私たちは光による視覚情報から,身の回りの物事を見ることができる。普段,私たちが見ている事象の中には,幾何光学的な規則性や関係性があるが,それは日常生活の当たり前となっているため,規則性や関係性に気づきにくくなっている。だからこそ,私たちが当たり前に見ている「光による現象」に焦点を当て,科学的に探究し,隠れている規則性や関係性を考えることは,理科を学ぶ上で重要なことだと言える。
開発した本実験教具は,ハーフミラーを用いたものである。鏡の前に立つと,鏡に自分の像が映るが,鏡に映る世界に入り,自分の像から鏡までの距離を測定することはできない。しかし,ハーフミラーを用いることで鏡に映る世界の距離を測定でき,物体と鏡に映った像の位置の関係性(自分から鏡までの距離と,自分の像から鏡までの距離が等しくなること)を見いだすことができる。今回は,本実験教具を用いた授業実践について報告する。
生徒から「理科の学習は難しい」と耳にすることがある。理科には,原子や分子といったあまりにも小さな世界の話や,宇宙や天気といったあまりにも大きな世界の話が学習内容にあり,自らの生活に存在していることとして捉えにくいことが主な原因であると考える。本単元の光は身近なものではあるが,日常生活の中でその規則性や関係性は捉えにくく,生徒が「難しい」,「わからない」と感じやすい単元である。
本単元では,「光の直進」,「反射の法則」,「光の屈折」,「全反射」,「凸レンズのはたらき」について取り扱う。小学校では,第3学年で日光は直進し,鏡などで集めたり反射させたりできることを学習している。しかし,その規則性や関係性については,小学校でほとんど学習していない。
本単元の授業を行う際,まず導入で,虹や鏡に映る像などの光による身近な物理現象に焦点を当てたい。その中で,「日常生活の見え方」から問題を見いだし,観察や実験,光の道すじの作図等を通して,規則性や関係性等の捉えにくい世界を可視化し,「日常生活の見え方」と「科学的な見方や考え方」を結び付けさせたい。また,この学習活動を通して,観察や実験,作図等の技能を身に付けさせたい。そのために,理科に対して苦手意識を持っている生徒も学習意欲が湧き,目的意識を持って取り組めるように,導入や課題の設定等,授業展開に留意したい。また,問題や規則性,関係性を見いだす学習活動の中では,十分に考えを深められるように,発問の仕方を工夫したい。
知識・技能 | 思考・判断・表現 | 主体的に学習に取り組む態度 |
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光に関する事物・現象を日常生活や社会と関連付けながら,光の反射や屈折,凸レンズのはたらきについての基本的な概念や原理・法則などを理解している。また,科学的に探究するために必要な観察,実験などに関する基本操作や記録などの基本的な技能を身に付けている。 | 光について,問題を見いだし見通しをもって観察,実験などを行ったり,得られた結果を分析して解釈し,光の反射や屈折,凸レンズのはたらきの規則性や関係性を見いだして表現したりするなど,科学的に探究している。 | 光に関する事物・現象に進んで関わり,見通しをもったり振り返ったりするなど,科学的に探究しようとしている。 |
時間 | 学習活動 | ねらい | 評価の観点 | 評価規準及び評価方法 | ||
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知 | 思 | 主 | ||||
1 |
【生徒実験】 |
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◎ | ◎ |
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2 |
【演示実験】 |
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◎ |
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3 |
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◎ | ◎ |
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4 |
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◎ |
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5 (本時) |
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◎ | ◎ |
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6 |
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◎ |
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7 |
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◎ |
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8 |
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◎ |
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9 |
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◎ | ◎ |
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10 |
【生徒実験】 |
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◎ | ◎ |
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11 |
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◎ | ◎ |
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12 |
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◎ |
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13 |
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◎ | ◎ |
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評価規準 | A 十分満足できる | B 概ね満足できる | 未到達者の支援 |
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学習内容 | 生徒の反応 | 留意点(・)/支援(〇)/評価(■) | |
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導入 |
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展開 |
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鏡に映る自分(像)は,鏡よりもどれくらい奥にいるように見えるのだろう。 |
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終末 |
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配布物①
配布物②
黒板
ロイロノート・スクールに提出させた各班の結果
ハーフミラーに映る像に重なるようにキャップを置く様子
実験結果
本実験教具を用いた実践は,「令和4年度 滋賀県中学校教育研究会理科部会 研究発表協議会」の中で,授業公開した。本実践は,物体と鏡に映った像の位置の関係性を見いだせる点や,ハーフミラーがホームセンターで容易に入手できる点などから,多くの先生方に好意的なご意見をいただけた。
鏡の前に立つと,鏡に自分の像が映るが,鏡に映る世界に入り,自分の像から鏡までの距離を測定することはできない。しかし,ハーフミラーの特性(光を反射もするが,透過もする)を活かすことで,生徒が物体と鏡に映った像の位置の関係性を見いだすことを手助けすることができた。
文部科学省(2018)の『中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 理科編』では,理科で育成を目指す資質・能力を育成する観点から,科学的に探究する学習を充実させることと,理科を学ぶことの意義や有用性の実感及び理科への関心を高める観点から,日常生活や社会との関連を重視させることの重要性が述べられている。日常生活にありふれた理科を科学的に探究する面白さや,理科を学ぶことの意義や有用性をどの生徒も感じられるように,これからも実験教具や授業展開を工夫するなど,教材研究に努めたい。