中学校の教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
数学

生徒が学ぶよさを実感する数学授業を目指して
~学びをつなげていく2年「図形の性質と証明」の実践から~

新潟市立白根第一中学校 細川 伸子

1.はじめに

数学の授業を通して生徒には,体系的で調和のとれた数学そのものの美しさはもちろんのこと,既知から未知を明らかにしたり,問題を発見して解決したりする,学ぶことそのものの楽しさも実感させたいと考えている。そのために,日ごろの実践では以下のことを意識している。

①生徒が問いをもちそれを解決しようとする単元構成
既習内容との比較や条件変更などによって,新たな問題を発見できる単元構成を心掛けている。単元の終末には単元最初の板書を提示するなどして,「できるようになったこと」や「解決に有効な方法」を強調する。
②「誤り」から学ぶ授業構成
生徒が「自分なりの方法」で解決を試みた結果生じた誤答や,多くの生徒が陥りやすい誤答を積極的に取り上げ,「なぜ間違いなのか」を考えることで「正しい方法」の先にある深い学びの実現を目指す。

上記のことを意識しながら,生徒の「どうして数学を勉強しなきゃいけないの?」という問いが,「数学が楽しい!もっと勉強してみたい!」にとって代わる授業を目指し,日々実践を積んでいる。

2.実践の概要

<4章の学習内容>

学習のねらい(○)と主な活動内容(・)
1
  • ○対頂角が等しいことを,角度を一般化して説明することができる。
  • ・直線が180°であることを学級で合意する。
  • ・2直線の関係(平行,交わる)を書き出す。
  • ・2直線が交点をもつとき対頂角ができることを確認して,実際に角度を測ったり,2本のペンを使って確かめたりして,対頂角は等しいという見通しをもつ。
  • ・「直線は180°」を根拠とすれば,どんな対頂角でも等しいことが説明できることを見いだす。
2
  • ○平行線の性質について,同位角が等しいことを合意した上で,平行線にできる錯角が等しくなることを説明することができる。
  • ・3直線の関係を書き出す。(交点が0,1,2,3)
  • ・角度の位置関係を表す言葉として「同位角」「錯角」を確認する。
  • ・小学校での平行線の作図をもとに,平行線にできる同位角が等しいことを合意する。
  • ・「直線は180°であること」「対頂角の性質」「平行線にできる同位角が等しいこと」を根拠として,平行線にできる錯角が等しいことを説明できることを見いだす。
  • ・平行線の性質を用いて解決できる角度を求める問題に複数取り組む。
  • ・平行線の間にできる角度の問題に複数取り組み,補助線の有効性を共有する。
  • ・(多角形の内角の和を根拠とした考え方に触れて)対頂角の性質,平行線の性質のように,これまで正しいと認めた性質を根拠にして説明をしていないことを確認する。
3
  • 〇三角形の内角の和が180°になることを,これまで学習した性質を根拠として説明することができる。
  • ・前時の活動を振り返り,多角形の内角の和についても,図形の性質を使って説明することができるか考える。
  • ・小学校での学習を振り返り,対頂角のときのように「どんな三角形であっても内角の和が180°であること」を説明するにはどうすればいいか,という課題を学級全体で合意する。
4
  • ○多角形の内角の和について,三角形の内角の和を根拠として説明することができる。
  • ・四角形,五角形,六角形の内角の和を求める。
  • ・3つの多角形の求め方を基に,十角形の和の求め方を考える。
  • ・n角形が(n-2)個の三角形に分けられること(またはn個の三角形の内角の和から中心角360°を引けばよいこと)を見いだし,(n-2)×180(または180n-360)と計算して内角の和を求める。
5
  • ○凹型四角形について,これまで学習した図形の性質を根拠としてその大きさを求めることができる。
  • ・凹型四角形のへこみのある部分の角の求め方を考え,様々な補助線の引き方があるが,すべて3つの内角の和になることを見いだす。
6
  • ○合同な三角形について,コンパスや分度器,定規を使って合同な三角形をかくことを通して,三角形が合同になる条件を見いだす。
  • ・図のような図形を提示し,それと同じ図をかくには5つすべての要素(3辺の長さと2つの角の大きさ)を測らなければいけないことを確認する。
  • ・三角形を提示し,合同な三角形を作図する。
  • ・三角形は3つの要素を測ればかけることを確認し,測った要素を以下のように整理する。
    ①3つの辺を調べればかける。
    ②2つの辺と1つの角を調べればかける。
    • →1つの角が2辺の間ではない場合,2種類の形が作図できることから,「2つの辺とその間の角」が合同になるための条件であることを確認する。
    • ③1つの辺とその両端の角を測ればかける。
  • ・①~③をもとに,三角形の合同条件をまとめる。
7
  • ○簡単な証明問題を通して,仮定から結論を導く証明の基本的な流れを理解することができる。
  • ・コンパスを使ってたこ型四角形を作図し,∠ABC=∠ADCである根拠を考える。
  • ・対称の軸を補助線として引き,2つの三角形が合同であれば対応する角が等しいと言えることを見いだす。
  • ・仮定から結論を導く,という証明の基本を理解する。

(4)単元の評価規準

知識・技能 思考・判断・表現 主体的に学習に取り組む態度
  • ・平面図形の合同の意味及び三角形の合同条件について理解している。
  • ・証明の必要性と意味及びその方法について理解している。
  • ・三角形の合同条件などを基にして三角形や平行四辺形の基本的な性質を論理的に確かめたり,証明を読んで新たな性質を見いだしたりすることができる。
  • ・三角形や平行四辺形の基本的な性質などを具体的な場面で活用することができる。
  • ・証明のよさを実感して粘り強く考え,図形の合同について学んだことを生活や学習に生かそうとしたり,平面図形の性質を活用した問題解決の過程を振り返って評価・改善しようとしたりしている。

(6)本時の展開

学習活動 教師の働きかけと予想される生徒の反応 ■評価基準(観点)
○留意点
導入
  • 1.二等辺三角形の定義と定理を確認する
  • T1 二等辺三角形を1つかくよう促す。
  • Ss ノートに1つの二等辺三角形をかく。
  • T2 二等辺三角形ときいて,どのような三角形を思い描いたか問う。
  • S1 2辺が等しい三角形。
  • T3 定義という用語を確認し,二等辺三角形について,定義以外に知っている性質がないか問いかける。
  • S2 左右対称の図形。
  • S3 2つの角が等しい。
  • T4 これまでのように,定義を仮定として性質を導くことができますか。
  • S4 どうすれば証明できるかな。
  • ■定義の意味を理解している。(知・技)
展開
  • 2.二等辺三角形の底角が等しいことを証明する活動

学習課題
二等辺三角形の性質は,どのように証明すればいいのだろうか。

  • T5 これまで2つの角度が等しいことを証明するにはどのような性質を使ってきたか問う。
  • S5 対頂角,平行線,合同な三角形。
  • S6 真ん中で分けたら合同な三角形ができそう。
  • T6 補助線を引く場合はどのような補助線かわかるように記号や言葉で説明してから証明するよう促す。
  • S7 頂角の二等分線を引き,辺BCとの交点をDとすると,2組の辺とその間の角がそれぞれ等しい,が使える。
  • S8 底辺の中点をDとすると3組の辺がそれぞれ等しい,が使える。
  • S9 頂角の二等分線を,辺BCに 垂直になるように引いて,交点をDとすると1組の辺とその両端の角がそれぞれ等しい,が使える。(誤答)
  • 3.適切な補助線とそうではない補助線を整理する活動
  • T7 補助線の引き方と証明方法が様々であることを共有し,それぞれの証明を読み取るよう促す。S9の証明については「頂角の二等分線はなぜ辺BCと垂直に交わる」と言えるのか問う。
  • S10 左右対称だと確定していないから,頂角の二等分線が辺BCと垂直に交わるとは限らない。
  • S11 結論を使って証明していることになっている。
  • ○S9の補助線が適切でないことに気づく生徒がいなければ,そのことに触れ,なぜ適切ではないか考えるよう促す。
  • ■適切な補助線を引き二等辺三角形の底角が等しいことを証明することができる。(思・判・表)
終末
  • 4.適切な補助線のみを使って二等辺三角形の性質を証明する方法をまとめる活動
  • T8 二等辺三角形の底角が等しいことは,どのようにすれば証明することができるか,まとめるよう促す。

まとめ
補助線(頂角の二等分線または頂点と底辺の中点を結ぶ)をかき,2つの三角形の合同を示せば,証明することができる。ただし,補助線を引く時は,結論を使わないように気を付ける。

  • T9 S8の証明をもとに,二等辺三角形のもう一つの定理「頂角の二等分線は底辺を垂直に二等分する」を共有し,「定理」という用語を確認する。
  • ○定義と定理の意味を「顔」と「性格」を例にして確認する。

3.分析・考察

自分ではどのような補助線を引いたらいいか見当がつかず,見通しが持てない生徒も複数名いたため,証明そのものではなく①~④の補助線のみを学級全体で共有した。そして,「証明ができそうだと思える補助線はありますか。仲間の考えを参考にしてみよう。」と促した。①や②の補助線を使うと証明できそうだという生徒が多くいたため,2つの証明が完成できた生徒は,それ以外の補助線でも証明できないか考えるよう促した。複数の生徒が,以下の点に気付いた。

一方で,③や④の補助線が適切でない理由を考える際は,理由に気づいた一部の生徒が説明し,それに学級全体が納得する,という構図になってしまった。このことについて同業の先輩に相談したところ,補助線の図ではなく証明を考察する時間があるとよかったのでは,とご助言をいただいた。

本実践では生徒の記述の負担を軽減するために,補助線のみを共有・比較したが,例えば右のような誤った補助線を基にした証明は,仮定を使わずに三角形の合同条件を導くことができる。このことから,二等辺三角形ではなくすべての三角形に共通する証明になってしまっているという矛盾に気づかせ,その矛盾を生んでいる根本的な原因は補助線であることを見出せたかもしれない。今後も,生徒の思考に寄り添った手立てを検討したい。

4.おわりに

今回の実践では,よりよい証明を求めて,自分なりの考えをノートにかいたり仲間の証明と自分の証明を比較したりする姿が多く見られた。また,適切な補助線とそうでない補助線の違いとして,「仮定をよく見て,結論を使わずにかけているか」という視点を持てばいいと自らまとめた生徒もいた。正しい証明のみを共有するのではなく,正しくない補助線の引き方やその理由を考える時間を取ったことで,学びはより深まったと考える。生徒が問いをもち,誤りからの学びを促すことで,間違えることを否定的に捉えず,そこから学ぶ前向きな姿勢を醸成することができると考えている。間違えることを恐れなければ,学ぶことのよさは生徒により実感されるのではないだろうか。これからも生徒が生き生きと学ぶ数学の授業づくりを目指したい。