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理科

「海の森プロジェクト」の学習を通して,現代の環境問題について考える

和歌山県白浜町立日置中学校

1.はじめに

本校では「総合的な学習の時間」に全校生徒(21名)で,探究学習「海の森プロジェクト」に取り組んでいる。

「海の森プロジェクト」とは,近年問題となっている地球温暖化について,森林がもたらす「グリーンカーボン」よりもCO2の捕足率の高い海洋の「ブルーカーボン」に着目し,地球環境を守るためのプロジェクトである。現在,世界中で藻場の減少が問題となっている。そこで,日置中学校では,海に近い地理的特性を活かして藻場の再生を目標にかかげ,まずは近隣の海にアマモ場を作ることを計画している。その第一歩として,現在,育苗システムの開発に取り組んでいる。具体的には,教室内の水槽でアマモを発芽させ,種子を量産する条件の確立を目指している。現在,水槽内での発芽,種子の採種に成功した。今後は水槽で採取した種子を再度水槽内で発芽させる,循環の再現性を高める実験を予定している。また,これと並行して,アマモを投苗できそうな近隣の海洋調査を進めている。この取組は,和歌山工業高等専門学校様,長野県の日置(ひおき)電機株式会社様と協力し進めている。

「海の森プロジェクト」を通して,地方で学ぶ生徒たちがグローバルな環境問題について目を向け,行動できるような人材の育成を目指している。実験においては,生徒たちが班ごとに分かれ,それぞれが条件を考え実験し,結果を考察しながら再実験を行うという探究の過程を重視している。これにより,「主体的・対話的で深い学び」の実現に取り組んでいる。

2.取組の経緯

R5年度より取組がスタートした。

◎R5年度の取組

  • ①  9月:担当生徒による事前学習。内容を共有。
  • ②10月:学習開始。日置電機(株),和歌山工業高等専門学校とともに,本プロジェクトの概要を共有し,本校で水槽を設置。
    ・現代の環境問題を理解し,自分たちにできる取組を体験する。
    ・地球温暖化の学習。影響,対策について学ぶ。
    ・目的を共有し,自分とは違う知識や技能を持つ人と協力,共同で研究し,実現する。
  • ③11月:水槽内人工海水の作成,第一期実験条件を考え,実施。
  • ④12月:第一期実験の考察,第二期実験条件を考え,実施。
  • ⑤  1月:第二期実験の考察,第三期実験条件を考え,実施。
  • ⑥  3月:第三期実験の考察,第四期実験条件を考え,実施。

楠部教授によるガイダンス

日置電機さんと水槽の組み立て

機材の使い方について学ぶ

◎R6年度の取組

オンラインでの授業

実験条件を考える

実験準備

3.授業実践記録

和歌山工業高等専門学校生物応用化学科,楠部教授より教えていただいたアマモの育つ実験条件は
・表面より3~5cmのところに種を植える。
・水温13℃
・光が必要(LED使用)

→30日頃までに1~2cmの白い幼芽鞘(ようがしょう)ができれば成功。それまでに変化がなければ実験は失敗。
その後3~4cmの緑の葉が育ち種の周りは黒色に変化する。

◎第一期
目的:アマモの発芽に最適な条件を見つける。
方法:7班に分かれ,各班で条件を設定し,実験を行う。
計画:

1班 種の深さ3~5cmでの発芽が適していることより,6cmの深さではどうなるのか知りたい。成長には塩分濃度が関係していると仮定し,通常より深く埋める代わりに塩分濃度7%にする。
2班 生き物を一緒に水槽に入れるとどうなるのか調べたい。花壇の土には栄養がありそうなので使用する。
3班 種は深ければ深いほど育つかもしれないと仮定し,7cmにする。
4班 デンプンには栄養があるので片栗粉と味の素を砂に混ぜる。
5班 塩分濃度の関係を知りたいので汽水にする。
6班 入ってくる光の量を調整するため食紅で色を付ける。
7班 日置の海で実際に育つのか知るため,日置海岸の砂を使用する。

結果:

1班 塩分濃度変更可能な水槽がないため未実施。
2班 生き物を入れる水槽がないため,この部分については未実施。
発芽した。花壇の土は1年培養土に堆肥を混ぜたものなので栄養があったのかもしれない。養分が高いほど育つのかもしれない。
3班 発芽しなかった。7cmは深すぎたと考える。
4班 カビが生え水が腐っている。味の素と片栗粉の入れすぎかもしれない。水が循環していなかったからかもしれない。
5班 塩分濃度変更可能な水槽がないため未実施。
6班 赤色だけ色が抜けていた。赤色だけ白い幼芽鞘が長く生えている。理由は分からない。
7班 発芽した。芽が出やすい深さを選んだからかもしれない。芽が出たものと出ていないものがあるのは指で深さを測ったので深さに差があったからかもしれない。

考察:7班中2つの班は実験条件を整える水槽がなかったので実施できなかった。残りの5班中2つの班で発芽が確認できた。花壇の土や日置の海岸の砂には養分が多く含まれていたのかもしれない。データ数が少ないため時期も各班でさらなるデータの収集が必要である。

カップに種子を植える

水槽内で発芽したアマモ

水槽内で成長したアマモ

◎第二期
目的:引き続き,アマモの発芽に最適な条件を見つける。
方法:7班に分かれ,各班で条件を設定し,実験を行う。
計画:

1班 前回未実施のため同条件で実施。
2班 養分が高い土ほど育つのでは,ということからより新しい培養土を使う。
3班 深さは重要だと分かったので4cmにする。野菜作りにも用いられるもみ殻が良さそうと考え,もみ殻と砂を混ぜる。
4班 片栗粉と味の素では,よりよい実験結果に結びつかなさそうなので中止。他の班と同じ砂や土を利用するが,他の班と違うことをしたいので貝殻をいれる。貝殻の上に砂,その上に花壇の土。
5班 前回未実施のため同条件で実施。
6班 日置の海で実際に育つことを想定した実験内容とする。第一期の他の班の結果より,日置海岸の砂と花壇の土を半分ずつ混ぜてコップに10cm入れる。種の深さは3~5cmがよく育つと聞いたので4cmにする。
7班 発芽したので砂には問題なさそうと考え,再度海岸の砂を入れる。深さの差が関係しているのか知るため,埋める深さを1cmずつ変える。日置の海で実際に育つことを想定してみるため,日置の海の海水を使用する。

結果:

1班 発芽しなかった。塩分濃度が高いと発芽には適していないと考える。種を植える深さも5cmより深い6cmでは発芽しなかった。砂の粒の大きさも関係しているのかもしれない。
2班 発芽した。花壇の土に含まれる肥料が関係していると考えた。1回目,2回目ともに花壇の土を用いたが,1回目の方が発芽率がよかったのは花壇の土の上に砂をかぶせたことが関係しているのか,もしくは培養土の鮮度の古いものの方がいいのか,分からない。
3班 発芽した。種の深さを7cm→4cmにしたのがよかったのかもしれない。種の深さはやはり関係があると考える。もみ殻が発芽に関係しているのかはまだ分からない。
4班 発芽しなかった。砂が多すぎたからかもしれない。花壇の土で発芽した班もあったので花壇の土に問題はないだろう。貝殻は意味がなかったのではないか。
5班 発芽しなかった。汽水は発芽に適していないのではないかと考える。
6班 発芽した。花壇の土を使ったので肥料が入っていてよかったのではないか。種の深さも最適だった。
7班 発芽しなかった。深さが浅いと発芽しないことが分かった。

考察:7班中3つの班で発芽が確認できた。種の深さはやはり関係していると考えられる。6cm以上では発芽が確認できていない。花壇の土の鮮度が発芽に関係している可能性がある。塩分濃度の低い汽水や高い海水での発芽が確認できていないことから,塩分濃度も関係していると考えられる。データ数が少ないため時期も各班でさらなるデータの収集が必要である。

◎第三期
目的:引き続き,アマモの発芽に最適な条件を見つける。
方法:7班に分かれ,各班で条件を設定し,実験を行う。
計画:

1班 6cmの深さでは発芽しなかったので4cmと5cmで実験する。塩分濃度7%では発芽しなかったので日置の海岸の塩分濃度と同じ4%の人工海水を準備。砂の粒の大きさが影響しているのか知りたいので花壇の土と砂を同じ分量で混ぜる。
2班 1回目,2回目の実験結果の比較から,新しい培養土より,もともと花壇にあるものの方が発芽率が良かったので1回目の条件に戻し,花壇の土を使用する。そもそも土はたくさん必要なのか知りたいので全体的に少なくしてみる。
3班 深さは重要と考えるので,前回発芽した4cmにする。もみ殻が飛び散るのを防ぎたいので,もみ殻と砂を混ぜ,1週間培養土にしてから実施する。
4班 2回目と同じ方法で貝殻は入れない。花壇の土は良さそうなので7:3で花壇の土:砂を混ぜる。将来自然界に植えることを想定し,日置の海水を使う。
5班 汽水は発芽しないと考えたので海水にする。花壇の土は栄養があり,海の砂は塩分があるのでよさそうと考え,花壇の土と海岸の砂を7:3で混ぜる。その他の条件は前回と同じにする。
6班 実際に海に植えることを想定し,日置の浜の砂を使う。砂の細かさを比較するため,細かい砂と粗い砂で分けて実施。種の深さは前回同様4cmとする。
7班 日置の海水でもう一度実験。他の班の結果より花壇の土が良さそうなので浜の砂をやめて花壇の土にする。浅いと種が出てしまうので深さ3~4cm。貝殻は本当に意味がなかったのか確かめるため,貝殻ありとなしの土を用意。

結果:

1班 発芽した。花壇の土はやはり良いのではないかと考える。
2班 発芽した。やはり新しい土より花壇にもともとある土の方が発芽率が高い。微生物が関係しているのかもしれない。全体的な土の量を少なくしたが発芽したので,関係なさそうだと考える。
3班 発芽した。もみ殻は培養土になっておらず飛散した。種4cmは発芽したが,種7cmは発芽しなかった。しかし,今回までの実験結果からは,もみ殻が関係しているのか種の深さが関係しているのかは分からない。
4班 発芽した。5班と比較し,砂浜の砂と普通の砂を比べてどちらも発芽したので関係ないと考える。
5班 発芽した。汽水では発芽しなかったが,日置の海水で発芽したので,塩分濃度は重要である。4班と比較し,砂浜の砂と普通の砂を比べてどちらも発芽したので関係ないと考える。
6班 発芽した。細かい砂も粗い砂も発芽したので粒の大きさは関係ないと考える。
7班 発芽した。貝殻あり,なしで差はなかった。

考察:7班中全ての班で発芽が確認できた。第一期~第三期の結果から,日置中学校では,花壇の土が発芽に適しているとした。しかし,花壇の土の鮮度により発芽率が違うことや,成分についてはまだ確認できていないため,今後はその点について明らかにしたい。学校で実験した範囲内でのその他の砂や土は発芽への影響に大差はない。塩分濃度が3%以下の汽水や,7%以上の海水での発芽が確認できていないことから,3~5%の塩分濃度が適切であると確認することができた。また,種の深さも浅すぎると飛散してしまい,深すぎると発芽しないことから,3~5cmが適切であると確認することができた。
水槽内で硫化水素が発生しているカップがいくつか確認された。硫化水素の分解に目を向けた実験も必要である。引き続き,各班でさらなるデータの収集が必要である。

◎第四期
目的:硫化水素の発生に目を向け,分解について考える。

方法:硫化水素の分解に効果的だとされている鉄を使った実験を行う。各辺で条件をそろえ,比較する条件を統一した実験を行う。

計画:

統一する条件・・・日置の自然海水,日置の海岸の砂

1班 種の深さ3cm,釘あり
2班 種の深さ3cm,釘なし
3班 種の深さ4cm,釘あり
4班 種の深さ4cm,釘なし
5班 種の深さ5cm,釘あり
6班 種の深さ5cm,釘なし

結果:

1班 発芽していない。
2班 発芽していない。
3班 発芽していない。
4班 発芽していない。
5班 発芽していない。
6班 発芽していない。

考察:7班中全ての班で発芽が確認できなかった。種の深さ3~5cmの差,釘を入れることによる鉄の影響はあまりないと考える。日置の自然海水,日置の海岸の砂,種の深さ3~5cmでの発芽が以前確認されていることから,釘が発芽に影響を及ぼしたのか,もしくは他に何かしらの要因があったのかは明らかでない。
前回までの条件から花壇の土には何かしらの栄養分があり,それについての詳しい研究も必要である。

◎第五期
目的:花壇の土の栄養分について比較し,詳しく知る。
方法:班ごとに種類を変えた培養土をホームセンターで購入し,発芽への影響について調査する。
計画:統一する条件・・・種の深さは3~5cm,各班人工海水と自然海水の2種類を用いる。各班2カップ×2。
結果:各班発芽しているカップ,していないカップがあったが,現段階では条件の差異による信ぴょう性が低い。

考察:土の量に班ごとで差があったので統一する必要がある。今回は水槽内がかなり汚れている。腐葉土は軽すぎるため土が水に浮き水が汚れる可能性があるので砂と混ぜることで重さを出すとよいのかもしれない。異なる海水での発芽に差はみられない。実験条件が班ごとにばらつきがあったため,再度条件を統一し,再実験を行う。

◎第六期

目的:前回の条件が整っていないことから,結果の信ぴょう性が低いと考えたため,再度条件を整え,土の比較実験を行う。発芽に有効な土の成分を知り,今後,よりよい条件に基づいたアマモの育成ができるよう準備を進める。

方法:班ごとに種類を変えた培養土をホームセンターで購入し,発芽への影響について調査する。

計画:統一する条件・・・種の深さは3~5cm,各班人工海水と自然海水の2種類を用いる。各班2カップずつ。
前回の反省より,培養土にグラウンドの土を混ぜて濃度を低くし,水槽が汚れない対策を行う。土の量を統一するため,カップにラインを引き,土を入れる。土が軽すぎて浮いてしまうということのないように,種を植える前に土を湿らせてから種を植える。また,水槽にカップを入れる前には,カップをラップで覆ってから入れ,そのあとラップをはずす。

水槽内でさらに成長したアマモ

水槽内のアマモの花

水槽内のアマモの種子

4.成果と課題

[成果]

[課題]

4.おわりに

本プロジェクトは,生徒たちにとって自分たちの暮らす町の海,自然について考えるきっかけとなっている。また,プロジェクトを進める中で,地域の方々や,普段接点を持つことのない高等専門学校の教授や学生さん,外部企業の方々との関りを深める良い機会ともなっている。今後は三者の連携をさらに強化してプロジェクトを進め,水槽でのアマモの育苗や,採種システムの構築に取り組む。そのうえで,地域の海でのアマモ場の再生を目指し,将来的には日本全国,さらには世界中にブルーカーボンを広める一端となれるよう努めたい。