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理科

ほんもの体験
~学びの仕組み「DEEP学習」×「ST」を活用した「主体的」「対話的」「深い学び」を実現した理科~

横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校附属中学校

1.はじめに

横浜サイエンスフロンティア高等学校附属中学校では,開校当初から,すべての授業,教育活動において,学びの手法「DEEP学習」を行っている。「DEEP学習」とは,本校独自の学びのサイクルである。また,「ST」はStudents Teacherの略で生徒自身が学んだことを他の生徒に伝え,学びを深めるチューター制度である。
「DEEP学習」はそれぞれ,Discussion(考察・討議)→Experiment(実験)→Experience(体験)→Presentation(発表)…これらの頭文字をとってDEEPと名づけられている。また,その過程は本校の育てたい資質・能力(「探究力」「創造力」「自立力」「コミュニケーション力」)とも紐づけし,Discussion(考察・討議)は「創造力」,Experiment(実験)は「探究力」,Experience(体験)は「自立力」,Presentation(発表)は「コミュニケーション力」で授業をつくりあげている。
「DEEP学習」は,探究心を育て,課題解決に取り組む姿勢を身につけるために,学び方に注目した取組である。一単元において,この学びのサイクルを意識して授業づくりを行う。この取組は,学習指導要領の「主体的」「対話的」「深い学び」との相性も良く,生徒の興味・関心,「協働」活動により「ワクワク」感を引き出し,その「主体性」をもとに自己,他者の考えを互いに伝え合う「対話」を通して,より「深い学び」へと深化していく。
「ST」は,自己表現,アウトプットの機会を増やし,グループでの協働の機会,自己有用感と他者からの評価により,自己の資質・能力の発見とその強化に役立っている。評価については自己評価を大切にし,自己の評価と他者評価,相互評価が適切になるよう工夫をしている。
DEEP学習は,本校の理念である「サイエンスの力」×「言葉の力」で学びを追求した教育プログラムである。この学びは,探究学習を軸に各教科,高等学校の理数教科,総合的な探究の時間・理数探究(サイエンスリテラシー)にもつながっている。
特に理科においては,このDEEP学習がなじみやすく,相性が良い。今回は,その概要を事例に基づき報告する。

2.自己評価と他者評価 それぞれのギャップから学びを深める

(1)As is / To beによる年度当初の自己評価

年度当初に自己を俯瞰し,自己の未来を創造する「As is / To be」を活用した自己評価を行う。現在の自分となりたい自分とのギャップをもとに行動目標に落とし込んでいく。また,学校として身につけてほしい,理科における「資質・能力」を,Keywordをもとに自己をマネジメントすることをねらいとしている。年度末には,次年度に向けての今年度の自己の学びの成長の振り返りを行っていく。

【As is / To beによるギャップ分析】

(2)単元におけるルーブリック評価

単元の始めに,その単元の評価規準を教員と生徒で共有しておく。そのことで,目標に準拠した活動が相互で進められ,活発で主体的な活動が行われる。また,様々な課題においてはルーブリックを設定し,提出後,直ちに評価しフィードバックしていくという,アクティブな評価を進めている。そのことによって,自己の評価のブラッシュアップが期待できる。ST相互評価,章末自己評価については,3章を参考。

【ルーブリック例(3年生命の連続性)】

3.「DEEP学習」 「ST」×「ほんもの体験」で「主体的・対話的」×「深い学び」

「DEEP学習」は探究を軸にした本校独自の学習方法である。
本例は,1年生の地学分野での事例を紹介していく。
地学分野では,大きく分けて,
左側のDiscussionとPresentationの「ST」,
右側のExperimentとExperienceの「ほんもの体験」
で構成されている。

(1)「ST」による生徒による生徒同士の学び

「ST」とは,スチューデントティーチャー制である。昨今話題となっているミネルバ大学が行っている反転学習に近い学びとなる。ただし,中学段階ということで負担を極力減らすような工夫がなされている。事前の学びは教科書を見てくる程度,4人1班による自分の班に課せられたテーマを他の生徒へ20分程度発表すること,その他のテーマについては他の班の発表を聞いて学びを深めることとなる。班でのテーマ発表については,およそ16ページ分のスライドが基本となる。この作業の過程で班内での対話,役割分担での主体性,4人での協働がはかられる。このスライドについては,Google Classroomで共有されているため,いつでも,どこでも見て復習ができる。また,各班は様々な手法で自作の問題,プリント,課題によるグループワークなど展開している。生徒の質疑や応答,教員からの不足分の補完や質疑なども行われていく。

【生徒のSTスライド例①(抜粋)】

【生徒のSTスライド例②(抜粋)】

その20分の各班からの学びは,ST相互評価において,その場でGoogleフォームを使い,他者評価され,足りなかった質疑もされる。授業後のGoogle Classroom内での質疑(教員の管理下のもと)や休み時間での質疑も盛んに行われ,学びがより深まっていく。STの合間には,課題探究室(理科室)で岩石の観察なども行われる。
STでの学びが進み,適切なタイミングにおいて数回による小テストによる学習到達度のための評価がなされる。また,章末には同じく学習到達度を測るための章末テストを行い,自己の習熟を確認していく。その後,章末で自己の資質能力の向上に着目し,自己評価・ふり返りを行い,次の章での自己の目標設定へとつなげていく。本校においては,通知表での評価評定ではなく,あくまでも生徒自身による生徒自身のための評価となるために,自己評価を繰り返し行う機会多く設け,自己評価を中心とした自己への視点,対話や協働による他者評価による他から見られる第三者的な視点,到達度評価による客観的な視点を意図的に活用している。

【ST相互評価】

(2)「ほんもの体験」による「ほんもの」の研究者と「ほんもの」の地層からの学び



本校は中高一貫教育校としての強みを生かし,高大連携事業を活用している。また,本校の特徴としての大学,研究機関,企業との連携力を生かし,この地層分野においても,「ほんもの」の研究者からのワークショップを活用している。学校での知の探究を「ほんもの」の地層を見て触れ五感で体感することで学びを深めることにつながっている。
今回の地学分野では,横浜国立大学の河潟 俊吾教授による神奈川県三浦市の城ヶ島での地層ワークショップを実施している。河潟教授のワークショップにおいては,事前に,20名ほどの生徒がレクチャーをうける。その後,その20名がそれぞれの班のチームリーダーとなり,4名1班で1日城ヶ島の地層研修を行っている。チームリーダーは,河潟教授から受けたレクチャーをもとに,班員へ提示する資料などを作成し当日の準備をし,当日を迎える。
城ヶ島の地層研修では,チームリーダーのファシリテーションをもとに,柱状図を実際にかくことや地滑りスランプ構造,スコリア,生痕化石,海岸段丘,浸食などにふれていく。それぞれの班からは,「この時代に大きな噴火が起きていたはずだ」「なんでここだけ褶曲がおきているのだろう?」「この断層はこちらから力がかかっているということだよね」という議論がなされていた。生徒たちは土の色,粒の大きさ,手触りを直接確認して,議論をしたりスケッチをしたりと「ほんもの体験」をし,学校での学びと校外での学びを結び付け,より深みをましていくよう支援していく。
城ヶ島の地層研修を終えた後,振り返りを行い,学んだことをふり返りレポートにまとめ,質疑などを含め,後日,研修の振り返りとして河潟教授からフィードバックの講演会を行っていただいている。
【ふり返りレポート】

4.まとめ

正解のない課題の最適解を見つけることが必要となる社会の中で,一人ひとりの強みをチームの中で生かし協働していく時代に重要となるキーワードは主体的な「学び」であろう。生徒が大人になり,組むチームメイトは,まさしく今学んでいる同世代であり,我々教員ではない。だからこそ,生徒同士の学び合いを大切にする授業の仕掛けが必要となる。また,そのような中で,「探究」的な学びは,人間本来の欲求に近い「学び」であり,生徒一人ひとりの興味や関心にどのように火をつけるかが大きなカギとなる。そのためには,「ほんもの」と触れ,「ほんもの」と対話することである。そのためには,地域や企業,他の教育機関との連携が不可欠である。理科という教科は,これらの仕組みを取り入れやすい教科の一つであろう。
また,資質・能力ベースのための評価を実現するために,自己評価を頻繁にしていくことで,自己を知り,自己と向き合うことを身につけさせることが重要である。他者と比べる評価に慣れてしまっている生徒は,自己肯定感が低く,そのため自己の能力を発揮できず停滞していることも多くうかがえる。これからの評価は,自分を自分で見つめ,自己の伸びにフォーカスできることにある。自己評価を学ぶということは,生徒の社会的スキルの一つでもあろう。
社会に貢献できる力をもつ人材の育成とは,常に「学び」続けることができる人材の育成が基盤となる。そのことを実現できるように主体的な「学び」を大切にした授業づくりが我々横浜サイエンスフロンティア高等学校附属中学校の教職員の使命と考え,これを生徒に提供するとともに,社会に提供し,今後も引き続き授業改善を推進していく。