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理科

ゲームを通して主体的に探究する食物連鎖と生物濃縮

3年 北海道札幌市立札苗中学校 瀬田 悠平

1.はじめに

本実践は,3学年環境領域「自然と人間」の1章「自然界のつり合い」に関する4時間扱いのうちの2時間目のものである。身近で行われている食物連鎖を小学校での学習では食べる,食べられるの関係として捉えてはいるが,食べることを日常茶飯事にしている生徒にとって,そのメカニズムを実感するに至らないことが多い。そこで,ゲームを通して主体的に探究する場面を設定し,生物界全体を俯瞰することで,改めて食物連鎖の仕組みや生物濃縮のメカニズムに迫ることができるのではないかと考え,本実践を計画した。

2.本時のねらい

本単元は,微生物のはたらきを調べ,植物,動物及び微生物を栄養の面から相互に関連付けて捉えるとともに,自然界ではこれらの生物がつり合いを保って生活していることを見い出すことが主なねらいである。

本題材では,食べるという日常生活と関連付けながら,体内に蓄積する物質の量がどのように増えていくかを,ゲームの結果や既習事項を生かして考えていくものである。また,食物連鎖における上層の生物ほど,蓄積する物質の量の増え方が大きくなりやすいことや,生物濃縮のしくみを,実感を伴いながら学ぶことができるものである。その結果,上層の生物ほど,蓄積する物質の影響を受けやすいことにも気づくことが出来るとともに,生命にとって食べることはプラスの側面だけでなく,マイナスの側面もあることに気づき,自然環境を保全する意義や大切さを実感し,主体的に判断する力を養うことを目標とする。

3.生徒が主体的に学ぶ場面の設定

前時に学習した食物連鎖を,ゲームを通して復習するとともに,学習内容を自分事として捉えるきっかけとなる。その結果,ゲームは生態系における食物連鎖のなかで得たえさの数の増え方の違いを確認するための手立てともなる。

結果を交流しながら課題を探究し,結論を導くだけでなく,その結論がどのような影響を及ぼしているのかということを思考することが大事である。また,学び終えた後に,自分の行動や考えが深化・変容することで,今後の生活において,主体的に行動するきっかけとなると考える。

4.授業の流れ

(1)本時の目標

・食物連鎖の関係から生物濃縮の仕組みを主体的に探究することができる。

・生物濃縮について考え,環境保全に対して正しく判断する態度を養う。

(2)本時の展開

流れ ○生徒の活動 ・教師の関わり
振り
返る
(0分)

○前時に学習した,食物連鎖について確認する。

○食べたものが排泄されたり,体内に残ることを確認する。

・前時の学習内容を確認する。

・食べたものはどのようになるのか問う。

つかむ
(5分)

○体内に残る物質に着目し,増え方がどのように違うのかを疑問にもつ。

・体内に残る物質に着目し,増え方がどのように違うのか問う。

・ワークシートを配布する。

【学習課題】
食物連鎖において,体内に残る物質はどのようになっていくのだろうか。

探究
する
(30分)

○体育館に移動する。

○食物連鎖ゲームを行う。※別紙資料参考

○えさの入った袋をもって理科室に戻る。

○体内に残る物質の合計値を付箋に書き,黒板に貼る。

○残る物質の量の増え方が大きくなることに気づく。

・体育館に移動するよう指示をする。

・食物連鎖ゲームを進行する。

・理科室に戻るよう促す。

・課題を確認し,排泄される物質(青)と体内に残る物質(赤と黒)を指示する。

・体内に残る物質(赤と黒)の合計値を付箋に書き,黒板に貼るよう促す。

・黒板前に全員を集める。

まとめ
(40分)

○黒板前に移動し,体内に残る物質の増え方がどのように違っているのかを全員で確認する。

【課題解決の姿】
食物連鎖において,上層の生物ほど体内に残る物質が濃縮されていく。

・体内に残る物質の量の増え方が上層の生物ほど大きくなることを確認し,結論を書くよう促す。

深める
(45分)

○結論のようなことを生物濃縮ということを理解する。

○体内に残る物質にはどのようなものがあるか考える。

○体内に残る有害な物質の数を赤の付箋に書き,黒板に貼る。

○有害な物質も生物濃縮により,数が増えていることを確認する。

【課題解決の姿の深化】
体内に残る物質がプラスの影響だけでなく,マイナスの影響も及ぼすことがある。

・生物濃縮の定義を確認する。

・体内に残る物質にはどのようなものが考えられるか問う。

・体内に残る物質のうち,赤の物質は一定以上摂取すると有害なものであることを伝える。

・赤の付箋に,赤の物質の数を書き,黒板に貼るよう促す。

・体内に残る物質がプラスの影響だけでなくマイナスの影響も及ぼすことを確認するよう促す。

立ち
返る
(50分)

○参考資料を見て,メチル水銀による影響も生物濃縮の一例であることを確認する。

○ワークシートの『本時の振り返り』を記入する。

・参考資料を配布し,説明する。

・本時の振り返りをするよう促す。

(4)本時の評価

・食物連鎖の関係から生物濃縮の仕組みを主体的に探究することができたかを,ゲームのようすやワークシートの記載状況から評価する。

・生物濃縮について考え,環境保全に対して正しく判断する態度を養うことができたかをワークシートの「本時の振り返り」の記述から評価する。

5.授業の様子

◎体育館でえさ(ストローをきったもの)を集める虫役の生徒たち

胃袋代わりのビニール袋にえさとなるストローを入れていく。
1つでも多くえさを集める生徒もいれば,マイペースでゆっくりと集める生徒もいた。
1分でフィールドのえさはきれいに無くなった。

◎集めたえさの数を数える生徒たち

虫にとっては「ストローの数」=「捕まえたえさの個体数」となる。

◎集めたえさのうち排泄されずに体内に残るえさの数を付箋に書いて一つの表にまとめた。


上層の生物ほど捕まえた個体数が少なくても体内に残る物質の数が増えやすいことに気付くことができた。

6.ゲームのルール

食物連鎖ゲーム

① 学級36人を,虫役29人,魚役5人,鳥役1人に分ける。(少ない場合,虫役で人数調整)

② 始めに虫だけフィールドに入り,1分間にフィールド内のえさ(色付きストローを切ったもの)をできるだけ多く拾う。拾ったえさは胃袋(ビニール袋)に1個ずつ入れることができる。

③ 時間になったら,虫用カード2枚(白・オレンジ)に食べたえさの数を記録する。

④ 次に,その中に魚が入り,30秒間にできるだけ多くの虫を捕まえる(鬼ごっこをする)。

⑤ 捕まえたら,虫からカード(オレンジ)をもらう。虫は捕まったら,その場にしゃがんで待つ。

⑥ 時間になったら,虫はフィールドの外へ。魚はもらった虫用カード(オレンジ)を参考にして,自分の得たえさの数を魚用カード2枚(白・黄)に記録する。

⑦ 次に,中に鳥が入り,30秒間にできるだけ多くの魚を捕まえる(鬼ごっこをする)。

⑧ 捕まったら,魚からカード(黄)をもらう。魚は捕まったら,その場にしゃがんで待つ。

⑨ 最後に,鳥はもらった魚用カード(黄)を参考にして,自分の得たえさの数を鳥用カード(白)に記録する。

☆ゲームで使う記録用紙(虫用)
☆ゲームで使う記録用紙(魚(鳥)用)

7.参考資料

マグロ過食に注意 妊婦から胎児へ影響

毎日新聞2016年11月28日 07時00分(最終更新 12月1日 14時59分)

マグロやメカジキなどメチル水銀を比較的多く含む魚介類を妊婦が食べ過ぎると,生まれた子の運動機能や知能の発達に悪影響が出るリスクが増すことが,東北大チームの疫学調査で分かった。メチル水銀は水俣病の原因物質だが,一般的な食用に問題のない低濃度の汚染でも胎児の発達に影響する可能性があることが明らかになるのは,日本人対象の調査では初めて。

<妊婦へ周知徹底を!>メチル水銀の健康への影響,研究進まず

2002年から,魚をよく食べていると考えられる東北地方沿岸の母子約800組を継続的に調査。母親の出産時の毛髪に含まれるメチル水銀濃度を測定し,子に対しては1歳半と3歳半の時点で国際的によく用いられる検査で運動機能や知能の発達を調べ,両者の関係を分析した。

毛髪のメチル水銀濃度は低い人が1ppm以下だったのに対し,高い人は10ppmを超えていた。世界保健機関などは,水俣病のような神経障害を引き起こす下限値を50ppmとしている。

濃度が最高レベルの人たちの子は最低レベルに比べ,1歳半時点で実施した「ベイリー検査」という運動機能の発達の指標の点数が約5%低かった。乳幼児期の運動機能は将来の知能発達と関連があるとされる。3歳半時点の知能指数検査では男児のみ約10%の差があった。海外の研究で,男児の方が影響を受けやすいことが知られている。

国は05年,海外の研究を基に,妊婦に対しメチル水銀の1週間当たりの摂取許容量を体重1キロ当たり100万分の2グラムと決めた。厚生労働省はこれに基づき,クロマグロの摂取は週80グラム未満とするなどの目安を示している。今回の調査では食生活も尋ねており,約2割がこれを超えていたと考えられるという。

研究チームの仲井邦彦・東北大教授(発達環境医学)は「目安を守れば,影響は心配しなくてよいと考えられる。魚には貴重な栄養も含まれており,妊婦が魚を断つことは好ましくない。食物連鎖の上位にいるマグロなどを避けサンマなどを食べるなど,魚種を選ぶことが大切だ」と話す。

8.まとめ

【成果と課題】

・小学校で学習している食物連鎖について,数的視点から生物濃縮に着目させる手立てとして,ゲームを利用することで生徒の意欲喚起につながった。

・日常の食生活に食物連鎖を関連付け,環境問題とのつながりも意識させることができた。

・「えさ」という表現が虫・魚・鳥によってそれぞれ異なる物質のため,授業内で言葉の使い方に苦労した。丁寧な説明をすることが必要と感じた。

・生徒自身が自分の言葉でまとめ,表現できるように,各班で議論できる食物連鎖ピラミッドシートを用意することで思考がさらに深まると感じた。

※参考文献

毎日新聞 http://mainichi.jp/articles/20161128/k00/00m/040/119000c