中央教育審議会(2021)は,今までの日本型学校教育における成果を,国際的にトップクラスの学力であることや学力の地域差が縮小されてきていること,規範意識や道徳心の高さであるととらえている。その反面,日本の学校教育が直面している課題として,子供たちの多様化や生徒の学習意欲の低下,情報化の加速度的な進展に関する対応の遅れ,教師の長時間労働などを挙げている。これらの諸課題を解決するために,「正解主義」や「同調圧力」への偏りから脱却し,誰一人取り残すことの無い新しい時代の学校教育の実現が求められており,子供の資質・能力の育成を目指すためには,「個別最適な学び」と「協働的な学び」を一体的に充実させ,「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善を行うことが必要であると述べている。
本校でも,平成29年告示の学習指導要領の全面実施に併せ,令和3年度に学校教育目標を策定し,「自分で考え,判断し,行動する力の育成をめざして~3つの力を伸ばします~・主体性・協働力・コミュニケーション力」とした。学校教育目標が変化すると,生活指導における考え方も大きく転換してきている。例えば,今まで生徒に課していた,頭髪や服装などの細かな規則はなくなり,生徒自身に考えさせる指導を心がけるようになってきている。今まであたりまえに行ってきた指導が大きく変化している中,授業の中であたりまえと捉えていることが,生徒の資質・能力の育成を妨げてしまっていないかと考え,授業改善を行う必要があるのではないだろうか。
本校生徒の課題の一つとして,学習習慣の定着があり,授業外における学習を前提とした学び合いの実践を行うことに難しさがある。本実践では,GIGAスクール構想により導入された1人1台端末を活用し,個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実を図り,主体的・対話的で深い学びの実現を目指した。
本実践で行った授業での取組を示す。なお,教科横断のカリキュラム・マネジメントの観点から,各取組には,本校の学校教育目標で伸ばしたい力のどれが該当するかについて,★印で示している。
(1)「学びの地図」の活用
学習内容のまとまり(教科書(未来へひろがるサイエンス)では各単元内の章立て)のはじめの授業において,生徒用に作成した単元指導計画(以後,学びの地図【見本】)と,その範囲の学習で使用するプリントすべてを配布している。すべての授業は,そのタイトルを学習課題にし,その授業で「何を学ぶか」ということが,一目でわかるようにしている。また,その授業の評価規準を示し,「何ができるようになるか」も明示している他,その授業での学習評価が形成的な評価であるか,総括的な評価であるかも示し,生徒が自らの学習を振り返りながら予習や復習に取り組むことができるよう,計画的に授業を進めている。
授業プリント【見本】は,左上に単元の進行度合いを示し,右下にはプリントナンバーをふっている。加えて,上から順に授業のタイトル(学習課題)と評価規準を必ず示し,該当する教科書のページ数を明示している。プリントは原則穴埋め方式で,全ての記入欄に丸番号をふっている。また,教科書(未来へひろがるサイエンス)に太字で示されている言葉は記入欄を四角で囲んでいる。このプリントの仕組み自体は,昨年度まで講義形式の授業を行っていたときに,授業中に今どこを説明しているかを生徒が見失わないようにユニバーサルデザインの観点で取り入れていたものである。今では,このプリントは授業時間内で取り扱うことはほとんどなく,生徒が主体的に教科書を用いて学習を行い,内容を理解するための支援として配布し,取り組みを促している。
生徒の学びの地図の活用については,6月に実施した調査と9月に実施した調査(どちらもN=128)において,日ごろからよく見ていると回答した生徒が10%程度増加した。また,「たまに見た」等の回答をした生徒はおよそ8%おり,徐々に学びの地図の活用が学習に好影響を与えることが認知されてきている。
Fig1:学びの地図は活用していますか
(6月実施 N=128)
Fig2:学びの地図は活用していますか
(9月実施 N=128)
(2)授業の進行の習慣化
実験以外の授業の進行はいつも同じ方法で行っている。目標に向かってクラス全体で学習に取り組む,協働学習の考え方をベースとした授業展開を目指して設計を行った。ほとんどの学習活動を生徒が主体となって取り組むようにしているため,教師は授業内のほとんどの時間を机間巡視や個別の指導に充てることができている。
始業から10分間 | 5分~10分程度 | 5分程度 | 15分程度 | 5分程度 | 残り |
---|---|---|---|---|---|
自ら学びを調整する時間 ア |
プリントへの記述内容の確認 イ |
教師による講義 | 4人グループでの学習課題への取組 | 生徒発表 教師による講義 |
ふりかえりシートへの記入やレポート課題への取り組み |
ア.自ら学びを調整する時間
授業冒頭で,自ら学びを調整する時間をとっている。この時間は,始業時のチャイムが鳴った瞬間から始まり,10分間を用いて生徒一人ひとりが予習・復習や課題に取り組む中で時間が不足していた部分を補填する。休み時間から取り組んでいる生徒もいるため,あいさつはしていない。この時間の中で必ず行うことはロイロノート・スクールに書き込みの終了したプリントを提出することにしている。
この仕組みで教師は,ノート提出やファイル提出をさせることなく,生徒の取り組み状況を日々観察することができる。改善が必要であると考えられる生徒に対して個別に対応することができたり,普段はよく取り組み,提出できている生徒が提出できなくなった等,生徒の変化にも早く気づいたりすることができる。
提出には10分の制限を付けていて,この10分間に提出できるか,遅れて提出したかという指標で行った評価を,主体的に学習に取り組む態度の総括的な評価に生かしている。プリントへの記入には,教科書を読解する必要がある。これらにかかる時間を自分で判断し,授業の内外の時間で学習すること自体が学習の調整のひとつであると捉えているからである。
この時間の中でどんな学習に取り組んでいるかを調査した結果を次の図に示す。
Fig3:授業最初の10分間は主に何に
活用していますか(6月実施 N=128)
Fig4:授業最初の10分間は主に何に
活用していますか(9月実施 N=128)
どちらの調査においても,デジタルドリルへの取り組みとプリントへの記入を行っている生徒が大半を占めている。9月調査の方がプリントへの記入を行う生徒が増えているため,予習的に取り組んできている生徒が減っていることは課題であると考えられるが,短い時間で教科書を読み,プリントへ書き込むということの精度が高まってきている可能性も考えられる。
イ.プリントへの記述内容の確認
ロイロノート・スクールへの写真提出が一番早かった生徒が司会者となって,プリントへの記述内容の確認を行う。この活動のルールは詳細に決められていて,最初に司会者がそのルールを読み上げてから始まる。
【プリントへの記述内容の確認時のルール】
①発言は挙手によって行う。
②丸番号の順に発表を行うが,穴埋めした言葉だけでなく,その周辺の文も読み説明を行う。
例:「大気の重さによる圧力は①大気圧(気圧)です。」
③発表者の意見が自分の意見と同じだったり,その意見に納得したりしたら「同じです」や「いいと思います」と全員がリアクションする。
④発表者の意見が自分の意見と違った場合は,「別の意見があります」等と言って挙手をする。
⑤どちらの意見が良いか,意見の食い違いが起きたときはお互いがなぜその意見を言ったか,根拠を述べる。(現段階では教師がファシリテートしている)
⑥次の発表者の指名は,発表者自身が行う。
【生徒に配布している資料の内容】
司会者原稿
今日の学習課題は「○○」,評価規準は「○○」です。今からプリントへの記述内容の確認を始めます。意見のある人は手を挙げてください。発表された意見と同じだったり,その意見が良いと思ったりしたら,「同じです」や「いいと思います」とリアクションしてください。違う意見をもっていたら,「別の意見があります」等と言って挙手してください。次の発表者の指名は発表者が行ってください。それでは,①から発表してくれる人は挙手してください。
約束
①指名するときは全員「○○さん」で呼びましょう。
教室の中の全員は,平等な学習者です。勉強が得意な人も苦手な人も立場に差はありません。
さん付けで呼びましょう。先生も授業中はさん付けで呼びます。
②間違っていても貴重な意見!ばかにしない,スルーしない。
どの意見も貴重な意見です。異なる意見が出たら,「どうして?」と考えることが大切です。大勢が同じ答えを書いていたとしても,それが合っているとは限りません。「?」をもち,「!」に変えていけるような発表の時間にしましょう。
あれ,どうして違うのかな?自分の考えは・・・こうかな?あの人はこう考えたのかな?
③意見が対立したときには,根拠を示そう。
意見が異なったときには,なぜそう考えたのか根拠を相手に示すことが大切です。相手が理解できるように,具体的に話しましょう。
「私は,前回の授業で◇◇と言っていたので,こうだと考えました」
「私は,教科書の○ページの△行目に□□と書いてあったので,こうだと考えました」
この時間では,発言だけではなくロイロノート・スクールに提出された学級の生徒全員のプリントが共有される。板書をとるだけがやっとの生徒もいるため,他者のプリントを写すということもできるようにしている。
また,プリントの提出順位が1番の生徒が司会原稿を読むことにより,競争心が働き,授業が始まる前からプリントの写真を撮影しておく生徒も現れた。その生徒は,最初は誰よりも早く提出するという価値観で学習に取り組んでいたが,予習に取り組むことで学習内容への理解が深まるという価値に気づき,予習の習慣がついてきている。適切な外発的動機付けは内発的動機付けをもたらし,そのスイッチがどこにあるかは,生徒によって異なるため,授業の設計の中に様々な仕掛けを準備しておくことは大切なことである。
(3)机の配置
本実践では,授業デザインの見直しを図る中で,授業自体が講義型ではなく,生徒同士の発言をもとに進行していくことから,黒板の方向を向いた講義型の机配置は適さないと考えた。加えて,机の配置を変えることは,生徒の授業に対するマインドを変えることにも一役買うと考えた。次の観点から,「コの字型」の机配置で授業の設計を行うこととした。
①生徒同士が顔を見合わすことのできる配置であること。
②4人グループの机配置に転換しやすいこと。
③生徒の学力層が幅広いため,生徒が周囲の生徒にわからないことをすぐに聞くことができる距離感であること。
④通常の教室の机配置から転換しやすいこと。
Fig5:机配置の例
コの字型の机配置にすることによって,発表者を見て話が聞けたり,発表者の声が小さくても聞き取りやすくなったりした。また,講義形式だと発表する対象が教師になりがちであるが,コの字にすることで他の生徒にわかりやすい言葉を選んで説明する姿が見られた。加えて,昨年度まで授業に取り組まなかった生徒が取り組むようになるという効果もあった。昨年度までの講義型の授業では,「今,何をしているのか」「どこが説明されているのか」などを判断する必要がある上に,内容がわからなくなったときに,周りに聞こうと思っても,「授業中は先生の話を静かに聴く」ことが求められていたため,取り組もうにも「取り組めない」状況に陥っていたと考えられる。
本実践の授業デザインで,コの字型の机配置を取り入れることによって,「今,何をしているのか」を見失ってしまったり,説明の中でわからないことがあったりしても,周囲の生徒に自由に聞くことができる上,その聞くこと自体が授業の進行を妨げる行為にならず,反対に周囲の生徒の学習の深まりにつながっていく。誰一人取り残さない,個別最適で協働的な学習が実現されていっているのである。
(4)4人グループで学習課題への取組
観察・実験を伴う学習活動も,教室での学習も,4人グループでの活動を基本としている。成果物は,グループで1つのものを提出したり,個人で1つのものを提出したりしている。
学習課題とそれに対する活動を考える際には,ヴィゴツキーの提唱した発達の最近接領域の考え方から,個人で考えるには少し難しく他者と共に活動することで考えが深まっていく難易度にすることを大切にしている。インターネットで検索したり,教科書を写したりするだけでは答えられない発問を準備している。
【実践例】
単元名:運動とエネルギー
学習内容:(ア)力のつり合いと合成・分解 ㋐水中の物体にはたらく力
学習課題と評価規準
学習課題 | 評価規準 | ||
---|---|---|---|
1 | 水中の物体にはたらく力について調べよう ・ゴム膜の実験を演示 ・おもりにはたらく力の実験 |
水圧は水の重さによって生じ,深さが深いほど大きく,あらゆる向きにはたらくことを理解している。 | 知識・技能 |
水中にある物体には上向きの力がはたらくことを見いだしている。 | 思考・判断・表現 | ||
2 | 浮力がはたらく理由が説明できるようになろう | 水中にある物体には,物体にはたらく水圧の差から浮力が生じることを説明している。 | 知識・技能 |
本時の進め方
時間 (分) |
経過時間 (分) |
|
---|---|---|
10 | 10 | 自らの学びを調整する時間 |
5 | 15 | 発表 |
3 | 18 | ロイロノート・スクールで浮力学習シートを配布し,めあてと浮力について確認を行う。 |
10 | 28 | 【個人思考】 「ゴム膜の実験と鉄球の実験にはどんな関係があったのだろう」について考え,カードに意見を入力し,提出する。 |
15 | 43 | 【グループでの思考】 提出されたカードの中から教師が数枚選び,全員に配布する。前時の2つの実験の関係について述べられた他者の意見を読み,まとめカードに取り組む。 |
7 | 50 | 【全体共有】 提出されたまとめカードの中から,数名を指名して発表する。 |
まとめカードでは「深さを変えても,浮力の大きさが変化しなかったのはなぜか」という新たな学習課題に取り組む。はじめのうちは,浮力が物体の上面と下面にかかる水圧の差であることもうまく説明できない生徒が多い中,グループ内で議論を交わすうちに考えがまとまっていく。グループでの活動になってから10分ほどが経過すると,様々なグループから「わかった!」や「なるほど!」という声があがった。個人思考・グループでの思考・全体での共有の3つのプロセスによって,生徒一人ひとりの思考の過程が形成されていく学習活動とした。これまでプリントやホワイトボード等で行っていた実践が,ICTを活用することによって簡単な準備で行うことができることに加え,生徒同士が意見を一瞬にして共有することができる。また,共有された資料は発表後や,授業後にも見ることができるため,自分が納得することのできる資料を見て学ぶことができる。
Fig6:浮力学習シート(生徒記入済)
同じ学級の中でも,様々な考え方が示された。
Fig7:浮力についての様々な説明
また,カードを追加して体積と浮力の関係について説明する生徒もいた。
Fig8:体積と浮力の関係を説明する生徒
生徒同士の発言などによる授業の取り組みを通して,自分のどのような力が伸びてきたと思いますか。と生徒に質問した結果を示す。なお,生徒の記述をそのままに,学校教育目標で示している3つの力に分類した。また,ほぼ同義と判断できるものは,一人の生徒の意見を代表として示し,まとめて(○名)という形で表した。
○生徒の記述
【主体性】
【協働力】
【コミュニケーション力】
他にも,理科における見方・考え方に迫る記述をした生徒もいた。
【表現力の向上】
【多面的・多角的な視点で見る力の向上】
(5)本授業デザインにおけるデジタルドリルの位置づけ
本校では,デジタルドリル「Monoxer(以下モノグサ)」を全校で導入している。モノグサは,記憶定着に特化したアプリで,理科の活用では一問一答形式の問題を用いている。教師が指定した問題を指定した期間に取り組ませることができるので,学びの地図を配布する授業から毎日取り組むようにしている。多くの問題は予習的に取り組むことになる。
単語とその意味の結びつきを暗記することができるため,授業で単純な知識の注入を行う必要がなくなり,上記のような生徒主体の学習の展開が実現した。また,生徒のほとんどがモノグサを導入する前に比較して,授業がわかるようになったと回答している。教科書に書いてあるような知識を前もって記憶しておくことが,生徒のレディネスのギャップを埋めて,議論をより活発にすることができていると考えている。
(6)小テストと定期試験について
レポート等への取り組みの他,小テストや定期試験では,「何が身に付いたか」ということを生徒自身が判断するための支援として重要な学習活動である。本実践では,学習評価の機会を次のように位置付けている。
テスト名 | テストに使用する プラットフォーム |
学習評価を行う資質・能力 | 形成的評価・ 総括的評価 |
---|---|---|---|
Cテスト(Confirmation test) | デジタルドリル「モノグサ」 | 知識・技能 | 形成的評価 |
Bテスト(Basic knowledge test) | デジタルドリル「モノグサ」 | 知識・技能 | 総括的評価 |
Pテスト(Performance test) | Google Classroom | 思考・判断・表現 | 総括的評価 |
定期試験 | 紙 | 知識・技能 思考・判断・表現 |
総括的評価 |
Cテスト,Bテスト,Pテストはそれぞれ英語にした時の頭文字をとっている。Cテストは学習内容のまとまり(章立て)毎に実施したり,校種や年次をまたいでつながる内容についてのふりかえりで実施したりする。Bテストは単元末に実施する。いずれも,デジタルドリル内の小テスト機能を用いて行うため,簡単に実施できるほか採点は自動で行われる。点数が即座にフィードバックされるため,生徒にとっても毎日の学びが学習評価につながり,好意的にとらえられている。
Pテストは,【個人思考】→【グループ思考】→【全体発表】→【個人思考】の流れで行う独自のテストである。学習課題はテストのときに示し,単元の学習で身に付いた資質・能力をどの程度発揮することができるかを確かめる。
【実践例】
単元名:生命の連続性
テストで学習評価を行った内容:(イ)遺伝の規則性と遺伝子 ㋐遺伝の規則性と遺伝子
題材:未来へひろがるサイエンス 探Qラボ:遺伝のモデル実験
学習課題:「メダカの家系図の中から,遺伝子の組み合わせが同じ形質を示す形質どうしの組み合わせ(AAまたはaa)をもつ可能性のあるメダカはどれか」について根拠を示して答えなさい
Pテストの進め方【見本】
レポートの作り方は手書き,Googleドキュメント,ロイロノート・スクールなど自由に使用していて,自分が考えを時間内にまとめられる方法を選択する。
それぞれのテストについて,生徒に調査を行った結果を次に示す。
生徒の意見
Fig9:Cテストについてどう思いますか(9月実施 N=128)
生徒の意見
Fig10:Bテストについてどう思いますか(9月実施 N=128)
生徒の意見
Fig11:Pテストについてどう思いますか(9月実施 N=128)
以上から,適切なタイミングにテストを行うことで,生徒は学習評価を自らの学びのアセスメントとして捉えていくことがわかる。
“あたりまえ”を見直す=生徒の先の姿を想像する
本実践では,一人一台端末の活用を機に,授業の“あたりまえ”を見直した。しかし,ICTを活用するために授業全体を改革しなければならないというわけではない。本実践を通してわかってきたことの一つとして,ICTの活用によって,今まであきらめていたことが実現されてきていることがある。本実践で大切にしてきたことは,冒頭でも触れた通り,理科の授業を通して生徒がどのような姿になっていて欲しいのか,ということを想像することである。その目標に向かい,授業のデザインや単元構想を練るなどしてきた。
昨年度までの自らの授業実践をふり返ると,対話的な学習や協働的な学習を取り入れる前に,「基礎・基本の定着」という本校生徒の課題に対してのアプローチを優先して,講義形式で教え込んできた経緯がある。理科の授業を通して,「静かに教師の説明を聞き,それを覚える生徒」や「黒板に書いてあることを丁寧に写す生徒」を育てることが目標ではないのに,自分で作り上げた“あたりまえ”から脱却することができていなかった。その時の生徒にとっては,学んだ「基礎・基本」が何に生かされるのか,何のために学ぶのかといった目標がわからないままに授業に臨んでいたのではないかと考えられる。実際に,授業での学習活動についてこられなくなった生徒の中には,授業が始まると寝てしまう生徒もいた。本実践では,定着の部分をAIドリルに任せることにより,本来目指していた,生徒が協働したり対話したりしながら学びを深める姿を見ることができた。学習に苦手意識のある生徒にとっても,AIドリルが学習のペースを管理してくれることによって,授業での学習活動についてこられるようになったり,周りの生徒を頼ったりしながら,主体的に学習に取り組む様子が見られるようになった。昨年度,授業に取り組まなくなってしまった生徒も,今年度の授業では,自分の学習をふり返りながら積極的に学習に取り組んでいる。
本実践を通して,授業改善をする中で学習することの本質は何か,そして学校の教室の中で生徒が共に学び合うことの本質は何か,と自分自身に対して問うことが何度もあった。それに対する答えの一角を示すことができてきているのではないかと考える。これからも,生徒へのアセスメントを欠かさず行い,先の生徒像を想像しながら授業改善に励んでいきたい。