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理科

物体と鏡に映った像の位置の関係性を見いだす実験教具の開発

日野町立日野中学校 大角 侑樹

1.はじめに

私たちは光による視覚情報から,身の回りの物事を見ることができる。普段,私たちが見ている事象の中には,幾何光学的な規則性や関係性があるが,それは日常生活の当たり前となっているため,規則性や関係性に気づきにくくなっている。だからこそ,私たちが当たり前に見ている「光による現象」に焦点を当て,科学的に探究し,隠れている規則性や関係性を考えることは,理科を学ぶ上で重要なことだと言える。
開発した本実験教具は,ハーフミラーを用いたものである。鏡の前に立つと,鏡に自分の像が映るが,鏡に映る世界に入り,自分の像から鏡までの距離を測定することはできない。しかし,ハーフミラーを用いることで鏡に映る世界の距離を測定でき,物体と鏡に映った像の位置の関係性(自分から鏡までの距離と,自分の像から鏡までの距離が等しくなること)を見いだすことができる。今回は,本実験教具を用いた授業実践について報告する。

2.授業実践(理科学習指導案)

Ⅰ.単元名 「光による現象」

Ⅱ.単元について

生徒から「理科の学習は難しい」と耳にすることがある。理科には,原子や分子といったあまりにも小さな世界の話や,宇宙や天気といったあまりにも大きな世界の話が学習内容にあり,自らの生活に存在していることとして捉えにくいことが主な原因であると考える。本単元の光は身近なものではあるが,日常生活の中でその規則性や関係性は捉えにくく,生徒が「難しい」,「わからない」と感じやすい単元である。
本単元では,「光の直進」,「反射の法則」,「光の屈折」,「全反射」,「凸レンズのはたらき」について取り扱う。小学校では,第3学年で日光は直進し,鏡などで集めたり反射させたりできることを学習している。しかし,その規則性や関係性については,小学校でほとんど学習していない。
本単元の授業を行う際,まず導入で,虹や鏡に映る像などの光による身近な物理現象に焦点を当てたい。その中で,「日常生活の見え方」から問題を見いだし,観察や実験,光の道すじの作図等を通して,規則性や関係性等の捉えにくい世界を可視化し,「日常生活の見え方」と「科学的な見方や考え方」を結び付けさせたい。また,この学習活動を通して,観察や実験,作図等の技能を身に付けさせたい。そのために,理科に対して苦手意識を持っている生徒も学習意欲が湧き,目的意識を持って取り組めるように,導入や課題の設定等,授業展開に留意したい。また,問題や規則性,関係性を見いだす学習活動の中では,十分に考えを深められるように,発問の仕方を工夫したい。

Ⅲ.単元目標

Ⅳ.単元の評価規準

知識・技能 思考・判断・表現 主体的に学習に取り組む態度
光に関する事物・現象を日常生活や社会と関連付けながら,光の反射や屈折,凸レンズのはたらきについての基本的な概念や原理・法則などを理解している。また,科学的に探究するために必要な観察,実験などに関する基本操作や記録などの基本的な技能を身に付けている。 光について,問題を見いだし見通しをもって観察,実験などを行ったり,得られた結果を分析して解釈し,光の反射や屈折,凸レンズのはたらきの規則性や関係性を見いだして表現したりするなど,科学的に探究している。 光に関する事物・現象に進んで関わり,見通しをもったり振り返ったりするなど,科学的に探究しようとしている。

Ⅴ.単元の指導計画 全13時間 (本時5/13)

時間 学習活動 ねらい 評価の観点 評価規準及び評価方法
  • ○次の内,暗闇でも見える物体はどれだろう。
白い紙,黒い紙,アルミホイル,蛍光ペン,反射板,100円玉
【生徒実験】
  • ・ものが見える仕組みを理解する。
  • ・ものが見えることについて考えようとする。
  • ・ものが見える仕組みを理解している。【知:ノートの記述】
  • ・ものが見えることについて考えようとしている。【主:ノートの記述,行動観察】
  • ○次の内,光を天井まではね返すことができるものどれだろう。
ガラス,アルミホイル,白い紙,黒い紙,赤い紙,黄色い紙,古いぞうきん
【演示実験】
  • ・色が見える仕組みや,乱反射によってどの方向からでも物体が見えることについて理解する。
  • ・色が見える仕組みや,乱反射によってどの方向からでも物体が見えることについて理解している。【知:ノートの記述】
  • ○光がはね返るとき,どんな規則性があるだろう。
【生徒実験】
  • ・実験結果を分析して反射の規則性を見いだし,自らの考えを表現する。
  • ・反射の法則について理解する。
  • ・実験結果から規則性を見いだし,自らの考えを表現している。【思:ノートの記述】
  • ・反射の法則を理解している。【知:ノートの記述】
  • ○鏡に映る人に向けて光を当てると,その人の所まで光は届くだろうか。
【生徒実験】
  • ・反射の法則を使って,人から出た光が目に届くまでの道すじや,鏡に映る人を照らしたときの道すじを作図する。
  • ・実験結果から規則性を見いだし,光の道すじを作図している。【思:ノートの記述】

(本時)
  • ○鏡に映る自分(像)は,鏡よりもどれくらい奥にいるのだろう。
【生徒実験】
  • ・物体と鏡に映った像の位置を測定する。
  • ・物体と鏡に映った像の位置の関係性(自分から鏡までの距離と,自分の像から鏡までの距離が等しくなること)を見いだして表現する。
  • ・物体と鏡に映った像の位置を測定している。【知:行動観察】
  • ・物体と鏡に映った像の位置の関係性(自分から鏡までの距離と自分の像から鏡までの距離が等しくなること)を見いだして表現している。【思:ノートの記述】
  • ○物体と像の位置は,鏡に対して線対称の関係になるのは,なぜだろう。
【演示実験】
  • ・物体と像の位置は,鏡に対して線対称の関係にある理由を理解する。
  • ・物体と像の位置は,鏡に対して線対称の関係にある理由を理解している。【知:ノートの記述】
  • ○自分の全身を鏡に映すには,何cmの鏡が必要だろう。
【生徒実験】
  • ・反射の法則による光の道すじの作図から,鏡は全身の半分の大きさでよい理由を考え,表現する。
  • ・反射の法則による光の道すじの作図から,鏡は全身の半分の大きさでよい理由を考え,表現している。【思:ノートの記述】
  • ○不思議メガネの謎を解明しよう。
【生徒実験】
  • ・光が異なる物質の間を進むとき,光は境界面で折れ曲がる(屈折する)ことを理解する。
  • ・光が異なる物質の間を進むとき,光は境界面で折れ曲がる(屈折する)ことを理解している。【知:ノートの記述】
  • ○入射角と屈折角の関係には,どのような関係があるだろう。
【生徒実験】
  • ・入射角と屈折角の関係性を見いだして表現する。
  • ・光が水やガラスから空気へ進むとき,入射角が大きくなると,全反射という現象が起こることを理解する。
  • ・実験結果を分析して解釈し,入射角と屈折角の関係性を見いだして表現している。【思:ノートの記述】
  • ・光が水やガラスから空気へ進むとき,入射角が大きくなると,全反射という現象が起こることを理解している。【知:ノートの記述】
10
  • ○太陽の光を1点に集めることができる物体は,次の内どれだろう。
スライドガラス,醤油さし,丸底フラスコ,三角フラスコ,ビーカー,ビー玉
【生徒実験】
  • ・実験結果から,太陽の光を集められる形について考察しようとする。
  • ・凸レンズによって光が1点に集まるしくみを理解する。
  • ・実験結果から,凸レンズの形について,科学的に探究しようとしている。【主:行動観察,ノートの記述】
  • ・凸レンズによる光が1点に集まるしくみを理解している。【知:ノートの記述】
11
  • ○凸レンズがつくる像と物体の位置にはどのような関係があるだろう。
【生徒実験】
  • ・実験を適切に行い,凸レンズのはたらきを理解する。
  • ・実験結果を分析して解釈し,凸レンズがつくる像と物体の位置の関係性を見いだして表現する。
  • ・実験を適切に行い,凸レンズのはたらきを理解している。【知:行動観察,ノートの記述】
  • ・実験結果から凸レンズがつくる像と物体の位置の関係性を見いだして表現している。【思:ノートの記述】
12
  • ○物体の位置によって,像の見え方が異なるのは,なぜだろう。
【実習】
  • ・光の道すじの作図から物体の位置による像の見え方が異なる理由を理解する。
  • ・光の道すじの作図から物体の位置による像の見え方が異なる理由を,理解している。【知:ノートの記述】
13
  • ○凸レンズにシールを貼ると,つくられる像はどうなるだろう。
【演示実験】
  • ・既習内容を振り返り,科学的に探究しようとする。
  • ・既習内容を結び付け,凸レンズがつくった像との関係性を見いだし,表現する。
  • ・既習内容を振り返り,科学的に探究しようとしている。【主:ノートの記述,行動観察】
  • ・既習内容を結び付け,凸レンズがつくった像との関係性を見いだし,表現している。【思:ノートの記述】

Ⅵ.本時の目標

Ⅶ.本時の評価規準

評価規準 A 十分満足できる B 概ね満足できる 未到達者の支援
  • (1)ハーフミラーを使って,物体と鏡に映った像の位置を測定することができる。【知識・技能】
  • ・予想に基づき,物体と鏡に映った像の位置関係について見通しをもちながら,実験を適切に行い,調べることができている。
  • ・実験を行い,物体と鏡に映った像の位置関係について調べることができている。
  • ・学級全体の場で,実験方法を確認する。
  • ・適切に実験を行えているか,机間指導をする。
  • (2)物体と鏡に映った像の位置の関係性(自分から鏡までの距離と,自分の像から鏡までの距離が等しくなること)を見いだして表現することができる。【思考・判断・表現】
  • ・物体と鏡に映った像の位置関係について,他の班の結果も踏まえながら,関係性(自分から鏡までの距離と,自分の像から鏡までの距離が等しくなること)を見いだし表現している。
  • ・物体と鏡に映った像の位置関係について,自分の班の実験結果から,関係性(自分から鏡までの距離と,自分の像から鏡までの距離が等しくなること)を見いだし表現している。
  • ・ロイロノート・スクール(株式会社LoiLo)に提出された各班の結果を公開したり,演示実験をしたりして,物体と鏡に映った像の位置の関係性を考えさせる。

Ⅷ.本時の展開

学習内容 生徒の反応 留意点(・)/支援(〇)/評価(■)
導入
  • ○不思議鏡(ハーフミラー)による不思議な物理現象を見る。
  • ○テレビにハーフミラーと人形を映し,ハーフミラーに映る人形の像に注目させる。
  • ○不思議鏡は,鏡の中の世界に入ることができる特別な鏡であることを説明する。
  • ○同じ人形をもう1つ用意し,ハーフミラーに映る像と重なるように置く様子をテレビに映す。
  • ○不思議鏡のトリックを考える。
  • ・自分の考えをノートに書く。
  • ・自分の考えを発表する。
  • ・予想される生徒の答え
    不思議鏡は,鏡の向こう側も見える。/不思議鏡は,鏡のように反射もするが,向こうの世界も見える。
  • ○考える時間を2分間とり,テレビにカウントダウンで映す。
  • ○ノートに考えを書けているか,机間指導をする。
  • ○不思議鏡のトリックを知る。
  • ・ハーフミラーの特性(鏡の向こうが見えること,鏡のように物体を映せること)を理解させる。
  • ○プレゼンテーションソフトで鏡を挟んでの自分と自分の像の位置関係に注目させる。
展開
  • ○本時の課題を知る。

鏡に映る自分(像)は,鏡よりもどれくらい奥にいるように見えるのだろう。

  • ○予想を考える。
  • ・自分の考えをノートに書く。
  • ・予想される生徒の答え
    自分から鏡までの距離と自分の像から鏡までの距離は同じ。/自分から鏡までの距離より,自分の像から鏡までの距離の方が長い。/自分から鏡までの距離より,自分の像から鏡までの距離の方が短い。
  • ○考えを整理しやすいように,選択肢を提示し,考えさせる。
  • ○生徒が深く考えずに予想してしまわないように,鏡と人形を渡し,実験させながら予想を立てさせる。
  • ・理由もノートに書くように指示する。
  • ○考える時間をテレビにカウントダウンで映す。
  • ○ノートに考えを書けているか,机間指導する。
  • ・自分の考えを発表する。
  • ・どの選択肢を選んだのか挙手させ,人数を数えることで学級全体の考えを把握する。
  • ○理由も発表させ,板書し,考えを共有させる。
  • 〇実験方法を知る。
  • ・本時の課題は,何と何を比較することで調べられるのか,どのように距離を測定するのか等,生徒に発問を投げかけながら,思考を促す。
  • 〇出てきた意見を整理し,板書する。
  • 〇鏡に映る自分の像は,鏡よりもどれくらい奥にいるように見えるのか実験で調べる。
  • 〇配布物①と②を配布し,配布物①はノートに貼らせる。
  • ・同じ位置から,物体の像を見るのではなく,目の位置を変えながら,実験を行うように促す。
  • ・物体を置く場所を固定して実験を行うのではなく,いろいろな場所に物体を置いて実験を行うように促す。
  • ・実験結果を写真でとるように指示し,ロイロノート・スクールの提出箱に提出させる。
  • ■適切に実験を行い,調べることができているか。
  • 〇実験を適切に行うことができているか,机間指導する。
  • 〇物体と鏡に映った像の位置の関係性を考察する。
  • ・自分の考えをノートに書く。
  • ・予想される生徒の答え
    自分から鏡までの距離と自分の像から鏡までの距離は同じ。/自分から鏡までの距離より,自分の像から鏡までの距離の方が長い。/自分から鏡までの距離より,自分の像から鏡までの距離の方が短い。
  • 〇ロイロノート・スクールの提出箱に提出された各班の結果を公開し,全ての班の結果が見える状態にする。
  • 〇実験結果をもとに,考える時間を3分間とり,テレビにカウントダウンで映す。
  • ・自分の班の結果だけでなく,他の班の結果も踏まえながら,考察するように促す。
  • 〇ノートに理由も含めて考えを書けているか,机間指導をする。
  • ■自分の考えをノートに書けているか。
  • ・意見交流し,学級全体で考える。
  • ○未到達者がいた場合は,演示実験をし,物体と鏡に映った像の位置の関係性を改めて考えさせる。
終末
  • ○本時のまとめを行う。
  • ○本時の振り返りを行う。
  • ○本時の課題に対するまとめと,振り返りを行わせる。

Ⅸ.準備物

Ⅹ.配布物

配布物①

配布物②

3.実践記録

黒板

ロイロノート・スクールに提出させた各班の結果

ハーフミラーに映る像に重なるようにキャップを置く様子

実験結果

4.終わりに

本実験教具を用いた実践は,「令和4年度 滋賀県中学校教育研究会理科部会 研究発表協議会」の中で,授業公開した。本実践は,物体と鏡に映った像の位置の関係性を見いだせる点や,ハーフミラーがホームセンターで容易に入手できる点などから,多くの先生方に好意的なご意見をいただけた。
鏡の前に立つと,鏡に自分の像が映るが,鏡に映る世界に入り,自分の像から鏡までの距離を測定することはできない。しかし,ハーフミラーの特性(光を反射もするが,透過もする)を活かすことで,生徒が物体と鏡に映った像の位置の関係性を見いだすことを手助けすることができた。
文部科学省(2018)の『中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 理科編』では,理科で育成を目指す資質・能力を育成する観点から,科学的に探究する学習を充実させることと,理科を学ぶことの意義や有用性の実感及び理科への関心を高める観点から,日常生活や社会との関連を重視させることの重要性が述べられている。日常生活にありふれた理科を科学的に探究する面白さや,理科を学ぶことの意義や有用性をどの生徒も感じられるように,これからも実験教具や授業展開を工夫するなど,教材研究に努めたい。

【引用文献】