人間の行動が生態系に影響を与えていることを見いだす実験
広島市立宇品中学校 山本 滉
1.はじめに
中学校3年生の単元「自然環境の調査と環境保全について」では,環境中への物質の放出といった人間の様々な活動が,生物の生息数を変化させ,自然界のつり合いに影響を与えていることを見いだすことが必要である。具体的には,人間が生ゴミを供給することで,カラスの食物となり,カラスの数が増加する現象を扱う。人間の行動が生態系に影響を与えていることは多くの生徒は理解をしている。一方で,どのようなプロセスをたどって生物の数量的なつり合いがくずれてしまうかをイメージすることは生徒にとって難しい。そこで,クリップと磁石を使ったシミュレーション実験を行うことで,生物の個体数の増減を目で見ることができるようにする。今回は,数量的な関係がくずれてしまう状態の実験方法とその前時に行った数量的な関係が保たれた状態の実験方法の2つの事例について報告をする。
2.数量的な関係が保たれた状態の実験(人間が物質を放出しない場合)
(1)シミュレーションの方法
- ① 画用紙を半分に折って,一方の面を斜面とする。
- ② 磁石をカラス(食べる生物),クリップを昆虫(食べられる生物)とする。
- ③ 画用紙に消しゴムを2つおいて,隠れる場所とする。
- ④ 斜面から磁石を転がして,磁石についたクリップをカラスが食べた昆虫とする。
- ⑤ 初めの年は昆虫20,カラス2とする。
- ⑥ 昆虫を3以上食べたカラスは生き残る。
- ⑦ 生き残った生物の数をその年の記録とする。
- ⑧ 両方の生物ともに,生き残ると翌年の数が2倍になる。(子を産む)
- ⑨ 生物の数が0になった場合は,次の年は1から始める。
(2)シミュレーションの様子
(3)シミュレーションの結果
「昆虫が減少するとカラスが減少」,「カラスが減少すると昆虫が増加」,「昆虫が増加するとカラスが増加」,「カラスが増加すると昆虫が減少」していることを,グラフから読み取ることができる。
本実験から,生物の個体数は,それぞれ増減するが,食物連鎖の関係の中で,そのつり合いは一定の範囲に保たれることを見いだすことができる。
3.数量的な関係がくずれる状態の実験(人間が物質を放出する場合)
(1)シミュレーションの方法(下線部が「2.数量的な関係が保たれた状態の実験」との変更点)
- ① 画用紙を半分に折って,一方の面を斜面とする。
- ② 磁石をカラス,クリップを昆虫,色のついたクリップを生ゴミとする。
- ③ 画用紙に消しゴムを2つおいて,隠れる場所とする。
- ④ 斜面から磁石を転がして,磁石についたクリップをカラスが食べた食物とする。
- ⑤ 初めの年は昆虫20,カラス2,生ゴミを10とする。
- ⑥ 昆虫または生ゴミを3以上食べたカラスは生き残る。
- ⑦ 生き残った生物の数をその年の記録とする。
- ⑧ 両方の生物ともに,生き残ると翌年の数が2倍になる。(子を産む)
- ⑩ 毎年,生ゴミを10追加する。(人間が定期的に生ゴミをだしている状態を再現している。)
- ⑪ 生物の数が0になった場合は,次の年は1から始める。
(2)シミュレーションの様子
(3)シミュレーションの結果
「昆虫の数が0になる年がある」,「カラスの数は多く,昆虫の数は少ない状態が続いている」などがグラフから読み取ることができる。
本実験から,生ゴミを捨て続けると,カラスの増加や昆虫の減少が顕著に現れるなど,人間が物質の放出を続けると,自然界のつり合いに影響を与えることを見いだすことができる。
4.成果と課題
(1)成果
- ① 簡単な準備で実験を行うことができた。
- ② 自然界での生物の関係の変化を時間的な視点で視覚的に捉えることができた。
- ③ 画用紙の大きさ(フィールドの広さ),磁力の強さ(狩りの能力),クリップの数量(生ゴミの量)などを変更することで,様々な要因によって生態系が変化することを見いだすことができる。
- ④ カラスチームと昆虫チームに分かれて実験を行うなどの工夫をすることで,ゲーム感覚で実験に參加することができ,意欲的な態度で授業に望むことができた。
(2)課題