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数学

円周角の定理の授業における数学的活動の充実

山口大学教育学部附属山口中学校 篠原 博之

1.はじめに

「中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 数学編」の「第3章 第3節 第3学年の目標及び内容」におけるB(2)円周角と中心角の関係を見いだすことには,「「一つの円において同じ弧に対する円周角の大きさは,中心角の大きさの1/2である」という関係を,観察や操作,実験などの活動を通して見いだし,証明できることを知ることができるようにする」と明記されている。

定理の導入では,教師が一方的に定理を証明し成り立つことを伝えていく展開が多いように感じられる。ここでは,円周角と中心角の関係を自分でかいた図形から性質を見いだし,既習事項である図形の性質をもとにして定理を証明する授業を実践した。

2.授業実践

(1)教材「円周角と中心角の性質」

(2)数学的活動(中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 数学編 第3章 第3節 第3学年の目標及び内容)

イ 数学の事象から見通しをもって問題を見いだし解決したり,解決の過程や結果を振り返って統合的・発展的に考察したりする活動

ウ 数学的な表現を用いて論理的に説明し伝え合う活動

(3)学習のとらえ方([1]生徒観,[2]教材観,[3]指導観)

[1]2つの角の関係を見いだすために,実際に分度器を使って角度を測ることで,簡単に角の関係を見つけることができるが,正確な値になりにくい。

[2]特殊な場合の図についていったん解決した着想を用いて,一般の図に戻って解決する構想をたて,これまでに解決したことが使えないかと考えることができる教材である。

[3]基本的な図形の性質を使って確かめることができるが,証明することを求めず,証明の流れを理解して図形の性質を用いて説明する。

(4)学習計画

[1]円周角と中心角の関係を見いだし,その関係を見つけよう ・・・1時間 本時(1/1)

[2]円周角の定理や円周角と弧の定理について考えよう ・・・・・・3時間

[3]円周角の定理の逆について考えよう ・・・・・・・・・・・・・2時間

[4]円の性質を具体的な場面で活用しよう ・・・・・・・・・・・・2時間

[5]章のまとめ ・・・1時間

(5)主眼

円周角と中心角の性質を帰納的に見いだし,特殊な場合の解決から得た着想を基にして,見いだした円周角と中心角の性質が正しいことを説明することができる。

(6)授業の過程

学習内容・活動 予想される生徒の反応
引き出したい生徒の反応
指導上の留意点
教師の手だて

①円周角と中心角の関係を調べる。

①各自で中心角と円周角を設定して,中心角と円周角の関係を調べさせる。

  • ワークシートにいくつかの円をかいたものを配付し,手早く角度を測るようにする。
  • 図を1つ例示し,測る角の位置を確認しておく。

<課題>
円O上に,3点P,A,Bをとる。
このとき,∠AOBと∠APBには
どのような関係があるだろうか。

②円周角と中心角の関係を見いだす。

  • 調べた値を板書する。
  • 板書された値を見比べ2角の関係を見いだす。

生徒の調べた角の大きさ

∠AOB   ∠APB
80°   40°
90°   45°
140°   69°
130°   65°

∠APB=1/2∠AOB?

②Google フォームで測った角度を入力させる。その間に生徒がかいた図を撮影し,撮影した図を見せることで,点Pが動的に動くイメージをもたせる。

  • 数名の計測値を板書する。

問題「いつでも∠APB=1/2∠AOBは成り立つだろうか」

③特殊な場合について解決する。

  • 各自で考える。
  • この場合でも成り立ちそうだ。

③中心角と円周角の関係が説明しやすい図を示すために,GeoGebraで点Pを動かし,特殊な図を提示する。

  • 図からわかることは何かを問い,解決の見通しをもたせる。
  • いつでも成り立つことを示すには,分度器を使わずに説明する必要があることを確認する。
  • 解決にあたっては,「∠APBを◯とした場合,∠AOBは◯◯といえるか」のように何を説明すれば解決したといえるか確認する。
  • 図に記号を書き入れる。
  • PBが直径になる場合,見いだした性質が成り立っていることを確認し,【性質1】としてまとめておく。
  • ペアで説明する。
  • 全体で確認する。

【性質1】
【説明】
OA=OPから二等辺三角形の性質より
∠OPA=∠OAP
三角形の2つの内角と外角の性質より
∠OPA×2=∠AOB

④元の図に戻って解決の構想をたてる。

  • 各自で考える。
  • ペアで考えを共有する。
  • 全体で構想を共有する。
  • 【性質1】の図が使えないか。
  • 半直線POをひけば,【性質1】の図に近くなることに気づくだろう。

④解決の構想をたてさせ,(少し間をおいてから)「解決するのに使えそうな性質はないか」と問う。二等辺三角形と三角形の外角の性質が使えることをきっかけにして「解決した【性質1】を使えばよさそうだ」という見通しを引き出す。(丸投げにしない。)

⑤④の構想にそって解決する。

  • 各自で考える。
  • ペアで説明する。
  • 全体で説明する。
  • 【性質1】を2回使えば解決できることに気づくだろう。

⑤証明はかかせず,口頭による説明にする。その際,何を根拠にしているかを明らかにする。

  • 必要に応じて∠APB=〇●のように使う記号を書き込む。

⑥解決のプロセスを振り返る。

  • 内容を振り返る。
  • 解決に有効な考え方を振り返る。
  • 宿題として発展課題を提示する。
  • 【性質1】を2回使えば解決することができた。
  • 二等辺三角形をつくるために補助線を引いた。
  • 前と同じ性質を使うことで解決できた。

⑥「どんな方法で解決できたのか」「それはどうやって思いついたのか?」と問うことで,「特殊から得た発想を一般にいかす」という数学的考え方を振り返えらせる。

  • 発展課題として今回扱わなかった図を提示し,必要に応じて宿題等にする。

3.授業の実際【抜粋】

学習活動 指導者の働きかけ 生徒の反応

円周角と中心角の関係を調べ,関係を見いだす。

T:円Oというのがありますが,円周上に点Aと点Bというのを,これぐらいの位置にとりましょう。

  • ワークシートに記入していく。
  • 点ABの位置を後の活動を見据えて位置をとる。

T:弧ABの長い方のどこかに1個,点Pをとり,そのPとA,BとPを結びます。

~途中省略~

  • ブーメラン型になるように点Pを取る生徒が多いだろう。

T:∠AOBと∠APBにはどのような関係があるかを調べます。∠AOBと∠APBを測り,Google フォームで,測った角度を送ってください。

  • ∠AOBの半分の角度が∠APBになっている。
  • 角度が上手く計測できない。
特殊な図の場合について解決する。

T:二等辺三角形だなって思うと思うけど,なぜ二等辺三角形か周りと確認しよう。

T:磁石を置いて説明してもらいます。

  • OPとOAが等しい二等辺三角形とみることができるだろう。

S:△PAOは二等辺三角形なので, ∠OPAと∠OAPが等しくなり,三角形の外角の求め方から,ここの2つの角度は一緒なので,∠APB=1/2∠AOBになる。

T:外角は隣にない2つの内角の和に等しいとかっていう書き方があったと思うけど,この磁石1個が,2 個分あって,この外角の2個と同じになるね。たまたま角度が一緒だから,倍あるいは半分だということになるね。

元の図に戻って解決の構想をたてる。

T:解決するためには,どんな性質が必要でしょうか。

~時間を取る~

T:さっきの図を使うためには,どうすればよいだろう。

T:どのように説明すれば,この図は解決できるだろう。

~構想を立てた後~

T:では,説明してもらいましょう。

S:さっき解決した図を使ったら解決できそう。

S:補助線を1本入れると,同じような図ができた。

  • 解決した図と見比べながら,説明するための構想を立てるだろう。

S:(生徒黒板に磁石を置く)
さっきの図を使って,青1個,黄色1個,で,下が青2個と黄色2個になるから2倍になることがわかります。

~途中省略~

T:(振り返りの場面で)
振り返りの内容は,どんな性質を使うと解くことができたでしょうかという視点と,その性質はどのようにしたら思いついたでしょうか。この2つを自分の言葉で書いてみましょう。

  • 二等辺三角形の性質
  • 三角形の外角と内角の関係
  • 補助線を引くことで,三角形が2つできて,さっき使った性質が使える図になっていた。

4.授業を終えての課題

課題として,次の点が上げられる。

→どの段階まで特殊にするのかなどの,この後の授業展開を見通す与え方を工夫する必要がある。
例えば,点AとBに対する点Pを置く場所の多様性として,ブーメラン型に置く生徒がほとんどであり,教師が提示することで,授業展開はスムーズに行くが,多様な考え方が生まれにくくなる。

→生徒から課題を引き出すために,計測等に時間がかかっている。ICTなどを活用して,前半の時間を短縮することで,後半の一般での思考に時間が使えると考える。

→二等辺三角形と三角形の外角の性質を活用するための説明を簡略化するために,マグネットを用いて説明を行った。

→①補助線を引くためのやりとり
②二等辺三角形と外角の性質を同時に使う
多様な補助線の引き方が出てくる場面であるが,前に使った性質を使うための補助線を引くことを生徒に投げかけることが必要である。

<参考・引用文献>