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理科

「プラスの原子核とマイナスの電子で原子はできていること」を実感させることを目指した静電気の授業

法政大学中学高等学校 川島 健治

1.はじめに

原子は+(プラス)の原子核と-(マイナス)の電子でできている。この原子の構造をただ口頭で教えただけでは,原子が+の原子核と-の電子でできているという実感を持ちにくい。例えば,高校で原子は+の原子核と-の電子でできていることを学んだ生徒は,「金属は自由電子があるので電子はあると思うのですが,野菜のネギに電子はあるのですか?」と質問してくる。また,2018年原子の構造を学んでいない中学2年生に静電気を教えたさい,「摩擦していない物質は,+と-の電気が両方ふくんでいるか?」という質問をした。32人中3人(9.4%の生徒)の生徒が「もともと+と-の電気を両方含む」と答え,32人中29人(90.6%の生徒)の生徒が「もともと電気を含まず,摩擦によって電気が生じる」などと解答した(川島,2019)。

このように,原子が+の原子核と-の電子でできているとう実感を持ちにくい。これは,原子や分子でできた物質は,+と-が同数存在し電荷量が±0になっているため電気的な性質を感じにくいことが原因であると考えられる。そこで,学習者(中学生)が実感をともなって「物質は+の原子核と-の電子が両方含んでいる」と理解できるような授業を組む必要ある。

次の(A)〜(C)の3つの事柄を事前に教えることによって,「物質はもともと+と-の電気を両方含んでいる」と自然に考えられるプランを作成し,実践した。

写真1:静電気メーター

物質の電荷が+か-になるかを調べるために,田中英二氏(元愛知県立高校教員)が作成した静電気メーター(写真1)を利用した。この静電気メーターは,帯電した電荷を近づけた時に発生する電圧を測定することで,正負を含めて帯電量を測定する静電気メーターを自作している。今回利用したものは,帯電量を表示するものではなく,正負が表示されるものを利用した。近づけた物質が+の場合は赤と黄色のLEDが光り,-の場合は青と緑色のLEDが光るという装置である。写真1の空き缶の上部に帯電体を近づけると,電荷の種類に応じてLEDが光る。

2.授業実践記録

【質問】
静電気と聞いて,思いつくことを教えてください

この質問に,生徒は次のような発言をしてくれる。

そこで,教員は次のような話をする。

そこで,次の実験1を行う。

写真2:ティッシュペーパー
をスタンドに固定

【実験1】

  • ① パン,ニンジン,石,木,茶碗,缶(スチール製),消しゴムをそれぞれストロー(ポリプロピレン製)に貼りつけ絶縁したものを用意する。
    また,ティッシュペーパーを10 cm×3 cmの大きさに切ったものをスタンドに固定する(写真2)。
  • ② パン,ニンジン,石,木,茶碗,缶(アルミ製),消しゴムをそれぞれラップ(塩化ビニル製)でこする。
  • ③ ②でこすったものをそれぞれ固定されたティッシュペーパーに近づけ,引きつけることを確認する。

実験1のまとめを書かせると,ある生徒は次のようにまとめてくれた。

次に,<課題1>を生徒に考えてもらう。

図1:ストロー実験の様子

【課題1】

紙でこすった2本のストローA,Bがある。図1のように,Aを動きやすくしてBを近づけたら,Aは引きよせられますか?

この課題1に対しての生徒の意見は次の通りである。

「引きつけられる」という意見と,「反発する」という意見がでるので,次の実験2を行う。

【実験2】

  • ① ストロー(ポリプロピレン製)を2本用意し,それぞれ紙でこする。もう1本ストローとまち針を用意し,図1のように組み立てる。このとき,ストローAとBが紙でこすったものである。
  • ② ストローBをストローAに近づけて,ストローAの動きを観察する。
  • ③ また,ストローをこすった紙をストローAに近づけストローAの動きを観察する。

実験2のまとめを書かせると,ある生徒は次のようなまとめを書いていた。

その後,「磁石のように静電気にも2種類あり,+と+,-と-の同じ極は斥力がはたらき反発しあい,+と-のように異なる極は引力がはたらき引きあう」ことをつけ足す。

写真1のような静電気メーターを使って,次の実験3を行います。

【実験3】

  • ① 静電気メーター(写真1)を2台用意する。静電気メーターは物体の電荷の+-を判断できる装置で,+の場合は赤色と黄色のLEDが光り,-の場合は青色と緑色のLEDが光ることを確認する。
  • ② 紙袋に入ったストロー(ポリスチレン製)を用意し,静電気メーターの上部の缶の内側にテープで貼りつける。ストローを紙袋から取り出し,別の静電気メーターに近づけ,ストローが-になっていること,紙袋が貼りつけてある静電気メーターが+になっていることを確認する。その後,ストローを紙袋に戻し,±0になることを示す。
  • ③ 実験1で使用した木材をラップ(ポリ塩化ビニリデン製)でこすり,木材が+,ラップが-になることを静電気メーターで確認します。その後,木材とラップを同時に静電気メーターに近づけて,±0になっていることも確認する。
  • ④ ③と同様のことを,茶碗とラップ,消しゴムとラップの組み合わせでも行う。茶碗と消しゴムはそれぞれ+になり,ラップが共に-になることを確認する。そして,こすったもの同士を同時に静電気メーターに近づけて,±0になっていることも確認する。

実験3によって,こすり合わされた2つの物体の一方が+なら,もう一方が-になること,こすり合わされた物体同士を合せると,±0になることを確認する。そして,次の課題2に取り組む。

【課題2】

エボナイトと塩化ビニルをこすると,エボナイトは+,塩化ビニルが-になります。では,エボナイトはどんな物質と触れたり擦ったりしても+になるでしょうか?

この課題2に対しては,大体半分の生徒が「+になる」と考え,半分の生徒が「-になることもある」と答える。例えば,次のような意見がでる。

このような意見が出されるので,次の実験4を行う。

【実験4】

  • ① 静電気メーター(写真1)を2台用意する。静電気メーターは物体の電荷の+-を判断できる装置で,+の場合は赤色と黄色のLEDが光り,-の場合は青色と緑色のLEDが光ることを確認する。
  • ② エボナイト棒を毛皮でこすると,エボナイト棒は,-になることを静電気メーターで確認する。

実験4のまとめを書かせると,ある生徒は次のようなまとめを書いていた。

この課題3を提示する前に,「物体同士をこすったときに,一方の物質が+に帯電し,もう一方の物質が-に帯電する」ことを教えておくことで,エボナイトは+になるという意見に対して,+のもの同士をこすった場合に,どちらか一方が-になるので,エボナイトは-になることもあるという意見がだされる。

この実験4のあとに帯電列について確認し,次の課題3を考えてもらう。

【課題3】

物質はもともと+と-の電気両方含んでいるか。

課題3に対して,

上記の意見のように「含んでいない」という意見がでる。一方,次の意見のように「含んでいる」という意見がでる。

クラスの9割弱の生徒が,課題2で行った物質はこする相手によって+にも-にもなることがあることを用いて,物質には+と-両方含んでいるのではないかと予想した。「+と-両方含んでおり電気的に中性になっていることで,何も感じない」と述べる生徒もいたことから,実験3の事実も物質の電気的な構造を考えるうえで有益だった。生徒の意見を聞いた後,原子の構造を説明して,授業を終えた。

3.おわりに

今回の実践で,課題3を学習する前に実験3や課題2を学習することで,課題3の正答率が大幅に上がることがわかった。つまり,物質はこする物質によって+にも-にもなるという事実が,物質に+と-の電気が含まれているという考えを持ちやすくしていることがわかった。

【引用文献】