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理科

「イメージマップ」を活用して「主体的に学習に取り組む態度」の育成をめざす

大阪府中学校理科教育研究会研究委員会
柏原市立玉手中学校
中川 明宏

1.はじめに

学習指導要領では,「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善を求めている。これを実現させるために,イメージマップという「思考ツール」を活用して,生徒自身が「自分の意見を作り出す」ことができるように意識して授業実践に取り組み続けている。
「イメージマップ」とは,中心に示された言葉(以下,鍵概念という)から連想する言葉をできる限り書き出し,鍵概念から連想した言葉を起点とし,さらに連想した言葉を外側に広げていくものである。
イメージマップの活用は,生徒が持つ知識や思考を整理して自分の意見をつくりだすとともに,学習を振り返りながら文章で表現させることで,指導改善や学習改善につながり,「主体的に学習に取り組む態度」を育成することができると考える。
今回の実践は令和2年8月25日から9月17日の期間に単元「身の回りの物質」において「プラスチック」を題材として実践研究を行なったものである。その際に「プラスチック」に加えて「環境」と言う言葉を合わせて鍵概念として提示することで,身近な物質である「プラスチック」と言う視点を通して,「環境」に対して主体的に考え,自分の意見を持ち,行動できる力(「主体的に学習に取り組む態度)」を育成できると考えた。

2.実践方法について

時間 ねらい・学習活動 重点 記録 備考
0
  • 単元の学習に入る前に,イメージマップに既有の知識を整理する。
  • 単元の学習前後の自己の変容に気づくことができるようにするためにイメージマップに既有の知識を整理している。
1
  • “もの”には必ず質量と体積があり,質量と体積があれば”もの”であることを理解する。質量は,(水に)溶かしたり,(水に)浮かべたりしても変化しないことを理解する。
  • 物体と物質の違いについて理解している。
  • 質量は,水に溶かしても水に浮かべても変化しないことを理解している。
2
  • ガスバーナーを分解してその構造を理解した上で,ガスバーナーを適切に操作する。
  • ガスバーナーを正しく安全に使用している。
3
  • ガスバーナーを正しく安全に使用している。

(パフォーマンステスト)

4
  • 白い粉末の物質を,色や粒の形,におい,水溶液に溶かしたときの様子,加熱したときの様子などの観察・実験を通して物質を同定する。
  • 白い粉末状の物質を調べる実験を,正しく安全に使用している。
5
  • 実験結果から,調べた物質が何であるかを,根拠を示して考察している。
  • 実験レポートを作成している。

(文章記述)

6
  • 物質を加熱したときの様子から,有機物と無機物の違いについて理解する。
  • 金属と非金属の違いについて理解する。
  • 有機物と無機物の違いについて理解し,知識を身につけている。
  • 金属と非金属の違いについて理解し,知識を身につけている。
7
  • プラスチックが身の回りでどのように使われたり,捨てられたりするかについて考え,「環境」への関連性を見いだそうとする。
  • プラスチックを水への浮き沈みや燃え方の違いで区別し,その性質や種類について理解する。
  • プラスチックが身のまわりでどのように用いられているか調べようとしている。
8
  • 物質の密度がわかれば,物質の種類が特定できることを理解する。
  • 物質の浮き沈みは密度の大小で決まることを理解する。
  • 密度は,物質に固有のものであることを理解している。
  • 密度とものの浮き沈みの関係性について理解している。
9
  • 単位体積あたりの質量を密度といい,ふつうは1cm3あたりの質量を用い,物質にはそれぞれ固有の密度があることを理解する。
  • 質量の定義について理解している。
  • 密度の定義と求め方について理解している。
10
  • てんびんやメスシリンダーを用いて,質量や体積を正しく測定し,密度を測定する。
  • 密度を求めることによって,物質の種類を類推している。

(行動観察・文章記述)

11
  • 学習を通して理解したことをイメージマップに整理し,自分の学びを振り返る。
  • 学習前後の自己の変容に気付こうとしている。

(文章記述)

3.結果(「主体的に学習に取り組む態度)における子どもの変容」

《評価規準》

《評価基準》

4.成果と課題

《成果について》

今回の実践の結果,評価Aと評価Bの割合を合わせると「満足できる状況」がおよそ98%と高い結果になったことから,イメージマップを活用して学習を振り返らせることによって「主体的に学習に取り組む態度」を育成できたと考える。また,「地球温暖化や化石燃料について」や「リサイクルについて」,「自然界の生物への影響について」,「レジ袋やエコバッグについて」など多くの生徒が「環境」について記述することができた。このことから,「環境」に対して主体的に考え,自分の意見を持ち,行動できる力(「主体的に学習に取り組む態度」)を育成することができたと考える。なお,この振り返りシートの活用を通して,「環境」に対して生徒がイメージする言葉を授業者が知ることができた点は,「指導と評価の一体化」の観点から,今後の環境教育指導に大変有意義であると考える。

《課題について》

「プラスチック」と「環境」を鍵概念としてイメージマップを作成し,学習の振り返りを行うことで多くの生徒が学習内容に関して自己の成長や変容を表現したり,「環境」に対して自分の意見を持ったりすることができるようになった。
一方で,評価の割合を見ると評価基準が比較的易しいものであったように感じる。今後の学習状況に応じて,生徒自身に自分の意見を持たせながら,自分の意見を持つにあたって活用した知識・技能や,学習を進める際の対話の様子,学習を通して新たに気づいたことや大切だと感じたことなどについて,学びの過程や意見の根拠をより具体的に示させていきたい。
また,リサイクルや地球温暖化については,意見が別れたり,獲得した知識に誤りが見られたりしている生徒も複数いた。全体で共有し議論を深めることで,さらに学びは深まるものと思われる。今後,学習内容や学習状況に応じて指導をしていきたい。
「プラスチック」の学習時期が見直され,中学1年生での実施について少しハードルが高くなったものの,第1学年の早い時期に,生徒にとって身近な有機物の一つである「プラスチック」という視点から「環境」について考える機会を設けることは,大変有意義であると考える。

3.おわりに

学習前後に「イメージマップ」を活用して学習を振り返らせることで,「主体的に学習に取り組む態度」を育成しながら,評価にも活用しつつ,授業改善や学習改善に生かすことができるものであると考える。

学校や学年によって,特に生徒に育成したい資質・能力や生徒が抱える課題は多様であるため,多くの先生方の参考になれば幸いです。

【参考文献】