ドローンを使って被災地の3つの陸の孤島に救援物資を運ぶためには(第1学年)
基本的な作図を学習してきた子どもたちが,三角形の3つの頂点からの距離の和が最も短くなる点の位置について自分なりにイメージしたことを,根拠をもって伝え合う活動を通して,なぜ正三角形の作図を用いて点の位置を見つけることができるのかを,誰もが納得できるように説明することができる。
ドローンとは,乗務員を乗せずに遠隔操作や自律制御によって飛行する無人航空機のことである。小型のドローンは,人が容易に立ち入ることができない場所にも飛んで行くことができるため,空撮システムなどとして多く用いられている。空撮向けのドローンは,複数のローターを備えたマルチコプター型のものが多い。2013年には,Amazon.comがドローンによる配送サービスの研究を進めていると公表して話題を集めた。
さらに,昨年の熊本地震では,ドローンが飛行することで熊本城の被害状況の撮影に成功した。また,佐賀県は,民間二社と災害時の物資運搬のためにドローンを活用する協定を結んだ。このように災害時には,ドローンが災害の状況を把握することに役に立ったり,被災地で人の入ることができない所に入って生存者を発見したりするなど,活躍の場が期待される。しかし,バッテリーの充電で飛行するドローンの飛行時間は1時間程度のため,飛行距離には限度がある。より多くの被災地に多くの救援物資を運ぶためには,その限度を考えながらドローンを飛行させる必要がある。つまり飛行時間を短縮するためには,飛行距離を最短距離となるように飛ばす必要がありそうである。そのことが,より多くの人たちを被災地で救援することにつながるからである。
【図1】
【図1】
2つの点をつなぐためには様々な線で結ぶことができる。曲線や折れ線で結んだり,直線で結んだりと結び方がいくつも考えられる。しかし,その線の長さが最も短くなるようにするために引いた線を直線にする必要があることは,誰もが納得のいくものである。
例えば,【図1】のように点Aから直線で折り返し,点Bまで最短距離で行くための点Pを直線上のどこにとればよいのか,次のように作図を用いて求めることができる。
つまり,2点間の最短距離は,常に2点を結んだ線分の長さであることがわかるであろう。
三角形には,五心と言われる5つの点が存在する。5つの点は,三角形に様々な直線を引くと必ず1点で交わるような点である。
【内心】
△ABCにおいて,3つの角の二等分線が交わる点を内心という。
内心を中心とし,内心Iから3つの辺に下ろした垂線の足までの長さを半径とする円を内心円という。
【外心】
△ABCにおいて,3つの辺の垂直二等分線が交わる点を外心という。
外心Oを中心とし,外心Oと各頂点までの長さを半径とする円を外接円という。
【重心】
△ABCにおいて,3つの辺の中点とその辺が向かい合う頂点をそれぞれ中線で結ぶと1点で交わる。この点を三角形の重心という。重心Gは各中線を2:1の比に内分する。
【垂心】
△ABCにおいて,3つの各頂点から対辺(またはその延長上)に下ろした3つの垂線は1点で交わる。これを垂心という。
【傍心】
△ABCにおいて,∠Bと∠Cの外角の二等分線の交点I1を中心とし,I1から辺BCに下ろした垂線の長さを半径とする円は,辺BC及び辺AB,ACの延長に接する。この交点I1を傍心,この円を頂角Aの内部にある傍接円という。
一般に,傍心は3つある。また,傍心I1は∠Aをはさむ直線AB,ACから等距離にあるので,
∠Aの二等分線上にある。
△ABCにおいて,3つの頂点からの距離の和AP+BP+CPを最小にする点Pをフェルマー点という。フェルマー点とは,フランスの数学者ピエール・ド・フェルマーが私信の中でこの問題に触れたことから彼の名が付けられている。距離の和を最小にすることは,電線を短くするための電柱の位置の決定など,工学的にも役立っている。
フェルマー点は以下のように求められる。
①の正三角形をそれぞれ三角形と同じ側に描いても②の直線は1点で交わる。
この点を第2フェルマー点という。
フェルマー点には,正三角形の3つの外接円が三角形の3つの頂点で交わったり,フェルマー点で3つの外接円が交わったりと,芸術的な美しさがある。
ここで下の図において,点B,P,Q,Dが一直線上に並べば(∠APB=∠BPC=∠CPA=120°),AP+BP+CPが最短であることを証明してみる。
線分の和を最小化する問題は多くの場合,線分の和を同じ長さの折れ線に移して,「折れ線は直線のときに最小になる」という性質を用いることで解決する。
<証明>
三角形内部の点Pと頂点Cを,Aを中心として反時計回りに60°回転させた点をQ,Dとおく。
△APQ,ACDは正三角形となる。
△APCとAQDは2組の辺とその間の角がそれぞれ等しいので合同となり,PC=QD
よって,AP+BP+CP=PQ+BP+QD≧BD
等号が成立するのは B,P,Q,D が一直線上にあるときで,
∠APB=180°-∠APQ=120°
∠APC=∠AQD=180°-∠AQP=120°
以上のことから,3つの線分が一直線上に並ぶと最短距離になることがわかる。このことから,先述したドローンの飛行距離が最短距離となるように飛ばすための供給基地の位置を,この方法を用いて決定することができると考えた。
つまり,フェルマー点が「被災地の3つの陸の孤島に救援物資を運搬するために,どこを供給基地として飛行すればよいのか」といった問題を解決するために必要な点であることがわかった。
子どもたちは,「三角形の3つの頂点からの距離の和が最も短くなるためにはどのような要素が必要なのか」を議論し,曲線や折れ線に比べ,直線になることが最も短くなることは予想できるだろう。そのような中,「どうしたら3つの線分を折れ曲がることなく直線上に並べることができるのだろうか」という問いが子どもたちに共有されていくはずである。
しかし,既習内容の角の二等分線,垂線,垂直二等分線,三角形の内心や外心等を活用しても,なかなか3つの頂点からの距離の和が最も短くなる点を見つけることができない。だからこそ,子どもたちは「こうなれば直線になりそう」「点はこの辺りかな」などと予想し,自分たちなりのイメージを膨らませていくだろう。そして,自分の中に膨らんだ考えを,仲間へ伝えたり,共に議論したりしながら,根拠をもった自分なりの考えをより明確なものにしていくだろう。
子どもたちは作図という活動を通して,なぜそのような線を引いたのかを,明確な根拠をもとにして論理的かつ客観的な視点で説明するだろう。その中で,子どもたちは「どのようにすればその線が引けるのか」「なぜその線を引いたのか」「どのような線を引くべきか」など,考えたことを再確認したり,問い直したりするに違いない。
こうした議論を繰り返す中で,既習内容の回転移動や平面図形の性質や特徴をもとにし,子どもたちなりに平面図形に秘められた可能性に迫っていくのではないだろうか。もしかしたら,「発見した点(フェルマー点)にはさらにどのような性質があるのだろうか」「他にも三角形にまつわる点はないのだろうか」と疑問に思う子どももいるかもしれない。そのような疑問を解決するために必要なことは,まさに論理性,客観性,一般性を大切にして仲間に伝えていくことである。そして,根拠をもって誰もが納得のいく説明を繰り返しながらより明確なものにすることを通して,「筋の通った」「誰もが納得のいく」「どんな場合でも」という3つの視点を大切にし,なお一層平面図形の世界の未知なる可能性に迫っていってほしいと願っている。
(1) 観察,操作や実験などの活動を通して,見通しをもって作図したり図形の関係について調べたりして平面図形についての理解を深めるとともに,論理的に考察し表現する能力を培う。
ア 角の二等分線,線分の垂直二等分線,垂線などの基本的な作図の方法を理解し,それを具体的な場面で活用すること。
イ 平行移動,対称移動及び回転移動について理解し,二つの図形の関係について調べること。
垂直二等分線や垂線,角の二等分線など基本的な作図について学習してきた子どもたちに,授業者は「一部の弧しかない次の銅鏡を完成させよう」となげかけることから始めた。子どもたちは,円を完成させるためには円の中心を見つけなければならないことには気づいた。そこで,どのように中心を見つければよいのか聞いてみた。すると,以下のように手順を考えた。
なぜこの方法で円をかくことができたのか,子どもたちは確認をしていった。そこでは以下のようなことが共有された。
この活動を通して,垂直二等分線は2点から等距離にある点の集合であることを用いて,円の中心を見つける方法を共有した子どもたちは,実は三角形の外接円をかいていたことに気がついた。子どもたちは三角形の外接円をかくためには,三角形の3つの辺のうちの2本の辺に対する垂直二等分線を引き,その2本の線分の交点が外接円の中心となることを確認した。
次に,授業者は「次の三角形の内接円をかこう」となげかけ,まず円と接線の関係について子どもたちに聞いてみた。すると,以下のような内容を発言していった。
授業者は子どもたちと共にイメージを共有するために,簡単に板書で三角形に内接する円について,提示してみた。
この図を見た子どもたちは以下のことに気がついた。
このようなことを見いだした子どもたちは,接点の位置がわからないことを基に,どのようにすればよいのか議論していった。そのような中,イメージ図を以下のように区切って考えることで,三角形の3つの角の二等分線の交点が内接円の中心になることを見つけることができた。
授業者は,このような活動を通して見いだした垂直二等分線や角の二等分線の秘めた可能性について,子どもたちに聞いてみた。すると子どもたちは,以下のような考えを述べた。
授業者は下の写真を子どもたちに見せて,ドローンがどのように役に立っているのかを聞いてみた。すると,次のようなことを発言していった。
子どもたちの発言の中で,「災害時に役に立つ」ことを授業者は取り上げて,「では,災害時にどのような場面で役に立っているのか」と問いかけてみた。すると,子どもたちは以下のようなことを発言した。
子どもたちの発言の中で「飛行距離には限度がある」という発言を授業者は大切にし,具体的にはどのようなことなのか子どもたちと確認しながら,ドローンが飛行しているイメージを共有した。
そして,授業者は被災地の地図を提示して「ドローンで被災地の3つの陸の孤島に救援物資を運搬するためには,どこを供給基地として飛行すればよいのか」となげかけた。どのようなことなのかよくわからない子どもたちに対して,「最短距離を考えること」「毎回基地に戻ってきてから各場所に運ぶこと」を確認した。そして,より具体的に示すことができるように「何を求めればよいのか」と聞いてみることで,「三角形の3つの頂点からの距離の和が最も短くなる点はどこだろうか」という問いを全体で共有した。
三角形の3つの頂点からの距離の和が最も短くなる点の位置を見つけるために,子どもたちは以下のようなことを考えた。
子どもたちは自分なりに考えた点を基にし,実際に長さを測りながら点を見つけようとした。すると,「自分の考えた点では何cmだった」と報告をしながら,外接円の中心でも内接円の中心でもない位置に,3つの頂点からの距離の和が短くなる点があることに気づいた。そして,子どもたちは,その点の位置を「どのようにしたら見つけることができるだろうか」という疑問を抱きながら,既習内容の作図を用いて調べていった。なかなか手がかりをつかめない子どもたちに授業者は,既習内容である2点間の最短距離の考え方について視点をなげ,4人グループになって考えてみようと提案した。すると,子どもたちは以下のように対話していった。
子どもたちは,そのような対話をしながらイメージをより全体で共有していった。授業者は,子どもたちに「困っていることは何か」と聞いてみた。すると,子どもたちは以下のようなことを発言した。
線分を直線上にコンパスを活用して並べながら,長さを測ったり他の長さと比較したりしたが,その並べた直線が最短距離とは異なることに気づいた。そして,子どもたちは「移動して直線に並ぶようにするためには,点の位置をどのように作図で求めればよいのだろうか」という疑問を抱き,全体で問いをさらに共有していった。
そこで授業者は,3つの頂点からの距離の線分が直線に並ぶようにするために,2つの線分を下のように移動させて,子どもたちのイメージが膨らむように支援してみた。
すると,子どもたちは,3つの線分が並んだ状態を見て「折れ線に並んでいる状況を直線に並ぶ状況にすればよいのではないか」と考えた。そこで授業者は2本の線分を引き,三角形をつくって子どもたちに提示してみた。
図を見た子どもたちは,以下のような対話をしていった。
イメージを共有した子どもたちに,もう一度4人グループで「どのようにすれば点を作図で求めることができるのだろうか」という問いについて議論する時間を設けることを提案した。そして,この図を見て次のような対話をした。
子どもたちは,このような対話でなされた内容を全体で共有していった。そして,共有されたことを基にし,作図によって求めることのできる点について,「その線分が3つの線分の和に等しいこと」「最も短くなっていること」について,根拠をもって自分の考えをより明確なものへとしていった。そして,正三角形の性質と回転移動という実に簡潔な考えだけで,難しいと思っていたことが解決できたことに感動を覚えていったように感じた。
この全体での対話から考えたことを基に,再度ペアで「どのようにすればこの点を作図で求めることができるのか」を説明することを通して,子どもたちは作図の方法を確認していった。そして,共有された図をもとにし,外側に正三角形をつくり,三角形の頂点と結んでできる線分の交点を求めればよいことを共有していった。
最後に,子どもたちに今回の授業で思ったことや感じたことを尋ねてみた。すると,子どもたちからは以下のようなことが述べられた。