学習指導要領では,「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善が求められている。その実現のためには,一人の教師が授業改善に取り組むだけでなく,学校全体で授業について語り合い,学び合いながら実践を積み重ねていくことが重要である。
本校では,令和5年度から校内研究の在り方を見直し,教職員が共通の視点で授業改善に取り組むための研究推進体制の整備を進めてきた。その中で,「青山中学習スタンダード」を作成するとともに,生徒が主体となって学びを進める「セルフ授業」の実践を積み重ねながら,学校全体で授業づくりに取り組んできた。こうした取組を継続する中で,教職員の授業観が少しずつ共有されるとともに,生徒の学ぶ姿にも変化が見られるようになった。さらに現在は,生徒自身がよりよい授業づくりについて考え,教師とともに授業を創る取組へと発展している。
本稿では,本校が試行錯誤を重ねながら学校全体で授業改善に取り組んできた3年間の歩みを紹介する。本校の実践が,学校全体で授業づくりを進めようとする先生方にとって,一つの参考となれば幸いである。
(1)学校づくりの原点
本校の学校づくりの原点は,「主体的・対話的で深い学び」を実現するためには,一人の教師の実践だけでなく,学校全体で授業づくりに取り組むことが必要であるという考えに至ったことである。その転機となったのは,大学院での学びと,多くの先生方との出会いであった。大学院では,竹内満先生から「子供たちが主体的に学ぶ授業」について学び,その考え方に深く共感した。その後,竹内先生の紹介で高知県越知町立越知小学校を訪問し,子供たちが自ら学びを進める授業を参観した。
授業の中では,教師が一方的に教えるのではなく,子供たちが課題について考え,対話し,自ら学びを深めていた。その姿は,それまで抱いていた「中学生には難しいのではないか」という考えを大きく変えるものであった。そして,「小学生にできるのであれば,中学生にも必ずできる。」という思いが,本校の学校づくりの出発点となった。その後,西留安雄先生と出会い,学校づくりについて継続的にご指導いただく中で,「ぜひ私を頼ってください。」という言葉をいただいた。この言葉は,大きな励みとなるとともに,学校全体で授業改善を進めていく決意を後押しするものとなった。
こうした多くの学びと出会いを支えとして,本校では学校全体で授業づくりを進めるための3年間の校内研究を構想し,スタートさせた。
【資料1 3年間の研究構想】
(2)校内研究を支える推進体制
学校全体で授業改善を進めるためには,教職員一人一人の意識や実践に委ねるだけでは十分ではない。授業について日常的に語り合い,互いの実践を学び合うためには,学校全体で継続的に取り組める仕組みが必要であると考えた。そこで本校では,校内研究の推進体制を見直し,管理職をはじめ,研究主任,各教科の研究推進担当がそれぞれの役割を担いながら研究を進める体制を整えた。研究の方向性を共有するとともに,各教科での実践や成果,課題を学校全体で共有することで,教科の枠を越えて授業改善について考える機会を積み重ねてきた。
また,本校だけで研究を進めるのではなく,外部の知見を積極的に取り入れることも大切にした。神門大知先生には研究全体について継続的にご指導いただき,西留安雄先生には学校づくりの視点から助言をいただいた。校内だけでは気付きにくい課題を客観的に見つめ直し,次の実践へとつなげることができたことは,本校の研究を支える大きな力となった。
このような研究推進体制を土台としたことで,教職員が共通の視点で授業について語り合う文化が少しずつ育まれていった。そして,その共通の学習観を日々の授業で共有するために作成したのが,「青山中学習スタンダード」である。
(3)青山中学習スタンダード
教職員が共通の視点で授業改善を進めるためには,「どのような学びを目指すのか」を共有することが欠かせない。そこで本校では,その共通の学習観を形にしたものとして,「青山中学習スタンダード」(資料2)を作成した。
青山中学習スタンダードは,授業を評価するためのチェックリストではない。教師と生徒が目指す学びの姿を共有し,授業について同じ視点で語り合うための指針である。本校では,このスタンダードを校内研究の基盤と位置付け,授業研究や研究協議においても共通の視点として活用している。また,スタンダードは教師だけのものではない。生徒にも示すことで,「どのように学ぶことを大切にするのか」を共有し,教師と生徒が同じ方向を向いて授業づくりを進めることを目指している。
学習スタンダードを作成したことで,教職員が授業について共通の言葉で語り合えるようになり,生徒とも目指す学びの姿を共有しやすくなった。しかし,学習観を共有するだけでは授業は変わらない。その考え方を日々の授業で具体化するために取り組んだのが,「セルフ授業」である。
(4)セルフ授業と教科リーダー
青山中学校では,生徒が主体的に学ぶ姿を目指し,「セルフ授業」に取り組んでいる。しかし,セルフ授業は,教師の役割をそのまま生徒へ任せる取組ではない。教師が担ってきた役割を,生徒の実態に応じて少しずつ委ねながら,生徒自身が授業を支える力を育てる取組である。
セルフ授業は,教師が授業の進め方や対話の在り方を示すことから始まる。その後,教科リーダーは詳細な司会原稿を基に授業を進行し,学習課題の確認や活動のつなぎ,振り返りまでを担当する。原稿があることで,生徒は安心して役割を担うことができ,授業を進める経験を積み重ねていく。
経験を重ねるにつれて,教科リーダーは原稿を読むだけでなく,学級の様子を見ながら活動時間を調整したり,発言を促したり,仲間の考えをつないだりするようになる。さらに,板書や全体交流の進行,学習の視点の確認など,授業全体を支える役割へと少しずつ広がっていく。一方,教師は必要に応じて助言や補足を行いながら,生徒同士の対話を支え,思考を深めるための問い返しや価値付けを行う役割へと変化していく。
こうした取組を継続することで,生徒は「授業を受ける存在」から,「授業を支える存在」へと成長していく。教科リーダーだけでなく,一人一人が自分の役割を意識しながら学習に参加するようになり,互いの考えをつなぎ,支え合いながら学ぶ姿が日常の授業の中で見られるようになった。
セルフ授業の目的は,授業の進行を生徒へ任せることではない。授業を支える経験を積み重ねることで,一人一人が学びを支える力を身に付けることである。その積み重ねが,生徒同士の対話を支え,自ら学びを深める学校文化へとつながっている。そして,その姿は,次節で紹介する数学科の実践にも表れている。
【資料2 青山中学習スタンダード】
【資料3 司会原稿】
第2章で述べた学校全体の取組を基盤として,数学科では第2学年「図形の証明」において,比較と対話を生かした授業づくりに取り組んだ。第2章で述べた学校全体の取組を基盤として,第2章で述べた学校全体の取組を基盤として,数学科では,生徒が比較と対話を通して考えを深める授業づくりに取り組んできた。ここでは,第2学年「図形の証明」における実践を紹介する。
【資料4 本時の流れ】
単元の終末では,生徒に三つの証明問題を提示した。一見すると異なる問題であるが,いずれも「線分AYと線分BXについて,どんなことがいえるだろう。そのことを図形の性質を利用して証明しよう。」という共通の発問で構成されており,合同な三角形を見いだして証明するという考え方は共通している。問題を比較することで,生徒が個々の証明だけでなく,複数の課題に共通する規則性へ目を向けられるように教材を構成した。
授業では,まず一人一人が担当する問題の証明を考え,その後,小グループで考えを交流した。「この角が等しいから,この三角形で合同を示せそうだ」「ここも対応する辺が等しいね」など,それぞれの問題について証明を組み立てる姿が見られた。一方で,生徒の関心は自分たちの問題を解決することに向いており,他の課題との共通点まで意識する様子はまだ少なかった。
そこで,ワールドカフェによる交流を位置付けた。他の班との交流では,「問題の条件はどう違うか」「規則性や証明は何が同じか」という二つの視点を示し,生徒は異なる課題を比較しながら対話を進めた。はじめは,「点Pの位置が違う」「三角形の向きが違う」と図の違いに着目する発言が多く聞かれた。しかし,ある班で「使った合同条件は同じじゃないかな」という声が上がると,「本当だ。証明の流れも同じだ」「結局,どの問題も同じことを証明しているんじゃない?」と,比較の視点が図の違いから証明の構造へと移っていった。
その対話を受け,教科リーダーが「その『同じこと』って,どんなことだろう」と問い返した。すると,生徒からは「どの問題でも同じ長さになるということだ」「点Pの位置が変わっても,合同な三角形を示せばAY=BXになる」「だから,どんな場合でも同じ考え方が使える」といった発言が続いた。一人の気付きが別の生徒の考えと結び付き,複数の課題に共通する規則性が,対話を通して少しずつ学級全体のものになっていった。
交流後,生徒は再び自分たちの班へ戻り,他の班との対話で得た気付きを基に証明を見直した。「点Pの位置は違っても,結論は同じだった」「合同を示すための考え方も同じだった」と,自分たちの証明を比較の視点から捉え直す姿が見られた。そして全体交流では,教科リーダーが各班の考えを整理し,「点Pの位置が異なっていても,合同な三角形を示すことでAY=BXが成り立つ」という規則性を学級全体で共有した。教師は,生徒が見いだした考えを全体で整理するとともに,「なぜ,どの問題でも同じ考え方が使えたのだろう」と問い返し,生徒自身が規則性を根拠をもって説明できるよう支援した。
授業の終末では,「線分AXがあるとき」という書き出しだけを示し,生徒一人一人が見いだした規則性を自分の言葉でまとめた。「どの問題でも同じ考え方が使える」「合同条件や図形の性質を根拠として説明できる」「他の班と比較したことで共通点に気付くことができた」などの記述が多く見られ,比較と対話を通して,個々の課題の解決にとどまらず,複数の課題に共通する規則性を説明する姿が育まれていた。
この実践は,数学科だけの工夫によって実現したものではない。青山中学習スタンダードの下で学び方を共有し,セルフ授業を通して生徒が授業を支える経験を積み重ねてきたからこそ,教科リーダーを中心とした対話が自然に生まれ,生徒同士が比較しながら規則性を見いだす学びが成立したのである。学校全体で積み重ねてきた授業を支える経験が,数学科の授業において,生徒一人一人が学びを支える力として具体的な姿となって表れている。
【資料8 板書型指導案】
青山中学習スタンダードとセルフ授業の取組は,特定の教科にとどまらず,学校全体の学びへと広がっている。その変化は,生徒,教師双方の姿に表れている。
生徒からは,「この形の授業の方が周りに聞きやすく,置いていかれにくい」「友達と話し合うことで分かりやすくなった」「授業が楽しい」といった声が聞かれるようになった。また,教科リーダーを経験した生徒からは,「リーダーになってから自主的に予習するようになった」「友達に教えることで,自分も新しいことに気付いた」「説明することで理解が深まった」といった振り返りも見られた。授業を支える経験が,生徒一人一人の学びへの姿勢や主体性につながっていることがうかがえる。
一方,教師にも大きな変化が見られた。「生徒が当たり前のように話合い活動を進められるようになった」「教科リーダーが少しずつ育っていく姿に感動した」「ここまで生徒に任せられるとは思わなかった」といった声が聞かれるようになった。また,「教師がどう教えるか」だけではなく,「子ども同士のやり取りの中で,どう学ばせるか」という視点で授業を考えるようになり,授業観そのものにも変化が生まれた。さらに,教科リーダーが授業を支えることで,教師は支援を必要とする生徒により丁寧に関わる時間を確保できるようになり,一人一人の学びをこれまで以上に見取ることができるようになった。
こうした変化は,教科の枠を越えて広がっている。その象徴的な実践が,3年生家庭科で行ったセルフ授業である。この学級では,家庭科の授業時間は限られており,セルフ授業の練習も実践授業前にわずかに行っただけであった。それにもかかわらず,生徒は他教科で身に付けた青山中学習スタンダードを基に,教科リーダーを中心として自然に授業を進め,円滑な話合いや対話を展開した。この実践は,一部の教科で身に付けた学び方が他教科へも転移し,学校全体の文化として根付いていることを実感する機会となった。
また,教師同士のつながりにも変化が生まれた。以前は教科ごとの教材研究や授業づくりについて語り合うことが多かったが,現在では職員室で教科の枠を越えて授業について話し合うことが日常の風景となっている。「あの問い返しがよかった」「あの場面では教科リーダーがうまくつないでいた」など,生徒の学びを中心に授業を語り合う文化が生まれ,教師同士が互いの実践から学び合う学校へと変化してきた。
主体的・対話的で深い学びは,一つの授業実践だけで実現できるものではない。教師が学び方を共有し,生徒が授業を支える経験を積み重ね,その経験を教科や学年を越えて積み重ねていくことで,初めて学校全体の学びの文化として根付いていくものだと考える。
本校では,青山中学習スタンダードを基盤として学び方を共有し,セルフ授業を通して,生徒一人一人が授業を支える経験を積み重ねてきた。その積み重ねが,生徒同士が自然に対話し,互いの考えを認め合いながら学びを深める姿につながり,教師自身も生徒の学びを支える視点で授業を見つめ直す契機となった。
【資料9 校内現職教育研修にてLP生徒が発言する様子】
さらに令和7年度には,その学びの文化をより発展させる取組として,Learning Pioneers(LP)を立ち上げた。LPは,全学年・全学級の教科リーダーから各3名ずつ選出された計42名で構成され,月1回,よりよい授業づくりについて協議や研修を行う組織である。各学級の教科リーダーが抱える課題を共有し,よりよいリーダーの在り方や授業づくりについて議論するとともに,生徒自身がリーダー指標を作成して振り返りを行うなど,授業改善に主体的に参画している。また,夏休みの校内現職教育研修にも参加し,教師とともに道徳の授業案を作成した。教師と生徒が共に授業を創る取組は,本校の学校づくりを新たな段階へと発展させている。
学校づくりに終わりはない。これからも,生徒一人一人が学びを支える力を育み,仲間とともによりよい学びを創り出していける学校を目指し,教職員が一丸となって授業改善に取り組んでいきたい。
謝辞
本校の学校づくりの原点となる学びを与えてくださった竹内満先生,継続的に学校づくりについてご指導いただいた西留安雄先生,研究全体について継続的にご指導,ご助言を賜りました神門大知先生,そして研究3年目に本校の実践を価値付けしていただくとともに,次の学校研究への示唆をいただきました愛知教育大学教職大学院准教授 磯部征尊先生に,深く感謝申し上げます。また,西留先生が主宰される新しい学び方開発ネットワークの皆様にも,心より感謝申し上げます。