いたことについて
 次の3つのことがコンピュータを用いたメリットとして挙げられる。
 (1) 下位の生徒でも図3のような場合の図を的確に把握することができる。
 (2) 角度の大きさや,辺の長さを表示させながら変形できる。
 (3) 生徒の意見の確認を視覚的に,他の生徒に理解させることができる。
 しかし,班に1台のノート型パソコンでの授業を展開したが,班員の数(4〜5)に対して少なかったようである。少なくとも2〜3人に1台用意できると,もっとスムーズに授業が展開できたのではないだろうか。

 参考文献
 乾 東一 図形の性質の研究 その発見と創造 新興出版社啓林館
 飯島康之 コンピュ−タで数学授業を変えよう 作図ツ−ルGCによる図形の指導 明治図書出版

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