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理科

主体的な学びの効果を生徒に気付かせる,部分的自由進度学習のすすめ

東京都墨田区立文花中学校 須永 健一

1.はじめに

自由進度学習という言葉は,令和5年に「子供たちが主体的に学べる多様な学びの実現に向けた検討タスクフォース論点整理」の文面に記載されている。

そこでは,現行の学習指導要領(平成29年・30年)で示された,「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善を通じて,これからの時代に必要な資質・能力を子供たちに育成していくこと,学校における一人1台端末の導入も踏まえ,「個別最適な学び」と「協働的な学び」を一体的に充実していくことの必要性を指摘し,その取組として,既にいくつかの地方自治体や学校において,単元内自由進度学習を取り入れることで,子供が自らの興味・関心などに応じて主体的に学ぶことができる時間を設けている,とある。

中学校理科においては,ICT機器の普及や生徒に一人1台のタブレット端末が配布された事で,授業において授業者が画像や動画を配信しやすくなり,生徒自身も調べ学習などにおいて,簡単にインターネットを使用することができるようになった。また,各校では生成AIを利用したデジタル問題集を導入するなど,新たな学習方法が実践されている。

しかしながら,単元によっては一斉授業になりやすい部分がある。それが,生物分野(植物や動物,遺伝など),地学分野(地震や火山,天気,天体など)といった実験や観察が,他の単元より比較的少ないまたは,難しい旧2分野の単元である。

令和3年に文部科学省の第123回教育課程部会において発した「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して」において,これまでの実践とICTとの最適な組合せを実現すると記載されていることから,決して一斉授業が否定されているものではないが,少しでも生徒たちが,自らの興味・関心などに応じて主体的に学ぶ環境が構築できないかと考え,既に実践されている地方自治体や各校の取組を参考にしつつ,誰でも真似できる範囲の自由進度学習を実践した。

その結果をまとめたので,以下に記述する。

2.自由進度学習の部分的導入

自由進度学習を実践している地方自治体や各校の資料を見た学習方法から得たイメージを以下にまとめた。

各資料からは授業者たちの素晴らしい努力や学校としての取組が充実している様子が伺えた。一方で,準備等,授業者の負担が膨大であること,授業者側が教えないことによる,児童生徒たちの学力差が更に広がるのではないかという不安が大きいことに,自由進度学習が実践し辛い理由があると感じた。

そこで私は,教員の負担が少なく,かつ児童生徒たちが自分のペースで学習できる自由進度学習の部分的導入を考えた。それを以下にまとめる。

①は学力差の拡大予防,②は個々に任せた長時間の学習活動は,生徒の負担が大きくなったり,飽きやすくなると判断しての設定,③は生徒及び授業者の定着度の確認,④と⑤は生徒の学習の個性化を,⑥はより良いノート作りの参考や,自力ではノートが作れない生徒の配慮として行ったものである。⑦は生徒の能力に合わせた指導の個別化を図るとともに,色やイラストを用いている等,工夫していると判断した部分を具体的に褒めることで,生徒の自信や関心,興味を高め,より主体性をもって課題に取り組もうとする姿勢を養うこと,そしてそれを聞いた他の生徒にも同様の効果を波及させることを目的としている。

また最初の説明で,ルーブリックを用いて評価基準を事前に定めておくことで,生徒たちは何についてまとめればよいのかが明確になり,評価だけでなく学習の方向性も全体で一致して共有できる。さらに,小テストには評価基準の内容をそのまま問題として採用することで,「勉強すれば,授業で教わらなくても解く事ができる」という達成感を生徒に与える事ができる。

最終的には,生徒が家庭での学習方法や知識の定着確認(ここではアウトプットと呼ぶ)の重要性を学び,ノートをきれいにまとめても,なかなかテストで良い点が取れない原因が,アウトプットの不足であると理解させていく。

なお,テストの解説は行うが,ノート作りの範囲を再度,一斉授業のような形で行う事はしない。また,希望者を募って放課後に補習を行うこともしていない。定期考査前に生徒から要望があれば,他の小単元と併せて補習を行うことはあったが,あらかじめ授業や補習ありきでは計画していない。

3.授業実践

今回,実践した内容は中学1年理科における「地層のでき方と広がり」,「地層の岩石」の単元である。

4.結果と考察

上記の単元において実施した自作ノートとテストの正答率は以下の通りである。

①自作ノートの評価 *全ての評価基準を満たした場合をAとし,1つ含まれない毎にB,C…と下がる。

②確認テストの正答率 学年平均点:13点(全11問,1問2点で評価) 中央値:14点

76名がテストを受けた。なお,正答率の小数点は四捨五入している。

1.「~を何と言うか」単語を問う,知識問題(全て漢字指定での記述,部分点は取り入れず)

問1:「風化」 正答率87% 問2:「侵食」 正答率55% 問3:「運搬」 正答率56%
問4:「堆積」 正答率66% 問5:「堆積岩」 正答率68%
  • 単語を問う問題文は,教科書の文章を可能な限り原文で採用した。
  • 「侵食」や「運搬」には,「浸」や「搬」など,部首による漢字間違いが比較的多く見られたが,授業で教えていなくとも,半数以上の生徒達は単語の意味を理解できたといえる。

2.資料(柱状図)から思考する問題

問1:地表は何の層か(記述) 正答率82% 問2:泥はどこで堆積するか(選択) 正答率29%
問3:凝灰岩がある意味(記述) 正答率53% 問4:石灰岩とチャートの違い(選択) 正答率72%
問5①:2本の柱状図のうち高い場所はどちらか(選択) 正答率46%
  ②:2本の柱状図の高低差は何mか(記述) 正答率16%
  • 評価基準である石灰岩とチャートの違い(塩酸との関係)については,高い正答率を出すことができた。
  • 泥は最も粒子が小さく,水の終着地である「海」を選択する事が正しいが,教科書では「小さい粒子ほど遠くへと運ばれる」という表現で留まっており,そこから海を想像できなかったようである。なお,インターネットを併用した生徒の中には,「れき」,「砂」,「泥」が堆積する場所(川の上流など)がノートに細かく記載されていた。
  • 最も正答率が低かった問題は,二本の柱状図から鍵層を見い出し,そこからより高い場所で採取した柱状図を答える問題だった。ノート作りは知識の定着には高い効果が見られるものの,資料から必要な情報を見い出すような思考力が問われる問題に対応できるかについては課題が見られた。この点に関しては,問題演習によるアウトプット,または生徒たちが問題を自作する活動を通して解決できると考える。

③定期考査からの変容

約1か月後,確認テストの類似問題を定期考査で出題し,正答率の変容を調査した。なお,確認テストの解説及び,問題演習を授業内で行ったが,ノート作りを行った範囲を最初から教えるような授業は一切行っていない。

①問題文から「風化」の単語を答える記述問題 正答率69%(▼18%)
②問題文から「堆積」の単語を答える記述問題 正答率72%(△ 6%)
③凝灰岩が噴火の証拠であることを答える記述問題 正答率69%(△16%)
④石灰岩とチャートの意味と塩酸との反応を選ぶ問題 正答率68%(▼ 4%)
  • 確認テストで正答率が70%を超えていた問題①④は減少し,70%以下だった②③は増加が見られた。
  • 確認テストとは出題方法が異なるが,柱状図と等高線の図を関連させた問題の正答率は50%を下回っている。ノート作りが基礎知識の定着に有効である一方,思考的な面においては,十分な効果が見られない事が分かった。しかしながら授業形式で行っても,柱状図関連の問題の正答率は伸びづらく,授業をしなかったために,低い正答率になったとは考えにくい。

5.成果と課題

部分的自由進度学習における成果と課題は以下のとおりである。

【成果】

  • 座学的な一斉授業であれば,授業者が黒板上で教えなくても,生徒自身がノートにまとめることで,基礎知識を定着させることができる。
  • 生徒はノートをまとめる方法を理解できるようになり,今後の家庭学習に応用できるようになる。
  • 生徒は知識の定着だけでなく,ノート作りを通じて,自分自身で計画性をもって主体的に行動する力を養う事が出来る。

【課題】

  • ノート作りだけでは,資料等を読みとる力は十分に身に付かず,思考力を問う問題に対応しづらい。
    → 問題演習や解説等で対応する。
  • ノートをまとめられない生徒(主に低学力かつ自己肯定感の低い層)が,何も書けないまま時間が過ぎてしまいやすい。
    → 机間巡視の際に,対象となる生徒を見極め,他の生徒よりも時間をかけて個別に指導・助言を行う。

6.終わりに

これまで,「教科書を読む」,「インターネットで調べる」,「他の生徒の作品を参考にする」という方法でノートをまとめてきた。今後の展開として,「動画を視聴して理解する」,「生成AIに指示して解説してもらう」方法を新たに追加し,生徒の自由の幅を広げていく予定である。特に生成AIについては,各自治体の方針が異なるため,授業者が十分に把握してから活用する必要がある。

このノート作りの手法は3年前より実践しており,その都度改良を加えてきた。生徒が自作したノートは,最初こそノートに直接書いて完成させるだけだったが,回数を重ねるにつれ,全てタブレット端末上で完成させた生徒や,途中までを手書きし,その後タブレット端末に取り込んでからイラストや写真など,書く負担の大きいデータを貼り付けて完成させた生徒も現れた。このように,授業の中である程度の自由を用意する事で,生徒たちは自主的に対応し,工夫していく力が養われていくと感じた。

また,この方法は,授業者にとって,配慮を要すべき生徒に集中して指導・助言を行う事ができ,また学力の高い生徒にとっては,自分のペースで学べ,かつ問題集などの課題に取り組む時間が十分に確保できる結果となった。特に生徒や保護者等からの苦情もなく,今の所,受け入れてもらえていると思っている。

私は,一人でも多くの生徒が理解できるよう,丁寧なプリントや板書の書き方を目指してきた。そして授業規律が保たれ,静かな環境で生徒達と問答を繰り返す事が目指すべき授業の在り方の一つだと思っていた。しかし,ある指導教諭から,「あえて不完全なものを提供することで,生徒達は工夫しようと考え,行動する」という言葉を受け,ならば丁寧なプリントや板書ではなく,生徒自身でゼロから学ぶ時間を設けてみようと,今回の手法へと辿り着いた。生徒の中には教科書の文面を丸写しただけのノートも見られるが,まずはそれでも構わないという視点を授業者がもち,その生徒の努力を認めつつ,次に何を目指させるべきかを考え,指導していく事が,これからの個別最適化につながると考える。

ささやかながら,この方法が一人でも多くの教員や生徒達の助けとなれば幸いである。