中学校の教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
数学

式読みと条件変えによる発展的な問題解決の授業実践
~数と式領域の利用場面における教科書題を活用して~

上田市長和町中学校組合立依田窪南部中学校 赤羽 晋治

1.本校及び本校生徒の特徴

本校は長野県の山間地に位置し,長野県の山間地校に指定されている。そのため,塾が少なく,通塾生の割合が都市部より少ない。また,学力的には2022年NRT(教研式標準学力検査)にて,教科総合において中学1年が48.4,中学 2年が47.3である。特に中学1年数学の偏差値が48.7,中学2年数学の偏差値46.7であり,全国平均を下回るなど学力は高くない。内訳として,学力低位生の割合が多く,学力上位生の割合が少ない傾向がある。

生徒の特徴として,素直で大人しい生徒が多い。そのため,計算問題など基礎的な問題には粘り強く取り組む生徒が多くいる反面,応用的な問題に対しては苦手意識が強く,手がつかない生徒が多い。

2.実践の動機

私は本校が初任校であり,赴任して4年目になる。日々授業実践を行う中で,本校生徒は,数と計算の分野の利用の問題において,発展的な問題に手がつかない生徒が多く,授業の中で統合的・発展的な問題解決まで行き着くことができない場合が多くある。また,教師の多忙感を痛感し,短時間での教材研究の大切さに気づいた。

そこで,改めて教科書の問題がいかに洗練されているか,その重要性に気づいた。そこから,教科書の問題をいかに活用しながら,生徒の数学的活動を充実することの必要性を感じている。この状況は,通常校で勤務する全国の多くの若手教員が経験している悩みの一つであろうと考える。

そこで,今回は,生徒の学力が決して高くない本校のような通常校において,教科書の問題を扱いながら,発展的な問題解決を行うことができる教材と実践を行うこととした。

3.実践の概要

今回,実践の手がかりとして,「式読み」と「条件変え」に着目した。理由は,私自身,日々問題解決型の授業を実践する中で,特に各分野の利用場面の方法の見通しを立てる際に,学力上位生徒の見通しを共有し,学力低位生徒が理解しきれていない中で個人解決の場面に進むことが多々あった。そこで,授業の導入で先に式を与え,「式読み」の活動をすることで,生徒の立式へのハードルを低くすることを考えた。また,その「式読み」の活動で獲得した理解を方法知として活用して,「条件変え」の問題を自力で解く,授業の流れを構想した。

本実践では,啓林館の教科書の以下の問題を扱った実践を紹介する。

〔実践〕中学2年生『連立方程式の利用』「バイアスロンのコースをつくろう」

(啓林館「未来へひろがる数学2」)

4.実践の実際

(1)指導計画

中学2年生『連立方程式の利用』単元の指導計画

時数 内容 ねらい
1 バスケットボールのシュート数と得点の問題
  • 方程式を使って問題を解く手順の確認と連立方程式への汎化
2 代金の問題
  • 身のまわりの場面から問題を設定し,連立方程式を利用して問題解決
3 割合の問題
  • 割合が用いられた身のまわりの場面から問題を設定し,連立方程式を利用して問題解決
4 速さ・時間・道のりの問題 本時

(2)授業の実際

今回,授業の実際を考察するに当たり,永田(2018)の「数学的活動の6つの視点」をもとに考察を行った。理由は,普段の授業を「授業形態」ではなく,「教師の指導」と「子どもの学習活動」の視点から行う必要があるからである。永田(2018)では「場面や段階の設定とその流ればかりに目が行って,そこで教師がどのように指導するのかや,なぜそのように指導するのかについて考えることが疎かになりやすいということです。」(永田, p29) とある。私自身も授業を「場面や段階」で捉えていたが,大事にすべきは「教師の指導」と「子どもの学習活動」であると考えたからである。その上で,同じく永田(2018)では「ここでは,数学的活動を,子どもの活動を思い描いた場面や段階の流れに基づいて構想するのではなく,教師の指導の視点を明確にし,これに基づいて構成しながら,授業の構成自体には自由度をもたせることを意図して前ページの図を作成しました。」(永田, p31)として,以下の数学的活動の6つの視点を作成している。そこで,今回はこの6視点のうち,「端緒」「解決」「共有」「振り返り」の4つの視点を分析の視点とし,授業を考察することとする。

図1 永田(2018)における数学的活動の6つの視点

〔実践〕中学2年生中学2年生『連立方程式の利用』「バイアスロンのコースをつくろう」

授業のねらい: 距離を文字でおいた式と時間を文字でおいた式とどちらの方が取り組みやすいか判断し,問題解決することができる。(条件変えによる発展的な問題解決)
解が問題に合わない場面があることを知り,解の吟味の必要性に気づくことができる。(解の吟味)

〔授業の実際〕

端 緒 ①: 問題場面を把握させる。
解 決 ①: 与えられた式の意味を読み取らせ,連立方程式を解き,問題の答えを求めさせる。
共 有 ①: 連立方程式の解と問題の答えを理解させる。
端 緒 ②: 時間を文字でおいた式の意味を読み取らせる。
共 有 ②: 式の意味と連立方程式の解を共有させる。
振り返り①: 今回の問題が2種類の文字の置き方で解決できることを確認し,どちらの問題解決が自分にとって解きやすいか判断させる。
端 緒 ③: 条件変えした問題に取り組ませる。
解 決 ②: 連立方程式を解き,問題の答えを求めさせる。
共 有 ③: 解が負になること及び解が問題に適さない場面があることを明らかにする。
振り返り②: 今回の授業で大事だと思ったところを振り返る。

〔場面1〕

【成果】

【課題】

〔場面2〕

【成果】

【課題】

〔場面3〕

【成果】

  • 下位生(B生、J生)が条件変えの意識をもてている。
  • 下位生(F生、G生)が解がマイナスであることが問題に合わないことに疑問をもてている。(解の吟味を行っている。)

【課題】

  • 自力で新たな別の問題を解決できるようになっているかが分からない。

図2 F生がG生とC生と相談している場面

振り返り ②

解の吟味の必要性を振り返った生徒(学力低位生)の振り返り

解の吟味の必要性を振り返った生徒(学力中位生)の振り返り

解の吟味の必要性を振り返った生徒(学力中位生)の振り返り

解の吟味の必要性を振り返った生徒(学力上位生)の振り返り

解法の多様性の面白さを振り返った生徒の振り返り

5.実践の成果と課題

私は2022年,啓林館主催「中学校数学 授業力をみがく講座(2年次)オンライン学習会」に参加させていただいている。その中で,本実践について発表をさせていただいた。そこでいただいたご意見を踏まえ,成果と課題をまとめる。

【実践しての成果と課題】

【啓林館主催「中学校数学 授業力をみがく講座(2年次)オンライン学習会」でいただいたご意見】

〈参考文献〉