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理科

『音による現象』 試験管笛を用いた探究的な学習

札幌市立北白石中学校 芦田 創平

1.はじめに

本実践は,1学年エネルギー単元『音に関する現象』に関する単元構成の工夫と,単元の終末における発展的な授業の実践である。本単元では,発音体が振動することで音が発生し,その振動が空気中や水中を伝わり鼓膜を振動させることで音が伝わることを探究を通して生徒が見出す。さらに,『振動』と『音』を関係づけ,振動の様子が変化することで,音の大小や高低が変化することを生徒が理解する。

しかし,身近な音には,発音体の振動が目に見えないものも多い。また,『振動数が大きくなると音は高くなる』『振幅が大きくなると音は大きくなる』ことを,知識として暗記するにとどまる生徒が多く,振動と音を関係づけて捉え,日常の音による現象に当てはめて考えられるように理解することに難しさがあると感じる。そこで,空気を発音体とする『試験管笛』を題材とし,探究的な学習を行うことで音による現象を生徒が本質的に理解できると考えた。また,目に見えない自然の現象でも,科学的に探究することで理解できるという実感を生徒が抱き,自然を総合的に見る力が養われることをねらった。

2.単元構成の工夫/思考ツール『KWLチャート』の活用

本実践では,以下のように単元構成の工夫を行った。

見通しをもって単元の学習を進めるために,『KWLチャート』を用いた振り返りシートを作成した。これは「K:What I know(知っていること)」「W:What I wonder(知りたいこと)」「L:What I learned(学んだこと)」を整理する思考ツールである。

1時間目にグラスハープを鳴らす活動を通して,気づいたことを『K』に記入し,今後の学習で明らかにしたいことを『W』に記入した。この活動を通して,単元の学習の方向性が明確になり,学びの見通しをもつことができた。

生徒のKWLシートの記入より

『K:気づいたこと・知っていること』
・グラスをこすることで音が鳴る。
・グラスハープが鳴るときは水が震えている。
・グラスが大きいと音は低く,大きくなる。
・グラスが小さいと音は高く,小さくなる。
・水の量が多いと,音は低くなる。
・水の量が少ないと,音は高くなる。
『W:知りたいこと』
・なぜこすると音が鳴るのか。
・なぜ水が震えているのか。
・なぜグラスの大きさによって,
 音の大きさが変わるのか。
・なぜ水の量によって,音の高低が変わるのか。

2時間目以降は,KWLシートの『W』に沿って学習課題を設定し,実験を行い学習をすすめた。授業ごとに明らかになったことを『L』に書くことで1時間の学びの振り返りとした。

単元の学習の終末では,単元の学習を振り返り『グラスハープの仕組み』を生徒がレポートにまとめる場面を設定した。ここでは,KWLシートを活用して今までの学びを振り返るとともに,学んだことを再構築し,グラスハープという現象に当てはめて表現する姿を見取ることができた。

3.単元の終末における探究的な学習『試験管笛の仕組み』

(1)教材・教具

新型コロナウイルス感染症対策のため,試験管に水を入れ,洗浄瓶で空気をあてることで音が出る様子を導入で確認した。グラスハープでは,水の量が多いほど音が低くなるが,試験管笛では水の量が多いほど音が高くなる。これまでの学習や予想との違いから,生徒に課題価値が生まれることをねらった。生徒が条件制御を意識して探究できるよう大小3種類の試験管を用意した。

(2)実験・結果の交流

これまでの単元の学習で条件を制御しながら課題を解決してきたことを想起し,試験管笛の音の高低を決めるものは何なのか,仮説とその検証方法を立案し,実験を行った。また,各班が行った実験の方法や結果をリアルタイムで共有するツールとしてChromebookのスプレッドシートを活用した。リアルタイムでの方法や結果の共有を通して,1時間の中で,結果を解釈する場面や,実験を練り直す場面などを生徒が行き来し,試行錯誤する姿をねらった。

生徒によるスプレッドシートへの記述

生徒のワークシートの記述

(3)授業の展開

〇生徒の学習活動 ・教師のかかわり

〇試験管笛の演示実験と,前時間までに学習していたグラスハープを比較し,課題を設定する。

・グラスハープは水が少なければ音が高いのに,試験管笛だと逆になる。

・試験管笛とグラスハープでは音の出し方が違う。

グラスハープと試験管笛を比較する見方を与えることで,相違点に気づかせ生徒自身が驚きや疑問をもって課題の設定へ向かえるように留意する。

【学習課題】試験管笛は何が振動して音が鳴り,どのように高低が決まるのだろうか。

〇仮説を設定し,検証する実験方法を立案し,実験する。
(班で計画→班で実験)

・グラスハープと比較することによって実験で明らかにすることがらを,『発音体は何か』と『発音体の振動を変える条件は何か』の2点に焦点化できるよう促す。

●予想される仮説と実験方法

・水が振動している    →水を入れない
             →試験管を水で満たす
             →大きさの違う試験管で
              水の量を同じにする
             →面の様子を観察する
・試験管が振動している →試験管を強く握る
             →試験管を水で満たす

・直接的に空気が振動していることを確かめる方法は難しいため,様々な実験結果を総合的に判断し,消去法的に発音体が空気であることに結び付けられるよう机間支援を行う。

・必要であれば中間交流を行い,発音体が空気であることを確認する。さらに,大きさの違う試験管を用いて同じ高さの音を出す方法を問うことで,空気の量へ着目するよう促す。

〇実験結果は班で1台Chromebookのスプレッドシートを活用し共有する。

〇実験結果を解釈して言えることを班ごとに整理し,ホワイトボードにまとめ発表することで全体交流する。

【課題解決の姿】
試験管笛は空気の振動で音が発生するため
空気の量によって音の高低が決まることを
見出している。

〇探究の過程を振り返りワークシートを記入する。

スプレッドシートに共有された実験結果をどのように関連付けたことによって課題解決につながったかを振り返る。さらに,空気の振動によって音を発生する楽器(リコーダー)などを想起させることで,学習と身近な現象のつながりを意識させる。

(4)評価

試験管笛の音の高低を変化させる条件について仮説を設定し,適切に条件を制御しながら仮説を検証する実験を行い,検証実験の結果から得られた情報を分析・解釈することで,試験管笛の音の発生の仕組みや高低を変化させる条件を見出すことができていたかを,活動の様子や,ワークシートの記述から見取る。

4.成果と課題

(1)成果

生徒のワークシート「探究の振り返り」の記述。
探究の過程で『関係づけ』や『条件制御』することが有効な手段であることを価値づけている。

(2)課題