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理科

光合成で利用される光の色を分光器を用いて探究する授業の実践

尼崎市立塚口中学校 皆倉 陸

1.はじめに

本単元「植物の体のつくりとはたらき」では,植物の生命活動である光合成について観察・実験を通して理解を深めるとともに,身近な自然事象に対する科学的な探究の能力や態度を養うことをねらいとしている。 生徒はこれまでに,光合成が行われる場所や必要な物質,生成される物質,あるいは光のエネルギーが利用されていることについて学習している。しかし,これらの学習は「光が必要である」という定性的な理解にとどまりやすく「どの色の光が関わっているのか」にまで目を向ける機会は少ない。日常的に目にする「植物の葉が緑色である」という事実と,光合成で利用される光の波長(色)を関係づけて捉えることは,生徒にとって容易ではない。

また,「植物は緑色だから,緑色の光を一番使っているのではないか」という生活経験に基づいた誤概念を持つ生徒が多く,知識として「赤や青の光が使われる」と暗記するだけでは,自然現象を本質的に理解したとは言えない。 そこで本実践では,身近なほうれん草から抽出した光合成色素と,手作りの簡易分光器を用いた探究的な学習を展開した。目に見えない光の吸収現象を視覚的に検証する試行錯誤を通して,生徒が科学的な根拠に基づいた因果関係を考察し,より深い探究へと向かう姿を目指した。

2.使用教材について

① 簡易分光器とプリズムシート

図1 作成図

図2 自作した簡易分光器の外観

図3 分光器の内部構造と仕組み

② 光合成色素の抽出液(ほうれん草汁)

3.授業実践(学習指導案・ワークシート)

<学習指導案の展開>
4.実践の説明

① 実験前予想

本時の最大のポイントは,実験前の「予想」段階における生徒の誤概念の表出と,それに対する教師の適切な問いかけであった。 予想段階の集計では,クラスの過半数を超える25人が「緑色」と予想し,その理由は「葉の色と同じだから」というものであった。また,「青色(4人)」は「空の色と同じ」,「赤色(4人)」は「太陽の色と同じ」という直感的な理由が主であった。さらに,緑以外の光と答えた2人の生徒は,1年生の時に行った「光の反射の実験」という既習事項を根拠に「緑が反射しているから,それ以外の光が吸収されているはず」という極めて科学的なアプローチを試みていた。

ここで教員から,「もし緑色の光がすべて反射されている(吸収されていない)のであれば,光が通り抜けないため葉の裏側は真っ黒に見えるはずではないか」という一言を投げかけた。この発問により,単に「葉が緑だから緑を使う」と盲信していた生徒たちに「なぜ裏側も緑(あるいは光が透けるの)だろう」という認知のズレが生じ,実験への目的意識が劇的に高まった。

② 実験結果

実際の実験において,分光器から覗いた結果(図4,図5)。

図4 ほうれん草汁がない時(通常時)
(青・緑・赤の光が連続して綺麗に分光している)

図5 ほうれん草汁を光に通した時
(青と赤の光が薄く消え,緑は残っている)

分光器の前にほうれん草汁を置くと(図5),通常時に見えていた美しい虹の帯(図4)のうち,「青色光」と「赤色光」が消失し,「緑色の光のみ」が確認できた。 生徒たちのまとめた文章を見てみると,「緑色が見えているということは,ほうれん草(葉緑体)を通り抜けてきた光だから,光合成には使われていない」「見えなくなった青と赤の光こそが,葉に吸い込まれて光合成のエネルギーになった。」と,原因である光の吸収と結果のスペクトルの変化の因果関係を自らの目で捉え,論理的に納得することができた。

③ 授業のまとめ

授業の終盤では,導入での「葉の裏側は真っ黒のはず」という問いかけを回収し,植物学的な知見に基づいたまとめを行った。解説にあたっては,田中 修 著『ふしぎの植物学 身近な緑の知恵と仕事』を参考文献として引用し,以下のように説明を施した。

■ 葉が緑色の理由

植物は成長のために光を必要とします。太陽の光にはさまざまな色の光が含まれており,虹に見られるように本来は7色に分けられますが,植物に関係する光は主に4種類(青色光・緑色光・赤色光・遠赤色光)に分類されます。これらの光がすべて混ざると,白色光になります。

葉に光を当てたとき,どの色の光が透過しやすいかを示したデータ(図6)を見ると,太陽の光が葉に当たった際,青色光や赤色光はほとんど透過せず,葉に「吸収」されていることがわかります。一方,緑色光は透過しやすいという性質を持っています。そのため,葉を裏から見ると,葉を通り抜けた緑色光が目に入ります。また,表から見ても葉が緑色に見えるのは,葉で吸収されなかった緑色光が「反射」して目に届くからです。

緑は植物を象徴する色であり,緑色をした植物はまるで緑色が好きなように思えるかもしれません。しかし実際には,葉は緑色を吸収せず,反射したり透過したりするため,結果として緑色に見えているのです。

図6 葉を透過する光
参考 「植物生理学」 増田芳雄・菊山宗弘 編著

図7 光合成の役立つ光

さらに,生徒たちの「じゃあ,緑色の光は光合成に全く役に立っていないのか?」という新たな疑問に対し,図7(光合成の役立つ光)を示しながら次のように補足を加えた。

葉に吸収される光が,本当に光合成に役立つかを示したのが図7です。葉に吸収される光と,光合成に有効な光のグラフは見事に一致しています。つまり,「葉によく吸収される光(青・赤)は光合成に有効に働き,あまり吸収されない光(緑)は光合成にはあまり役立たない」ということです。

しかし,ここで重要な事実があります。緑色光は,青色光や赤色光に比べると吸収される量は少ないですが,それでもかなりの量が葉の内部で吸収されています。そして,緑色光のように吸収されにくい光であっても,一度吸収されれば,青色光や赤色光と同じように光合成に利用されます。

したがって,植物は青や赤の光を特によく使いますが,緑色光をまったく使っていないわけではなく,きちんと光合成に役立てているのです。

このように,単に「緑は反射されるから使われない」という一面的な理解で終わらせず,「反射だけでなく透過もしていること」,そして「量は少ないながらも緑色光も確実に光合成に貢献していること」へと視野を広げさせることで,自然界の仕組みの巧妙さに迫る深いまとめを展開することができた。

5.終わりに

本実践では,生徒が陥りがちな「葉が緑色だから緑の光を使う」という誤概念を,手作りの分光器という視覚的教材と,教師の意図的な揺さぶりの発問によって,本質的な科学的探究へと導くことができた。 1年生の既習事項(光の反射)を結びつけて「緑以外」と推論できた生徒の存在は,クラス全体の思考の質を引き上げる契機となり,単なる知識の暗記ではない「証拠に基づく論理的思考」の充実を達成できたと感じている。

【参考文献】

田中 修(2003)『ふしぎの植物学 身近な緑の知恵と仕事』中央公論新社